リカちゃん人形(完)

 さて、話戻って放課後、部活の時間。手芸部が活動している家庭科教室。
 伶奈達四方会の三名は一所ひとところに集まりながらも、てんでばらばらなことをしているが、やっぱり、似たような作業をしている者同士、集まって作業する方が効率が良い。蓮も時々はプラモデルグループの所に行って、道具を借りたり、なにやら相談したりもしているし、伶奈自身刺繍グループの先輩にアドバイスを頂くこともある。まあ、穂香のように一人、雑談しながらのんびりパズルを作ってるのも中に入るが……
 家庭科教室は六人掛け大きなテーブルというか作業台……正確には調理台か? それが九つ、置かれていた。椅子は背もたれのない小さめの丸いす。数が多いのは、昔の子供が多かった時代の名残だ。そこを手芸部、中高等部会わせて二十名ほどで使用しているわけだから、全体的に作業スペースはゆったりとしている。
 その作業台、教卓側から見て前の方、三列並びのベランダ側端っこの作業台を三人の少女達が占領していた。
 穂香はそこに伶奈を連れて行くと、彼女らに気安い声をかけた。
「こんにちは。先輩、伶奈チ、じゃなくて、西部さんがドールに興味がわいたから、教えて欲しいって言うから、連れてきました」
 穂香がそう言った瞬間、真ん中に座っていた二つお下げの少女……イヤ、切れ長の大人っぽい瞳、細面の顔はすでに女性と呼ぶべきだろうか? その女性が立ち上がった。
 頬を緩めて、彼女は言う。
「まあ、まずは座って? 西部さんだっけ? 四方会の」
 そう言って、彼女は玲那を彼女の体温が残る丸椅子に座らせた。
 そして、彼女自身はと言えば、作業台の対岸にある丸椅子を一つ拾い上げると、なぜか、伶奈の後ろに置いて座った。
「えっ? あれ? あの?」
「東雲さんだっけ? 四方会のリーダーの、あなたも?」
 二つお下げの女性に問われると穂香はふるふると首を左右に振って見せた。
「ううん、私はあっちでパズルしてまーす」
 言うだけ言って、とっとと離脱。
「じゃーねー、伶奈チ〜ハマ屋で待ってるね〜」
「ちょっと!? 穂香!?」
 って、伶奈は顔色を変えるけど、穂香は知らんぷり。ひらひらと手のひらを二三回振ったかと思うと、そのまま、四方会三名がいつも占領している作業スペースへと帰って行った。
(私、こう言うの苦手なのに……)
 ほぼ初対面――相手は名前どころか四方会のことまで知っているが――の相手との会話はちょっと苦手なのに……と恨み言を呟いても時すでにおそし。しかも、なんか、三人に取り囲まれて逃げられない感じ。
 そんな中、伶奈は改めて周りを見渡した。
 背後には先ほどの目元のきつい二つお下げの女子生徒……ネクタイが白いから三年生だ。それから、右にはきょとーんとした顔でこっちを見ている三つ編みお下げの子、ネクタイが青だから二年生。そばかすだらけの顔がなんだか、人が良さそうに見えてちょっと安心。それから左には長めの黒髪を黒いカチューシャで留めてる女性。白いネクタイを着けてるから三年生なのだろうが、丸顔で大きな瞳が童顔っぽくて、同い年くらいに見えた。
 その童顔の女性が笑って伶奈に声をかけた。
「和夏子の顔が怖いから、西部さんビビってるじゃない? 初めまして、私、三年の三角みすみ希花ののか。その怖い顔が同じく三年の乾野かんの和夏子わかこで、そっち側できょとーんとしてるのが二年の相馬そうま凉帆すずほ
「あっ、あの……西部伶奈、です。よっよろしくお願いします……あの……私、アル――いえ、人形の服が作りたくて……」
「服かぁ〜どんな感じの子?」
 希花と名乗った三年生が伶奈に問いかけると、伶奈は心の中だけで「あっ」と小さな声を上げた。
 初対面の上級生にアルトの話なんかしたくない。そもそも、伶奈はアルトの話を自分からしたことはない。周りが勝手に教えてたり、その結果、説明させられてただけ。
 どうしよう? なんて言おうか? なんて言ったら、一番、恥ずかしくないだろう?
