さて、元旦。伶奈はいつもと余り変わらない朝七時少し前に目を覚ました。母由美子がいつもと変わらない時間に出勤するからだ。いくら母が寝ててもかまわないと言ってくれたところで、枕元でゴゾゴゾやられればイヤでも目覚める。
もっとも、おかげでちゃんと元旦からお雑煮とおせちを食べられたのは、三文以上のお得感。
鰹だしの利いたおすましに芳ばしく焼いた切り餅、他にも鶏肉やニンジン、それからほうれん草に三つ葉と結構具だくさんで美味しい。沢山食べる方ではない伶奈だが、お代わりしちゃうほど。でも、やっぱり、お持ち二つは食べ過ぎだろうか? ちょっとお腹が苦しい。
それ以外にも、もちろん、おせち。出来合ばかりだし、そもそも、子供が喜ぶような物は多くないのだが、とろけるほどに甘い栗きんとんと分厚く切られた紅白のかまぼこは譲れないところ。このかまぼこにちょっぴり、ほんのちょっぴりのワサビをちょこんと乗せて、お醤油をつけて食べるのが最高に美味しい。
パジャマのまま、トレードマークだったのも過去の話になろうとしているすだれ髪も未だそのまま、未だ寝起き百パーセント言った感じの伶奈がペチン! と手を合わせていった。
「ごちそうさま」
「お粗末様でした」
そして、いよいよ、年に一度のお楽しみの時間。
通勤着にしているブラウスとタイトスカート姿の母がハンドバッグから小さなポチ袋を取り出した。そして、それが伶奈の方へと差し出される。もちろん、中身は――
「はい。お年玉」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げて、ポチ袋を受け取る。そして、可愛いポチ袋を受け取り値、中身をちらりと覗き込んだら……
「おっ? おぉ?? おぉぉぉぉぉ〜〜〜!!!」
一葉さんかと思っていたのが諭吉様!
思わず、間抜けな歓声が上がるほど。
「お小遣いも渡してないし、携帯の料金も払わせてるから……年に一回くらいはね……? でも……びっくりしたからって、その声はないわよ……」
頬杖付いて呆れてる母の顔からプイッと視線を逸らして、少女はぼそぼそと漏らす。
「だっ、だって……五千円だと思ってたし……」
ちなみに去年は三千円……って、まあ、去年の今頃の事なんて思い出したくもないけど。
「無駄遣い、しないようにね。さてと……のんびりしてたい所だけど、時間ね、今夜は夜勤だから、アルトの方に泊まって。おじさんや美月さんにご迷惑をかけないでね。バイトの日じゃないけど、少しくらいはお手伝いするのよ」
いつものお決まりのセリフを口にして、由美子が席を立てば、少女もお決まりのセリフで返事をする。
「はいはい」
「『はい』は一回で良いわよ。もう……それじゃ、行ってくるわね」
「はーい」
ブラウスの上からコートを一枚羽織ると、母は席を立った。もう、出勤するらしい。
その母と一緒に玄関先へ。
ドアを開いて、外に出ると冷たい朝の風が少女の顔を優しく撫でた。
廊下の向こう側には真っ青に晴れた冬の空。気持ちよく晴れているけど、どこか寂しげなのは、風が冷たいからかも知れない。その風は未だ寝間着姿の少女には少々辛い。
「それじゃ、いってきます」
「行ってらっしゃい……」
母を見送ったら猫背でとっとと部屋の中。暖房の効いてる部屋に戻れば、ホッと安堵の吐息がこぼれた。
一人の自宅にいるのも暇ではあるのだが、彼女には待っている物があった。
それは年賀状。
あけおめメールは二年参りから帰ってすぐに四方会のメンバーを始め、クラスメイトみんなに送りはした。送った相手からも帰っては来ている。しかし、やっぱり、年賀状も欲しい。
事前の話し合いでは四方会の面々はもちろん、他のクラスメイトからも来る予定。どんな年賀状が来るのか、少し楽しみにしていた。
伶奈の年賀状は事務所兼倉庫にあるパソコンで印刷したもの。図案はアルトのロゴをメインに今年の干支、
