流星群の夜
こんばんは、幽霊です。ども。珍しく詰めて日記を書いてます……と、言うことを書いても、リアルタイムに読んでる人はともかく、後からまとめて読んだ人には何も伝わりませんね。意味のないことを書いてます。
さて、本日はペルセウス座流星群の日のです。毎年、このくらいの時期に来るらしいのですが、去年は乾物コーナーから磔の刑からの解放が嬉しく、一晩中、ホラー小説を読んでいました。夏の夜はホラー小説です。
後、ハーレクイン。
フランス書院。
どうでもいい話です。
と、言うわけですので、屋上に来ました。天体観察にはここがベストだと思います。
この辺りは再開発地区と呼ばれるわけですが……密かに私は別の名前で呼んでいます。特にここ半年くらい。
再開発停止地区。
見事に止まっています。原油高の煽りを食らった不景気の影響でしょう。
ざまーみやがれ。
別に世の中に不満を抱いてるわけではありませんが、なんとなく言ってみました。悪霊ぽかったですか? 私の恐怖に暑い夏を気持ちだけでも涼しく過ごしてください。
おかげでこの店が閉店すると、周りは真っ暗です。下の方には街灯がポツリポツリと散見できますが、他には何もありません。エロい事し放題ですね。ドキドキです。
まあ、どうでも良いですけど。別に……本当ですよ? 本当にどうでも良いんですよ? 疑った方、呪います。エロイ事が出来なくなる呪いです。
ごろんと屋上駐車場に寝転がります。夏の熱気を残したコンクリートはこの時間になっても結構ぬくぬくです……つか、これは明日の朝までに熱が抜けないと思います。ヒートアイランド現象と言う奴です。世の中的には大変らしいですね。地球温暖化とか。
しかし、幽霊的には過ごしやすくて嬉しいです。変温非生ものですから。
ついでに地球全部滅んでみんな一緒に非生ものライフを楽しみましょう。意外と楽しいですよ? いえ、本当に。
さて、駐車場から見上げる空、本日、昼間は嫌味なほどの晴天と異様なほどの暑さでしたが……今は微妙に曇ってます。特に南の空、ちょうど海の向こう辺り、低い所に雷雲があるようです。時折、思い出した頃に光ってます。天頂辺りは見事に晴れ上がり、うっすらと天の川も見えているのですが……
これは時間との勝負かも知れません。お月様が沈む一時少し過ぎから見やすくなり、ペルセウス座が天頂にさしかかる三時くらいがもっとも見える時間帯らしいです。
インターネットで調べました。褒めてください。
しかし、南の空、低い所ではぴかぴかと雷様が光っていらっしゃいます。雲がこちらに近づくのが先か、流れ星が見えるのが先か……
とりあえず、神様に祈っておきます。
下でグースカ熟睡してるバカガキがとっとと成仏することを……じゃなくて、私が流れ星に己が欲望の全てを願い終えるまで、空が晴れていることを、です。
まあ、こちらが叶うんでしたら、流れ星にお願いする前にそのどこの誰とも知らない神様に己が欲望の全てをかなえて貰えばいいわけですが……
等とくだらない事を考えている内に、そろそろ、一時です。お月様が西の空に沈んで、辺りは漆黒の闇と満天の星空、ついでに出しゃばりな雷様との競演が始まりました。
本命のペルセウス座はまだ低い位置でして、雲に隠れてしまっています。ちなみにペルセウス座流星群は放射点――要するにここを中心として流れ星が流れると思ってください――がペルセウス座にあるのでペルセウス座流星群と呼ばれています。豆知識です。
今日、インターネットで仕入れたばっかり。
ところでペルセウス座ってどれですか? 低い位置にあって雲に隠れて居るであろうと言うことは、今日、ネットで仕入れたばかりの知識として知っています。……がどれがペルセウス座でオリオン座やら、さっぱり判りません。
星、多すぎです。まるでビーズをばらまいたように星が沢山見えます。略図に乗ってた星以外にもたくさんの星があるように思えます。そう言う状況ですので、星座なんてさっぱり判りません。見ようによっては三つ四つくらいペルセウス座を想定できそうな勢いです。
星図早見表を取ってきます。書店コーナーから。しばしお待ちください。
お待たせしました。一行の間に十分ほど経つ不思議です。
えっと……ダブリューの形をしたカシオペア座のちょっと下辺りらしいです。後、三角座というのがそばにあるそうです。
……考えた人、まじめに死んでください。三角座って、星を適当に三つ選べば三角じゃないですか……いったい何を考えてこんな星座を制定したのか、私にはさっぱり判りません。
もっとも、ダブリューの形がどうしてカシオペアさんに見えるのかと言うことも理解できませんが……
ともかく、まだしばらくは見えそうにないと言うことだけは、ぎりぎりのところで理解しました。
仕方ないので、コンクリートの上に寝転がってその時を待ちます。こうしていれば、勝手にペルセウス座は私の頭の上辺りまでやってきて、適当に流星ショーを見せてくれることでしょう。
あと一時間もしたら。
くっ、くじけてしまいそうです……
そんな時でした。
「まだ、早かったかな?」
「うーん……下の方、雲が出て来ませんか?」
下から聞こえてくるのは脳天気なカップルの声。おそらくは私と同じように流れ星観察にここまでいらしたのでしょう。近隣では空が開けてて、余計な光も少ないので、ベストなチョイスだと思います。
雨降れ。
雷落ちろ。
軽くむかついたので呪っておきます。特に片方に聞き覚えがあるような気がしますが、気のせいだとしておきます。余計にむかつきますのでっ!
