家宅捜索                             06/7/17
これは、2006年狭山現調の報告の中でも書いたことだが、ボクは、石川さんの無実を証明するのには次の二つの事実で事足りると思ってきた。
一つは、彼我ともに犯人のものと認める唯一ともいえる物証・・・脅迫状の筆跡が石川さんのものではないと明らかにすること。
実のところ、これは、既に数々の鑑定書・意見書・報告書によって余すところなく明らかになっている。分からないフリをしているのは <狭山> に関わってきた裁判官だけだ。
しかし、言わせてもらえれば、これらの鑑定書がなくたって、素人のボクが見たって脅迫状と上申書は全く別人が書いたって分かる。
誰が見たってそうだろう。これを同筆というには、よほど石川さんを犯人に仕立て上げたいという意志が働かないかぎり無理。誰が何と言おうとそう思う。
もう一つは、石川さんの 「自白」 によって発見されたとされる万年筆の発見過程の不自然さ。もっとはっきりいえば証拠の捏造。重要な証拠が捏造されたものであることがはっきりすれば、石川さんの無実も明らかになる。
3回目の家宅捜索で、普通の鴨居の上から発見されるなんてありえないのだ。しかも、石川さんの兄に素手で取らせている。これもありえない。
ありえないことが起こったということから導き出される結論はただ一つ、警察による証拠のでっちあげ・ニセモノ万年筆の登場、これ以外にはない。これが分からないフリをし続けるのは、これまた裁判官だけだということが、なんとも口惜しい。
第3次再審請求において、この分からないフリを許さない元警察官の 「捜索に関わる報告書」 が提出された。
 元警察官による捜索に関わる報告書 (2006年5月1日付)
今回提出の新証拠の中では 「目玉」 といってもいい報告書だと思う。
報告書作成者は、1968年4月~1995年3月まで警察官。部門別経験年数は、捜査 (署本部)15年6カ月、教官 (県警察学校) 4年、その他 (外勤など) 6年6カ月。この間、本部長賞8回などの表彰歴。捜索差押の実務経験は各種罪名にわたって50回程度という。
つまり、かなり 「優秀」 な警察官であったらしい。その経験と知識から作成されたものである。
以下、「3次請求書」 から要旨を紹介する・・・・・
(1) 見落とすべきではない重要な捜索対象個所
犯罪事実の証明につながる証拠物を巧妙に隠したいというのが犯人心理であるから、捜索差押に従事する捜査官は、隠匿されやすい場所に注意を払い、その個所を見落としてはならないとされている。
隠匿されやすい場所の具体例としては、「屋根のはり、天井裏、かもい、煙突、床下など家屋に関する箇所」 「鏡、ミシン、タンス、仏壇、額縁」 などの家具、調度品などがある。
また、隠匿された物を発見するには、異常、不自然な点の発見に努めなければならないとされている。そのような個所として、なげしのほこりがないところ、空洞が認められる場所などが挙げられており、これらの個所の捜索を怠らないことが肝要とされている。
(2) 捜索方法に関する重要な留意点
① 捜索の実施に際しては、捜索責任者が捜索従事員に対して、捜索従事員が差押すべき物件の発見を見落とさないように明確な目的意識を持って捜索にあたるようにするために、具体的な指示を与える。
② 家屋を捜索する場合は、屋外から屋内の順序で実施し、屋内については、部屋ごとに任務分担を決め、部屋内は上から下へあるいは下から上へと秩序立てて実施することになっている。
③ 天井、鴨居やはりの上などの上部・高所は、脚立などを用いて捜索するのが通常の方法であり、また、手探りをする、背伸びをしたり後ろに下がって見ることも普通のことである。暗い個所・場所では懐中電灯を使用する。
