2020                                  21/2/8
 袴田事件
2020年はコロナで開けてコロナで暮れた。狭山闘争も困難な状況の中で、石川さんを先頭に工夫しながら取り組まれてきたと思う。
そんな中、12月22日、袴田事件で最高裁第3小法廷が、東京高裁の再審棄却決定を取り消し、審理を東京高裁に差し戻した。しかも、5人の判事のうち2人は再審開始を主張したという。
最高裁決定は、「犯行着衣」とされた衣類の血痕の色の問題に関わる弁護団提出の新証拠を十分検討せず再審棄却したことが審理不尽として、高裁決定を取り消さなければ著しく正義に反するとした。
当たり前の決定とはいえ、久々に明るいニュースだ。しかし、おしむらくはすぐさま再審開始とならなかったことだ。2人が3人であったなら・・・。
高裁での審理が開始されることになるが、それだけ再審開始の時期が遅れ、再審無罪の獲得も遅れる。袴田さん姉弟も高齢になってきている。時間は無限にあるわけではない。
 2020年の動き
 3月19日 第42回三者協議
弁護団は3月3日付で、手拭いについて、再審請求補充書と新証拠1点(事件当時の捜査報告書)を提出した。これで新証拠は225点。
この手拭いについては、事件直後の捜査で石川さん宅の手拭いが警察に提出されている。しかし、検察は提出されたものは他家から都合をつけたもので、犯行に使われた手拭いが石川さん宅のものと主張。寺尾判決では有罪の根拠とされてしまった。
このあたりのことはこのサイトでも繰り返し検討してきた。弁護団は再度、手拭いは石川さん有罪の根拠となりえないことを明らかにした。
一方、検察側は、3月16日付で、弁護団提出の法医学鑑定に対する意見書と和歌山県立医科大学・近藤稔和教授の意見書を提出してきた。
これは、弁護団提出の殺害方法等についての関根鑑定、長尾鑑定、血液型に関する鉄意見書に対する反証である。弁護団は再反論を提出することにしている。
こうして、3月19日、三者協議が開かれた。
検察は、下山第2鑑定に対する反証のためにクロム元素を含むジェットブルーインクを探していたが入手できず、専門的な実験などは行わず、検察官の反論意見書を提出するとした。
スコップに関する弁護団提出の平岡第2鑑定についての反論を次々回の三者協議をめどに提出、他の論点についても反論・反証が必要なら随時提出するとした。
弁護団は、3次元スキャナを用いた足跡鑑定、コンピュータによるデータ分析の手法を用いた取調べテープ分析鑑定などを5~6月に提出し、その後に事実調べ(鑑定人尋問)を請求するとした。
 6月18日 第43回三者協議
5月29日、検察側は下山鑑定など万年筆に関する新証拠に対する反論の意見書を提出した。これは、何ら科学的に反論するものではなく、推論や可能性を並べてインクの違いをごまかそうとしたものにすぎない。
なんと、石川さん宅から発見された万年筆のインクにクロム元素が含まれていなかったのは、万年筆を水洗いしたうえで別のインクを入れたからだというのだ。何の根拠もない妄言と言わねばならない。
6月15日、弁護団は腕時計について補充書、新証拠を提出。新証拠は226点になった。これは、腕時計の発見過程での疑惑を明らかにするものである。当時の7月1日付の捜査報告書には捜索範囲が図面上に記載され、腕時計発見場所が捜索範囲内であったことが明らかになった。
6月18日、第43回三者協議が行われた。検察は、平岡第2鑑定に対する反証を次回までに、死体運搬自白の虚偽を示す流王報告書について次々回をめどに反論を提出するとした。
弁護団は、3次元スキャナによる足跡鑑定、コンピュータによるデータ分析の手法を用いた取調べテープ分析鑑定、福江鑑定に対する検察側意見書への反論などを提出する予定であると裁判所に伝えた。
6月25日、東京高裁第4刑事部大野勝則裁判長に交代。
 9月25日 第44回三者協議
7月31日、検察側が平岡鑑定等に対する反論の意見書提出。
9月23日、弁護団は福江第2意見書と解説の新証拠2点(これで228点)と補充書を提出した。
新証拠は、福江鑑定人による 「筆跡鑑定の従来法と新鑑定法について(所見)」(堀江第2意見書)と 「コンピュータによる筆跡鑑定法について(解説)」の書面2通である。
