開始
こんばんは……一部では成仏説も流れた幽霊です、ども。お盆であっても元気にさまよってます。さまよい続ける幽霊ライフです。
ところで……私の日記、今回から『特売幽霊―Second Season―」とかなっているわけですが、大きな意味はありません。ただ、幽霊的にお盆は新年度的なおめでた感があるので着けてみただけです。
別に今年に入って二度目の日記、しかも、この前に書いたのは四月。こんな状況で平気な顔して連番で日記を再開できるほど私の面の皮は厚くなかったというわけではありません。
強いて言えば、今回が記念すべき二十回目なので気分を変えてみようと思っただけです。それだけの事です。たいした理由ではありません。
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本当です。嘘クセーとか言った方、呪います。マジで、本気で、かなり真剣に。死んでください。私のため。
大体、私の面の皮なんてとっくに焼却処分されて、今頃は土に帰ってますよ。かけらすら残ってないはずです。ミイラ化でもしてない限りは、現世にチリも残ってないはずです。骨くらいは残っているかも知れませんが。
ジーーーーーーーーーーーー
まあ、あれですよね、数百年後、ミイラ化した私の骨が掘り返されて「ああ、なんと愛らしい少女が!」とか思われるのもかなりアリですね。私の遺体がミイラになった末、遙か未来で東洋の『ロザリア・ロンバルド』とか呼ばれてみるのも良いかもしれません。あっ、ロザリアちゃんはイタリアのカタコンペで眠っていらっしゃる世界一美しいミイラさんです。詳しくはゴーグル先生にでも聞いてください。ゲイツに聞いてもかまいませんし、禿に問うてみるのも良いかもしれません。
彼女は私の友人です。
一方的に。
ネットで見かけて一方的に友人設定させていただきました。ストーカーの発想だと思った方、呪います。久しぶりなので呪い連発です。
ミイラも幽霊も似たような物でしょう。アンデッド系という事で。愛らしさも似たような物です。親近感がわきます。
「相手、二歳だよ、バカ」
スタイルは私の方が良いかもしれませんが、余り自慢しないのが万事控えめな幽霊さんです。
「二歳児相手にスタイルもクソもねーよ」
まあ、健全な青少年を獣に変える勝負下着を身につける大人の幽霊さんです。多少勝ったくらいで上から目線を使ったりしません。ですが、ミスアンデッドとかがありましたら、私が世界一である事は疑うべくはないでしょう。
「ナイナイ、それはない」
先ほどから、なにやらノイズが入っていますが、私が日記用に使ってるパソコンの調子が悪いだけです。リナースさんちOSはウイルスがないというのが数少ない利点だと思っていましたが、どうやら、どこかでウイルスを踏んだようです。
「最後までボクが居ない体≪てい≫で話を進める気なんだ……?」
普通にテキスト文章を書いているだけなのに、なぜか、妙な台詞が挿入されます。おかしいですね。今度、フォーマットしてしまいましょうか……ため込んだ動画が消えてしまうのは非常に惜しいのですが……
「ボクはかまわないけど、一方的に損をするのはお前だぞ、このバーカ」
「うるさいです。黙ってください……人がせっかく、居ないつもりで書いてるのに……」
私のすぐ横には女の子が居ます。いえ、クソガキが居ます。赤いランドセルを背負ったクソガキです。ずっと以前、私の獲物を奪ったクソガキです。どこかの小学校の制服、生意気にもブレザーです。チェックのスカートは短めで、しかもニーソックス、さらには――
「さらさらヘアーのボブカットが大きなお兄さん達の心をわしづかみする、しかもボクッ娘の幽霊。遠慮なくオカズにして良いよ」
……そう言う事をしたことのある方は、今すぐ、出来るだけ苦しむ方法で死んでください。口にティッシュ詰め込んでの窒息死とかおすすめ。
「お前だってオカズにえすえ――」
「言えば殺します……幽霊といえども容赦いたしません……」
「ぼくぅ〜子供だから良くわかんない」
スカートの裾をつまんで、おどおどしてます。目をウルウルさせる事も忘れていません。媚びてます。媚びを売ってやがります。むかつきます。殺意を覚えるほどのむかつきを今感じています。
まあ……こういう訳です。お盆の帰省組かと思ってたら、ただの浮遊霊だったらしく、当家に居候し始めたやがりました。
「ここはお前ンちじゃねーだろう? 居候なのはお前もボクも同じだ」
