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新連載 「乳幼児と絵本」シリーズ(13)
絵本を読みあうことを「環境を通して行う教育・保育」の中に位置づけるということ(2)

佐々木宏子
 受講生のなかで、「環境を通して行う」教育と絵本の読みあいとの関係が認識されるようになったのは、「保育者読む人―子ども聞く人」の構図が壊れ始めた頃でした。それと同時に子ども自らが絵本を選択し、一対一もしくは少人数での読みあいへの実践も行われ始めました。自由時間に保育者が子どもと一対一の読みあいをする、一斉型の読み聞かせであっても、選書を子どもに任せるなど、少しずつ従来の方法が崩れていきました。すると、子ども達の自発性や反応の多様性が生まれてきます。そのことは、すでに「シリーズ6・10」でも述べましが、その変化を受講生は次のように記録しています。(太字は佐々木)

・「(いままでは)絵本をどう読めばいいのか、どのような絵本を選んだらいいのかということに重きを置いて考えていましたが、そうではなく絵本は子どもたちの生活の中にあるもので、生活の中に取り組めるようにしておくことが一番大切であることがよくわかりました」。(保育歴10年/担当5歳児)

・「単なる絵本ではなくなった。言葉や物語だけを伝えるものではない。大切なコミュニケーションツール」。(14年/2歳児)

・「子どもの興味や関心に応じた絵本が近くにあると、教師が絵本を勧めなくても子どもがその時のタイミングや必要な情報を感じて、友だちと一緒に読んだり、言葉にしたり、本を選んだりする。絵本だけでなく、絵本につながるような環境構成の大切さをあらためて感じた」。(24年/5歳児)

・「子どもの選択から、子どもの心、興味に寄りそうための方法としての絵本の大切さに気づいた。園で働くみんなが、それを意識してチームで環境作り、保育を行う必要があった、と気づいた」。(19年/4歳児)

・「子どもはなぜこの本を手に取ったか、私はなぜこの本を読みたいと思ったか、と常に考えるようになりました。また、絵本を通すことで心が動いたり、色々な思いを抱くことが分かり、一冊一冊を大切にしていきたいと思いました。そして、それは絵本だけではなく保育全般に通じることでもあり、一人ひとりを尊重して関りをしていきたいと、改めて思いました」。(24年/0〜1歳児)

・「3歳児クラス。部屋のスペースから隅に絵本棚を置いているが、コーナーとして区切れず段ボールで仕切りをしたが、仕切りで遊んでしまう。また、夏はゴザ、他の季節は絨毯の上に座卓とテーブル置いたが、少人数しか入れず牛乳パックの長椅子を置くのみとなった。テーブルに椅子を用意した床上のコーナーの方が良いかとも考えていますが、3歳児がほっこりとした空間で絵本を楽しめる空間の環境づくりについて教えていただきたいです」。(20年/3歳児)

 特に最後の事例は、環境を整えたくても空間的なゆとりがなく、保育者自身の個人的な努力ではいかんともしがたいことが切実に伝わってきます。しかし、基盤型環境は無理であってもなんとか、個々の読みあい活動に応じて「目標支援型環境」を準備する大切さを説いている受講生もいました。

・「『おにぎりくんがね‥』(とよたかずひこ/童心社)を読んだ後に、最初は自分たちで手でおにぎりを握るようにギュギュとしていたが、次第に、自分がおにぎりになった気持ちになりマットの上で転がりゴマを体につけるようにゴロゴロ楽しみ始めた。ゴロゴロ遊びが終わると体についたゴマを振り払うよう服をパンパンしたりする姿も見られた。バスタオルを渡すと次はバスタオルをのりに見立て、体に巻いて見立て遊びに入り楽しんでいた。好きな具をイメージして手で握って楽しんだり自分がおにぎりになりきり身体全体を使って表現して楽しむなど、様々な姿が見られた」。(5年/0〜1歳児)

