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新連載 「乳幼児と絵本」シリーズ(15)
集団で絵本を読むということ
人間関係を育み、その複雑さを楽しむ
佐々木宏子
「シリーズ(14)」では、一冊の絵本を個人または集団で読みあうとき、単なる言葉や共通のイメージ作りに終わるものではないことを、お話ししました。大人がひとり読みする場合は、登場するヒト・モノ・コトを引き寄せて、おそらく内なる他者と対話を続けていると考えられます。しかし、子ども達は内側に他者(異なった価値観)をまだ数多く蓄積していないので、現実の生活の中で訓練するしかありません。実際に、そのために日常生活で「いざこざ」や「けんか」は多発します。
子どもは、絵本を読みあうことで、現実の日常生活と絵本に描かれたもう一つの世界を絶えず行き来しながら、その二つの世界に橋を渡し、二つの世界をともに強く、深く、大きく育んでいきます。
絵本は、ただ「閉じた世界」として、一斉に保育者が読み聞かせて終わるだけでなく、一対一、小集団、異年齢同士などで読みあうことで、豊かな対話の契機となり、人間関係に様々な影響を及ぼします。
・「子どもの興味から教師が環境構成を考えると、色々なジャンルの絵本に触れたり、色々な人との触れ合いや関りにもつながることが分かった。視点を変え教師も変わることで環境を再構成し、出来ることが増えることで、さらなる学びに繋がった。また、子ども同士も、
それぞれの好きな絵本を知ることで、友達にも興味が広がり互いを知ることが出来るツールであることが改めて分かった」
(保育歴18年/担当3歳児)。
受講生の一人は、2歳児で絵本を選ぶ当番を決め、今、子ども達が何に興味を持っているかを研究していると話し、…
・「子ども達が選書することが増え、絵本を読み始める前に
子ども同士でお気に入りのページを言い合い、意気投合し、何がどんなふうに面白いかを語り合い、笑い合う姿があった。…周囲の子ども達も気にするようになった。
お気に入りのページになると大爆笑になり読んでいる自分自身もつられて笑ってしまい、すごく楽しく
子ども達と分かり合えた
絵本の時間だった」(10年/2歳児)。
・
「選書一つにしても気に入った本を誰かに教えたい、伝えたいという気持ちは大人も子どもも関係なく感じるものであり、自分の喜びを他者に伝えようとする行為が、自発的に育まれることの素晴らしさを感じるとともに
、そのための環境構成も同時になくてはならないと感じることが出来た」(1年/3〜5歳児)。
・「今までも、絵本は好きで子ども達にも読んではいたが、この講座を受け始めてからは、子どもがどんな選書をしているのか、何が好きなのか、と言った視点から子どもの様子を見ることにしてみた。すると背表紙だけで選ぶ子や絵(例えば電車)の表情をじっと見ている子、何度も同じ絵本を持ってくる子など、色々な姿が見られた。
それは奥深く、単なる絵本ではないのだと思うこともある。コミュニケーションのツールではあるかもしれないが、読みあう中でその積み重ねこそが、心が通じ合う大事な時間なんだと思うようになった
」(14年/2歳児)。
・「前日の降園前にクラス全体(20 人)で『きんぎょがにげた』(五味太郎・作/福音館書店)の絵本を読んだ。その際は子どもの声をたくさん拾うことができないため、
好きな遊びの時間で、数人と、子どもが選んだ絵本を楽しむ時間を設けてみた
。(この絵本を選んだ)Yちゃんは大人しい性格で自分の思いを我慢してしまうこともある。自分の思いをたくさん出すことが難しい子どもにとって、
絵本を通して自分の思いや気付きを受け止めてもらう時間は大切なのだろうと感じた
」(1年/3歳児)。
カエルに興味を持つ子が多かったため、『ぴょーん』(まつおかたつひで/ポプラ社)を教師が選んだ。
・「予想通り、3ページほど読み進めると絵本の『ぴよーん』に合わせて飛び跳ねる子どもが出てきた。…その中でA君はじっと表情を変えずに様子を見ていた。