こいつが居候し初めてからと言うもの、私が日記を書こうとしたらこうやって邪魔するのです。おかげで、こいつが来てからと言うもの、全く日記が書けていません。
大体四月くらいから。
「嘘吐け。ボクがここに来たのは三日前だぞ。四月なんて、沖縄の辺りで花見してたよ」
……私が双眼鏡で無理矢理花見をしたつもりになってたのに、現地で花見をしていた……と? 許せません。普通に許せません……桜なんて全部枯れちゃえばいいのに……
「スーパーの中、ぐるぐる回るしか能のない地縛霊もどきと気ままで自由な浮遊霊との性能の差だよ。ザクとは違うのだよ、ザクとは。ランバ・ラルとクラウンくらいの違いがあるんだよ。あっ、クラウンてのは初期の方でザクに乗ってて大気圏で無駄死にした奴な」
「……いくつ?」
「ボクぅ、子供だからわかんなぁい」
やっぱり、スカートの裾をつまんで媚びています。都合が悪くなったらこれで押し通すつもりらしいです。ちなみに下着が見えているようですが、描写はいたしません。
「シテよ。せっかく見せてるのに」
イヤです。萌え所は潰していきます。執筆者の特権です。
「チッ……」
憎々しげに舌を打ちました。赤いランドセル背負ったどチビのやる事ではありません。本当にこのクソガキはいったい何歳なのでしょうか? 非常に気になります。
「ボク、十歳だぉ? お赤飯もまだだぉ?」
初潮にお赤飯を知ってる時点で、十歳ではありません。私だってテレビで知りました。
「……あっ」
死んだ後は年を取らないので、年齢不詳で困ります。ちゃんと店頭での年齢確認をして欲しい物です。たばこを買う時ですらやってるのに……
ともかく、ここしばらく、このクソガキが居るせいで執筆が全くはかどりません。おかげで日記を書くのが四ヶ月ぶりになってしまいました。
「だから、ボクがここに来たのは三日前だって……」
うるさいクソガキです。その伸びた前髪めくり上げたら、デコっぱちだって事を私は知っているんですよ? 毎日鏡を見てても、その広いデコは狭くなりません。諦めてください。
「おっ、おデコは関係ないだろう!? お前だって、前髪伸ばして目元隠してる癖に」
キャンキャンと吠えてる辺りが子犬のようで心地よいです。大体、私の前髪はただのトレードマークというか、幽霊としての矜持なだけで、おでこは広くありません。むしろ、狭めです。
「……良いんだもん、小学生だからこれから狭くなるもん……」
あっ、いじけました……意外と打たれ弱いようです。家電売り場の床に座り込んで、床にのの字を書いてます。結構うっとうしいです。どうしてくれましょうか?
無視しましょう。
「するなよ……小学生虐めると世間から白い目で見られるぞ」
大体、昨今ロリコンがはやりだからと言って、小学生は行き過ぎです。ランドセル背負ってては駄目です。端っこから飛び出してる縦笛はビームサーベルのつもりでしょうか? 懐かしさに目が潤みますよ。
まあ、生前の記憶なんて全然ありませんけど。
「自分だって結構な歳じゃん。今時、縦笛ランドセルに刺してビームサーベルとか言う奴、居ないよ? ボクも言わない」
「大人の女子高生ですから……」
「じゃぁ、ボクは大人の小学生ね。今の時代、小学生と言うだけで価値があるんだよ? 高校生なんてただのおばさんだしぃ〜」
こまっしゃくれたクソガキです。デコっぱちの癖に。でこの上でネズミが運動会出来るくらいのデコの癖に。デコの癖に、デコの癖に、デコの癖に……
「デコデコ、言うな。でこっぱちでも良いって言ってくれるんだよ。小学生なら」
「歪んだ世の中ですね……ところで地の文章に返事をするのは止めてくれませんか?」
「だって、お前、口に出してる、全部。もしかして、しゃべりながらじゃないとタイプできないのか?」
「タイプできないタイプ……」
「うわぁ……言っちゃった……条件反射でしゃべるの、止めろよな……聞いてる方が恥ずかしいよ」
……まあ、そう言う話はともかくです。どうでも良いです。今回から第二部開始です。そう言う事に決めました。
「顔、赤いぞ……幽霊の癖に」
このクソガキが出て行ってくれないので、仕方ないじゃないですか。出て行けと言っても出て来ませんし、実力排除しようにも店の外にまで逃げられると手出しが出来ません。
「ボクは浮遊霊だから。そのうち自爆する地縛霊とは違うよ。性能が」
「……あなたこそ、我慢できませんでしたか? そのネタ」
「えぇ〜ぼくぅ、なんの事か判らないよぉ……」
また、媚びてます……スカートの裾をつまんでモジモジしてます。本当に困ったらこれで押し通すつもりです。
