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新連載 「乳幼児と絵本」シリーズ(16)
絵本を読みあうことからごっこ遊びへの展開
そして生活発表会へ
佐々木宏子
絵本の読みあいをクラス全体または小集団で繰り返すうちに、自然に「ごっこあそび」へと発展することが多くあります。その理由は何でしょうか? この問題で、受講生からの実践を通して描かれたレポートをのいくつか、紹介したいと思います。
講座のワークショップで、「生活発表会と絵本」を議論した受講生は、基本的には絵本を題材に進める発表会が多いのは、…
・「全員が絵本を通してイメージを共有していることや、好きな絵本だからこそといった要因が大きく、また演じていくうちに、
絵本が伝えたかった意図のようなものに気付くといった成長へと繋がる相互作用があることにも、気づくことが出来ました
…絵本を見て疑似体験を行っているからこそ、演じることが出来るのだと結論付けました」(保育歴14年/施設長)。
・「絵本を共有していると子ども達が共通理解をしているので、遊びも共有しやすく言葉も身体への表現遊びへとつながって行きやすいと感じました(23年/4歳児)。
・「読みあいを重ねることで遊びが生まれ、遊び込むことでお話に入り込んでいき、のびのびと表現するようになり、劇遊びにつながっていくと考えます」(32年/園長/応用コース)。
・「絵本を読んだ後、そのお話の共通イメージを膨らませていくには、
個々の体験が必要であり、その体験があるからこそ実感につながり知識につながっていく
ことが理解できました」(25年/施設長)。
・「絵本の世界で遊ぶ時に、子ども一人ひとりの想像力や生活体験・知識の差があり、イメージが共有できずに遊びがつぶれることがあります」(15年/4歳児)。
「絵本は言葉だけでなく細かく絵が描かれているため、模倣しやすい」と指摘する受講生は、…
・「最初は、一人が絵本(『キンダーブック しぜん 12 ケーキ (こむぎこ)』(指導・長尾精一/写真・山本明義/2012/フレーベル館)を持ってきて保育者と読み始めたが、やがて他の3人がやってきて読み始める。『お腹空いた』『それならケーキを作ろう』の発言でケーキごっこを始めた。
最初はままごとの具材を虫にボウルを虫かごに見立てて遊んでいた子が、絵本を見たことで料理をするイメージがみつけられたようだった」(2年/4歳児)。
上記の受講生は、「一緒に読み合うことで同じイメージを持ったため、遊びを共有することができていた。今回は、少人数での読み合いの中で子どもたちがやりとりをしていたから、
自然と遊びに繋がったのだ
」と述べています。
・「20年以上も前のことだが、“三びきのやぎのがらがらどん”(『北欧民話 三びきのやぎのがらがらどん』マーシャ・ブラウンえ/せたていじやく/福音館書店)の絵本が大好きだった男児(2歳児)。園でもよくこの本をくり返し読みあいをしていたため、内容も覚え、一ページずつめくりながら一人で声を出して読んでいることも多かった。小さいやぎ、中くらいのやぎ大きいやぎのがらがらどんが、橋を渡る時の音の違いを表現しながら読んでいたり、トロルが出てくると保育者の時と同じように声色を変えて怖い様子を表現していた。
本児は、絵本の中に入り込んで遊ぶことがあり、ブロック遊びでも一列に並べて橋を作り、別のブロックをやぎやトロルに見立てて絵本と同じように台詞を話していた。ちいさいやぎや中くらいのやぎが橋を渡るときは、寝転んで台詞を話しながら遊んでいたが、大きいやぎのがらがらどんが橋を渡るときは立ち上がり、戦う様子を、両手にブロックを持ち『とーやー』と言いながら表現していた。その様子を保育者は声を掛けずに、静かに最後まで見守った」(32年/園長/応用コース)。
