加同協ニュース №33     04/6/8
5月14日 2004年度総会・報告
5月14日、加茂名中学校体育館において、約120人の参加で加同協2004年度総会が開かれました。今年の総会は、加同協の名称変更のための会則の改正が主要な議題になりました。
その結果、改正案は承認され、「加茂名地区人権・同和教育連絡協議会」 (加同協) として新たなスタートをきることになりました。詳細は当日の 「資料」 をごらんください。
その後、今年度の新役員を選出し、総会行事を終えることができました。
なお、当日は講演を予定していたため、十分な議論の時間は確保できませんでした。それで、当日の資料についてご意見がある方は、事務局までおよせください。今後とも、加同協の活動へのより一層のご協力をお願いします。
講演 「児童虐待と子どもの人権」
        多田 祐先生 (徳島県保健福祉部こども未来課)
講演要旨
3月までは児童相談所にいた。そこでは、ソーシャルワーカーとして学校の先生方と関わって子どもの福祉のことで仕事をしていた。特に、この2年程は、主に非行の問題を担当していた。
昨年度からは加茂名地区は、M児童福祉司が担当しているが、私と比べて彼の方が子どもへのアプローチが上手であった。それは、子ども達のことを幼少期からよく知っていて、保護者ともすでに信頼関係がある程度できている。ソーシャルワークをしていく上で、子どもや保護者と信頼関係を築けないと、子どもの処遇はなかなかうまくいかない。
1.こどもの権利条約等の沿革 (資料参照)
今年は、子どもの権利条約批准10周年になるが、それを祝おうという雰囲気にはなっていない。平成12年に川崎市が子どもの権利に関する条例を制定して以降、子どもの権利条約を実定化した制度の創設は進んでいない。
今年の3月に高知県では都道府県で初めてこども条例を議会に提案したが継続審議になっている。こども条例に反対する理由として、「子どもには権利を増長させるより、社会規範を教えることが大事。権利で大人と対等に並ぶのではなく、子どもは習い諭される時代ではないか」 という意見がある。
この4月から施行された松山市子ども育成条例の制定経緯をみると健全育成という考え方が強くでている。東京都では子どもの権利擁護委員会は廃止の方向と聞いている。
鳥取県では平成16年に子どもの権利条約に関する行動計画というものを都道府県レベルで初めて策定しているが、子どもの権利と健全育成の問題にとらわれず、実質的に子どもの権利条約をシステムの上で具体化していく試みと考えている。
子どもの権利条約に 「子どもの最善の利益」 と言う言葉がたくさん出てきている。児童の処遇に当たっては、「子どもの最善の利益」 が考慮されなければならないということが一番大切なこととされている。
また、第3条の2項には、「子どもの福祉 (ウエルビーイング) の確保」 が書かれているが、このウエルビーイングは、人権の尊重、自己実現という意味である。このことは、子どもの自立に深く関係している。もっといえば子ども達のエンパワーメント (力をつける) ということが重要になっている。
第12条には「意見を表明する権利」が書かれている。例えば、子どもを施設に入所させる場合は、以前は児童相談所は親の承諾さえとればよかったが、今は、子どもの意見を聴き、もし子どもや親の意向が児童相談所の処遇方針と違っている場合は、弁護士や医師等が委員になっている第三者機関に意見を聴かなければならないことになっている。
また、川崎市では、子どもが意見を表明する機会を保障するということを条例で謳っていて、具体的に子ども夢パークという公園を作る基本設計に子どもの意見を入れている。
権利条約が批准されて、子どもの権利擁護ということが重視されている。大阪府や徳島県では 「子どもの権利ノート」 というものを作り、施設で生活している子ども達に配付している。
施設の子ども達は、事情があって家庭で生活できず、施設のなかで集団で生活をしている。そこでいじめが起きた時に逃げ場がない。このノートは子ども達の持つ権利を入所時に説明することで、いじめや虐待を防止する役割を持っているものである。
子どもの権利条約は、権利行使の主体としての子どもという考え方を提示しているが、それを受ける形で統一された国内の法令がほとんど整備されていない。国も個々の国内法に子どもの権利条約の内容を盛り込むようにするという考え方を取っている。
要は目に見える形でシステムをどうやって作っていくかということだ。徳島県の方でもいろいろと考えていかなければならないと思っている。
子どもの権利に関する条約を批准して、子どもにどのようなメリットがあったのか考えてみたい。一番大きなメリットは虐待の問題で、子どもの権利条約第19条に国が虐待を受けている子どもの保護をするためにとらなければならない措置が書かれているが、厚生労働省はこれを根拠に虐待問題について取り組みを始めた。
平成2年から厚生労働省は子どもの虐待の統計を取り始めたが、これも子どもの権利条約を念頭に置いてのことだったと思われる。それまでは、一部の専門家の人が児童の虐待に関心を持っていたという状況だった。
虐待件数が急増しているが、今になってやっと潜在化していた子どもの虐待が表に出てくるようになったのは、子どもの権利条約が契機となって、子どもの権利擁護に国民が関心を持ち出したとも言えるのではないか。
2.子どもの人権侵害としての児童虐待
この4月7日に、児童虐待の防止等に関する法律の一部が改正され、第1条 (目的) のなかで 「児童虐待が児童の人権を著しく侵害し」 という文言が盛り込まれ、虐待は子どもの人権侵害であるということが初めて明記された。
