『良夜……話があるの、今からアルトに……来るわよね?』
掃除中の良夜を呼び出したのは母からのこんな電話一本だった。
電話越しにもビンビンに感じる殺意に──
(逃げちゃおうかな……)
──なんて思うが、そういうわけにもいかず、良夜は素直に喫茶アルトへと出頭した。
「いらっしゃい」
お盆直前の三連休中日……閑散とした店内で良夜を出迎えたのは清華だった。
「……うちの母、います?」
「ええ、いますよ。お姉さんも一緒に」
「話しました?」
「少しだけ。一応、仕事中だから」
「そうですか……ご迷惑をおかけします」
肩をすくめる清華に良夜は軽く頭を下げた。
しかし、清華はすぐに首を左右に振った。
「むしろうちのバカ娘のせいで……」
「決めたのは俺ですから」
「そう言ってくれると嬉しいわ。本格的な話し合いはお店が終わってから……あっ、お昼は?」
「うちの家族は?」
「みなさん注文しました」
「じゃあ、俺も……そうだな、ミックスピザ、アイスコーヒーで」
「はい」
清華の返事に見送られ、良夜はその場から離れた。
姉小夜子と母和泉は山側中央あたりの四人掛けに陣取っているが目に付いた。
「ああ……」
青年は軽くため息を吐き、そちらへと駆け出す。
そして、うんざりとした口調で声をかけた。
「……聞かれなかったから言わなかっただけだからな」
返事を聞くよりも先に四人掛けの三つ目の席に腰を下ろす。
「普通は聞かないよね」
軽い口調の小夜子は、まあいい。
問題は──
「どこの世界に久しぶりに会った息子に『同棲してる?』って聞く親がいるの……」
冷たい口調でつぶやく母の方。
「言い訳させて貰えれば、急に来て『小夜子いる!?』って怒鳴りつけられたら、そりゃ、ねーちゃんの話以外全部吹っ飛ぶ」
「それに関しては小夜子に言いなさい。私が悪い訳じゃないんだから」
「へいへい……それで、どこまで聞いた?」
「お母さんと四六時中一緒にいたくないから……って理由は聞いた」
「……それ以上でもそれ以下でもないんだけどな」
「はぁ……」
ため息を吐くと和泉はお冷やのグラスに手を伸ばし、それに唇を着けた。
コクン……と一口、細い喉が上下に揺れる。
「いまどきはお試し同棲だとか事実婚だとか色々あるみたいだけど……何かあったときに傷付くのは女性の方だってわかってる?」
「わかってる、あっちこっちで言われた」
「出て行かせろって……言ったところで──」
「そのつもりはないよ」
「……でしょうね」
軽く頭を抱えたかと思うと、和泉は居住まいを正し良夜の方へと向き直った。
「部屋からここまで距離もないし、お店は担いで逃げられないの。田舎の噂なんてあっと今に広がるのよ。その点もよーくよーく、本当によーーーーーーーーーーく考えて行動するのよ? 変なことしたら──」
一旦言葉を切り、そして母は言う。
「殺すよ」
「……こえーよ」
「知ってる?