・「降園時は3・4・5歳児と異年齢ですので、子ども一人に一冊絵本を選んでもらい読んだ。その時に子どもに人気のあった『じこくのそうべい』(作・たじまゆきひこ/桂米朝・上方落語・地獄の八景より/童心社)をよく読み聞かせていた。関西弁のリズムを面白おかしく読むと、子ども達も真似をしたり、自ら絵本棚から手に取り(5歳児)読むという場面もあった。当時、5歳児担当で発表会ですることになり、楽しく取り組めた。
ある子は絵本丸ごと覚え、母親に内容を書いてもらっている子もいた
」(25年/2歳児)。
いずれのエピソードも、保育者による一斉の読み聞かせの繰り返しというよりは、一人もしくは少人数でセリフを覚えるほど文章を繰り返して読み、細やかな絵の描写にも助けられて、やがてごっこ遊びで演じるようになるというプロセスが見えてきます。
このようなプロセスについては、すでに「シリーズ(9)」と「シリーズ(13)で「
その場で生まれる子どもの反応や気持ちを大切に見逃さないようにしていく」
保育者の姿勢と、「
絵本の内容理解をごっこ遊びや活動として行動に移し深く読み込む段階」
として説明してきました。
しかし、受講生のなかには、下記のような悩みを打ち明けてくれる人もいました。
・「絵本を行事などの導入で使用しがちですが、普段の保育の際こちらが読んだ絵本の内容を子ども達がかみくだき、応用して遊びに繋げていく姿をあまり見ることがありません。こちらが読んだら、子ども達も繰り返し読む程度でなかなか遊びに発展しないのが現状です。ある程度設定する保育として、教師が遊びを見せるなど提示することが必要かなと思います。どこまで教師が誘導して遊びを広げて行くべきでしょうか」(3年/4歳児)。
おそらく、前述のような悩みは「シリーズ(4)」で述べたように、保育方法に問題があるように思います。子ども達に自由な遊び時間があまりなく、保育者の時間割りで細かく制限されていて、自発的な遊びが少ないということはないでしょうか? 絵本から遊びへの道は保育者が「読んだ内容を子ども達がかみくだき、応用遊びに繋げていく」という、大人が脚本を演じるような筋道で生じるものではないからです。
子ども達は「面白い」と感じると、何度も何度も繰り返して読むことを要求します。
それは一斉の読み聞かせだけではなく、一人もしくは少人数で意見を述べ合ったり、笑ったり、しんとしたりしながら、全文を暗記できるほど繰り返し、言葉や絵を隅々まで覚えてしまいます。そんな時間は、子ども達に保障されていたのでしょうか?
以下はある受講生のエピソード記録です。
『はらぺこあおむし』(エリック・カールさく/もりひさしやく/偕成社)を読みあった後、みんな(2歳児4人)は床に寝そべってあおむしになり、さなぎになって蝶々になる「はらぺこあおむし」ごっこ遊びをし、はらぺこあおむしの世界を日々楽しんでいます。「はらぺこあおむし」の音楽を流すなど、保育者はいくつかの仕掛けをします。
・①「はらぺこあおむしごっこの際、保育者がピアノを弾くと歌うようになる。保育者は『みんなが食べられるくらい大きなリンゴを作ろうか』と声を掛けると子どもたちは喜んで創作に取り組む。段ボールに保育者がリンゴの絵を描き絵の具で赤に塗っていく。『な しもあるよ!』『すももも!』と次々に描きたがり完成させていく。
出来上がった果物たちをトンネルにし、はらぺこあおむしごっこの中で食べる真似をしながらトンネルを潜り抜ける動きが追加される」。
やがて保育者があおむしの衣装を作り、子ども達に見せると4人とも大喜びし、日常でも衣装を着てあおむしになりきって遊ぶ、保育者はあおむしのお面も作ります。
・②「『みんなのあおむしごっこを、おうちの方にも見てもらおうか』と、
ホールの舞台上で、はらぺこあおむしごっこをしてみるよう保育者が声を掛ける。
…生活発表会当日は緊張もあったものの1か月以上楽しんだ、はらぺこあおむしごっこの楽しい気持ちのまま披露することができた」(12年/フリー)。
前述のケースは、2歳児が自発的に遊び始めた「あおむしごっこ」を、保育者が実に巧みに音楽、段ボールの果物づくり、衣装づくり、お面づくりなどで誘導しています。特に感心したのは、生活発表会に向けて、舞台の上で遊ぶことを促し発表会が日常の延長へとつながる配慮をしたことでした。1か月も遊び込み、そのまま発表会へとなめらかに接続させる保育技術は、見事なものです。
