秋
こんばんは、幽霊です。ども。
夏も終わり、季節は秋へと移ろいゆきます。日々、心穏やかに特売だけを楽しみにさまよい続ける幽霊ライフを送っている私ですが、いろいろと後悔してしまう瞬間という物があります。例えば起きたら夕暮れだったとか、落とし物を拾ったらお守りだったとか、人向ぼっこのしすぎでむなしい行為をしてしまったとか……
思いを残して幽霊やってるはずなのに、生前の事は思い出さずに、死んだ後の悔やみばかりが増えています。後悔ばかりの幽霊ライフです。
そして、今日、新たな悔いが生まれました。
「今年も泳げませんでした……」
気づいたのは服売り場をうろうろしていたときです。先日まであったはずの水着コーナーがなくなっていました。二年連続で泳いでない事になります。がっかりです。鬱です。死にたくなります。つっこみ所です。
去年の今頃は乾物コーナーにはりつけの刑から逃れられ、初めて知った特売と人向ぼっこの良さに心を奪われているうちに夏が終わっていました。そして今年も特売と人向ぼっこをやってるうちに夏が終わっていました……成長の軌跡がありません。自分がいやになります。鬱です。死にたく……同じつっこみ所を二度持ってくるのは芸人として失格なので止めます。
はぁ……泳ぎたかったです。裸よりもセクシーな水着を着け、浜辺で素敵なお兄さんにナンパされて、一夜の過ちを犯してみたかった物です。
「駄目です……ああ、そんな……私はまだ高校生……」
空は満天の星空、人気のない岩場で抱きしめられます。そして、小さなビキニの水着はおろされて……――
と言う夢想も夏本番なら盛り上がりますが、そろそろ紅葉が色づくかと言うこの時期ではむなしいばかりです。せめてもう少し早い時期に気づいておくべきでした。すれば、ご飯三杯は食べられるような夢想が出来た物を……
でも、私はおそらく泳げないと思います。なぜなら――
足がないないから。
足がない以上、バタ足が出来ないのは自明の理です。そしてバタ足は泳ぎの基本です。その基本が出来ない女が泳げるはずがありません。三つ目のがっかりです。さらに鬱になります。
こうなれば秋らしいところでナンパされる設定を考えるしかありません。
……こう来ました。びっくりですか? 話題の飛び方。驚いた方は敗北感にうちひしがれてください。
秋と言えばサンマでしょう。サンマ漁でナンパ……あり得ません。冗談です。地引き網で捕ってるのか、一本釣りかは知りませんが、サンマがピチピチ跳ねてる横でナンパされてどうしますか? 顔にサンマをこすりつけられるプレイですか?
「ああ、ぬるぬるの脂が……魚臭いです……」
どれだけマニアなプレイですか? 幽霊さんはそんなに変態じゃありません。サンマは塩焼きにして大根おろしとスダチで食べるべきです。ほぐしてご飯の上にかけてかき込むのもおいしいでしょう……非生ものなので、食べた事はありませんが、知識として知っています。
違う事を考えます。
秋と言えば……お芋です。芋掘りナンパ……冗談です。食べ物ネタは一度で十分です。そんな健康的なナンパはエロかわいい幽霊さんには似合いません。だいたい、ナンパ目的で芋掘りに来るような男性っておかしいです。そんな人はこちらからお断りします。
ナンパ目的で芋掘りに行く女もたいがいですけどね。
ここはやはり文化祭でしょう。文化的にナンパされます。
大学が良いですね、学際です。学際で大学生のお兄さんにナンパされるのです。萌える設定です。堪りません。これだけでご飯三杯です。多用してます、今日。
「ねえねえ、そこのかわいい幽霊さん」
……あり得ないですね。普通に。今時、こんなことを言ってくるナンパが居たら大爆笑です。萌えません。
「そこのかわいい幽霊さん、そこのメイド喫茶でお茶しない?」
萌えませんね。ダメダメです。だいたいメイド喫茶に女が行って楽しいですか? メイド服が着たければ自分で着てください。似合う似合わないはともかくですが……
「何中?」
……高校ヤンキーの喧嘩ですか? だいたい、私は高校生です。大人の幽霊さんです。中学生みたいな子供と間違えないでください。
しかし、こうしてよく考えてみますと、生前の事は覚えてませんし、幽霊ライフでナンパされた事もありません。リアルなナンパというのが想像つきません。困った物です。
仕方がないので、過程は省き結論だけを夢想します。
部屋に連れ込まれ、ベッドの上!
……
ナンパされて速攻でエッチですか? 変態ですか? 私は。妄想が暴走してます。エッチな本の読み過ぎですね。控えましょう。次に読むのはフランス書院ではなくハーレクインロマンスにします。つっこみ所。
はやり、ナンパナンパと考えるのは良くないです。もしかすると欲求不満なのかもしれません。思春期まっただ中ですからね。健康的な幽霊さんならば、溜まる物もあるでしょう。
どこに何が溜まっているのかとか、体ない癖に! とか思った方、死んじゃってください。大きなお世話です。
しかし、欲求不満が溜まっているのは事実かも知れません。どうにかすべきです。
そこで発散します。ベッドの中……違います。そう言うむなしい事は控えようと思っているのです。一応。本当に……
今は秋です。秋ですので、そう言う事は健康的に発散させます。そう、スポーツです。
なんてすばらしい話題の変換でしょう? しかも、最初の話題とつながってます……と、だれも言ってくれそうにないので自分で言います。何でもセルフサービスで出来ないようでは、非生ものピン芸人という時代の先駆者にはなれません。
そう言うわけで、一人で出来そうなスポーツを探す事にします。それと出来れば、道具の不要な物が良いです。スポーツ用品店は入ってませんので、ここ。
……
ありませんでした。少なくとも、私は思いつきませんでした。
ランニングと腕立て伏せくらいしかできませんよ、スーパーの中では。無理です。はっきり言って。
屋上でどたばた走り回ってりゃ良いんですか? 確かに健康的ですが、文化的ではありません。馬鹿です。壁にぶつかってグリコのマークみたいな跡を残して、都市伝説として語り継がれろとでも言うのですか?
まあ……ある意味、幽霊としては行き着くべき極致なのかもしれませんが、もうちょっと格調高い都市伝説が良いです。
出来ない物は仕方ありませんが、あきらめません。あきらめては負けです。あきらめたら試合は終了です。
そこで私は考えました。
考えた結果――
私は本屋さんに向かう事にしました。目指すは一カ所しかありません。そう――
コミック売り場です。
ここならば秋のあらゆる事が楽しめます。スポーツ漫画を読んでスポーツを、料理漫画を読んだら料理、そしてエッチ……いえ、それはこっちに置いておいて……とっともかく、食欲、スポーツの秋を私は堪能中です。
ついでに読書の秋も……