続・寒い
 こんばんは、幽霊です。ちなみにタイトルは続きという意味の「続」とゾクッとするの「ゾク」を掛けています。気がつきましたか? 気付いていてください。
 昨日は運良く間抜けな店員のおかげで、私の存在はばれずに済みましたが、寒さ対策については全く解決していません。三月下旬か四月上旬までの四−五ヶ月、毎晩ハロゲンヒーターつけっぱなしと言うわけにはいかないでしょう。いくら相手が間抜けとは言え、ハロゲンヒーターを毎晩つけっぱなしにしていればそのうちお祓いされてしまいます。
 根本解決のため、今夜も努力します。努力する幽霊、萌えてください。燃えても良いです、燃えたら暖めさせてください。
 それに昨日、徹夜してしまったので、今日は一日寝て過ごしてしまいました。起きたときには、蛍の光が流れ店員さん達が掃除していました。かなりびっくりです。おかげで今夜も眠れそうにありません。付き合ってください。
 さてと、今夜はどうしましょう? とりあえず、家電屋さんに行くのは止めましょう、ハロゲンヒーターの誘惑に打ち勝つ自信がありません。絶対にまた一人で寂しくハロゲンヒーターの前で座って朝を迎える羽目になります。
 ……
 ここは二階です。階段を上がってきました。
 ……
 目の前にあるのが家電屋さんです……どうして、私はここに立っているのでしょうか? 無意識とは恐ろしい物です。
 誘惑を振り払い、ひとまず、服屋さんに待避します、戦略的撤退です。
 服屋さんですね、ここには始めてきます。どうせ、着替える事なんてできませんから……
 一応、着ている服を脱ぐことは出来ます。先日、脱いでみました。理由は聞かないでください、聞かれると困るんです、本当に。
 それに服を着ることも出来ます。が、私が普通の服を着ると、生ものさん達の目には服だけがフヨフヨ飛んでいるように見えるのです。これは駄目です。ここまで怪しいことをしてしまえば、確実にお祓いされてしまいます。私はまだ成仏するわけにはいかないのです。
 ――再来週から年末の特売が始まりますから。
 これに参加しなくてはならないのです。ちなみにそれが終わると、新年初売りです。怪しげな福袋を売らなければなりません。成仏などしている暇はありません。
 文句ありますか? そんな理由でこっちにしがみついてたって良いじゃないですか? 突っ込みは許しません、聞く耳も持ちません。
 しかし……夜の服売り場というのは、昼と違って迫力があります。マネキンさん達が妙なポーズを取っているのがかなり恐いです。幽霊と言えども、不気味なところはあまり好きではありません。気弱な女子高生ですから。
 とりあえず、カーデガンを一枚借りましょう。今ならフヨフヨと服が飛んでても誰にも見られません。
 カシミアらしいです。肌触りが良いらしいです、お買い得。肌どころか骨もない私にはよく判りませんが、カシミアというだけでリッチな気分が味わえます。
 セーラー服の上にカーデガン……冬場の女子高生みたいです。せっかくですので、ジャージも穿いてみます。スカートを着けたままジャージを着るというのは……中々、難しいです。下着が見えてしまいそうな予感が……見た人は死んで下さい、乙女の名誉を守るためです。貴方の命と私の名誉、どちらが大切ですか?
 ……っと、これがかの有名な埴輪ルックです。似合いますか? こんな格好、似合ったところで何ら嬉しくはありませんが。
 大体、こんな格好をするくらいなら最初からスカートなんて穿く必要ありません。北の地では大流行な姿らしいですが、私にはこういう格好をする方の気持ちがわかりません。
 そうですね、脱ぎましょう。人間、プライドを捨ててはなりません。こんな格好、可愛くありません。
 脱ぎましょう。
 ……
 脱ぐんです……スカートを捲って……
 ……
 脱げません。寒いんです。
 北の女子高生の気持ちが理解できました。これは油断ならぬ暖かさです。
 また、やってしまいましたか? 私。このまま、店員さん達が来るまで、埴輪ルックですか?
 お祓いされるとか云々よりも、こんな間抜けな格好で、見知らぬ方々の前に出る方が嫌です。かといって、今更脱ぐ気にはなれません。
 仕方ないです、しばらくこの格好でいましょう。昨日のハロゲンヒーターと違い、服でしたら動き回ることは出来ます。店員さん達がいらっしゃる頃には、何処かに隠れれば良いんです。そうします。
 しかし、そういう風に開き直ると、服屋さんというのは中々魅力的なスペースです。店員さんがいらっしゃるまで後五−六時間はあります。ファッションショーを楽しみましょう。
 毛糸の下着。
 ズロース。
 ももひき。
 すててこ。
 駄目です、寒さで頭が変です。こっち方面にしか目が行きません。どうせなら、スーツとかワンピースとか、そう言う物を見ればいいじゃないですか。
 はんてん。
 どてら。
 たんぜん。
 だから、どうして私はこういう物ばかり見るのですか? どうせなら、こちらの毛皮なんかの方が温かそうじゃないですか? 身に纏うだけでセレブな気分が味わえます。セレブ幽霊です。着てみましょう。
 着てみました。フェイクでした、フェイクファーです。流石、スーパー、ちゃちいです。女子高生には丁度いいかもしれませんね、所詮はすねかじりなんですから。
 しかし、私は自立して生活してます。親のすねどころか、顔すら覚えていません。同情しましたか? もっと同情してください、遠慮なさらなくて良いですよ。
 そう言うわけで、私にフェイクファーは似合いません。本物が良いです。
 それに、フェイクファーの白い毛皮の下は半袖のセーラー服とミニスカート、そしてジャージ……馬鹿ですか? 私は。コーディネイトも糞もありません。脱ぎましょう。
 脱ぎます……
 ……
 ……脱ぐんです。
 はい、案の定脱げませんでした。寒いんです。
 本当に、私は弱い女です……欲望に。
 仕方ありません。せっかく、ぬくぬくになったのです。座り読みでもしてきましょう。確か、新しいホラー小説が発売になったはずです。それでも読んでればそのうち眠たくなるでしょう。眠くなったら、速攻で脱いで寝てしまいましょう。

 おはようございます、幽霊です。
 昨夜は久しぶりに読書を堪能した夜でした。秋は終わりましたが、読書は良い物ですね。やはりホラーは良いです。大好きです。
 さて、話は変わりますが、当スーパーには防犯センサーがあるという話、覚えていますか? 前回の日記にも書いてあったと思いますが。思い出してくださいましたか?
 反応しました。思いっきり。私に反応した、と言うわけではなく、私が着てウロウロしていた毛皮に反応したようです。
 どうやら、私が寝た後、店内大騒ぎだった模様です。寝ていた私は全く気付きませんでしたが。根が永眠している身なので、寝起き、凄く悪いんです。
 随分と多くの方にご迷惑を掛けたみたいで、流石の私も反省しました。ごめんなさい、この場で謝らせていただきます。
 幽霊騒ぎではなく、泥棒騒ぎだったところがめっけものです。個人的に大助かりです。しかもこの騒ぎを受け今夜からしばらくの間、警備会社が見回りに来てくださることになりました。
 飛んで火に入る夏の虫さん、いらっしゃいませ。存分にスリスリして差し上げます。

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