・「多くの園児が降園し、0歳児の部屋で0・1・2歳児5人が合同保育となっていたとき、絵本が大好きな1歳Yちゃんが本棚から『かんかんかん』(のむさらさやか・文/川本幸・制作/塩田正幸写真/福音館書店)を選んで、読んでと保育者に持ってきた。1回目は2〜3人が聞いていたが、2回目(リクエストがあったため)になると、それまで自由に遊んでいた5人全員がくいいるように絵本を見つめていた。
この絵本は絵ではなく写真で表現されているため、これは何の動物だろうかと自由に意見を述べ合った。2歳児のT君が『かんかんかん〜』と腕を踏み切りにして表現したところから、この絵本をテーマにした遊びが始まりました。
子ども:『かんかんかん〜』(踏切音をつぶやきながらも、自分は電車になっている)、
保育士:『〇〇くん電車がとおります』。
子ども:ハイハイをして四足歩行で猫になり、
子どもと保育士:『かんかんかん〜』、
子どもと保育士:『ニャアニャア列車が通ります』。さらに盛り上がって、しっかり歩ける2歳児3人がつながって、
子ども:『かんかんかん〜』、
保育士:『みんな列車が通ります』。
普段は個人個人での遊びが中心となる夕方の自由遊びですが、この日は1冊の絵本をきっかけに、5人全員で世界を共有しあいながら『お母さん列車がやってくる』お迎えを待つことができました」(1年/フリー)。
異年齢の子ども達がお帰りを待つ時間に、こんなにも楽しい遊びの世界が現れるとは、読んでいても自然に微笑みが湧いてきます。「2歳児のT君が『かんかんかん〜』と腕を踏み切りにして表現した」ジェスチァーのイメージを素早く見抜き、その流れを臨機応変に遊びへと繋げた保育者の対応には、保育歴は少なくても感性の鋭さを感じます。
日々の集団の生活の中で、絵本と子ども達の関りが生み出す数々の記録に出あうと、子ども達の人生が一瞬の輝きや仲間との信頼、何よりも生きることのほのぼのとした楽しさに彩られていて、読み手は集団保育が生み出すものへの希望を感じます。
最後に、講座の講師の一人である徳永満理先生から、以下のような面白いエピソードをお聞きしましたので紹介いたします。
5歳児が相談の上、生活発表会で『くるみわり人形』(E・T・A・ホフマン・原作/中井貴恵・抄訳/いせひでこ・絵/ブロンズ新社)を上演することになりました。遊び始めると、様々な問題にぶつかりました。どの役も男女に関係なくやることになりますが、
「おとこのこやのに。おんなのやくは、はずかしい」
「えーなんでなん?」
「げきやから、なんにでもなれるねん」
「げきって、そんなもんやで!」
という会話があったそうです。詳細は以下の文献をご覧ください。
1)
私は、この会話を聞いた時、5歳にして想像の世界・ファンタジーの世界とリアルな世界の違いがはっきりと言語化できていることに驚きました。5歳になると、現実の世界の論理が優先されることが多くなりますが、そのことを「げきって、そんなもんやで!」と、実に見事に自分の言葉で説明できる5歳児に感心しました。
ごっこ遊びを「うそっこの世界」という表し方がありますが、私はその表現には疑問を感じます。「げきやから、なんにでもなれるねん」の5歳児は、劇の世界では、現実とは異なる異質な意味・役割を生成することが出来ると考えていますが、「はずかしい」5歳児は、「みんなから本当に女の子に見られてしまう」と、困惑しているように思われます。
最近ではAI技術の問題も侵入してきて、「見立て」「現実」「もう一つの世界」などの問題が入り乱れて、解釈に苦しみます。この問題は、また後で考えてみるつもりです。
1)徳永満理・兵庫保育問題研究会/編 2016 『子どもが発見する「ごっこ・劇遊び・劇づくり」』 かもがわ出版
(20260212)
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