 頭の中でそんな言葉がグルグル回り続けた結果、彼女は言った。
「リカちゃん人形の服! つっ、作りたい……だけ……」
 前半の言葉を叫んだ瞬間、これはおかしいんじゃないか? と少女は思った。思いはしたが、今更引っ込めることも出来ない。結果、かーっと赤くなる顔をクシュンとうなだれ、残りの言葉をぼそぼそ……消え入るような口調で続けることしか、少女には出来なかった。
 が、少女に待っていたのは彼女が思っていたのとはまるで違う対応だった。
「ああ、恥ずかしがらなくても良いよ。そう言うのから入る人もいるし、それを突き詰めて凄い可愛い服を作ってる人もいるんだしさ。和夏子も最初はリカちゃん人形の服からだったよ」
「最初は、じゃなくて……今でも作ってるわ」
 そう言って頬を緩めたのは、和夏子、と紹介された女性だった。彼女は少しきつめの切れ長の目を緩めて、伶奈に言葉をかけた。
「名前、付けてるの? アルちゃん?」
「えっ? あっ、イヤ……あの……」
 和夏子の問いかけに伶奈が答を返すことが出来ず、四苦八苦していると、希花がにやっと底意地悪い笑みを浮かべて、伶奈と和夏子、二人に言った。
「和夏子もリカちゃん人形に名前を付けてるのよ。その子の名前はリカだってーの」
「それは違うの! それは名前じゃないの! うちに来た子は別の名前がちゃんとあるの!!」
「香山リカだって! 何処かの精神科医と同じ名前の!」
「ちがう、ちがう、ぜっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったいにちがう!! うちの子はシャルロット!」
「しゃーでんふろいで?」
「そんなメシウマ! みたいな言葉じゃないから!!!」
 大人っぽい人だなぁ……と思っていた和夏子が顔を真っ赤にして希花と言い合うのを見て、怖い人かも……と思っていたのが少し和らぎ、漫才のようなやりとりを聞いていると緊張もほぐれるような気がした。
「――って……先輩……のっけから喧嘩してると西部さんヒクから……」
 漫才を始めた希花と和夏子の間に入って、ずっと会話を聞いていた女性が顔色を変えた。そして、彼女は玲那の方へと顔を向けると、苦笑いを浮かべて、彼女に言った。
「ごめんね、この二人、幼なじみらしいんだけど、すぐに喧嘩して……」
「あっ、ううん……大丈夫。楽しそうだなぁ……って思って見てただけだから……えっと……相馬、先輩? これから、よろしくお願いします……」
 ペコ……丸いすの上に座ったまま、少女が頭を下げると相馬凉帆はニコッと細面の顔を破顔させて、伶奈に応えた。
「こちらこそ」
 そして、喧嘩していた、二人が声を合わせて言う。
「「勝手に、奇麗に納めないで!!!」
 そして、暇そうに文庫本(ラノベらしい)を読んでいた瑠依子が言った。
「……そこのドール組、静かにしないとはっ倒すぞ!」
「静かにしまーす――って、それじゃ、西部さん、明日からは自分のリカちゃん人形、アルちゃんだっけ? その子、連れておいでね。型紙もあるけど、本人に合わせながら作る方が奇麗に仕上がるから」
 そう和夏子が切れ長の瞳を緩めながらそう言うと、伶奈はひと言だけで返事をした。
「えっ?」

「……――って感じで話の流れでリカちゃん人形が必要になったから、しょうがないから、穂香に教えて貰った大きめのスーパーのオモチャ売り場で買ってきたの……」
「……まあ……私のために買ってきてくれたんだ……思うと、感謝しなきゃいけないと思うんだけど…………貴女、バカよね」
 ため息交じりにアルトが呟く。その姿は昨日伶奈が買ってあげた服。余りしない格好はよく似合ってはいるのだが、やっぱり、少し違和感を感じるというかなんというか……その顔からプイッとそっぽを向いて、少女は応える。
「フン……奇麗に出来上がっても、アルトには上げないから」
 そう言った視野の外から妖精の声が聞こえると、少女はその方へと顔を向けた。
「……なんのために作るのよ……?」
