お泊まり会―春の陣―(5)

「じゃあ……私はサウナ、行ってくる」
 四方会の面々に混じって、最後まで一緒に居た“大人”――翼がそう言って湯船から上がった。
 少々地黒気味の背中にパン! と真っ白いタオルを叩き付けて、颯爽と歩く姿は、なんというか……――
「おっさんなのかしら?」
 と、アルトが呟くほど。
「そんなことないよ」
 苦笑い気味でそう答えると、伶奈は改めて、友人達とくだらない話に盛り上がる。
 だいたいは話した片っ端から忘れていく話。例えば、穂香のお腹がムニュッ! としてるとか、それに触れるのは四方会血の掟で禁止! とか、美紅の腹筋は女子中学生の物とは思えないとか、蓮のおっぱいもやっぱり中学生の代物じゃないとか、伶奈のおっぱいは三島家の女らしく御先真っ暗っぽいとか……大きなお世話な話題もあったが、概ね楽しいひととき。
「だからさ、吉田さんは凄いんだって。美人だし、スタイル良いし、仕事は凄いてきぱきだし、まあ、時々すごむのは辞めて欲しいんだけど……あっ、でも、勉強は大学で一番とか二番とか言うレベルなんだって!」
『喫茶アルトのスタッフで一番美人なのは誰?』という話題から分岐し始まった『吉田貴美さんはどんなに素敵な女性か?』の講釈は伶奈の身振り手振りを交えた大演説へと発展していた。
 もっとも、聞いてる方は――
「そんなパーフェクト超人、居るわけないじゃん」
 とか言ってるのが穂香。
「伶奈ちゃん、盛りすぎだよ〜」
 とか言ってるのが美紅。
「……………………はぁ」
 挙句の果てに、本人を良く知ってるはずのアルトに至っては、フォローどころか会話にも参加せずに湯船の縁に座って足をぷらぷら。明後日の方向を向いたままでため息を吐くばかり。会話に参加しない割に、伶奈が何か言う度に聞こえよがしにため息を吐くんだから、気になって仕方が無い。
「……言いたいことがあれば、言えば? アルト」
「……何でも無いわよ。それより、蓮が真っ赤な顔してふらふらしてるわよ、そろそろ、上がったら?」
 しれっとした顔で、アルトはそう言った。
 それをごまかした……とは思いはしたが、言葉に釣られて視線を蓮の方へと向ける。
 湯船の端っこ、会話に参加せずにぼんやりしていた彼女が真っ赤な顔で左に右にゆ〜らゆら。
 この調子でほっといてたら、いつぞやのように湯船の中にぷかぷか浮かぶ羽目になるのは必至。
 その蓮の様子とアルトの言葉を二人の友人に伝えると、美紅は素直に「上がろうか?」と言った。
 されど、穂香の返答はひと味違っていた。
「じゃあ、露天風呂の方に行こうよ。足だけ浸けて、少し涼めば落ち着くんじゃない? 伶奈チのお姉ちゃんやお母さんはあっちのジャグジーに行ってるし、翼さんもサウナに行ったばっかじゃん?」
 立ち上がりながらそういった。そして、穂香は顔こそは伶奈達友人の方へと向けてこそ居るが、その足はすでに露天風呂へと向けて第一歩を踏み出していた。
「じゃあ、そうする?」
 少し苦笑い気味に頬を緩めて美紅が言えば、伶奈もアルトも、それからちょっとのぼせ気味に頭をふらふらさせてる蓮にも異論は無い。
 でも――
「にしちゃん、おんぶ〜」
「ムニュって来た!?」
 蓮、お得意の抱っこ攻撃にもいい加減慣れてきたのだが、今日はお風呂場。素っ裸の背中に素っ裸の胸、ムニュッ! と柔らかくて大きなおっぱいには、伶奈も目を白黒。
 周りでは無責任に笑ってる友人達。特にアルトは後で捻る。
 ともかく、逃げるというか、引っ張るというか……よく解らない感じで蓮にじゃれつかれながらも、露天風呂にまでなんとか到達。
 そこに至って、ようやく蓮が伶奈から離れたかと思うと、ぺたん……と湯船の端っこ、大きめの石の上に腰を下ろした。