A君にはあまりあてはまらなかったと思っていた。絵本が終わってから個別に声をかけると、『みんなとんどったな』と言っていた。教師の願いとは違う姿だったが、A君が興味をもったポイントは友達が『ぴよーん』いう声に合わせて一斉に飛び跳ねることだった
」(1年/3歳児)。
・「5歳男児A…集まりの前に絵本当番が絵本を選ぶのだが、この日は4歳女児Bが本書(『
巨人
ジャイアント
にきをつけろ!』(エリック・カールさく/もりひさしやく/偕成社)がいいと保育者にもって来た。この日の絵本当番でないB児に、当番でなければ選べないと伝えると『当番だれ?』と尋ねてきた。そこで一緒に当番表を確認したところA児であることが分かり、
B児がA児に本書をもって行き『きょうはこれでもいい?』と交渉する姿があった。それを受けてA児が選書した
」(1年/3〜5歳児)。
一対複数の子ども達という構造では、「一人ひとりの声を全部拾って読むことはが難しく、…教師主導で絵本を読んでしまうが」、…
・「“絵本の読みあい”といっても、色んな場面がある。一対一の場合、一対複数の場合、クラスみんなで読む場合、
子ども同士で読みあう場合、様々な場面がある。その時のシチュエーションによって読み方も変わってくるし、声の掛け方も変わってくる
ということに改めて気づくことができた」(10年/5歳児)。
・「絵本がすぐに手に届くところにある環境といっても、友達と読みあえる環境、一人でひっそりと読むことが出来る環境、どちらもあった方がよいことも実践を踏まえて教えていただいたので、よくわかりました。友達と共有する喜びや一緒に読んだことによって気づくこともあれば、自分の世界の中でゆっくり絵本を読むことで、興味関心を深めたり、また、友達と分かち合いたいと思ったりするかもしれません。…
『先に子どもの興味関心があり絵本があることもあれば、絵本が先にあり子どもの興味関心になることもある』、絵本を活かし絵本が先にあるというよりも先に園での集団生活があり、先にその子の生活があるということを大切に考えていきたいと思います。
子どもの心が動いた瞬間、やってみたいと思った瞬間、興味をもった瞬間を見逃さないこと、そして調べたいと思った時にすぐ手が届くところに絵本があることの大切さを改めて学べました」(10年/5歳児)。
これら前述のエピソードは、様々なことを示唆します。子ども同士でどのような絵本が好きかを通して他者を理解し、さらにその意味や解釈の違いを通して人間の複雑さや面白さを理解します。人は、自分の考えや感情を他者に伝えることを強く願い、その伝え合いを通して人間関係を楽しみます。
また、絵本を自由に選択して自由に読みあうことを保障すると、子ども一人ひとりの違い(個性)が分かるようになります。自分自身を表現することが苦手な子どもは、絵本の読みあいに託して、自分を表現することを学びます。保育者は、絵本が子どもに様々な力を与えるには、その基礎に集団生活が豊かで充実しているとの必要性を知ります。
絵本を集団で読みあうことは、読みあっている子ども達を観察することでもあり、外側から「読みあうこと」の意味を密かに観察し、考えている子どももいます。
保育者は様々な人数やスタイルで読みあう子ども達を観察することで、自らの役割の多様性・複雑性と保育技術の向上が試されることを知ります。
子ども達は、日常生活の人間関係の中で、相互に様々なコミュニケーションスタイル(表情・ジェスチャー・態度・言葉など)をつかってお互いを理解しようとします。
そこに、新たな絵本というメディアを介在させることで、想像(創造)された世界を共有し、その共有されたものを基盤に、言葉やジェスチャー、表情などに今までの数倍もの複雑な意味(情報)を含ませて、遊び、会話します。その面白さに気づき楽しむことで、集団で絵本を読むことの意味が、新しい位相を迎えるのではないでしょうか。
(20260209)
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