四月・新年度
 新年度明けましておめでとうございます。幽霊です、ども。
 もう一度言います。
 新年度明けましておめでとうございます、幽霊です。
 年明け以来三カ月少々、この時、この一瞬のためにすべてがあったと言っても過言ではありません。今回の日記はここまでが全てです。ここから先は蛇足みたいなものです。読まなくても結構です。
 せっかくなので、もう一発やります。
 新年度明けましておめでとうございます。
 このネタをやりたいがために三カ月以上日記を書かなかったのです。わざとです。決して日永一日、人向ぼっこと特売とエッチな雑誌に明け暮れていたがために、日記を書く暇がなかった訳ではありません。私のベッドのまわりがイカ臭いとか、そういうことは毛頭ないのです。そもそも、私のは匂いません。大体、飲み食いしないのに、そう言う物が流れた大変です。体積が減ります、魂が減ってしまうのです。幽霊ですから。
 のっけから全力でエロ話です。理解できなかった方、是非一度、ご来店してください。心ゆくまで、エッチな雑誌をテキストにお教えしてあげます。
 本編終わり。ここからは蛇足です。今回は読まなくても良いです。テストにも出しません。代わりにここから上を三回読んでください。音読で。出来れば、人通りの多い国道っペりでお願いします。

 さて、上記のとおり、新年度です。世間的に異動の時期です。当店でも色々と異動がありました。新人大学生バイトが入ってきたとか、この方がこれまた乾物のお兄さん以上に鈍感な方で、私がいくらスリスリしても肩こり一つしません。平気です。むしろ、元気になっている感じがします。帰る頃になると絶好調です。大物です。
 わたしまけましたわ。これ、回文です。どうでもいいですか? どうでもいいですね。
 賢く自衛されるのもむかつきます。近づいたら即座に逃げてしまうのも腹立たしい物です。しかし、いくらちょっかいを出してもまったく無反応というのは、一番、気分が悪いです。ましてや、元気になられるとは言語同断です。
 さっそく、呪っています。死んでください、日雑のお兄さん。
 ちなみに日雑というのは日曜雑貨です。文具も含まれます。消しゴムの角で頭ぶつけて死ねばいいのに……
 このささくれ立った心はそろそろ三年目、結婚してたら倦怠期を迎えるであろう乾物のお兄さんで癒すことにしてます。やはり、この店で一番の背中だと思います。適度に鈍感で、適度な肩こりになってくれる。これに勝る背中はありません。適度な肩こりと言うのも重要です。
 肩こりになりすぎて、サロンパスとか張られたら大変ですから……臭くて。
 根が気体みたいな非生ものですので、匂いが混じるとずーっと匂いが残ります。体の中心に匂いが残るのはたまりません。
 まさに、心が汚れてしまったという感じです。清く正しく微エロな幽霊さんとしては困ります。ツッコミどころですか? 違いますよ。突っ込んだ方、反省してください。反省してくれないと呪います。
 先日もアルコールコーナーで佇んでいた所、私の足元で一升瓶を割ってくださった方がいまして……お名前が杜谷(もりやと読みます)さんとおっしゃいます。当店の暗黙のルール「極一部を除いて名前で担当部署が決まっている」に当てはまらない方かと思っていましたら、「杜」谷さんなんですよね……杜氏ですか? お酒作ってる……まったく、人事は何を考えてるのでしょう? 力の入れどころ、間違っていると思います。
 それはさておきます。ともかく、守谷さんが私で一升瓶をかち割ってくださいました。しかも、焼酎です。さらに言うと芋です。芋焼酎です。
 避けなかった私も悪いのですが、私も事情という物があります。色々と忙しい瞬間と言うのが、誰にもあると思います。例えば……
 良い男が居たので見とれていた時とか。
 ええ、高校生くらいの後ろ姿の素敵な男の子でした。あの背中にスリスリして、初Bゲットなどと考えていたわけですよ。誰だって、そんな時は油断するはずです。頭の中では妄想だらけでしたよ、その時は。
 振り向いた瞬間に消えましたが……物の見事に消えました。まさか、顔がヤンキース松井似だったとは……
「……裏切り者」
 そんな風に凹んだ瞬間でした。
 一升瓶が私のお腹のあたりを通って足元へと落下していきました。
 直後、固いリノリウムの床に叩きつけられた一升瓶は、パーンと言う澄んだ音を立てて砕け散りました。そして、私の体の中を芋焼酎が駆けめぐります。
 ワンカップ酒は飲んだこと──体の中を通過しただけですが──がありますが、焼酎、しかも一升瓶は初体験です。下腹部に一升瓶です。ドキドキですね、色々と。ツッコミどころかもしれません。私にはよく解りません。女子高生ですから。