「ふぅ……」
 安堵の吐息を吐き出す友人の顔とその無駄に膨らんだ乳房を見下ろす。その顔……どころか、発展途上のままで終わりそうな胸元まで、お湯ではない理由で真っ赤に染め上げ、少女は大きな声を上げた。
「四方会、血の掟! 裸で抱っこ! は禁止!」
「……善処、します」
「善処しますじゃないよ……もう」
 軽くため息を吐いて、改めて、辺りをきょろり。
 他に客の姿はなく、空いてるのはありがたい。蓮とのじゃれ合いを見知らぬ人に見られなかったのは、何よりの僥倖……なのだが、余り広くもないし、周りは高い壁だし、湯船の上には大きな屋根が付いてるし……と、開放感という観点では、いまいち露天風呂らしさのないのがちょっと残念。
「でも、夜風は気持ちいいわ」
 頭の上でアルトが呟く。
 彼女の言葉通り、春の夜風はまだまだ冷たい。その冷たい風が、いろんな意味で火照った肌を優しく撫でていくのが、とても心地良い。すーっと落ち着いていくようだ。
 湯船は大きな石を組み合わせ、モルタルで補強した物。湯船の底もそんな感じで作られてるから、中に入ると微妙な床の凹凸が足の裏を心地よく刺激した。
 蓮がすでに陣取ってる場所の隣、そこには少し大きめで座りやすそうな岩が一つ。その岩の上にぺたんと腰を下ろして、軽くため息を吐く。
 そして、彼女は膝下だけをお湯に浸す。ちょうど、足湯の要領だ。
 隣でぼんやりと空を眺めている蓮を真似るかのように、伶奈も視線を宙に向けた。
 塀と屋根が作る狭い夜空、露天風呂の灯に駐車場の灯、それから太めの三日月の灯、無駄な光源ばかりで星は全く見えない。夕方は晴れてたから曇ってはないはずなのだが……
 そんな事を考えながらぼんやりとしていた伶奈の耳にざぶ〜んとお湯が弾ける大きな音が届いた。
 湯船のど真ん中、一番邪魔になるところを大きく占領している穂香が犯人。
 彼女は湯船の真ん中に足を投げ出して座ると、両手を背後について、天井を見上げるような形でくつろいでいた。
 そして、屋根に視線を向けたまま、彼女は言った。
「この屋根ジャマー! 塀はともかく、屋根、のけてくれないか?」
 その穂香の言葉に蓮の向こう側に腰を下ろした美紅が、ちょっぴり意地悪な口調と笑みを浮かべて、言った。
「……近くに高い建物が出来たら覗かれるよ? その、ムニュってしてるお腹」
 その瞬間、天井を見上げていた穂香の身体が跳ね上がり、こちらへと向いた。
 そして彼女は大きな声を上げた。
「女の子のムニュッ! に触れるの禁止! って、さっき、四方会血の掟で決まったじゃんか!!」
 一息に少女はまくし立てた。
 ぱっと見、穂香は太っているという感じにも見えないのだが、お腹周りには若干のお肉が余っていた。
 しかも、比べる相手がスポーツをやってて軽く腹筋が浮かんでる美紅、余りがつがつ食べる方ではない上に血筋的に太りづらくはあるが同時に貧乳であることを宿命づけられてる伶奈、そして、無意味にスタイルが良い蓮の三人だから、穂香のショックはいかばかりの物か……
「そんなに気にしてるんなら、運動すれば良いじゃん……朝練のランニングだけでも付き合ったら? 近いんだし、家」
 伶奈達同様に露天風呂を足湯代わりにしている美紅が、苦笑い気味の笑みを浮かべながら、そう言った。
「だって、運動部の練習きついし……そもそも、朝、起きれない」
 湯船の中であぐらをかきつつ、穂香は体をこちらへと向けた。
 揺らめく水面の向こう側に穂香の肉付きのいい体が全て丸見え。見てる方がちょっと恥ずかしくなるような格好だ。
「……真っ裸であぐらかくの止めようよ……何もかも見えてるよ……」