 この受講生は「握って遊ぶだけでなく、マット、バスタオルなどさらにイメージをふくらませて遊ぶ込める環境設定」も大切だとして、

・「『つぶやき』『エピソード』がたくさん出るようにするには、まず、そのつぶやきやエピソードが生まれるような環境設定を提供することが一番大切だと思います。ささいなつぶやきを掬いあげイメージの発展、遊びの発展として繋げていくことが難しさでもあり工夫して行くべきところだと感じます」。(同上)

 さらに、同じ受講生は続けます。

・「読んだ絵本に対して感想を求めるのではなく、自然と子ども達が遊びの中に絵本の世界が取り入れられていくような、流れやイメージをふくらませるような環境を工夫していきたいと思います」。(同上)

 この受講生は「絵本からあそびへの発展」にいかに保育者側が、子どものイメージを見抜き、適切な言葉がけや材(財)を準備することが必要かを認識しています。そして、記録を取ることは「感想を求める」のではなく、取りたくなるような事例が育まれる遊びの発展が、まずは先であることを確認しています。素晴らしいと思いました。

 これらの記録を踏まえて、私は子どもとの読みあいの質的変化を、段階として設定してみました。

1) 感覚的・情緒的・模倣的段階:絵本へのシンプルな反応。
「えー!」と驚いたり、「ほゃ〜」とほほ笑んだり。「なんでやねん」と突っ込みを入れたり、「お化けこわー」と怖そうな表情を見せたりする。食べる場面で「あ〜ん」と口を一緒に開ける。「ぴょーん」や「もこもこ」に動作をつけて一緒に身体を動かす、など。ポインティングも。

2) 絵本の内容と自分の経験を結び付けようとする段階:既存の体験や知識と結び付け 理解・確認をしようとする。
 虹の絵を見て、「見たことある。この間の日曜日に車に乗っていた時」など。一見、内容とは関係ないように見えるが本人には大切なこと。一斉集団読みを定番とする保育者は、収拾がつかないと嘆くが、これは幼い子と読みあう場合の大切なやり取り。「リンゴ」「バナナ」などの命名も。

3) 絵本の内容をごっこ遊びや活動として行動に移し深く読み込む段階:一人、もしくは数人、またはクラス全体でごっこ遊びとして外在化させて、お互いの解釈を表現し合う。
 大人が読後に読書会をもち楽しむのと似ていて、読解力を深める行為にも通じるものがある。私は、このことを「幼児は遊びを通して読書する」と命名している。
 この時、前述の受講生が述べたように「環境を工夫する」ことが重要で、遊びの流れが深まり発展するかどうかは、この環境の準備があるかないかで、劇的に異なってくる。身の回りに「目標支援型環境」が豊かに準備されていると発展しやすい。

 ホットケーキを作ろうとするとき、市販のフライパンやボール、ままごとセットなどはあるか? お寿司屋さんをしようとするとき、様々な形の折り紙はあるか? 『せんろはつづく』(鈴木まもる文・絵/金の社)を遊びで繰り広げようとするとき、部屋いっぱいに広げるほどの模造紙は準備できているか? 駅や自動改札機のための大小のブロックはあるか? 新幹線や車の種類は? icocaの厚紙はあるか? 空き箱の種類は? 色紙の準備は? 遊びは言葉だけでは発展しない。
 思わぬものが驚きの見立てになったり、「ひもが欲しい」と言われて子ども達自身が電車になることもある。

4) 絵本内容の再構成の段階:一冊の絵本内容をもとに新しい意味・物語を創り出す。
 絵本を元に自分たちで続きを作る、違う展開や結末を考える。
遊びや劇などとして再構成をする、など。この事例は家族の中で物語が共有されて代々引き継がれることもあるが、集団保育の場合、「シリーズ12」で述べたような『どろにんげん』や「私のワンピース」などのような事例として現れる。

 記録を取り始めた保育者や家庭保育で、子ども達が絵本を読み始めたころによく見られる事例としては、1)や 2)があります。ベテランの保育者から見ると他愛もないエピソードに見えますが、新米の保育者や両親にとっては十分に感動的です。
 成長しようとする子が、他者や社会とつながろうとする命の躍動感に触れることができるからです。この問題は、また、「昔話」の問題ともつながっていきます。
(20251027)


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