「……本気で恐いって……」
「冗談じゃないからね。ハワイで9ミリ撃ったこともあるんだから」
「……それはちょっとうらやましい……」
「新婚旅行ででも行ってきなさいな……っと、あんたの方はひとまずこれでいいわ。お店が終わってからゆっくり話をさせて貰うことになってるし。問題は……」
和泉は前のめりになっていた身体を引き、椅子に深く座り直した。
そしてちらりと視線を正面に座ってる小夜子へと向けた。
「……この
「ああ? 俺をからかいに来たんじゃないのか?」
「それは三割ってところかな?」
良夜の言葉に小夜子が答えた。
「三割もか……で、残り七割は?」
「……結婚、考え直したいらしいのよ」
答えたのは和泉の方だった。
「へっ?」
その答えに良夜は目を丸くし、そして言葉を続けた。
「いや、昨日、美月さんにのろけてたらしいじゃん」
「……いい奴だよ。私みたいな変人に三年も飽きずに呼びかけ続けてくれる男なんて、二度と居ないだろうし」
「……いい奴なのか、悪い奴なのかはともかく、変わった人だよな……」
「いい奴なの!」
薄らぼんやりと良夜が言うと、小夜子は珍しく語気を強めた。
その勢いに半分身を引き良夜が言う。
「……だったら素直に結婚すりゃいいじゃん、ねーちゃんなんてあの人逃したら一生どころか、三回くらい生まれ変わって功徳を詰まなきゃ結婚なんてできるはずねえんだし」
「うん……」
素直に小夜子が頷いた。
そして、彼女は俯いたままで静かに言う。
「だからさ、三回くらい生まれ変わって功徳を積まなきゃ結婚できないような人間とあんないい奴を結婚させていいんだろうか……と、悩んでる訳なんだよ……」
良夜はちらりと母の方へと視線を向けた。
母もちらりとこちらに視線を向けていた。
交わる視線。
言葉はいらない。
(めんどくさっ!)
親子の心が一つになった……と、良夜は確信した。
「じゃあさ、じゃあさ、りょーや君は私と一生同居ってなったどう思う?」
「えっ、ヤだ」
即答してしまった。
「ですよねぇ〜うん、知ってました、うんうん、生まれてきてごめんなさい、今まで生きてきてごめんなさい」
「なんで敬語だよ!? いや、ほら、俺はあくまでも弟だからな。好きな女性もいる訳だし、血が繋がってなくて美月さんと知り合ってなければ……」
「好きになる可能性が少しでもあったとでも?」
「まずねーな」
「ですよねぇ〜はいはい、そうだと思いました。こんな生き物でごめんなさい」
突っ伏して泣き始めた姉を見つめ、良夜は深くため息を吐いた。
「それで……旦那予定者には?」
「大事にしたくないから教えてない。どうせこの
「ツーても、お互いお盆休みで会う予定とかなかったのか?」
母の言葉に頷きつつ、良夜が尋ねると、突っ伏していた小夜子の頭が跳ね上がった。
「あっ君、昨日は仕事で今日は高校の時の友達と遊ぶ予定だから、大丈夫」
一息に言い切ると小夜子は言葉をきり、満面の笑みを浮かべて言葉を続ける。
「デートの予定は明日なんだおー」
そして再び彼女はぺたんとテーブルに突っ伏した。
「それ……すっぽかしたらそのまま破談にならないかな……自然消滅的な感じで……」
「マジめんどくせぇ……」
「いやぁ〜見事なマリッジブルーやねぇ〜」
頭を抱える良夜の耳に特徴的かつ奇妙なイントネーションの言葉が飛び込んだ。
「デキ婚した友達なんてマリッジブルーとマタニティブルーが同時に来て、その後に産後鬱から育児ノイローゼのフルコースだったんよ」
聞き覚えのある声に良夜が反射的に振り向くと、そこにはジーパンジージャン姿の男女が立っていた。
「ういーっす、おひさ! 元気やった?」
「こっ、こんにちは……」
明るい笑顔で手を振ってる吉田貴美と恐縮しきっている高見直樹……通称タカミーズだ。
ふたりの顔を見上げながら、良夜は反射的に言葉を発していた。
「なんでお前らまでいるんだ?」
「昨日からお盆休みで九連休なんよ。だから、帰省」
「……そっか」
突っ込みたいのはやまやまだが面倒くさいのでとりあえずスルーする。
その代わりに軽くため息を吐いて、良夜は言う。
「せっかくだから伶奈ちゃんにでも会ってきたら?」
「後でね」
貴美はそう言うとは四人掛けの最後の一つに腰を下ろした。
「大丈夫、大丈夫。マリッジブリーなんて結婚しちゃったら速攻収まるから」
貴美の軽い口調に釣られるかのように、小夜子が顔を上げる。
「……結婚、してんの?」
「ううん、友達から聞いた。私の場合、私もたいがい欠陥だらけのダメ人間だけど──」
貴美はそう言って一旦言葉を切った。
そして、右手の親指で斜め後ろにいる直樹を指し、言葉を続ける。
「これよか、だいぶんマシ」
「……はいはい、そうですね、そうですよ、ボクはダメ人間です」
あぶれて立ったままの直樹がペコペコと何回も頭を下げる中、貴美はいい笑顔を浮かべていた。
(違反か……ボーナスが何かに化けたか……?)
