HOME】[] [] [] [] [ ] [] [] [ 8 ] [] [ 10 ] [ 11 ] [ 12 ] [ 13
新連載 「乳幼児と絵本」シリーズ(8)
絵本リストについて

佐々木宏子
 「あかし保育絵本士」講座に期待することを事前調査すると、「選書と読み方」が一定数出てくることはすでに「シリーズ2」で述べました。研究者である私が学んだことは、目前に存在する受講生の背景が多様で複雑であり、どの声も切実な「いま・ここ」で解決したいことがストレートに出ています。ともすれば、研究者は自分自身の興味やテーマの新規性に惹かれて進もうとしますが、それは現実の実践の場では、あまり力を持たないことになるのでしょうか。
 そんな時、受講者から年齢別のリストを教えて欲しいと言われるといつも複雑な気持ちになります。

・佐々木先生の3・4・5歳児におすすめの本を教えて欲しいです。
・0歳児が集中する絵本のリストはありますか。
・2歳児にふさわしいリストはありますか。

 この質問の意味は、よくわかります。初めて担任した小さな子ども達に絵本を読みたいと考えたときに、「何から手を付けてよいかわからない」「今までの経験から大体は子どもの人気本は分かっている。しかし、もしかしたらもっと面白い新刊本が出ているかもしれず、情報漏れがないか確かめたい」「絵本を専門として研究している者が、どんな絵本を子どもに推薦するのだろうか」等など、保育者としての当然の問題意識でしょう。

 しかし、一般的な良書リストなら書籍やネット等に、図書館や絵本専門店のお勧めリストがたくさん出ています。出版社の無料リストもあります。これらは歴史的に見て長く読み継がれたもの、出版点数が多かったもの、図書館で貸出頻度が多かったもの等が多いのですが、単なる宣伝もあります。
 いずれのベスト本も、多くの子ども達に受け入れられたという証拠を統計的なデータで裏付けようとしています。

 しかし、一番大切なことは目の前にいる子ども一人ひとりの要求に合っているかどうかです。どんなに多くの子どもが「好き」と言っても興味のない子には関係ありません。また、同じ「好き」と言っても、その本のどこを好きかがまるで異なることもあります。赤ちゃん絵本を大好きな4・5歳児は(小学校一年生も)、おそらく一人で読むことができるようになった楽しさに夢中になっているのだと思います。

 私は、保育者から「○歳の子どもにふさわしい絵本リスト」を教えて欲しいという質問を受けるといつも少し困惑します。そこには、子どもと保育者との関係が見えなかったり抜け落ちていて、どこかにモデルとなるリストがあると思われてはいないかと危惧するからです。私が取り上げる絵本は、私が独自の観点から選んでいるわけではなく、私とその時に読みあった子ども達との間で生み出された協同リストです。
 私が研究者として興味があるのはすでに述べましたが、子どもの心を巧みに描いた「子どもの心を理解するための絵本データベース」に蒐集されています。それらは必ずしも子ども達が興味をもつ絵本ではありません。

 絵本が保育の中で実際の力を発揮するには、保育者と子ども達の間の関係性、子ども達の育ちや環境、その家族が住む地域の文化や自然のありかた等など、今を生きる子ども達の現在に深く関わり根ざしているからです。

 自らの前にいる子ども一人ひとりと絵本を繰り返し読むことで、クラスや園独自の絵本リストをぜひ作り上げて欲しいと思います。そして、年齢別であれ、クラス別であれ、もしくは多数派とは無縁なユニークな個人の読書歴であれ、その独自のリストを園の財産として後輩に伝えて欲しいと思います。そのようにすれば、毎年のように出現する「リスト願望」は、かなり緩和されるのではないでしょうか。絵本がそれぞれの園で、安定した文化財として遊誘財になり環境となるためには、いわゆる「正しいリスト」幻想にとらわれないで欲しいと思います。
 それは、他の遊誘財 − 積み木や粘土、リズム遊びやごっこ遊びの素材、自然の動植物や砂や水等といったものと同じで、子どもたちが、着実に遊び込み残していったものです。