…………日々、ローテンション、心穏やかに成仏し損ね続けることを是とする私らしからぬ発言がありました。忘れてください。
しかし……と、私は改めて辺りを見渡してみました。
深夜、暗がり、アベック。
見守りましょう。生暖かく。
後、小一時間ほどは割かし暇なのでのんびり見守れます。
で、見守りました。
……根性なし。
女性がそんな風に無防備にも眠りに落ちていながら、肩を抱くだけとは何事ですか? 押し倒さずしてどうしますか? バカですか? あなたは。根性なしです。ヘタレです。見損ないましたというか、思ってたとおりでしたというか、むしろ思っていた以上でしたというか、どう突っ込んで良いのかも判りません。やれやれです。 呆れてしまいます。
珍しく口汚く他人を罵ってしまいました。反省です。心穏やかに成仏し損ね続けなけれるのが、正しい幽霊道です。
もはや、何が主題になっているか判らない本日の日記ですが、流星ショーのお時間です。
心引かれながらも、どうせ何事もないであろう事を理解し、私は彼らから視線を逸らし、夜空を見上げます。
「あっ、流れましたよ?!」
「どこ?」
女性のはしゃいだ声が聞こえれば、私はとっさにそちらに向いてしまいます……がそちらを見た時にはすでに遅しです。
良く考えたら、女性の方を見ても見えるはずなのですよね。突っ込み所にもならない突っ込み所です。
気を取り直して、私も見つけましょう。私の胸の内にある『欲望のお祈り集』を流れ星さんに託さなければならないのです。
物価上昇が収まりますように……魅力的な特売でお客さんに喜んで貰えますように……この辺りが一番最初です。偽善者と思った方、死んでくださいね。楽な死に方で結構ですので。
そして、数分後。
「あっ……流れた……」
「どこ?」
ヤツの声に思わずヤツの方を見てしまう自分の素直さ加減にむかつきを覚えます。
本気で探します。ノイズは無視します。自分の目を信じるのが一番です。
……
あっ、流れました。
北の空にすーっと一本、長い尾を残して……小さな星の一つがフッと星々の間から浮かび上がり、そのまま、緩やかな弧を描くように雷雲の中へと消えていきました。
そして、次の瞬間、その雷雲がピカッと光りました。雲全体が明るくなるような稲光。全くの偶然でしょう。数秒ごとに光っていたのですから、ありがちな偶然だと思います。
しかし、その偶然こそが自然の美しさであり、すばらしさなのだと思います。
等と私は呆然となりながら、ふと気づきました。
黙って見過ごしてしまっていたことに。世界平和を祈るつもりだったのに、間に合いませんでした。残念ですが、素直に次の機会に掛けましょう。まだまだ、時間はあります。
一時間に最大で五十個くらいらしいですから、一分に一つ、少なくとも数分に一個くらいは……あっ、流れました。今度の尾は少し短め、頭のてっぺん辺り、ふっと浮かび上がったかと思ったら、天の川の中に消えてしまいました。長い尾も綺麗ですが、短い尾も趣があります。切なさ、儚さはこちらの方が上かも知れません。
が、また、祈り損ねました。今度は原油が安くなりますようにと願うつもりでしたのに……残念です。次こそは世界の人々が平和で豊かでありますようにと祈りましょう。まずは世のため人のためです。自分の欲望など、この美しい星空の元では何ともちっぽけではありませんか? 星のシャワーで心の汚れが流れ落ちた気分です。
と、思いつつ、二十個ほどの流星を見過ごしてしまいました。
ええ、もう、見事に祈る暇なんてありません。それもこれも、星空が綺麗すぎるのと流星が儚すぎるのが悪いんです。刹那の瞬間、きらめき、流れる流星が美しすぎるのが悪いのです。切なくなるほどの美しさが、私に願いを託す時を与えてくれません。
もっとどーっと流れてください。寂しくなります。
「綺麗ですねぇ……」
「ええ……凄く……」
そして、あそこで肩を寄せ合ってるカップルの頭を直撃してください。百個くらい。
そんなことを思った瞬間でした。
「あっ!」
天頂付近から一気に水平線近くまで流れる、特大の流れ星!
思わずハイテンションになりました。その勢いのままに、私は叫んでしまっていました。
「スリスリしたい! スリスリしたい!! 素敵な男性にスリスリしたい!!!」
……欲望、そのものを叫んでいました。まあ、世の中、自分が一番大事というわけです。そんなもんです、偽善は良くありません。突っ込み所です。
さて、大事な用事も終わりましたし、流れ星も沢山見ました。向かっ腹が立つカップルの声をこれ以上聞いていても仕方ありません。もう寝ましょう。
お休みなさい。
あっ、余談です。
ペルセウス座流星群がもっともよく見えるのは、八月十二から十三日で、すでに終わっています。しかし、数は幾分減りますが、二十日くらいまでは見られるそうです。お盆休みでお暇な方は、夜空を見上げて、欲望にまみれたお祈りをしてみるのも良いかもしれません。
幽霊さんからのお知らせでした。
後、来年も同じ時期に流れますよ。忘れてなく、なおかつ、その時も生きてらしたら見上げてください。