「お兄ちゃん……ボク、コワイよ」
ぺったんこ(小学生だから当たり前です)な胸を押さえて、涙目です。体を半身ほど逃がす事も忘れていません。これは二人きりになった途端、オオカミに変身してしまった童貞高校生のお兄ちゃん(血縁なし)を前にした女子小学生のパフォーマンスだと思います。しかし――
「それは危なすぎるので禁止です」
この日記が公開できなくなったらどうするつもりですか……全く。油断も隙もありません。
「じゃぁ………………ボク、もう、大人だもん」
等と言いつつ、描写できないようなまねをしています。描写すれば確実に十八禁、公開不可能な画面です。ですから、描写はしません。血反吐を吐いて悔しがってください。
「えっ、しないの?」
「しません……出来ません……ここで許されるのは微エロです……どエロは帰ってください」
ぱたりとパフォーマンスを止め、長い前髪の間から私の顔をじーっと見てます。もの凄く残念そうです。見られたいタチの人のようです。変態です。
「……仕方ないな……それじゃ、ボク、逝くよ……じゃなくて、行くよ」
「私たちはすでに逝ってます。幽霊さん、逝っちゃう、です」
「……そこはオッケーなんだ……」
「ここまでが微エロです。精進してください……二度と出番はないと思いますが」
「そうだね……じゃぁ、次は沖縄の海にでも行こうかなぁ〜でも、混んでるんだよな……この時期。沖縄戦の戦死者の皆様で……」
またこのガキは微妙に危ないネタを……不謹慎な事を言うのは止めて貰いたいです。抗議のメールでサーバがパンクしたらどうするというのですか? ただでさえ、英語とか中国語とか韓国語とかの読めないスパムメールで私のサーバボックスはパンクしかけてるというのに……
フリーのアドレスですが。
「でもなぁ……米兵の幽霊は格好いいしなぁ……」
そう言って彼女は、人差し指をあごに当てて、視線を宙へと巡らせます。悩んでいるような、同時に何かを思い出してるような仕草です。
しかし、私はそれどころではありませんでした。
……夏の沖縄で黒人の兵隊さんと一夏のロマンス……ご飯三杯は逝けるシチュエーションではないですか……? なんとうらやま、いえ、破廉恥な。子供の性の乱れという奴です。日本の教育はいったいどうなっているのでしょうか? そう言う美味しいシチュエーションは私に回してください。
等と昨今の歪んだ世の中について深く考察していたのです。
「今のは確実に十八禁な発言だよね? どエロだよね? そもそも、高校生だってそう言うことしちゃいけないよね?」
「うるさいです。とっとと沖縄でも北海道でも硫黄島でもどこにでも行ってください」
「硫黄島は駄目だよ。まだ、戦争やってるつもり連中が沢山いて、流れ弾で危ないから……流れ迫撃砲とか洒落にならないし」
「……その話は凄く切なくなるので止めてください。本当に……辛いです。色々」
「……そうだね、止めておこうか? 切なくなるよね。まあ、良いや……じゃぁね、変な幽霊さん。ボク、行くから」
そう言って彼女はテクテクとスーパーの家電売り場を後にするのでした。
私はそれをわずかばかりに羨望の色の混じった視線で見送ります。今の生活に大きな不満はありませんが、やはり、目の前でここから出て行かれるのは悲しいです。別に寂しいというわけではありません。ただ、ここ以外の場所に行ってみたいだけです。そして、出来る事ならば、多くの人と触れあいたいのです。
平たく言うと、ギブミー、ロマンス、と言う奴です。
「……なあ……」
外は青い空だというのに、私は蛍光灯の下でテレビと立ち読みと特売とネットとスリスリ三昧の日々です……冷静に考えると幸せです。
「……それ、幸せとか言うなよ……」
ロマンス分は妄想で補完します。
「暗いよ、あんた……それより、無視するの、止めてくれない? 寂しいから」
「……うるさいです。なんですか? さっさとどこにでも行ってください」
「……いや、行きたいんだけど……出られなくなった……」
出ようとしたら店の出口の所の壁に引っかかって出られなくなったそうです。屋上のフェンスも乗り越えられなかったようです。要するに――
「……私と、同じ?」
そう尋ねると、彼女はこくんと小さく頷きました。
「と、言うわけでボクがSecond Seasonの主役です……あの、ボク、こっ、こういう事、初めてだから……優しくして……欲しい……」
……突っ込み所満載です。適宜適当に突っ込んでください。私はもう面倒くさくなりました。それと――
「エロ過ぎ、禁止……」