 昨日買った服を大事そうに着ている妖精が肩をすくめて笑っていた。その妖精の顔を見下ろし、少女も頬を緩めて笑い、そして、言う。
「……………………さあ?」
 そんなアホな会話をした翌日から、早速、伶奈はリカちゃん人形と共に登校するようになった。まあ、正直の所、学校にリカちゃん人形を持っていくのはかなり恥ずかしい……と思ったのだが、ドール組三人はカスタムドールって言うのをそれぞれ、数体ずつ持って来てるし、一番大人っぽい和夏子が伶奈に気を使うかのように、リカちゃん人形……ああ、シャルロットだったか? “彼女”を連れてきて服を作ってくれてるおかげもあって、恥ずかしさは随分、緩和されていた。
 そして、昨日は別れて座っていたが今日は四方会残り二人もドール組三人が座る作業台に一緒に座ることにした……と言うか、伶奈が座って貰えるようにお願いした。知らない人の所で一人で作業ってのは寂しすぎるからだ。まあ、作業台の広さは十分にあるから、六人で作業をし始めても大きな問題はないだろうし……
 そんな感じで席に着くと正面に座っていた希花が伶奈に声をかけた。
「どんな服を作りたいの?」
「……アルトはゴスが良いって言うんだけど、私はズボン……――あっ!」
 語る言葉が途中で止まったのは、隣で飛行機なんだかロボットなんだか解らないプラモデルを作っていた蓮が、伶奈の膝をコツン……と軽く蹴っ飛ばしたからだ。
 その合図にしまった! と少女は首をすくめた。
 しかし、返ってきたのは全く違う反応だった。
「ふぅん……その人形、アルトちゃんって言うんだ? まあ、それは良いんだけど……西部さんは和夏子派かぁ……」
 ため息交じりに呟く希花の隣、切れ長の瞳をきらきら輝かせているのは和夏子さん。
 椅子から立ち上がったかと思うと、端切れや型紙、ドールなんかが散乱する作業台に身を乗り出して、伶奈の手をぎゅっ! と握りしめた。
「そうでしょ!? そうだよね!? ちゃんと、話し合ったら、みんな、好みとか教えてくれるよね?! 私が似合うって思ってる服を着せても、好みじゃなかったら嫌そうな顔、するよね!? ほら、見なよ! 西部さんだってそう言ってるじゃない?!」
 一方的に盛り上がる和夏子の顔をぽかーんとした表情で少女は見上げる。その右手は彼女の両手でがっしりと捕まれてて、そこから逃げ出すことも出来ない。
 一方、話を振られた希花は投げやりな様子。
「……はいはい……いくら大事にしたって、ドールが喋るわけないじゃん……」
「喋るの! 希花の心がどどめ色だから聞こえないだけ!」
 ぴしゃり! と和夏子が言えば、希花も黙っていられない様子。ばんっ! と作業台を両手で叩いたかと思うと、そのまま、すっくと立ち上がる。
「私の心は奇麗なサーモンピンクだし! ぴっちぴちのぴっくぴくだし!」
「下品なこと言うな!! アホ!!!」
 そして、始まる口げんか。
 ちなみに和夏子は伶奈の手を握りしめたまま、離しやしない。
「サーモンピンクを下品に思う方が下品なんです! このむっつり!!」
「なんですって!?」
 そして、一人、蚊帳の外だった凉帆が苦笑いでいくつかの型紙が入った袋を伶奈の方へと押し出した。
「あの二人のことはほっといて良いから……こっちがズボンの型紙で、ゴスだったら……ワンピースとかが良いのかな? この辺を使ってみたらどう? レースのリボンなんかを使えばゴスっぽくなるよ。後で参考になるネットのページ、教えてあげるね」
「「お前は一人だけ良い子になんな!」」
 見事な唱和だった。
 そんな感じで始めた服作り。もちろん、いきなり上手に出来るはずがない。最初に作ったズボンはあっちゃこっちゃが引きつったり、縫製が悪くて穴が開いてたりと散々の出来映え。何回もやり直したせいで、生地の一部はぼろぼろだ。
 上げる上げない以前に、正直、見たくもない感じ。アルトジュニア(リカちゃん人形のこと、命名穂香、通称『ジュニア』)に三日ほど着せたら、後は喫茶アルト二階、自室の机の中に片付けるという形で、封印がなされた。
