長年、受講生の保育者と触れ合っているとキャリアの長短とは関係なく、読みあいの中で生じた多様な質問・疑問に出合います。そのような時、質問が基本的な問いかけであればあるほど「どうして?」という思いが湧いてくるのです。おそらくは文字にすれば同じような文言になるのでしょうが、その意味内容はもっと複雑なのだと思います。例えば、
① 読み聞かせでは、抑揚をつけるのか? 読み方を知りたい。
この質問は必ず毎年でます。「シリーズ9」で書いたように「淡々と読む」が広く流布しているからでしょう。逆に、巧みな演劇型の一斉読み聞かせを聞いて、保育者はこのように子どもを息もつかせぬほど引き付けねばならないのか、と驚く場合もあります。
この演劇型の一斉読み聞かせは、大人が演劇やオペラなどを鑑賞するときの態度を要求します。そこでは、対話はできません。もちろん時には楽しいことですが、保育の日常ではないと思います。この問題はまた別のところで述べてみたいと思います。
抑揚やジェスチャーを付けるかどうかは、基本的には絵本の内容や年齢にもよるでしょう。私はこの質問を聞くとき、どうして子ども達に聴いてみないのかといつも不思議に思います。保育者が考える読み方のベストの方法ともう一つの可能性があるならば、二通りの読み方をしてみて「ねえ、どっちが好き?」と聴けばいいのではないでしょうか。
クラスや年齢によっても異なることでしょう。意見が割れることもあるでしょう。意見が分かれたときこそが子どもともに考える良いチャンスではないでしょうか。
ある時は静かに、ある時は思いきって愉快になど、子どもとともにいろいろな読みあいを重ね、読み方の違いが心にどのような影響を及ぼすかを、お互いに確認することも楽しいでしょう。読み方も「子どもとともに創る」ものではないでしょうか。
② 絵本に書いてある「対象年齢」以外でも興味ある絵本は読んでいいか?
絵本に「対象年齢」が書いてあるのは、国際的に見ても少ないと思います。教科書は別ですが。これは年齢別に絵雑誌などが発売された、我が国の歴史的経緯も背景にあると考えられます。要するに「販売戦略」もあるでしょう。幼い子どもはいつも最初から最後のページまでを、丁寧に読むわけではありません。気に入った絵があるページだけを繰り返したり、同じ絵本を繰り返しながらその意味や解釈を変えてゆきます。
逆に、すでに書きましたが文字が読めるようになると「赤ちゃん絵本」に興味を持つ子も出てきます。読み手が「おや?」と感じるときこそが子ども理解のチャンスです。なんでこの絵本が好きなのかを、ぜひ、聞いてほしいと思います。「どうしてこんな(幼いもしくは難しい)絵本が好きなの?」よりも、「この絵本が好きなのね。どこが好きかを教えてくれないかなあ」の方がずっと生産的です。
③ 子ども達に興味ある絵本を選べているか不安。
それこそ、直に子どもに聴くべきだと思います。または、子どもと読みあう時の態度や姿勢で分かりませんか? その際、クラス20人のすべての子どもに同じように「好き」はあり得ません。「シリーズ6」で述べたように、子どもは一人ひとりが異なるからです。子ども20人を「まとめる」ことが保育者の力量ではありません。一人ひとりがもつ異質性を理解してこそ、プロの力と言えるのではないでしょうか。
もし、クラスの多くの子ども達に興味を持ってほしいのならば、「この絵本は○○ちゃんが好きな絵本です。これから一緒に読んでみて○○ちゃんにどこが好きなのか聞いてみましょうね」と言えばきっと子ども達は大いに集中してくれることと思います。集団だからこそ可能な豊かな読みあいです。
④ 絵本棚の入れ替えを一か月程度でしています。どれくらいの頻度でどのような絵本を入れ替えるのがいいのでしょうか?
子どもに聴いてください。どの絵本を棚に残すか引っ込めるか。子ども達の意見はきっと分かれることでしょう。その時、子ども達になぜ残したいのか残して欲しくないのかを、十分に話させてください。保育者も一人分を主張してください。
棚の容量には制限があり、すべての子どもの意見が通るわけではありません。たった一人だけが残すことを、強く主張する絵本があるかもしれません。人間関係の調整力を育てる良い機会です。
なぜならば、様々に対立する主張を含みながらも、子ども達と保育者が協同して創る育環境と人間係のバランス感覚を身につける良い機会だからです。
0・1歳児でまだ、言語化ができない時は4・5歳児に入ってもらい、その意見を参考にするのも良いのではないでしょうか。せっかくの異年齢集団です。年長の子ども達の意見や助けを借りることは保育を豊かにします。
⑤ 読みたがらない子どもがいる場合には、どうしたらいいのでしょうか?
この種の質問は、表現方法は異なれ毎年数多くでます。これは、前提となるのがクラス
全員への一斉読読み聞かせが恒常的な場合です。自分の考えを言いたくて立ち上がったり、指差しをしたり、同意を求めたりして一斉読みが崩れてしまう場合もあります。
この、問題はすで「シリーズ6」で書きました。様々な試行錯誤を経てある受講生(基礎コース)は以下のような言葉を残してくれました。その時その場ではなく、子どもの長い人生を見通した優れた哲学(考察)だと思いました。
・「絵本を幼い頃から読むことはとても大切であるという根本は変わらないものの、重く受け止めすぎるのではなく…子どもたちが生活をする上で自然と傍らにあり、それがきっかけになることもあれば…幼いころに興味が湧かなかったとしてもいつか目に留まることがあればいい。…一日に絵本に触れる時間を少しでも取らなければならないといった焦りのようなものもなくなった」(保育歴14年)。
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