④ 被疑者などにより証拠物が捨てられることがあるから、それらを見逃さないようにするために、便所の便槽内、家屋周辺、ごみ捨て場などの捜索の徹底を期すこと。
⑤ 立会人が家族など関係者の場合は、特に、捜索差押時、証拠物を隠滅したり、破壊・毀損などしないように細心の注意き払うことが必要である。
⑥ 捜索差押の対象物件そのものでなくても、被疑事実の存在の証明につながる関係資料の発見に努める。事件との関連性が認められる物件を発見すれば、任意提出を受けるとか、あるいは存在状況を保全する措置として写真撮影をするなどの手段を取るのが常である。
(3) 重要事件に関する捜索の留意点
重要事件については、人的体制を強化し、上級幹部の指揮の下に組織的・計画的に捜索の実行を期し、各捜査員に綿密・周到な捜索を行うよう指示・説明するなどして、捜索の徹底を期し、万が一にも見落としがないようにしなければならないとされている。
(4) 本件捜索における留音点
本件事件は極めて重大かつ重要な事件であり、また捜索場所が被疑者宅であるうえ、本件捜索の目的物が犯行の核心部分に関連し、またノートや筆記具類など比較的小さな物であることなどから、
捜索の原則・注意則に則った綿密かつ周到な捜索を徹底し、隠匿されやすい場所や異常、不自然な点の発見に最大限努力することは当然であり、
また、高所・上部については梯子、脚立、踏み台などを用い、また、手探りをする、背伸びをしたり後ろに下がって見ることも通常のことである。暗い場所には懐中竜灯を使用し、万が一にも見落としがないようにするのが、捜索の常道である。
(5) 昭和38年5月23日 (第1回) 実施の捜索について
① 脚立の存在とその使用法・・・勝手場にある出入り口の鴨居付近の下部ガラス戸内側に置かれた脚立が撮影されているが、鴨居などの高所はこのような脚立等を使用して行うのが捜索の常識であるから、上記脚立は捜査員が室内上部の捜索などに使用したものと考えられる。
② 天井裏の捜索と鴨居の捜索の関連・・・捜索差押調書 「二、捜索差押の状況」 の項の末尾には、「便所、天井裏など捜索したが押収物は発見されない」 と記載されている。
この記載は、漫然と天井裏など上部の状況を観察したというだけでなく、脚立などを使って、天井裏を捜索したという音味であり、捜索の常識として、同様に勝手場の上部に位置する鴨居やはりなども捜索場所に含まれていたと考えられる。
③ ねずみ穴の捜索・・・勝手場の鴨居上にはねずみ穴があり、そこには布切れが詰め込まれており、このような個所は証拠物を隠匿しやすい不自然、異常な場所として、当然捜索の対象となる。
④ 懐中電灯の使用・・・同添付の 「押収品を整理した玄関寄り付き四畳半の状況を示す」 と題する写真には、部屋中央の卓上に置かれた懐中電灯が撮影されている。この懐中電灯は捜査員の携行品と考えられ、暗い場所の捜索に利用したものと認められる。
⑤ 便所の捜索と徹底的な捜索の関連・・・②の 「便所を捜索した」 との記載は、便所の形状などを観察したというだけでなく、便槽内をも捜索したという意味であり、徹底的な捜索が行われたことを物語っている。
⑥ 捜索対象としての万年筆・・・第1回捜索では 「脅迫状を書いた筆記用具類」 が捜索対象になっていること、また、捜索差押の対象物件そのものでなくても被疑事実の存在の証明につながる関係資料の発見に努めるのが捜索における通常の要領であることからも、本件被害者の万年筆も当然捜索対象物であったと考えられる。
(6) 同年6月18日 (第2回) 実施の捜索について
① 徹底的な捜索態勢・・・昭和38年6月18日捜索差押調書の添付写真第1号 「被疑者石川一雄方居宅周辺の状況を東南方より撮影」 と題する写真では、外周に制服警察官数名の姿が写っている。