「この妖精は私なの! 猿とツーショットはイヤ!」
と、妖精マークのアルトのロゴを『自分』と言い張ってる妖精さんが力一杯反対したので、初日の出の絵と賀正の筆文字フォント。ちなみに絵は灯に捜して貰ったフリー素材を使わせて貰った。まあ……手抜きと言えば手抜きではあるが、絵心のない伶奈にはこれが精一杯。ちゃんとひと言ずつ、筆ペンでメッセージも添えたから許して貰おう。
そのメッセージ、蓮には『メッてしないでね。今年は勉強も負けません』、美紅には『今年も突っ込み頑張ってね。私も頑張る』で、突っ込まれ役の穂香には『真面目に生きよう』にした。
そしたら、後で穂香から『私はいつも真面目に生きてるもん!』ってメールが来るのだが、それは元日夜の話で、まだまだ、先。
喫茶アルトには毎年十時から十一時くらいの間に届けられると言うから、その近所であるこのアパートもそれくらいの時間には届けられることだろう。
しかし、問題はここの郵便ポストだ。
それは、一階階段横にある。
伶奈の部屋は四階。
届けられても解らない。
何回も上がったり下りたりしたくなければ、十一時くらいに取りに行くのがベストだろうか?
ただいまの時刻八時ちょっと過ぎ。
「三時間……」
部屋に一人。
外はまぶしい寒晴れの空。
(元旦から何してるんだろう……私……)
そんな思いが少女の心を占拠した。
まあ、考えてても仕方ないから、とりあえず、スマホでゲームをしたり、お気に入りのウェブ漫画を読んだりで時間を潰す。ゲームは無料で出来て、課金の必要もない緩い物を少し。漫画の方もただで読めるシロウトさんの書いた投稿漫画ばっかり。本の類いも買ってはいるのだが、それはだいたいアルトの部屋の方に置いてて、こちらにはない。
後はテレビでも……なんだけど、基本的に余り面白くない。田舎だけあって、チャンネルも少なく、その少ないチャンネルだって、だいたいが余り興味のない正月特番。好きなジャニーズタレントが出てるのを選んでみてるけど、まあ、内容は微妙なところで、数自体、多くない。
まあ、ゲームをやりながらBGM代わりに着けておくのには、ちょうど良いのかも知れない。
ちまちまちまちま……
『明けましておめでとうございま〜〜〜〜〜す』
どっか〜ん……
「ちぇっ……難しいよ……」
舌打ちと共につぶやいたら、ゲームを再開。
ちまちまちまちまちまちま……
『いよいよ始まりました、新年ですが……』
…………………………
ちらりと視線を壁の時計に向ける。
なんと驚くことに十五分“も”過ぎてた。
「あああああああああああああああああ!! もう!!!」
無駄に大声を上げると、少女はスマホをテーブルの上に投げ出した。そして、ごろりと床に引かれたラグの上に寝っ転がる。毛足の長いファーが手触り良くて気持ちいい。
アイボリーの天井と明かりの付いてないシーリングライトを見上げる。
アルトの二階の部屋なら、良夜が置いて行ってくれた据え置きのゲーム機とソフトが何本かある。それをやってれば、それなりに時間を潰すことも可能なのだろう。しかし、あいにく、こちらには持って来てない。それに、アルトなら、アルトがいる。お気に入りのジャズでも聴きながら、あーだのこーだの喋ってたら、時間なんてあっと言う間に過ぎただろうに……そのアルトもこっちにはいない。多分、アルトのフロアーでだらけてんだろう。
(せめて、ジェリドでも居たら良いのに……)
つまらない番組しか流さないテレビの向こう側、アイボリーの壁へと視線を向ける。
多分、その向こうはお留守だ。
昨日の夜、灯や俊一、翼、凪歩と一緒に車に乗って、灯の家に行ってしまった。そのまま、泊まったのだろう。凪歩と翼がいるから、宅飲みとかやってても不思議じゃない。
(翼さんと凪歩お姉ちゃんもお休みだっけぇ……今日……)