良夜はなんとなく直樹のやらかしそうなことを頭の片隅で考える。
「まっ、不安と寂しさは暇を苗床に育つんだから、さっさと男に連絡して、会って、一発犯って、終わった後に『三回生まれ変わって功徳を積まなきゃ結婚相手が見つからないような女だけど結婚してくれますか?』って聞いてきたらいいんよ」
貴美が言い切ると良夜は頭を抱え、小夜子と和泉はポカーンと口を開き──
「本当にごめんなさい。後でよーーーーーーーーーーーーーーく言っておきますから、本当にごめんなさい」
直樹は米つきバッタのようにペコペコと頭を下げ始めた。
「なんか間違ったこと言った?」
「むしろ間違えてないところがあったと思いますか?」
「んなもん、いまどき、成人式も済ませた恋人同士が清く正しいお付き合いなんてやってる訳ないじゃん、りょーやんだって犯ってんよ? 美月さんと」
「本当にごめんなさい。ほんとにほんとに、ほんとーーーーーーーーーーに、言って聞かせますから!」
突っ伏した良夜の頭上を直樹の半泣きの声が飛んでいく。
「りょーや君……」
小夜子の声に良夜は顔を破半分だけ上げ、前髪の間から彼女に視線を送る。
「……なんだよ」
「さすがりょーや君が面倒くさいと思ってる女性上位五名のうちのひとりだね」
「……あんたもそのひとりだ」
「知ってる」
小夜子の声を聞きながら、良夜は顔を上げた。
「そこでそう答えるような生き様だから不安になるんだろう? ちょっとは改めろよ」
「二十何年もこういう生き方してたら他の生き方なんてわからないんだお?」
「その語尾だよ!」
芝居っ毛たっぷりに小首をかしげる小夜子に、良夜が拳をテーブルに叩きつけた。
お冷やのグラスに小さな波紋が生まれて消えた。
「まあ……そうね……」
そして、これまで沈黙を守っていた和泉が口を開いた。
「佐々木君に電話ね……」
そう言って和泉はカバンからスマートフォンを取り出しどこかへと電話……。
「……あっ、もしもし──」
最初の一言をしゃべり終えるよりも先にスマートフォンが小夜子の手によりヒョイと奪い去られた。
「もっし〜、うん、私だおー。あのね、りょーや君のバカが同棲始めちゃって……うん、そうそう、その娘。それでお母さんと一緒に見物じゃなくて、ちょっと顔合わせに行くことになって……うん。私は行きたくなかったんだけどねぇ〜どーしてもお母さんが付いてこいって言うから……それなら、佐々君に明日のデートすっぽかすーって連絡しろって言ったら、ガチでしやがって……そーなんだよね〜連絡するなら私からするってーの。だから……そうだなぁ……明後日は大丈夫かな? うん、またLINEする〜」
ちょっとした事実に居取られた嘘八百並べ立てる小夜子に、良夜は愕然としていると──
「えっ?」
小夜子が小さな声を上げた。
そして、数秒ほどの沈黙が静かに続いた。
「………………ああ……うん、わかった。ありがと」
そして、小夜子は電話を切った。
「ちっ……」
あからさまな舌打ちと共に。
「どうしたの?」
問いかける和泉にスマートフォンを投げ返しながら、小夜子は言う。
「なんかあったんだろ? 会ったときに聞く……だってさ。言い訳、一ミリも信じてないよ、ありゃ……」