補充書は、福江鑑定、福江意見書に対する検察側の反論に対して再反論を述べたものである。
2018年1月、弁護団は福江鑑定を提出した。検察側は同年9月、科学警察研究所技官の意見書を反論として提出。これに対し弁護側は、12月に堀江意見書を提出、反論。検察側は2019年10月、同じ技官の意見書を提出してきた。
この検察側意見書は、福江鑑定の鑑定結果を具体的に批判するのではなく、コンピュータによる筆跡鑑定法について問題があるとするもので、何がどう問題なのかについては何も述べられないというしろものであった。
9月25日の三者協議は、裁判長が交代して初めての三者協議だった。弁護団は、福江第2意見書、補充書などについて説明した。さらに、3次元スキャナを用いた足跡鑑定などの新証拠を提出する予定であることを裁判所に伝えた。
また、万年筆に関する下山第2鑑定、原・厳島鑑定、血液型に関する鉄意見書、スコップに関する平岡鑑定について反論する検察側意見書の誤りを明らかにする証拠を次回協議までに提出する予定であることを伝えた。
検察側は、死体運搬の自白の虚偽を示す新証拠に対する反論を、次回協議をめどに提出する予定であること、その他の論点についても反論反証を準備していると述べた。
 12月21日 第45回三者協議
12月8日、弁護団は、東京大学・鈴木宏正教授、東京大学・山口泰教授、東京大学・大竹豊助教授、東京都立大学・長井超慧助教授による足跡鑑定を提出した。
これは、東京高裁で保管されている現場足跡と石川さん宅から押収された地下足袋の対照足跡を、3次元スキャナを用いて立体形状を計測し、そのデータに基づいて、有罪の根拠とされた関根・岸田鑑定を検証したもので、関根・岸田の誤りを明らかにした。(このサイトの<足跡>参照)
12月15日、検察側が殺害方法、死体運搬、逆さづり等について反証と意見書を提出。
12月16日、弁護団は平岡第3意見書を提出。石川さん有罪の根拠とされた星野鑑定は、死体発見現場「付近」に穴を掘りスコップ付着の土と比較対照しているという誤りを犯していた。
第3意見書は、さらに調査分析をすすめ、死体発見現場付近は非常に複雑な堆積の様相をしており、現場の近距離であったとしても土の堆積状況が全く異なる可能性が高く、星野鑑定が誤っていることを明らかにした。
弁護団は、なぜ死体発見現場の土を採取しなかったのかなど鑑定過程を明らかにする必要があるとして、星野鑑定で土を採取した際の捜査報告書類、採取記録、採取現場を指示した書類などの証拠開示を求める証拠開示勧告申立書も提出した。
弁護団は、12月16日には血液型について日本大学医学部法医学分野・鉄堅医学博士の第2意見書と再審請求補充書も提出した。
2018年12月提出の鉄意見書に対し、検察は2020年3月に近藤意見書を提出し、五十嵐鑑定は正しいとしてきた。鉄第2意見書は、五十嵐鑑定の問題を認めながらもその判定は間違っていないとする近藤意見書の誤りを明らかにした。
12月18日、弁護団は万年筆についての検察側意見書に対する反論の補充書、原・厳島意見書などを新証拠として提出した。これで新証拠は241点になった。
12月21日、第45回三者協議が開かれた。弁護団から、足跡、万年筆、スコップ、血液型に関して提出した新証拠と補充書の説明がなされた。
検察は、これらの新証拠について、意見書の提出も含めて検討するとした。また、スコップに関する証拠開示勧告申立書についても検討するとした。
このところの検察側の反論や意見書の類は、為にする反論としか言いようのないものだ。いや、これは今に始まったことではないが・・・。ただひたすら、ズルズルと三者協議をひきのばしているとしか思えない。
これまでもそうだったが、検察及び裁判所は、狭山に関する限り、都合の悪いことにはふたをし、推論や自分が考え付いた可能性をもって石川さんを有罪としてきた。またぞろ、万年筆を洗ったかもしれないなど、開いた口が塞がらない。
本当に、袴田事件でもそうだが、再審法を改正しこんなことが許されないようにしなければならない。コロナ禍で始まる2021年だが、弁護団は今年は証人尋問(鑑定人尋問)を実現していくという。勝負の年になる。