 さて、ここで、今までに受講生が作成したユニークな絵本リストの一部を紹介しましょう。受講生が保育実践の中で独自に作成した絵本リストです。
 リストには、健康(歯磨きなど)、虫の飼育、夏の野菜、散歩の前に、季節の行事 (運動会・遠足・お正月等)、お昼寝前に等などの日常的な保育のための絵本リストは数多くありましたが、ここでは保育実践を通して作成された独自の視点をもつリストを紹介します。(書かれている年齢は、保育者がふさわしいと考えた対象です)。

1)4月最初から5月末までに何度も読んだ本(すべて0・1歳児対象)(保育歴23年)
・『かおかおどんなかお』(柳原良平/こぐま社)
・『おでかけばいばい』(はせがわせつこ・ぶん/やぎゅうげんいちろう・え/福音館書店)
・『だるまさんが』(かがくいひろし・さく/ブロンズ新社)
・『だるまさんの』(かがくいひろし・さく/ブロンズ新社)
・『いないいないばあ』(松谷みよこあかちゃんの本/瀬川康男・え/童心社)

2)一緒に言葉の繰り返しを楽しんだり、絵本を真似て動作を楽しむ(保育歴28年)
・『うずらちゃんのかくれんぼ』(きもとももこ・さく/福音館書店)(1歳児)
・『だるまさんと』かがくいひろし・さく/ブロンズ新社)(1歳児)
・『てぶくろ』(ウクライナ民話/エウゲーニー・M・ラチョフ・え/うちだりさこ・やく/福音館書店)(2歳児)
・『さんぽのしるし』(五味太郎/福音館書店)(2歳児)
・『三びきのやぎのがらがらどん』(ノルウェーの昔話/マーシャ・ブラウン・え/せたていじ・やく/福音館書店)(3歳児)

3)音の響きを楽しみたいときの絵本リスト(保育歴25年)
・『かんかんかん』(のむらさやか・文/川本幸・制作/塩田正幸・写真/福音館書店)(0歳)
・『もけらもけら』(山下洋輔・ぶん/元永定正・え/中辻悦子・構成/福音館書店)(2歳児)
・『ごろごろにゃーん』(長新太・作画/福音館書店)(2歳児)
・『カニ ツンツン』金関寿夫・ぶん/元永定正・え/福音館書店)(4歳児)
・『さる・るるる』(五味太郎/絵本館)(4歳児)

4)絵本を読み終えた後、表現遊びや保育内容につながりそうな絵本リスト(保育歴6年)
・『じゃあじゃあびりびり』(まついのりこ/偕成社)(0・1歳児)
・『カニ ツンツン』(金関寿夫・ぶん/元永定正・え/福音館書店)(3〜5歳児)
・『あおくんときいろちゃん』(レオ・レオーニ・作/藤田圭雄・訳/至光社)(3〜5歳児)
・『もこ もこもこ』(たにかわしゅんたろう/もとながさだまさ/文研出版)(3〜5歳児)
・『からすのパンやさん』(かこさとし/偕成社)(5歳児)

5)絵から読み取る子どもの自由な発想を引き出し、‘友達’の存在に気付きながら自分の思いを伝える絵本リスト(保育歴1年未満)
・『ぞうのボタン』(うえののりこ・さく/冨山房)(3歳児)
・『やこうれっしゃ』(西村繁男・さく/福音館書店)(3歳児)
・『魔法のしろくま』(タオ・ニュウ・さく/長崎出版)(4歳児)
・『もりのえほん』(安野光雅/福音館書店)(4歳児)
・『雨、あめ』(ピーター・スピア/評論社)(5歳児)

