補充書                              05/1/20
2004年10月29日、狭山弁護団は最高裁に対して事実調べを求める43万人あまりの署名と共に補充書・新証拠を提出した。
5通の鑑定書・報告書・意見書、共犯者として追及を受けたATさんの供述調書、弁護団作成上申書、石川一雄さんの上申書、事実取調請求書、証拠開示命令等申立書、特別抗告申立補充書である。
遅ればせながら、「解放新聞・2193号」 (11月8日) と、「狭山差別裁判・372号」 (12月1日) を参考に鑑定書などを紹介する。
 齋藤正勝・指紋鑑定士作成の 「鑑定書」
斎藤正勝さんは、元福島県警鑑識課員で定年退職までの34年間、警察で指紋検査を行っていた。その経験に基づいて、脅迫状の 「少時様」 の筆記用具や、脅迫状・封筒の指紋検査の状況について鑑定。
事件発生当時の写真や警察の指紋検出検査の報告書などを鑑定資料とし、さらに自身で裁判所において脅迫状・封筒の現物を観察、写真撮影を行って鑑定した。
指紋検出前 (1963年5月2日) 指紋検出後
写真右 ア・イ は 「少時」、ウ は 「様」。→ は しみあと。
齋藤正勝さんは、写真右の状態からして、「様」 はボールペン、「少時」 は万年筆で書かれていると判断した。「様」 は溶解しており、アセトンに溶解するのはボールペンインクだからである。
また、齋藤正勝さんは、「少時」 の部分に抹消文字があり、インク消しを使った痕跡があることを確認した。
そして、今やほとんど見えなくなってきていることについて、このインク消しの薬液が封筒に浸透していたからだと指摘した。同じく万年筆で書かれた 「N江さく」 との状態の違いは、インク消しの影響であった。
さらに、指紋検出後の 「少時」 部分と 「様」 部分の状態の違いは、ニンヒドリン・アセトン溶液の 「かかり具合」 によっては起こりえないと断定した。インクの違いである。
また、脅迫状と封筒から7個の指紋が検出されたのだから、<脅迫状が発見された直後は脅迫状と封筒の紙は乾いていた> と判断している。
ということは、「N江さく」 ににじみが見られることから、真犯人は 「N江さく」 を知っており、書いた後一度濡れ、その後乾いたものを使ったというなのである。石川さんではありえない。
そしてまた、<脅迫状、封筒から石川さんの指紋が検出されなかったのは、素手で脅迫状、封筒にふれていないからである> と判断。この意味が分からないのは、裁判所だけ?
齋藤正勝さん、齋藤保さん、長年、警察での指紋検出検査の経験をもつ二人の指紋鑑定士。鑑定結果は全く同じ結論になった。
 齋藤保・指紋鑑定士作成の 「実験封筒の指紋検出・検出指紋還元に
 関する実験報告書」
① ボールペンと万年筆で 「少時様」 「N江さく」 と書いた現在市販の白小封筒5枚、② 1964年から1965年ころに使用済みのボールペンインクで記載された封筒4枚、③ 同年代の使用済み万年筆で記載された封筒3枚。
①②③ を事件当時と同じニンヒドリン・アセトン溶液で指紋検出した後、検出指紋を過酸化水素水で還元実験をおこない、その封筒表裏にたいする各インクの溶解、用紙への浸透反応の程度を明らかにする。
実験結果として、① ではボールペンインクは溶解して文字線から流出、裏面への浸透も見られる。万年筆インクはわずかに色落ちが見られる程度で文字形態はしっかりしている。裏側には薄く字画線がみてとれること、②③ でもほぼ同様であることが明らかになった。
 小畠邦規・理学博士作成 「意見書―『少時様』 部分記載インクに
 ついての科学的所見」 (小畠第2意見書)、添付の写真撮影報告書
以下、「解放新聞」 から。
封筒に油性ボールペンインクで書いた文字は指紋検出時のアセトンの影響を受け、インクの溶解と文字周囲・裏面への浸透が顕著。
しかし文字のかたちは残っており、完全消失はしなかった。それは、紙のなかに流出したインクが、紙の繊維への付着・脱着をくり返しながらゆっくりと拡散するから。
万年筆インクで書かれた文字は、検出指紋還元操作後に、脱色し、緑みを帯びた色に変色したが、わずかに溶解した程度で、文字形態はしっかりと判読できた。封筒裏側にも薄くはあるが、はっきりと文字が読み取れるかたちで浸透した。
「少」 「時」 は、「様」 で観察されたような青色の痕跡は見られず、わずかであるが赤紫色に着色した筆圧痕のみが観察された。この特徴は、ブルーブラックインクで書かれた 「N」 と類似している。
指紋検出前の 「少」 「時」 のインクの濃さが一定であることから、万年筆で書かれたもの。また、この2文字上、周辺にはわずかに赤紫色の多数の筆圧痕が認められ、以前に万年筆もしくは付けペンで文字が書かれ、インク消しなどの薬品によって消去されたものと推定される。
筆圧痕の周辺には、過剰のインク消しが残存しており、指紋検出もしくは検出指紋還元処理操作のさいに溶出して、「少」「時」 のインクを退色消去させたと考えられる。
 橋本要撮影の写真撮影報告書
写真家・橋本要さん撮影の8月9日付け写真撮影報告書。
封筒の表面、裏面全体の撮影、「少時様」 と各文字の部分拡大、「N」 「江さ」 拡大撮影を行った。
ライトを封筒の真横からあてて撮影。その結果、紙の毛羽立ちなどの状態が鮮明に浮かび上がった。
「少時」 部分の周辺は紙面が毛羽立ったり、ゴワゴワした状態が観察でき、抹消文字があり、インク消しなどの薬液が塗布された痕跡と考えられる。
これに対し、「様」 周辺には毛羽立ちは見られない。「N江さく」 部分にも見られない。
 奥田豊・奥田文書関係研究所作成による 「鑑定書」
奥田さんは、長年、大阪府警科学捜査研究所などで文書鑑定に携わり、退職後、文書鑑定研究所を主宰している。上の写真左などについて鑑定。
「少時」 の文字画線は細いが、「様」 は太いという差異がある。
「少時」 にはそれぞれ、筆圧が弱く文字画線が細く書かれている部分があり、文字画線の太さに変化があり、筆記用具のインクが薄くなっている部分がある。
「様」 は、文字画線が太いままの均一傾向にあり、筆記用具のインクの濃さも一定である。したがって、「少時」 と 「様」 の筆記用具は異なるものであると判定した。
2004年12月で石川さんが仮出獄してまる10年が経過した。第2次再審・特別抗告審も2005年1月29日でまる3年。10月29日の補充書提出により、大詰めを迎えていると思われる。
弁護団は、最高裁が棄却決定を取り消し、事実調べをおこなうという判断をするまで、筆記能力についての新証拠や補充書をさらに提出するなど最高裁にせまりつづけることにしているという。
今年、2005年こそ再審開始を実現できるようにがんばらねばと思う。
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