 それから二着目はワンピース、アルトご希望の――
「レースがたっぷり着いたひらひらのシルクのワンピース。どうせ、出来る頃には暖かくなってるから、ノースリーブが良いわ」
 ――を製作することにした。
 ハードル高いなぁ……なんて思いつつ、アルトの服を作り始める。
 伶奈がワンピースの製作を始めた翌日、穂香がボール紙でハリセンを一つ作った。
 どこで調達したのかは知らないけど大きなボール紙、縦横一メートルくらいだろうか? それを幅十センチくらいの蛇腹に折ったら、ガムテープで根元をしっかり固定して、出来上がり。
 そして、その大きなハリセンを作業台の真ん中に置いたら、彼女は言った。
「伶奈チのおでこに縦線が生まれたらこれで突っ込む」
「ちょっと!? それ、イジメだよ!? イジメ!!」
 伶奈が思わず抗議の声を上げるも、穂香は平気な顔で言葉を続ける。
「だって、伶奈チ、おでこに強烈な縦線刻んで、ひと針ひと針縫ってんだもん。そんなんだから、生地が突っ張ったり、引きつったりするんだよ。何回言われても治らないじゃん」
「うぐっ……」
「そういう訳で、おでこに縦線を刻んだら、突っ込みを入れる! 他のみんなもやって良し!」
 そして、放課後の家庭科実習室には、しばらくの間、ハリセンの気持ちいい音が響き続いていた。
 さて、そのハリセンでの指摘が功を奏したのかどうなのかは解らないが、スヌーピーの刺繍やズボンの時に比べると、生地が引きつったり、突っ張ったりするのは幾分マシになってきた。
 しかし、ゴスロリワンピースとなれば作るのには結構な時間も必要になってくる。それは、一月が終わり、二月も終わりが近づき、三月の声が聞こえ始める頃まで掛かった。
 その頃になると、周りで奇麗なカスタムドールを弄くり回しているドール組三人の姿を見てると「私もカスタムドールが欲しいなぁ……」とか思い出しちゃうのは、仕方の無いことだろう。
(でも、まあ、アルトの方が……可愛いかも…………喋らなきゃ)
 なんて事を考えて、我慢、我慢。下手にあそこに突っ込むと、いくらお金があっても足りない気がする。実際、彼女らはいつも赤貧にあえいでいた。ハマ屋のたこ判すら、滅多に食べないほど。和夏子に至っては「携帯を持たない代わりに、ドールにお金を出して貰ってる」そうだ*。
 そんなある日、二月の中頃、ちょうど、バレンタインデー前後の当たりのことだった。
 放課後の部活の最中、一人の女生徒が教卓の上に上がった。高等部二年、手芸部の部長さんだ。
「えっと、そろそろ、年度末なんで、今年一年の活動成果をまとめる時期になりました。みなさん、それぞれ、好き勝手にクリエイティブな活動をしてたと思いますが、その成果物その物か、それが無理なら写真に撮って、提出してください」
 とのお達しを部員一同に下した。
 これをちゃんと出しておかないと、部費はもちろん、家庭科実習室の使用権までも奪われてしまうそうだ。
 まあ、部費は文化部らしく雀の涙ほどもなく、それらは型紙を印刷したり、グルーガンを買ったり、プラモ組が使うエアスプレーに化けたりしているらしい。
「西部さんはそのアルトちゃんのゴスロリドレスで良いんじゃない? 今回は結構上手に出来てるわよ」
 凉帆のお墨付きを貰えるとなんだか鼻が高い気分。少女はコクンと小さく頷き、これを後で写真に撮ろうと決めた。
 そして、それから数日後の夜……夜勤の母がいない夜を、伶奈は喫茶アルトの二階で過ごしていた。
「アルト、着てみる? あらかた出来たんだけど」
 そう言って、彼女は部屋にまで着いてきていたアルトに自作のゴスロリドレスを見せた。一応、サイズは今のところ「ジュニア」の寸法に合わせているから、後で若干の手直しは必要だろう。しかし、ひとまずは出来上がったと言って良い状態にまでなっていた。
 正直、今回はちょっと自信作。