その飛んできたスマホをキャッチし、和泉が答えた。
「それくらいの余裕がないとあんたとは付き合えないわよ」
そう言いながら和泉はスマホをハンドバッグの中へと片付けた。
「でも、これで一安心ちゃうん? 明後日には会う約束しちゃったんだし」
貴美の言葉に小夜子は軽く頭を抱えて呟く。
「……あ゛あ゛あ゛……」
そんな娘を見つつ、母は大きなため息と共に言葉を吐いた。
「はぁ……この外面のよさ……」
「説明したくない……そもそも、私だってなにが憂鬱なのか、わかってないし……」
突っ伏したまま小夜子がグダる。
そんな娘を一瞥し、和泉がため息を漏らした。
「グダッてる相手が家族な分マシなのかしらねぇ……」
「こういう時、別の男相手にグダった挙げ句、浮気って、レディコミにありそう」
「あるある。あるわよねぇ……」
コミュ力高い貴美と和泉が話をしはじめると、それまでグダッていた小夜子がひょっこりと顔を上げた。
「フランス書房とかも……ねーちゃん、そんな本も大好物だおー」
「あんたの話をしてるの!」
ピシャリと和泉が言うと、小夜子の頭が再びぺたんとテーブルへと突っ伏した。
「わかってるよぉ……ああもう、なんかほんと一生婚約でいいんじゃないかな!?」
メチャクチャなことを言い始めた小夜子に良夜はため息。
正直言うと、こういう姉を見るのは──
(生まれて初めて……)
だったりして、ちょっと意外というか、新鮮というか……。
(しかし、どうしたもんだろうなぁ……)
良夜が薄らぼんやりと考えていると、どこからともなくアルトがすーっと飛んできて、手元に着陸を決めた。
「はぁい。こじれてるわね」
妖精が軽い口調で手を振った。
良夜はそれを一瞥すると軽くため息を吐いた。
(一番面倒くさい女が来た……)
「今、面倒なのが来たって思ったわね?」
的確に心を読んでくる妖精から視線を外す。
それとほぼ同時、清華が料理を手にしてやってきた。
「夏野菜のトマトソースパスタとハニーピザのセット、お待たせしました。浅間君のピザは少し待ってね」
「ああ、はい……美月さんは?」
良夜が尋ねると清華はテーブルの上に料理を並べながら答える。
「……キッチンで動物園のクマみたいにうろうろしながら──」
「お義母さんが来た……お義母さんが来てる……言い訳、言い訳、考えないと……」
「──って……挙げ句、翼さんにうるさいって怒鳴られてる」
「……あの人もグダってるな……」
「お姉さんもグダッてるみたいね」
「自分がグダってる理由もわかんないんですから、処置なしですよ……」
「マリッジブルーは面倒くさいですからね。私も……」
「あったの!?」
小夜子の顔が跳ね上がった。
「私の場合は専門性の高い学部を出たのに、うちの人に『就職しないで結婚してくれ』って言われちゃって……それで悩んだりグダったり色々あって……」
「それでご両親は?」
尋ねながら和泉は目の前に置かれたパスタに手を伸ばす。
「……まあ、それはそれでそれなりに……当然」
和泉に問われ清華が苦笑いで答えた。
「ん?」
良夜が気付いたのは和泉のカバンから出たり入ったりしている細い足だ。
(アルト……?)