 必要以上に足を閉じて座っているという自覚すらある伶奈がそう言うと、穂香は自身の下腹部をチラ見した。そして、顔を上げると、膝立ちになって、ずいっと、伶奈達三人の足湯組の方へと近づいた。
 そして、彼女は三人、主に伶奈の顔を見上げて言った。
「翼さんだっけ? キッチンの人、あの人、つるつるだったよね? 剃ってるのかな?」
「ちょっと!?」
 ほぼ反射的に大きな声を伶奈は出していた。
 そして、頭の上でアルトがさらりと言った。
「あの子、前から剃ってるわよ」
「なんで、アルトも知ってるんだよ!?」
「海に二回行ったし、お風呂にも入ったし、気にしてたら気づく物よ」
 また、大声を上げれば、アルトはさらっとまたもや言葉を紡ぐ。
 そして、隣、三人並びの中心に座っていた蓮が伶奈の脇腹を優しく突いた。
「うひょ!?」
 脇腹への優しい刺激に伶奈が妙な声を上げるも、それを意に介するそぶりも見せず、蓮がぽつり……といつもの控えめな音量で言った。
「……通訳、サボっちゃ、メだよ……」
 そう言う蓮の表情はいつも通りにぼんやりとしてて、視線もこちらに向いてるけど、見てるのかどうなのかは解らない感じ。されど、ピッと伶奈の脇腹を刺し締めている人差し指が、彼女の感情を何よりも如実に表している、そんな感じがした。
 その蓮の勢いに若干引きながら、伶奈はアルトの言葉を伝える。
「いっ、いや……あの、だから……前から剃ってるって……アルトがね……」
「……へぇ……」
 簡単な相づちだけを打ったら、再び、蓮は視線を宙へと巡らせる。どうやら、納得してくれたようで一安心だ。
 もちろん、伶奈の通訳を聞いてたのは蓮だけではなく、蓮の向こう側に居る美紅や伶奈の正面で膝立ちになってる穂香にも当然伝わる。
「やっぱ、あの人、剃ってるんだ? 元々、生えてない可能性も考慮に入れてたんだけど……」
 そう言って穂香は伶奈よりかは大きな胸元で腕組みをすると、いつになく真剣な表情で首を縦に何度も振って見せた。
「……よく見てるね、穂香ちゃんって……」
 若干呆れ気味に美紅が呟くと、伶奈もコクコクと数回、頭を縦に振った。
 そんな二人の様子に、さすがに恥ずかしくなったのか、穂香も顔を真っ赤にして、声を荒げた。
「だって、悩んでたもん!」
「何を?」
 伶奈が小首をかしげて尋ねれば、更に顔を真っ赤にした穂香が、珍しく控えめな声で応えた。
「あの毛がさ、日に日に濃くなっていく気がしてさ、このままで良いのかな? って……」
 顔もあわせにくいのか、その視線は斜め下、湯船の水面の上辺り。その水面以外何もない辺りをジーッと見つめながら、少女は友人の言葉を待つ。
 そんな友人の様子を見つつ、伶奈はぽつりと言った。
「このまま……って?」
「処理すべきかどうか」
 やっぱり、穂香は顔を上げない。それどころか、膝立ちだったのが、なぜか正座となって、その白い太ももの上に両手まで置いていた。
 お風呂の中で正座してる人って初めて見た。
 そんな正座姿の穂香を見やり、伶奈は言う。
「お母さんに聞きなよ……自分の……」
 瞬間、穂香のうつむいてた顔が跳ね上がった。
 そして、彼女は大きめの声で言った。
「じゃあ、伶奈チ、聞いてきてよ! 自分のお母さんに!」
 そう言う穂香の両手は伶奈の膝の上。がしっ!と握って、体重をかける。今にもオープンセサミとかなりそうな勢いだ。
「……いや、恥ずかしい……てか、手っ! 手っ!」
 慌てて手を払いのけようとする。しかし、穂香の指先は伶奈の細い膝にがっちり食い込んで離れそうにはない。むしろ、下手に暴れれば逆に膝が無防備になりそう。
 出来ることと言えば、大きめの声を出すことだけ。
 そんな伶奈の思いを無視して、彼女は大声を上げた。