腕枕をして、テレビをぼんやりと見やる。
やっぱり、余り面白くないので、少女はテーブルの上に投げ捨てたスマホを拾い上げた。
そして、寝転がったまま、友人達にメールを送る。
『暇 相手して 07』
ひどく簡単なメールであるが、だいたいにおいて、四方会のメール雑談の始まりはこんな感じの簡単なメールからだ。
しかし、この時……
穂香。
初詣中。携帯は肩から提げたハンドバッグの中で、周りの喧噪に紛れて、気づいては居なかった。気づくのは一時間後。
美紅。
安定のジョギング中。携帯は持って出てなかった。帰るのは一時間後。
蓮。
爆睡中。起きるのは一時間後。
だった……って事をファーの上に寝転がってる少女が知る由もない。
そして、知らぬまま、二十分待ちました。
結果、彼女は判断した。
(今日の世界は私に意地悪……)
ごろごろ……ごろごろ……ファーのラグの上で何回も寝返りを打ってみる。このまま、寝ちゃえばいいのかも知れないが、なんか、全然、眠くない。
むくりと起きたら、少女はついに決断を下した。
「勉強でもしよ……」
暇だから勉強するって言うのは、子供らしくないと自分でも思うが、他にすることもないんだから仕方がない。
ごそごそ……と、部屋の隅っこへと四つん這いで行けば、そこには小さな紙袋が一つ、置かれてあった。中を開けば、そこには灯から預かってる問題集。恐ろしく勉強が出来ていたという兄二人に買い与えられた問題集達だ。まあ、時々、変な落書きがあるから、気をつける必要があるのだが……
その中から問題集と大学ノートを取り出す。
そして、思い出す。
「……全部、やったかも……?」
「全部、終わらせちゃったから……新しいの……あるかな?」
「ああ……一年の分はそれで終わりかも……ちょっと早いけど、年が明けたら、二年生の分を予習しちゃおうか?」
喫茶アルト窓際隅っこ、いつもの席、降りそうなほどの星空が連れてきた冷気が窓ガラス越しにも伝わってきそうな夜。そこで行われた去年最後の家庭教師、その時にこんな会話をした記憶がある。
がっかり……こうなると一気にやる気を失うというのが人情という物。一度やった問題集をもう一回やっちゃいけないって言う法律はないんだから、二度三度とやれば良いのだが、この時の少女は――
「…………もう、良い、やんない」
ぽいっと問題集を投げ捨て、再び、ラグの上へとひっくり返った。
時間はまだ四十分ほどしか経っていない。この調子であと二時間二十分……
「……暇すぎて死ぬ……」
ぐでーーーーーーーーっと今度はファーのラグの上にうつぶせ寝になってダレてみる。
そして、少女はすっくと立ち上がった。
「着替えよ……」
独り言を呟き、パジャマをぽいぽい……その下には下着代わりのTシャツ、それも脱いじゃう。残るはショーツだけというあられもない姿。いくら暖房が効いててもこの格好は寒い。手早くブラを用意したら、少しずつではあるが膨らんできている胸元にブラを着けて、キャミも着て……今日は暖かいネルシャツに、いつものオーバーオール、カーディガン、それから靴下。最後にヘアピンですだれ髪を開いたら完成だ。
そして、改めて寝っ転がる。
事態は全く改善されない。
否、正確に言うなら、十分だけ、時間が進んだ。これでそろそろ一時間と言ったところだ。
…………まあ、改善されてないも同然か…………
しょうがないから再びゲーム。ちまちまと始めたのは落ち物パズルゲーム。指先でくるくると動かして、消していく奴だ。いい加減飽きてきてるのだが、他にパッとした物が無いからしょうがない。
(新しいの探そうかなぁ……)
そのゲームをやりつつ、頑張って更に三十分の時間を潰した。
ピーポーピーポーピーポー
救急車のサイレンの音……