制服警察官が捜索に先立ち外周に配置されている状況からは、外部の厳重な立ち入り禁止措置がとられていること、つまり、本件捜索差押の準備段階及び実施段階において、重要事件として人的体制が強化されていること、また、組織的・計画的に捜索の徹底が期されていたことが窺える。
② 徹底的な捜索の必要性・・・第2回捜索は、被疑事実がより重罪の 「強盗強姦殺人」 などへ変更され、また贓品を主たる目的物とした捜索であることからいって、第1回捜索時よりもより徹底した捜索をしたと認められる。
③ 高所の捜索・・・捜索差押調書・・・これらの記載・写真から、上記神棚およびその付近の高所も捜索した事実が認められる。こうした玄関寄付き四畳半の間において高所・上部の捜索が行われていることからいって、高所・上部の捜索は、当該の部屋だけに限らず、他の各部屋についても同様に実施されたと考えられる。
④ 鴨居付近の写真撮影の意味・・・同調書添付第14号 「風呂場および勝手場出入口の状況を示す」 と題する写真には、勝手場出入口鴨居の真下に立っている家人が撮影されている。これは、鴨居を含むこの場所付近が捜索対象になっていたことを示している。 
⑤ 勝手場における徹底捜査・・・同調書添付写真第13号 「勝手場の状況を示す」 と題する写真には、捜査員が勝手場の下方を捜索している様子が認められる。
また、同写真には勝手場炊事台上のポットの手前に置かれている懐中電灯が撮影されている、これは暗所を捜索する際捜査員が使用したものと考えられる。これらからも、第2回捜索時も,捜索における一般的方法及び留意点に外れることなく、勝手場についてもくまなく捜索している状況が窺える。
⑥ ねずみ穴の捜索・・・勝手場の鴨居上にはねずみ穴があり、そこには布切れが詰め込まれており、第2回捜索時においても、このような個所は証拠物を隠匿しやすい不自然、異常な場所として、当然捜索の対象となる。
⑦ 高所捜索の方法・・・同調書添付第44号 「居宅西側物置裏側の状況を示す」 と題する写真には梯子が撮影されており、屋根など高所の捜索に用具が使用されている。
(7) 捜索による勝手場鴨居上の万年筆発見の可能性
・・・鴨居の上は、捜査の常識上、証拠物が隠匿されやすい場所と認識され、必ず捜索しなければならない場所の一つとされ、捜査官において一般的知識として隠匿場所として心得えている個所である。
しかも、勝手場の鴨居上には、証拠物を隠匿しやすい不自然、異常な場所と評価され捜索対象として重視される布切れが詰め込まれたねずみ穴が存在していたのであるから、この点からも鴨居が捜索の対象となることは当然である。
こうした鴨居については、脚立などの台のような物などを使ったり、また、手探りしたり、あるいは後ろに下がったり背伸びをしてくまなく見えるようにして捜索するのが、捜査の常道である。
このような捜査の常道に沿った捜索が本件の場合においてもなされたことは、第1回捜索時には勝手場に脚立が置かれていたこと、また天井裏など部屋の高所を捜索したこと、第2回捜索時には玄関寄付き4畳半の間で台のような物を使って部屋の上部に置かれた神棚付近を捜索していることなどの各捜索差押調書の記載から、十分裏付けられている。
以上のとおり,徹底的な捜索をするための人的態勢がとられていたことや徹底的な捜索を行うのに十分な時間を掛けていること、
捜査の常識上、鴨居の上や布切れの詰め込まれたねずみ穴は証拠物が隠匿されやすい場所との認識が確立されていること、
鴨居などの高所は必ず脚立などの上に乗ったり、また、手探りしたり、あるいは後ろに下がったり背伸びをしてくまなく見えるようにして捜索しなければならないというのが捜索時の常識であること、
そして、そのための脚立などが捜索場所にあったこと及び高所捜査もしていることなどが記録から裏付けられていることから、当然、捜査官は、万年筆が実在すれば発見できる方法によって勝手場の鴨居を捜索したものと考えられる。
