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新連載 「乳幼児と絵本」シリーズ(14)
絵本を生活環境の循環の中でとらえる

佐々木宏子
 乳幼児と絵本の関係を考えるとき、私はいつも読みあいの中だけの「絵本⇔子ども」という枠組みで考えて欲しくないことを、講座の中で提案してきました。その子がどのような生活をしていて、どのような人間関係・自然環境、また価値観を持って過ごしているかという生活全体の中で考えて欲しいからです。それは、子どもに絵本を読み聞かせたとき、子どもがどのような反応をしたか、どのように語彙を獲得したかという単線的な関係の中で“効果”をはかって欲しくないからです。ましていわんや、それが将来の所得や学歴と結びつくというという空洞化した仮説には、疑問を感じざるを得ません。

 また、ブックリストに掲載されている絵本を読むだけで、子どもの心が豊かになり、想像力が育まれるものなのでしょうか。勿論、そこにも一つの視点はあろうかと思います。 絵本と子どもの関りを考えるとき、家庭も図書館も保育の場でも、同じ視点で良いのでしょうか。さらに、絵本が人間関係の中にどのように織り込まれていくのか、保育の場における、最も重要で具体的なプロセスについては、あまりにも分析・考察が少ないように思います。あったとしても、しつけや教訓のにおいが強いものです。

・「子どもたちを取り巻く環境や、遊び、生活、絵本は、それぞれ違う場にあるように見えて、実はすべてつながっているのではと思いました。絵本を読んで共通のイメージを膨らませるだけでなく、そこから子ども達の遊びに発展したり、もしかしたら絵本の世界が本当にあるのかもしれないという、さらなる探究心につながったり、逆に体験したことから、絵本をさらにプラスして、想像が膨らんだり、新たな発見があったりと、絵本と子ども達の世界が密接にかかわっていることを改めて気づかされました」(保育歴18年/担当2歳児)。

・「私の園や保育室には、以前から保育室内や廊下の図書コーナーなど、子ども達がいつでも絵本を読める環境が整っていますが、この研修を受けたことで、その環境に子どもたちがどんな場面でどのように関わっているのかを、より意識して見るようになりました。集団の音がしんどくなった時に絵本コーナーに行き絵本を手に取る子ども、好きな遊びの中で興味をもったことに関する絵本を読んでいる子どもなど、一人ひとりの思いが満たされるように、一人ひとりに寄り添った時間や場を今後も保障していけるように努めたい」(24年/5歳児)。

 以下のエピソードは、少し長いので、あらかじめ要約をしますと、病欠で長い休みが続いた後、母親と離れにくかったA児、荷物をもったまま廊下の絵本コーナーの前で座って『いちにちどうぶつ』(さく・ふくべあきひろ/え・かわしまななえ/PHP)を読んでいました。保育者が、「その本面白いの」と声を掛けると「うん。これ面白い」とパンダのページを見せてくれます。

・「『本当だ! みんなにも読んであげていい?』と言うと、笑顔でうなずきゆっくりと立ち、保育室に絵本をもって歩き始める。…クラス全体での読みあいの時間になるとA児が『これ』と差出し、一番前に座る。…『今日はA君のおすすめの絵本です』と言って全員に見せると、A児は、にこっと笑う。…他児がわっと笑うとA児も笑い。他児がのけぞって笑うとA児ものけぞって笑い、友達の顔を見たり保育者の顔を見たりする。パンダのページでは保育者と目が合い笑い合う…絵本が終わると…他児から『面白かったなあ』と声が上がりA児は表情を緩めながら絵本を本棚に立てる」(24年/5歳児)。

 この受講生は、A児がしんどい時この経験は「前に進むきかっけになったのではないか」、友達に自分の好きな絵本を紹介してもらい…友達から面白いなあと言ってもらえたことが大きな自信となったようだ」と述べ、「絵本は子どものよりどころになっている事もある。その子どもが何に興味をもち、面白いと感じているのか細やかに受け止めていきたい」と締めくくっています。

 絵本は、子どもが感じ取ったことが、日常生活の中でさまざまな機会にその姿を現します。そんな折、ひとりの受講生が、保育環境の中で絵本がどのような循環の中に存在するのかを、レポートで提出してくれました。彼女は「あかし保育絵本士」講座の応用コースで学んだ幼稚園教師ですが、毎回のレポートがイラスト付きで実にユニークなものでした。そのいくつかを彼女の了解を得て引用させていただきます。

第1図

 この図は、「絵本or図鑑」が保育の中で、どのような循環で遊びや友達関係の中に織り込まれ活かされていくのかを、巧みに描いています。保育者は、環境を準備し子ども達が遊びを展開する中で、声掛けし援助をします。そのためには、よく観察することが要求されます。その中で絵本という遊誘財は子どもの遊びや生活にヒントを与え、その経験は友達・保育者の中で対話や協調性を通して結びつき、つながり、そこに新たな興味・関心が生まれます。

 その積み重ねが子どもの姿を変容・成長させ、その姿を確認しつつ保育者は新たな「意図」をもって保育活動にのぞむ、という循環になっています。私は、この図をすべての受講生と共有し、必ずしも保育は「教師の意図」からはじまるわけではなく、「子どもの遊び」や「絵本or図鑑」がスタートになる場合もあり、逆循環もあることを指摘しました。

 その折、保育者だけではなく保護者も大きな役割を果たすことがグループで討議され、保護者を含んだ、新しい第2図が彼女から提出されました。

第2図

 この第2図では、新たに保護者が付け加えられ、遊びへと繋がっています。また、保護者と「・学びが深まる、・興味、関心が広がる」の間には相互作用の矢印が付与されました。

 この図をめぐる紹介を経て、受講生の一人は次のように述べています。

・「絵本ひとつに対して、想像や感じ方などを知るだけでなく、こども同士のやり取り、絵本を通しての分かち合い、学びがあるのだと知りました。人間関係や日常生活で大切なことにもつながりがあることも知り、子どもにとって絵本の時間は大切なものと思ってもらえるようしていきたい」(1年/4歳児/応用コース)。

第3図

 さて、受講生の循環図についての問題提起を通して、私も「集団保育と環境の循環図」(第3図)を作成してみました。この「絵本・図鑑など」の部分は、園の様々な遊誘財をはめ込むことが出来ると思います。粘土であったり、泥遊びの泥、自然の素材、積み木なども自由に当てはめることが出来ます。この図は、絵本が保育の中で影響を与える(影響が現れる)要因を抽象的・論理的に描いています

 しかし、作成して分かったことは、私の第3図は論理的にはすっきりとしていますが、島田佳穂さんが作成したような保育者の声が聞こえてきません。これら三つの図をあわせて図形の意味が具体的に立ち現れてくるように思います。子ども同士で、もしくは一人で深く読み込まれた絵本や図鑑などの印象は、遊びの中で様々な形で立ち現れることは、良く知られています。

 絵本に描かれた内容(知識、感情、人間関係など)を知ることと、その絵本を読みあうことを通して子ども同士の間で生じる経験は、もっと複雑で多様なものです。それは、想像を超えるところ、意外なところで生じるものです。それらの、子どもと絵本に関わる行動と解釈を、次の「シリーズ(15)(16)」に繋げたいと思います。
(20260208)


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