2021                              22/1/11
今年もコロナ禍の狭山となった。それでも、10月29日には2年ぶりの中央集会が開催された。各地では創意工夫をこらした闘いが展開されている。
 2021年の動き
4月27日 第46回三者協議
3月29日、検察官意見書が提出された。弁護団提出の筆跡についての新証拠について、全て再審理由にならないというものであった。
三者協議では、検察側は、スコップ関連の証拠開示を検討している、開示を求められた捜査資料があれば提出するとした。
また、弁護団提出の新証拠、補充書に対する反論意見書提出については、次回協議までにその見通しを明らかにするとした。
7月19日 第47回三者協議
5月18日付で、検察側は、「弁護人が開示を求める証拠であって、未開示のものは見当たらない」 とする回答意見書を提出した。
弁護団は、7月14日付で、この 「不見当」 回答に対する反論と、再度記録を精査することを求めた意見者を提出した。
また、検察は、6月30日付で、万年筆関係の新証拠、とりわけ下山第2鑑定に反論する意見書を提出した。
一方、弁護団は7月1日に、死体運搬に関する新証拠 (これで242点) を提出した。これは、2020年12月に検察が提出した意見書の誤りを明らかにする流王 (土地家屋調査士) 意見書であり、補充書とともに提出した。
既に、2018年12月の流王報告書では、死体運搬の経路とされる所には、幅が45センチほどしかない区間があり、その中にさらに狭い地点もあることが指摘されていた。自白通り死体を前に抱えて運ぶことはできないのだ。
こうした中で第47回三者協議が開かれた。弁護団は協議に先立ち、同日、スコップ関連の証拠の 「不見当」 という検察側の回答に対する補足意見書を提出。6月30日の検察官意見書について求釈明書を提出した。
協議では、スコップ関連の証拠開示について、弁護団から意見書の内容を説明、裁判所は再度検討して欲しいと述べた。
流王報告書 (18年12月)
流王報告書であるが、2015年3月に開示された当時の現場付近の航空写真ネガから死体運搬経路について調査・分析したものである。
死体を前に抱えて運んだとされるのは200mである。この経路には小麦畑と茶垣の間が45センチ程しかない所が40mもあった。さらに、その区間の中には45センチもない非常に狭い地点もあった。
従って、死体を前に抱えて進むためには小麦を踏んで進むしかない。だが、航空写真からはこうした状況は見て取れなかった。つまり、石川さんの自白は作り上げられたものであることが明らかになった。
検察側の20年12月の意見書は、土地家屋調査士は、「航空写真を基にして、土地上の通路の幅を算定することや、まして、その通路を (死体を抱えたまま) 通行することが著しく困難かどうかを考察することについて専門的知見を有するものではない」 から 「流王報告者は意見書として適格性に疑問がある」 というものであった。
7月1日の流王意見書は、土地家屋調査士は、航空写真等による土地上の通路の幅の算定を業務の一環として日常頻繁に行っており、流王報告書は専門的知見に基づいた報告書であると反論した。
もっとも、検察官意見書は、狭い箇所があることは否定できないと考えたようで、自白ではどのように運んだか具体的に述べられていないので、自白に矛盾や不自然さがあるとは言えないと主張している。
また、「進行方向に向かって身体を斜め右方に向け、被害者の足等が茶垣にあたらないようにして斜め左方に向かって歩けば」「横向きにカニ歩きをした場合は、抱えた死体の足が茶垣に当たらず・・・通行にこれといった支障もない」 など、自白にもないことを勝手に想像して主張している。
そもそもが、死体を隠そうとすれば雑木林のもっと奥とかになるはずのものを、わざわざ民家のある方へ死体を抱えていくという自白の不自然さ (つまりは、誘導され作り上げられた) から、こうしたありもしない死体運搬が問題になるのだ。
10月4日 新証拠提出
10月4日、弁護団は、筆跡に関する3月の検察官意見書に対する反論の補充書と新証拠4点 (これで、246点になる) を提出した。
提出された新証拠の一つは、笹倉香奈・甲南大学教授の意見書である。アメリカにおける筆跡鑑定をめぐる最近の議論が報告されている。
1980年代末に、筆跡検査がどこまで有効なのかを実証研究した論文をきっかけに、人が行う従来の形態比較の筆跡鑑定の科学性に疑問が指摘されるようになり、筆跡検査が証拠として採用されない裁判例がでてきた。
狭山事件の筆跡鑑定でも、警察組織の鑑定人が行った恣意的な鑑定に基づく証拠認定が行われてきた。これまでもさんざん検討してきたが、素人が見たって分るほどの異質な筆跡を同一人物が書いたとされてきたのだ。笹倉意見書はこの問題を明らかにするものである。
二つ目は、福江潔也・東海大学情報技術センター客員教授による意見書 (福江第3意見書) である。
検察官意見書は、福江鑑定が書字環境によって筆跡に違いがでることを考慮してないと、全く的外れの批判を行っていた。これに対し、福江意見書と弁護団の反論補充書で、検察意見書の誤りを明らかにした。
三つ目は、森実・大阪教育大学名誉教授による補足鑑定書である。
森教授は、事件前から1970年までの石川さんが書いたもの全てを分析し、石川さんの当時の識字能力を小学校1年生終了以前の状態と見られ、脅迫状を書くことはできなかったと考えられるとしている。
補充書でも、筆跡に関する検察官意見書の誤りを明らかにし、再審を開始するよう求めた。
10月7日 第48回三者協議
弁護団が、6月30日に検察側が出した万年筆関連の意見書についての求釈明書に対して、検察は10月4日に回答を出してきた。これに対し、弁護団は、検察官意見書への反論・反証を提出することにしている。
10月6日には、検察は福江意見書についての求釈明書を提出した。弁護団は、三者協議の場で、検察側の求釈明が的外れで不当なものであると述べ、反論の意見書を提出するとした。
スコップ関連では、検察は、弁護団が求める証拠は見当たらないと口頭で回答。弁護団は、納得できないとして意見書を出すと述べた。
布川事件で桜井昌司さんが求めた国家賠償請求で8月27日、東京高裁が、警察・検察の取り調べの違法性を認め、賠償を命じる判決を出した。画期的ではあるが、無実の罪で獄に繋がれた日々が返ってくるわけではない。
狭山でもそうだ。本当に、検察側の妨害ともいえるケチつけ意見書に腹が立つ。遅々として進まない状況に怒りを覚える。
再審請求における証拠開示の法制化、事実調べ、再審開始決定への検察抗告の禁止を盛り込んだ再審法の改正が必要である。