細い足が数回出入りを繰りかえしたと思ったら、今度は小さな頭がひょっこりと顔を出す。
「ふぅ……
その両手にはアルトの身体ほどもあるスマートフォン、ぎゅっと抱きしめ、ジタバタとあがいていた。
(なにやってんだ? あのバカ……)
なんて思ってみていると、それを抱きかかえたままテーブルの上へ……。
(おっ、お前……)
「……──ウェイトレスや雑務自体は嫌いじゃなかったんですけどね。それを一生続けてもいいのかとか……式が近づけば近づくほど……やっぱり、結婚は待ってもらって、一度就職すべきじゃないか……って」
直樹の隣に立ったままの清華が言い、そして貴美が尋ねる。
「へぇ〜そんなこと、考えてたんだ? 清華さんも」
「そりゃ、ね……でも、私の場合、理由がわかってる分……お姉さんの場合は不安が漠然としすぎてて……」
「要するに朝食は食べない、お昼は学食、夕飯は近所のセルフ定食屋かほか弁、掃除はルンバ、洗濯はコインランドリーとクリーニング屋なんて生活してたから、家事がなにひとつまともにできないことに気付いて、不安になってるだけですよ、この
清華の言葉に和泉は軽くため息交じり。
そして、小夜子がまたもやテーブルに突っ伏した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、それもあったぁぁぁぁぁぁ」
楽しげ(?)に話してる女性達はアルトの行動はもちろん、いつの間にかテーブルほぼ中央にスマートフォンが置かれていることにすら気付いてはいない。
「良夜、良夜」
アルトがちょいちょいとストローでスマホの表面を突く。
通話状態になっている。
「まだスリープに入ってなかったのよね」
その言葉で通話相手が誰かくらいは察せられた。
そしてアルトの意図するところも……。
「……ねーちゃん、それで結局、なにが一番不安なんだよ……結婚の」
「なんもかんも!」
きっぱりと小夜子が言った。
「休日は朝から晩までずーっと本を読んでる姿を見られるのも不安だし、家事一切ペケなのも不安だし、性格悪いのがバレて愛想を尽かされるのも不安だし、ついでに結婚したら、佐々木小夜子でたった六文字の名前の過半数が『さ』ってのもイヤだし、なんもかんも全部不安で、それならもう一生遠恋の婚約者でいいかなって思いはじめてんの!」
「無茶苦茶言うなよ……そんなの出来るはずねえじゃん……あと、現時点で六文字の名前で2文字が『さ』だ」
「約三十三パーセントときっちり五十パーセントは全違う……って、わけでもない?」
「……真面目に悩めよな、おい」
良夜の冷静な突っ込みにぺたんと小夜子は再びテーブルに突っ伏した。
「真面目になにに悩んでるかもよくわかんないだおー!」
「……この期におよんで……」
正直、こんな姉を見るのは初めてだ。
(一生ネタに出来そうだけど……したら百倍くらい返ってくるんだろうな……)
良夜はそんなことを考えながら、すーっと手をテーブルの中央へと動かした。
そして、コンコンと指先でテーブルを叩く。
その先には通話中の表示が眩しいスマートフォン。
「えっ……私の?」
和泉が呟いた。
そして、小夜子が叫ぶ。
「なんで!? いや、どこに!?」
そのセリフを最後まで叫びきるよりも早く、小夜子はスマホをひったくり、フロアの外へと出て行く。
事情を知る良夜以外の全員はポカーンとした表情で小夜子を見送るほかない。
そのフリーズしている一同の中で、最初に再起動したのは和泉だった。
「……スマホ、片付けた……はず、よ……?」
自信なさげな母に良夜が告げる。
「……無意識に置いたんじゃないのか?」
「……そうかしら……?」
小首をかしげる母の手元でアルトが良夜の顔を見上げた。
「教えてあげればいいのに」
答える代わりにアルトのおでこを軽くデコピン。
そんな良夜の様子に何かを感じたのか、タカミーズがそろって良夜に視線を向けた。
なにか言いたげな表情に軽く頷いてみれば、タカミーズのふたりは理解と納得をしたようだった。
「まっ、理屈はともあれ、あの会話を全部聞けば男の方で何か対応するっしょ? しないような奴なら結婚延期でいいんちゃう? あっ、
初対面の和泉に対して貴美はおじることなく話しかける。
「また適当なことを言ってる……ボクは
その隣は直樹は顔をもはや諦めの境地。
「……何がどうなってるのかはわからないけど……多分、これでよかった……のかしら?」
和泉が不安そうな声で呟く。まるで独り言、もしくは自分に言い聞かせているかのよう。
「若年性アルツハイマーでも気にしはじめてるなら、悪いことをしたわね」
(伶奈ちゃんにひねってもらおう……)
手元でコーヒーを飲んでる妖精を一瞥し、良夜はそう思った。
そして三十分後……。
帰ってきた姉は全然笑ってない笑顔で言う。
「良夜くん、ちょっと話があるんだけど……」
そして、冷えゆくハニーピザを横目にミックスピザを食ってた弟は思った。
(あっ……俺、死んだ)