「でしょ? それでさ、今日、ちらっと観察したの、私。そしたらね、どーも……伶奈チのお姉さんはそのまま、伶奈チのお母さんはちょっと処理済みで、翼さんって人はつるつる! もう、私、何が正しいのか、解らないの!」
 話をしているうちにテンションが上がってきたようだ。身体を乗り出し、捕まれた膝に体重が皿に欠けられる。その体重に比例するかのように、伶奈の足がますますピンチになっていく。
 後、膝下辺りにおっぱい当たってて、身動きもままならない感じ。
「要するに好きにするのが正しいってことだよ! 人生には正解なんてないんだよ! それより、手っ! 手っ!」
「そんな使い古された哲学的セリフでごまかされないし!」
「だって、私だってそんなに生えてないし、そもそも、悩んだことないし!」
「じゃあ、一緒に考えようよ! あそこに生えてきた毛の話!!」
 なんか知らないけど、妙な盛り上がりを見せる穂香のテンションに伶奈も若干引き気味。逃げ出したいと思っては居るのだが、彼女の両手は未だに伶奈の膝を捕らえたままだ。
 そして、それを見守る友人二人。
「凄いよねぇ……あの二人、あの竹垣の向こう、男子風呂だって、解ってるのかな?」
「………………あっち、行って、他人の振りしよ?」
 美紅と蓮が小さな声でぼそぼそ……と喋っていること息づけば、それまで膝の上とその上に置かれた手とを境に力比べをしていた少女達がほぼ同時に声を上げた。
「「四方会血の掟! 他人の振り、禁止!!」」
 そして、アルトが大きな声を上げた。
「いい加減なさい!!!」
 ぶちっ! ブチッ! ぶちっ! ぶちっ!!
 ストローで刺したのではなく、髪を引き抜いたのは、ストローをロッカーの中に置いてきてたから。
「なっ、なんで私まで……」
「……蓮、何もしてない……」
 と、ばっちりを食らって頭を抱えて半泣きになってる、美紅と蓮を見やり、若干、悪いことをしたかな? と、伶奈は思った。
 ――つむじ付近を強く押さえながら。

 全員を湯船の縁に一列に座らせると、アルトは伶奈の正面、視線よりも少し高い位置にホバリングしながら、ふんぞり返っていた。
 当然、裸。
 全部、丸だし。
 威厳、皆無。
 でも、偉そう。
「さて……そういうのが気になるってのも、まあ、解らなくは……――」
 と、言葉をいったん句切ると、妖精はコホン……と一息、咳払い。
 そして、改めて言った。
「――まあ、解らないわね。私、元々、生えてないし」
「ちょっと!?」
 見事な突っ込みを入れた後で、アルトが無駄に偉そうに言った言葉を友人三人に伝える。
 もちろん、一番悩んでる穂香はがっかり。美紅もちょっぴり苦笑いして、蓮は相変わらず、ぼんやりしたまま。
「って、話は最後まで聞く物よ。一応、そう言うのの話は聞いたことがあるわよ……と言っても簡単な物だけどね。まずね、夏になる前に可愛い水着を買いなさい! そして、履いて、きわどい格好して、それではみ出てたら、はみ出て所の処理をすれば良いのよ。これが一番、間違いない行動よ!」
 との言葉を友人達に伝える。
 冷静に考えて、風呂屋の露天風呂で四人集まって、下の毛の話って言うのは、強烈に恥ずかしいが、始まってしまった物はしょうがない。
 そして、疑問が浮かべばそれを恥ずかしさにかまけて黙っていられるほど、伶奈は大人ではなかった。
「でも、お母さんの水着、短パンみたいなのだったよ?」
「衛生的に気になるって言うんで、手入れする人も居るみたいよ。貴女たちはまだ余り生えてないんだから、そこまで気にしないで良いと思うわよ」
 伶奈の問いに駆虫でフヨフヨ浮いてるアルトが答える。
 そのやりとりの隣では、先ほどまではずいぶんと思い詰めた表情をしてたはずの穂香が、底抜けに明るい表情と比較的大きな声で、言った。