6)集団生活の中で、‘友達’という存在を知り、認め合ったり、互いの思いに気付こうとする頃に大切さを伝えるための絵本リスト(保育歴14年)
・『そらまめくんのベッド』(なかや みわさく・え/福音館書店)(3歳児)
・『いじめられっこチロ』(文・武鹿 悦子/絵・いそ けんじ/ひかりのくに)(4歳児)
・『わるいわるい王さまとふしぎの木』(あべ はじめ/あすなろ書房)(4歳児)
・『みんなだいじななかま』(中村 文人・作/ 狩野 富貴子・絵/金の星社)(5歳児)
・『かたあしだちょうのエルフ』(文絵・おのきがく/ポプラ社)(5歳児)

7)思ったこと感じたことを自分なりの言葉で表現することを促す絵本リスト(すべて4歳児対象)(保育歴23年)
・『ようちえんいやや』(長谷川義史/童心社)
・『あっちゃんあがつく』(みねよう・げんあん/さいとうしのぶ・さく/リーブル)
・『ほげちゃん』(やぎたみこ/偕成社)
・『魚がすいすい』(tupera tupera/ブロンズ新社)
・『けんかのきもち』(柴田愛子・文/伊藤秀男・絵/ポプラ社)

8)絵本を読み終えた後、制作活動に取り組みたくなる絵本リスト(保育歴2年)
・『あおくんときいろちゃん』(レオ・レオーニ・作/藤田圭雄・訳/至光社)(4歳児)
・『ぱったんして』(松田奈那子/KADOKAWA)(4歳児)
・『くれよんのくろくん』(なかやみわ・さくえ/童心社)(4歳児)
・『わたしのワンピース』(にしまきかやこ・えとぶん/こぐま社)(4〜5歳児)
・にじいろのさかな』 (マーカス・フィスター・作/谷川俊太郎・訳/講談社) (4〜5歳児)

9)愛情〜見えないものを(人の思いなど)見る力・気づく力〜(すべて5歳児対象)(保育歴18年)
・『あめだま』(作・ペク・ヒナ/訳・長谷川義史/ブロンズ新社)
・『ばぁばがくれたもの』(CD付)(作・和田 唱/絵・佐々木 一聡/888ブックス)
・『しろいうさぎとくろいうさぎ』(ガース・ウイリアムズ・ぶんえ/まつおかきょうこ・やく/福音館書店)
・『おたんじょうびのひ』(文・中川 ひろたか/絵・長谷川 義史/朔北社)
・『りつとにじのたね』(ながみつまき・ぶん/ いのうえゆうこ・え/リーブル出版)

10)保護者に紹介したい絵本リスト(保護者対象)(保育歴2年)
・『ぼちぼちいこか』(マイク=セイラー・ぶん/ロバート=グロスマン・え/いまえよしとも・やく/偕成社)
・『だいすきぎゅっぎゅっ』(フィリス・ゲイシャイトー ミム・グリーン・ぶん/ デイヴィッド・ウォーカー・え/福本友美子・やく/岩崎書店)
・『ちょっとだけ』(瀧村 有子・さく/鈴木 永子・え/福音館書店)
・『だいじょうぶだいじょうぶ』(いとう ひろし・作絵/講談社)


 取り上げたリストは、保育者が子ども達との生活の中で大切にしたいと考える理念とその具体像がくっきりと現れています。リストのテーマと具体的な絵本の数々を眺めていると子ども達の遊ぶ姿や表情までもが浮かび上がってくるようです。もちろん保育者により、同じテーマでも下に並ぶ具体的な絵本のタイトルは異なることでしょう。その違いこそが一人ひとりの保育者の個性と言えるのではないでしょうか。私はこのような保育者と子どもが読みあいを通して選んだ絵本のリストを、集団保育における「いっしょに選んだ絵本リスト」と命名し、もっとたくさんの提案を期待しています。保育のどのような場面(生活や遊び)で、その絵本は活かされたのかの情報とともに公開していただけると嬉しいです。
 最後の保護者向けのリストは、保護者へのメッセージが明確に出されていて、保育歴2年の保育者からの心からの願いが見て取れます。


HOME】[] [] [] [] [ ] [] [] [ 8 ] [] [ 10 ] [ 11 ] [ 12 ] [ 13

Copyright(C)2025 Sasaki Hiroko All Rights Reserved