 むせ返るようなお酒の香り、居るだけで酔ってしまいそうな気がします。
「逃げましょう。未成年には刺激が強すぎます……」
 テクテクとない足で逃げ出します。例の「振り向いたら松井」の傍をとおりすごして、乾物コーナーに行きます。ここに磔だった時期があるだけに、ここが一番居心地がいいような気がします。我が家に帰って着たような感じです。スーパーの店内、全部、私の家ですが、ここが一番家的な感じがします。
 家に帰ってきたので、靴を脱ぎます。足はありませんが、靴はあるつもりです。常日頃、裸足で生活して良いのはゲンくらいだと思います。靴を脱いで、床に座って、くつろぎます。
「我が家は良いです……心が落ち着きます」
 寝転がって、だらけるのも良いでしょう。ゴロゴロです。リノリウムの床が気持ちいいです。スベスベの冷え冷えです。たまりません。こんなに気持ちよくていいのでしょうか? まわりでは皆さん、働いてらっしゃるというのに。
 あっ、申し訳ありませんが、踏むのは止めてください。興奮してしまいます。こんな所で虚しい行為は出来ません。
 ……
 と、後から日記に起こしてみると、どこか頭のネジがすっ飛んでいる人にしか見えないことを、私は考え、そしてやっていました。
 要するに、この時の私は酔っていたようなのです。客観的に考えて。恐ろしい物です。焼酎一升瓶は。
 ぐでぇ〜と乾物コーナ、カップラーメン売り場の前で大の字に寝転がっていました。親に何かをねだっている子供のようです。
「カップラーメン買ってぇ〜」
 とでも言う感じでしょうか? 他に何かないのでしょうか? 高級お線香とか、高級ろうそくとか、最高級お仏壇とか。ツッコミどころ。
 大体において、女子高生が親にカップラーメンはおねだりしません。女子高生が親におねだりといいますと、やはり、ルーズソックスとかだと思います。違いますか? 私にはよく解りません。親の顔も覚えていない非生ものですので。
 同情しましたか? あなたの負けです。勝者、私。
 同情してくれなかったあなた、呪います。
 カップラーメンの売り場の前で大事になって寝転がる女子高生と、その女子高生を無造作に踏んで行く買い物客アンド店員。何て、ひどい……寝ている私が悪いんですか? 大きなお世話です。
 そんななんとも筆舌に苦しむ事を、私はお昼前十一時から閉店までやっていました。ちなみに当店の閉店時間は十時です、もちろんPM。
 ……
 春には変な人が出てくるって本当ですね。当人が言いました。
 挙句の果てには、その床の上で翌日まで爆睡です。永眠してる上に爆睡です。正しく、死んだように眠りました。ツッコミどころ。久しぶりなので、多めに用意してます。女子高生にツッコミ放題です。
 久しぶりなのでテンション、高めです。
 さて、その翌日の事です。私は根が変温非生ものであることは、皆さん、よくご存知だと思います。スリスリも思春期女子高生にありがちなリビドーを満たすためだけにやっている訳ではないのです。
 それなのに、です。
 前日の私は冷たいリノリウムの上で熟睡していました。
 結果、翌日の私は心の底から冷えきっていました。体がないので、冷えるとすれば心だけです。魂が冷えていると言い換えても構いません。
 となれば、狙いはただ一つです。極上ターゲット相手に心ゆくまでスリスリ。これです。リビドーも満たして置きます。
 極上ターゲットといえば、やはり乾物のお兄さんでしょう。お兄さんは夕方からしか来ないので、昼のうちに前菜として数人の方にスリスリしましたが、あくまでも前菜、オードブルです。
 お兄さんが一歩店内に入った直後から、お兄さんがお店から出るまで、たっぷり、四時間、スリスリしました。
 これで体も温もりましたし、思春期女子高生のリビドーも満たされました。後は皆さんがお帰りになるのを待って、ベッドの中で虚しい行為をするだけです。
 この待ち時間、切なくなるほどに大好きです。
 下品でしたか? 気にしないでください。私は気にしません。
 
 と、私が小さじいっぱいの虚しさが混じった幸せを噛み締めた翌日。
 乾物のお兄さんがエアーサロンパスをしてきました。
 三日連続で……
 ある意味、お塩やお守りをもたれるよりもきつい自衛手段だと思います。これ……
 幸せになればなるだけ、翌日から不幸になるのとは……私は何と幸薄い星の元に生まれ……いえ、死んでいるのでしょう? 
 同情してください。してくれないと呪います。 
 そして、肩こりになっても、サロンパスは張らずにいてください。幽霊さんとのお約束です。

 追伸。
 蛇足なのにここまで読んだのですか? 暇な方ですね。

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