「じゃあさ、じゃあさ、翼さん、つるんつるんってって事は物凄いきわどい水着着てたりするの? ヒモ! 的な奴」
「ヒモまでは行かないけど……胸元からおへその辺りまで切れ込みが入ったし、結構なハイレグだった……と思うよ」
 答えたのは翼と一緒に海に行ってた伶奈だ。
「へぇ〜見かけによらず、大胆なんだね」
 少し驚く美紅に、伶奈は我が事のように胸を張って応える。
「スタイルも良いからすっごい似合ってたよ、吉田さんも目立ってたけど、翼さんも凄い目立ってて、ナンパもされてたもん。私服もきわどいのを着てた様な……?」
「私も来年、新しい水着、買おうかなぁ〜? つるつるにしなきゃ行けないような奴!」
 やっぱり、満面の笑みで穂香が言えば、鍛えられた身体をずいっと前のめりにさせて、蓮と伶奈の二人越しに穂香の方を覗き込みながら、美紅が言った。
「……ムニュッの方を先に処理したら?」
 そして、もちろん、穂香がお腹を両手でかくし、真っ赤な顔で叫ぶ。
「ムニュッ! に触れるの禁止って言ったじゃんか!?」
「あはは」
 穂香の行動に一同が笑い声を上げた……と盛り上がってるさなか、会話に参加してない少女が一人居た。
 いつも口数少ない南風野蓮だ。
 彼女はいつものようにぼんやりとどこか、宙を眺めていた……――
 ――はずだった。
 その蓮はいつの間にやら、上半身だけをねじり、背後へと視線を向けていた。
 そして、ぼそぼそっと小さな声で、彼女は言った。
「……蓮は、何も言ってないよ?」
 その言葉に一斉に少女達が振り向けば、そこには珍しく……本当に珍しく、真っ赤な顔で立ってる翼の姿があった。もうつきあい始めて一年が経つが、こんな翼を伶奈が見るのは、これが初めてだ。
 その姿、地黒の肌でもはっきり解るほどに真っ赤っか。胸元くらいまでが赤く染まり、恥ずかしそうにうつむいてる姿は、取っつきにくいという彼女の印象をずいぶんと薄めていた。
 その彼女は普段よりも更に小さな、そして、うわずった声でぼそぼそっと言った。
「………………さっ、左右のバランス、取ってるうちに、つるつるに、なった、だけ……だから……後、一度剃ったら……伸びると、ちくちくする……から」
 そう言うと翼は回れ右。
 クルンと回ったら、急ぎ足で歩み始める。
 その地黒の背中越しに少し大きめの声が響く。
「もう、上がるって……」
 あっけにとられること、十五秒ほど……翼の足が露天風呂の入り次へと達した頃、ようやく伶奈達は我に返った。
「わっ!? ごっ、ごめんなさい!!!」
 穂香が弾かれたように飛び上がる。
 それに釣られるかのように、伶奈、美紅が飛び上がり、最後に蓮だけがペタペタと落ち着いた足音で少女達の跡を追う。
 しかし、時すでにおそし。
 翼はすでに露天風呂から内風呂へと戻り、更にペタペタと細進める。
 その歩みはいつもよりも少し早め。それに後ろからではちょっと解りづらいが、持ってたミニタオルで股間を隠してるようにも見えた。
 そして、真っ赤に赤面した翼とその後を慌てて追いかけてくる少女達三人といつも通りにぼんやりしている蓮とを見やり、美月は当然のように――
「どうしました?」
 と、尋ねる。
 もちろん、由美子も同様だ。
 そして、少女達と翼が声を合わせて言った。
「なんでもないから!!」
 と……
 なお、蓮だけは明後日の方向をぼんやりと眺めていた。
 そして、ぽつりと、ひと言言った。
「……蓮、いつ生えてくるのかな……?」
 その呟きを耳にしたのは、同じくまだ生えてないアルトだけであった。

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