ちょうどゲームもゲームオーバー。少女はテーブルの上にスマホを返すとぐーっと背伸びをしながら、ベランダへと足を向けた。
ベランダに出れば、お日様の日差しは気持ちいいけど、風は冷たい寒晴れの元旦。ぶるっと身体を軽く振るわせて、少女は足下を国道へと目を落とした。
ちょうど、上り車線を一台の救急車が走っていくのが見えた。
(お正月も多いって言ってたなぁ……)
お餅を喉に詰めたとか、酔って階段から落ちたとか、急性アルコール中毒だとか、交通事故なんかも多いとか言ってたか? 最近は飲酒運転も減ったみたいだが、それでも寝不足で運転してて……ってのは良くあるそうだ。
「お母さんも大変だ……」
呟いて少女は踵を返……そうとしたところに一台の車がアパートの前に止まった。
目が覚めるような真っ白い車体、大きくて高級そうなセダンは学生が多いこの辺りでは余り見ないタイプだ。
「灯センセ?」
思わず、少女が呟いた。
見覚えのある車に少女が呟き、それが正しいかのように駐車場にえっちらおっちらと滑り込んだ車からは見覚えのある三人組が降りてきた。
さすがに声までは聞こえないが、それでも楽しげになにやら大騒ぎで話をしている姿。それが、四階のベランダからもよく解った。
その三人組がエントランスへと入った。
そして、冷たい風と気持ちいいお日様に当たりながら一分ほど、ぼーんやり……したら、少女はぱたぱたと玄関へと向かい、ドアを出る。
ちょっと早かったらしくて、三人組はまだ上がってきてないみたい。
まあ、待ってればそのうち来るだろう……と思ってる間に彼らは上がってきたようだ。
階段の向こう側から楽しげな声が聞こえてきた。
「あのイベント、終わらなかったなぁ……」
「三十個は多いよ……」
「あっ、俺、ラストまで行けたぜ? 貰ってどうだって代物だけどさ」
灯、俊一、そして、悠介の楽しげな声が段々と大きくなってきて、その会話の内容まで聞き取れるようになる頃、ひょいと三人が階段から続く曲がり角から顔を出した。
「あっ、伶奈ちゃん、おはよう。お出かけ?」
最初に声をかけたのは灯だった。
「ううん……上から見てたらみんな、帰ってきたみたいだから……」
「会いに来てくれたんだねぇ〜お兄さん、うれ……――冗談だから、ひかないで」
オーバーアクションで両手を広げる俊一から軽く後ずされば、その顔が苦笑いへと変わった。その俊一に伶奈も「あはは」と乾いた笑みを浮かべて、苦笑い。
「うっす、くそジャリ。元旦早々、脳天気そうな顔してんな?」
「元旦早々、ゲームの話をしてるジェリドに言われたくない」
そして、悠介はいつも通りの減らず口。この程度なら、今更言われたからって、傷つく物でもなければ、腹の立つ物でもない。眉をひそめて、冷静に反論。
「……それは他のメンツも一緒だぞ……っと、あっ、俺、煙草、吸ってから入る」
伶奈の言葉にそう答えると、彼は自室のドアの前へと移動した。そして、ガチャガチャと鍵を開けたら、彼は首だけを中に突っ込み、部屋の中からいつものたばこ盆を取り出す。どうやら、下駄箱の上に常駐させているらしい。
「今日は付き合うさ」
「伶奈ちゃんいるしな」
悠介の言葉に灯と俊一が答えた。そして、三人並んでドアの前にウンコ座り……している様は見目麗しき物ではない。一人一人の顔は悪くないと思うんだけど……
「みんな、暇なの?」
呆れ声で少女が言うと、三人は互いの顔を順番に見合わせると、改めて伶奈の方へと顔を向け、コクンと頷いて見せた。
そして、代表するかのように灯が言った。
「割と暇」
「そう言う伶奈ちゃんは?」
尋ねたのは俊一。その彫りの深い、日焼けした顔を少し見下ろしながら、少女は答えた。
「私は年賀状、待ってる」
「年賀状なぁ……」
ぼんやりとした口調で悠介は呟き、数秒……何かを考えるように静かに煙草を吸い、静かに紫煙を吐いた。
