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シリーズ(2)で、単発の講演などと異なり、このような連続講座における講師は絶えず受講生の疑問や課題に応じて、年度ごとにそのプログラム内容を更新し続けることが要求されると書きました。
この教訓は、初年度(2018年)に私に深く印象に残る出来事から立ち現われました。当時は、まだ7回の講義があったのですが、その3回目が終わったころ、熟練の受講生から「講義はとても勉強になるのですが、課題のシェアを参加者で、グループで、ワークショップでしたりして、参加者の意見を聞く機会があるとうれしいです」との要望が出てきました。シリーズ(2)で分類した「独自の動機」の範疇に入る保育者でした。私は、その意欲的な態度に共鳴し、私自身の好奇心も刺激され「よし、応じてみよう」とプログラムに組み入れました。まず、以下のような映像記録と文章記録を提示し、エピソードの意味の解説をしました(当日のレジュメの一部/斜体)。
絵本は絵本を離れて遊び(生活)を動かしはじめる-vs.テレビ・ゲーム
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絵本から生まれた子どものイメージ世界のエピソード(事例紹介)
つぶやき・しぐさ・行為などを通してイメージ(想像性)の芽生えをキャッチし、
子どもの心と個性を探る
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①『もこ もこもこ』(10か月/1歳)
・オノマトペの音とリズムに共鳴して「もこもこもこ」を心身で表現する。
・「寝ていて真っ暗な状態で、『しーん』と言って話をふってみると、やはり続きを結構言いました」
②『がたんごとん がたんごとん』(2歳)
・「この絵本がタイチの汽車ごっこの原型となりました」
③『おふろだいすき』にみる反応の多様性(3歳~9歳)
・「トモちゃんの家のお風呂にカバさん来て欲しい?」
④『ぐりとぐら』(4歳)
・「絵本を読んでいる間、ぐりとぐらになりきったつもりで、ままごとのフライパンやボール、泡だて器を使ってカステラを焼いて振舞ってくれました」
⑤『おおきなかぶ』(2歳)
・孫娘はワタシ、犬と猫はぬいぐるみ、母はおばあちゃん、おじいさんとカブは空想上のもの
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次いで、受講生が職場で自らの印象に残ったエピソードを書き、そのエピソードをグループ内で相互交換して討論をする(ワークショップは70分でした)。
さて、シリーズの講義は年末に講義ごとの評価が出ます。私の4回目のワークショップを見たところ、なんと、「参考になった」のところで他の講義に比べ60%くらいしかありませんでした。半分に落ち込んでいるわけではありませんが、それでも「参考にならなかった」受講生がかなりいたことは事実です。レポートをいくつか拾い出してみると、
・「今回はワークショップということで他の受講生の方のエピソードや保育に関する考えもきけて、とても参考になりました」(保育所)。
・「他保育所の先生方の話を聞いたり、お互いの情報交換ができてよかった」(保育所)。
・「保育の面でもすぐに実践に取り入れられそうなことばかりで、とても参考になりました」(幼稚園)。
・「グループワークなので、楽しくあっという間に時間が過ぎた。具体的な事例を数多く提示して頂き『イメージする』というということが以前よりもより具体的にわかるようになった」(保育所)。
・「ワークショップをすることで他園の子ども達の様々なつぶやきを感じ、絵本を見る、読むことによって子どもたちのエピソードが一つでも多く生まれるような環境構成(人的・物的・時間)を改めて見直していく必要があると思いました」(小規模保育所)等の記述がありました。しかし、
・「ワークショップを進めるのに苦労しましたが、もっとうちとけてからグループワークができたらもっと深まっていたかなと感じました」の意見もありました。直後の記名入りの感想では肯定的でしたが、それでも期末の匿名による評価はそれほど高いものではありませんでした。その正直さには、敬意を表したいと思います。そして、なぜだろう? と考えてみました。
問題点の一つは、必ずしも受講生の中でワークショップという方法で自分の意見を述べることに慣れていなかったこと。
もう一つは、今回のワークショップのテーマが受講生同士の話し合いから出てきたものではなかったこと、によるものだと思いました。
つまり、受講生の要求水準が同じところにないため(必ずしも経験年数だけでは計れないが)、熟練の受講生の問題意識がすぐに共有できるものではないことを理解しました。まだまだ、年齢別のリストが欲しい初任者、読み方を知りたい受講生。どこかに正解があると思い、それをひたすら「教えて!」と迫る受講生。一方で、「私は絵本の読み方を教えてもらいに来たわけではありません」と断言して、先に行きたい保育者。
それゆえ初任者に焦点を当て続けると、熟練の保育者には不満が残りますし、その反対もあります。そこには、足して割った中庸なやり方があるとは思えません。
そこで考えた結果、連続講義やワークショップでは、私の見解や問題意識を開陳するのではなく、その場にいる優れた受講生(保育者)を前面に立てながら、初任者を引っ張ってゆくという手法をとることにしました。つまり、できる限り私の考えは、熟練の保育者の優れた事例に乗せて話すこと。それは同時に、熟練の保育者が将来管理職になる準備でもあり、後輩を育てる技を身に付けてもらう過程でもあると考えました。
以後、この教訓を活かしたプログラムの更新を毎年心がけることになりました。その結果、ワークショップは受講生に定着したものとなりました。
このように理論と実践の往還が可能なのは、受講生からあがってくる膨大なデータ処理をしてくださった事務局(明石市政策局 プロジェクト推進室 本のまち担当 山畑幸子係長とスタッフ)の協働があってのことです。感謝にたえません。
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