また、今回の改正では、虐待の発生予防から早期発見、児童の保護、親子の再統合、自立の支援に至るまでの切れ目のない総合的な取り組みが規定されている。その他にも、虐待の定義の見直し、通告義務の拡大等が盛り込まれている。
改正の背景には、大阪の岸和田市で起きた児童虐待の事件が大きな影響を与えている。今後、学校での通告体制や教職員に対する研修が必要になってくる。
また、来年の4月以降は、市町村が一義的に子どもの相談を受けましょうというシステムになることが予定されている。それによって児童相談所が虐待や非行にもっと力をさけるようになってくるだろう。
児童虐待の状況で、平成15年度の虐待件数は270件で、14年度と比べて倍以上になっている。平成6年度の7件から10年後には約38倍に増加している。ネグレクトが前年度に比べて2.3倍になっているが、岸和田の事件以降、学校からたくさん連絡がくるようになった。
ネグレクトのケースは、学校でもかなり把握されているのではないか。教師が児童の世話をして洗濯したり、給食のパンを余分に渡したりしているケースがあると聞いている。またそのような事例の場合、夏休みに体重が減る場合が多い。
そういう場合は児童相談所に通告してほしい。ネグレクトにより家庭の子ども全員が保護される結果、児童福祉施設は満杯になりつつある。施設が学校校区にあると先生にも負担が増えてきている。
虐待は、子どもたちの生命を脅かしたり、障害や精神疾患、非行等様々な問題を引き起こすが、その発生条件として、子ども時代に愛されていない親が居り、親の意に添わぬ子ができ、その上に生活ストレスや親の社会的孤立状態が合わさった場合に虐待が発生すると言われている。
虐待する親によくみられる特徴として、未熟で依存的で社会的に孤立しやすい。自信がなく、甘やかすことを怖れている。子どもが親を愛してくれるものと思っている。いわゆる役割の逆転がある。共感ができない親が多い。
保育所で他児に乱暴したりして先生を困らせるので、親に連絡すると家では良い子で何の問題もない。先生の対応が悪いのではないかと言われる場合があるが、実は、親の前で自由に振る舞えない、家庭のなかで虐待が潜んでいる可能性もある。
軽度の発達障害を持つ児童の場合も、手が掛かる、両親の期待にあわない子どもとして虐待されやすい。非行では、不適切な養育があり、家庭や学校でのさまざまな対応の間違いの積み重ねでやがて反抗的な子どもになってしまう。
また、虐待の引き金になる生活のストレスとして、経済困窮、夫婦不和、育児負担があげられる。日本では母親は子育てのプロだと思っている人が多い。子育てのキャンペーンの時に、SAMの 「育児をしない男を父とは呼ばない」 というのがあったが、子育ては夫婦の共同責任だが、日本だけが子育てを母親に任せっきりにしている。
児童相談所の援助目標は、子どもたちを死なせないことで、我々の目標は、世代間連鎖を断ち切ろうということになる。援助方法は、親も子も直ちに変えることは難しいので、社会的な孤立を解消し、親自身の生活ストレスを軽減していくことが一番の近道になる。
3.子どもの問題への対応
子どもの問題行動のとらえ方が大切である。学校や家族が子どもに問題があるといって相談に来られたり、先生が保護者に勧められて来られる場合もある。その時に、我々は子ども自身に問題がある、責任があるという言い方になりやすい。
そういうふうに認知してしまうとうまくいかない場合が多い。子どもに問題があるから、親元から離すとか、施設に入所させるというふうに考えるが、施設から出れば同じ行動が繰り返される。
例えば、子どもの持って生まれたもの (障害等) はなかなか変わらないが、子どもに与える環境を変えることで克服はできる。学校で集団行動が不適応な子どもの場合、不適応行動に着目し、指導してもなかなか直っていかない。また、このことで教師と子どもあるいは親との関係が悪化していくことも多い。
むしろ、子どもや親と教師が良い関係を作った上で、家庭と学校が協力して適応行動を強化していくようなアプローチをしていくことが大切である。親自身が子どもに与える環境を変えていくため、児童相談所は親に対してペアレントトレーニングをしようとしている。そのためには、担当者自身が技量を付けていかなければならない。
今、学校現場でなかなか解決できない子どもの問題で共通していることは、親自身が学校に対して協力的でないということが多い。かつて、ネグレクトがあって非行した子どもたちに、君の意志で施設にいかないかと言ったことがある。
自分の意志で自立にむかってがんばっていけよと説得したが、子どもはどうしても家に居たいと言う。それ程、他人が考えている以上に親子の関係は強い。
先生と子ども、先生と親という関係だけでは解決は困難で、ネットワークとしていろいろな機関の担当者が親子に関わることで関係の結べる人が現れる。ネットワークを築いて関わる。基本的には、良い関係を結んで、子育てがうまくいかないことを認めてあげた上で初めて指導が入る。
最後に、援助者の方のメンタルヘルスを考えてあげないといけない。職員がよく病気になったりする。異動が決まって、送別会の時にものすごく嬉しそうな顔をしている。それほどまでに関わる大変さがある。
また、援助者自身のアイデンティティーを大切にしてほしい。無理をすればするほどストレスはたまる。また、ストレスがたまっている人を管理職や周りの職員の方が引き受けていく、そんな職場の人間関係になってほしいと思う。
04/6/8