紫煙が青い空へと霧散していくのを少女はなんとなく目で追った。
そして、彼は煙管の雁首を灰皿(正しくは火入れと言うらしいが伶奈は知らないし、興味もあまりない)に差し込んだら、彼は自室の中へと引っ込んでいった。
「火、大丈夫なの?」
少女が思わず尋ねると、俊一は軽く肩をすくめて答えた。
「こう言うのは吸ったり吹いたりしなきゃ、燃えない物らしいよ……まあ、何時間もいなくなるわけじゃないだろうし……どうしたんだ?」
そして、待つこと、一分ほど……
「ほら、年賀状」
出てきた悠介が伶奈に一枚の年賀状を手渡した。
干支の申と初日の出、それから賀正の文字が配された年賀状は、伶奈が友人達に出したのとよく似ている。おそらくは同じ素材サイトで見つけたものを利用しているのだろう。灯が見つけてくれたものだから、悠介も同じ所のを使っていても不思議じゃない。
「あっ……ありが――」
礼を言いながらひょいとひっくり返せば、そこには『西部ジャリ様』とボールペンでの走り書き。
ちらり……と視線を落とせば、再び、ウンコ座りで煙管をくゆらせる青年の姿。その横顔が嬉しそうに緩んでいるのが腹が立つ。
そして、少女はくるりときびすを返して、自宅の中へ……確か、茶箪笥の中に余らせた年賀状が何枚か入っていたはず……と引き出しを開ける。中にはこの一年で溜まった必要なのか不要なのかもよく解らない書類が一杯。その中には余った年賀状も何枚か入ってあった。その中から三枚選んで引っ張り出したら、少女もボールペンをその上に走らせる。
そして、最後の一枚には念を入れて……出来上がり。
ぱたぱたと足音を立てて外に出ると、未だ、三人がウンコ座りのままで、何か楽しそうに話をしていた。
「はい! これ! みんなに!」
そう言って、少女は三人に年賀状を配った。
「あっ、ありがとう。俺も一応、年賀状出してるよ」
「えっ? そうなの? わっ、もっとちゃんとしたの、後で出す……」
「良いよ、これで……手渡ししてくれたし」
家庭教師の灯には住所も教えてあるから当然と言えば当然なのかも知れないが……出してくれてることを知れば急に恥ずかしくなってしまう。顔を真っ赤にして少女はクシュンとうつむいた。
「おっ、シュン君になってる。ありがとう、伶奈ちゃん」
次に声を出したのは俊一……ちなみに「シュン君」にしたのは『真鍋』も『俊一』も漢字が良く解らなかったから。特に「シュンイチ」はいくつも書き方があるのに、教えて貰ったことはないから解らない……って事を言うと落ち込むだろうから、言わない。
そして、最後が……
「……バカ……バカ」
最後に残った悠介が二回『バカ』と呟いたのは、宛名のところに『バカ様』と書いた上に、裏面、アルトの妖精マークと初日の出なんかが印刷されたる面に極太マジックインキででかでかと『バカ』と書いてあるから。
煙管と年賀状を握った青年がじろりと少女の顔を見上げて、呟くように言った。
「……正月早々、楽しいことをしてくれるじゃないか? クソジャリ……」
その顔を真っ正面から見返しながら、少女は叫ぶ。
「最初に喧嘩を売ったのはジェリドじゃんか!!」
「お前の正式な名前は西部ジャリだろう!?」
「じゃあ、ジェリドは、ジェリド・バカだ!」
言い合う少女と青年の横、二人の友人、灯とシュンは嘆息しながら、呟いた。
「……今年も平和そうだなぁ……」
「平和が何よりだなぁ……」
なお、この時、伶奈のスマホには四方会三人からのメールが届いた上に、伶奈をほったらかしでメール雑談が始まっていたし、一階階段横の郵便受けにはすでに年賀状が届けられていた。
そして、後にこの時悠介に渡した年賀葉書で切手シートが当たった……って話を聞いて、なんか、伶奈は負けた気分になったって話は、完全なる余談である。
他に出したのは一枚も当たってなかったのに……
ご意見ご感想、お待ちしてます。