 白い絹を丁寧に縫い合わせ、その上に幅の広いレースのリボンをボンドで貼り付け、幾重にもヒダを重ね合わせたゴスロリのワンピース。普段アルトが着ている物と比べても遜色ない……と思うのは制作者の欲目だけではないはずだ。
「ふぅん……まあまあって所ね……って、冗談よ、冗談、よく出来てるわよ。速攻で目元が怖くなったわよ」
「ふん! 余計なことを言うからだよ。早く着て見せてよ」
 少女がせっつけばアルトは今着ていた黒ゴスのドレスを脱いで、するすると少女自作のドレスを着てみた。
「奇麗によく出来てるわ。むしろ、奇麗に出来すぎてるせいで、ウェストが緩いわね、ジュニアに合わせすぎよ。後は……肩も落ちてないし、丈は……もうちょっと短くても良かったかしらね? でも、うん、素敵なドレスだわ、気に入ったわ」
 ノースリーブの背中は少し大きめに開けていて、羽の動きも邪魔しない感じ。背中もちゃんとジッパーを使ってるこだわりの逸品。それはアルトも気に入ってくれたようで一安心。この一年、手芸部での活動が実を結んだようで、凄く嬉しい。
 クルンクルンと踊るようにアルトはテーブルの上で右左に体を揺らす。その度に柔らかい裾がふんわりと広がっていた。
「じゃあ、気に入ってくれた所、悪いんだけど、ちょっと脱いでくれる? ジュニアに着せて、写真を撮るから」
 と、少女が言った瞬間、アルトの動きがぴたりと止まった。
「へっ? ちょっと待ちなさい」
「……なんだよ……活動報告が必要なんだから、早く脱いでよ……」
 伶奈が眉をひそめて言えば、アルトはふるふると首を左右に振って見せた。そして、軽く裾をつまんで、彼女は言った。
「……もう、これは私の服なのよ」
「……まだ、上げてないよ……?」
「……そう言う問題じゃなくて……まあ、良いわ、すぐに解るし……ジュニアにこの服を着せたら、美月でも凪歩でも良いから見せてらっしゃい。私の言ってる意味がわかるから」
 変なことを言うなぁ……と思いながらも、ぱっぱっとアルトが脱いだ服をジュニアに着せる。
 そして、妖精が言ったとおりに階下へと下りる。
 店内は未だ営業中、客の減った閉店間近のフロアでは凪歩がのんびりと仕事をしていた。
 その凪歩を捕まえ、少女は言った。
「ねえ……これ……」
 そう言って、ジュニアを差し出すと、凪歩は軽く小首をかしげていった。
「……なんで、裸なの?」
 もちろん、裸ではなく、伶奈お手製の白ゴスを着ているわけだが…………
 その白ゴスを着たジュニアと不思議そうな顔をしている凪歩の顔を見比べること、三回。少女はようやく気がついた。
「……………………あああああああ!!!!!!???」
 悲鳴のような大声を一発。途端に数人の客が伶奈の顔を見るも、伶奈はそれを無視して、踵を返す。
 そして、ばたばたばた!!!!!!!!! と、一気に階段を駆け上がって自分の部屋へ!
 そこでは、下着姿の妖精さんが机の上でのんびりとくつろいでいた。
「どうするんだよ!!!???」
 血相を変えた伶奈の顔を見上げて、妖精は答える。
「……どうしようもないわよ……」
 そして、アルトはため息交じりに言った。
「『これは私の服』と思った物は、人間の目から消えちゃうのよ……そうじゃなかったら、私が人形の服を着たら、人形の服だけがふわふわ歩き回ることになるじゃない……」
 って説明は前に受けたような、受けてないような……って、受けたかどうかはもはやどうでも良い。
「そんな!!!???」
 と、言うわけで、今年度、伶奈の手芸部での活動成果はスヌーピーの余り出来が良くない刺繍と縫製が奇麗に出来てないズボンって事になった。
「……例の白ゴスは?」
 不思議そうに希花が尋ねたとき、伶奈は――
「……部屋に置いてったら飛んで行っちゃいました……」
 ――と、答えるのだった。
 事情を知らないドール組三人が小首を傾げる横で、事情を知ってる蓮と穂香が含み笑いをしていた。

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