したがづて、約175cmの高さの鴨居上に向かって右端から約15cmのところにあった万年筆を捜索せず、そのためそこに実在した万年筆の発見を見逃したなどという可能性は、限りなくゼロに近いといえる。
(8) 差押に関する初歩的な注意則
証拠物の差押に際しては、第1に発見されたときの状況、その物が存在していた状態を明確にしておくことが、確かにその場所で発見されたことを明らかにし、かつまた発見時のありのままの状態を明らかにして証明力を確保しておくために必要である。
具体的には、差押前に差押物の存在状況をそのまま写真撮影したり、立会人に差押物を示指させて写真撮影し、また、立会人に対してその物が発見された場所、発見された状態を具体的に示すなどの配意をしなければならないとされている。
第2に、証拠物には指紋その他証拠となるべきものが付着していることがあり、現状のまま保存されたものが証拠物としての価値が高いので、できる限り現状のまま保存する方法を講じて滅失、毀損、変質、変形または散逸しないよう注意すること必要である。
したがって、差押時には指紋その他付着物を破漬しないように不必要にその物に手を触れないことが必要である。具体的には、手袋を使用し、細心の注意を払いながらビニール袋等に収納する。以上は、捜査官としての初歩的な心得である。
(9) 同年6月26日 (第3回) 実施の捜索差押の問題点
第3回捜索時における次の捜索差押の方法は、捜査官としての初歩的な実務知識すら無視した常軌を逸したものである。
① 証拠隠滅に対する配慮の欠如など
捜査員が自ら探しもせずに立会人である請求人の兄である石川六造に万年筆を取りだすよう指示し、同人に万年筆を鴨居の上から取り出させている。
この様な捜奔差押は、家人である立会人などによる遺棄・毀損など証拠隠滅の恐れに対する配慮を全くしていないばかりでなく、むしろ逆に、そのような危険を招き寄せる対応であって、捜査実務上の初歩的な配慮すら欠いた捜査方法である。
② 異常な写真撮影の方法
差押前に差押物の存在状況をそのまま写真撮影し、また立会人に差押物を示指させて写真撮影するというのが一般的な方法である。
現に、同年5月23日付捜索差押調書に添付されている 「玄関下駄箱より発見された地下足袋の状況」 と題する写真、「奥六畳間の勝手場寄り、勝手風呂場に至る板間の状況を示す 地下足袋」 と題する写真及び 「風呂場にあった地下足袋の状況を示す」 と題する写真は、差押の前に差押物である地下足袋の在置状況を撮影している。
ところが、このような捜索差押時の一般的な撮影方法が、本件犯行の立証上極めて重要な意味を有する万年筆に限ってとられておらず、立会人が取り出したところだけを写真撮影している。この点も、通常の捜索差押ではあり得ないことである。
③ 証拠破壊を招く差押方法
差押時には、指紋などが滅失しないよう細心の注意を払い、不必要にその物に手を触れないことが捜査の常道であるのにもかかわらず、捜査官自らが立会人である家人に指示して、家人に指紋などの滅失の原因となる万年箪に触れさせる行為をさせている点も、常軌を逸した差押方法である。
長くなったが 「3次請求書」 から要旨を紹介した。
つまるところ、これまでさんざん言われてきた疑惑の諸点について、警察側から認めた内容になっている勇気ある報告書だ。
「3次請求書」 のこの部分は次の言葉でしめくくられている。
「本件捜索差押に関する考察は、今後はすべからく、新証拠である元警察官報告書の分析結果を前提になされなければならない。これを無視した立論は、実際の捜査実務とはかけ離れた砂上の楼閣の空論に堕することは必至である。」
以上、第3次再審請求に際して提出した新証拠を紹介した。なお、後日の加筆が必要であると思っている。