お宅ご訪問
こんにちは、幽霊です。
今日は私の住居の案内をします。通称スーパーです。正式名称が『私の住居』で通称が『スーパー』です、間違えないでください。嘘です。正式名称の方がスーパーです。判っています、所詮、私は借家人ですから。初っぱなから突っ込み所を持ってきました。私の心意気に惚れてください。
立地条件は……良いと思います。お店の外に出たことはありませんが、本屋さんに置いてる地図で調べたことはあります。埋め立て地らしいと言うことも知っています。地震が来たら真っ先に沈むところです。
店舗規模は三階建て、総床面積及び敷地面積は知りません。県下最大規模らしいです。借家人としても鼻高々です。
一階は食料品、日用雑貨、お花なんかも売っています。二階は衣料品売り場と本屋さん、それと家電屋さんが入ってます。三階はゲームセンター、百円以上の物も売ってる百円ショップ、屋上駐車場と続きます。
私の主な活動拠点は食料品売り場です。特売、多いです。きっと、この特売の多さが私をここに縛り付けているに違いありません。地縛霊ならぬ、特売縛霊です。『とくばいばくれい』と読んでください。
最近、お花売り場もお気に入りです。今を盛りに咲く花々、咲いたと思えばすぐに散りゆく儚い命、その命の輝きに命のない私はひかれているのでしょう。命のある物は好きです。自分の命がないですね、判りきってます。
もちろん、菊を中心とした仏花を見ていると落ち着くという側面もあります。お盆とお彼岸の時期に並べられる大量の仏花を見つめ、全てが自分のために捧げられた花だと夢想してみます。
……
良いですね。有名芸能人のお葬式のようです。将来を嘱望されたアイドルのお葬式と言う事にします。そう言う設定です。死因はやはり、ストーカーファンに殺されたという設定にします。アイドルたるもの、ストーカー追っかけの一人や二人いなくてどうしますか。
きっと、彼らはテレビで見ていた私と付き合ってるつもりになっていたのです。付き合ってるとか実は結婚しているとか、幼なじみだったとか、そう言う設定を夢想し、つまらない人生に花を添えていたのでしょう。寂しい人生です。はい、私が今やっていることと同じですね。親近感が湧きます。
嫌な人達との親近感に軽くブルーになりました。次に行きます。
そう言うわけで、乾物のコーナーにまいりました。先日まで私はここに磔になっていました。全然、動くことが出来ませんでした。仕方ないので、特売のない日は従業員に嫌がらせをしていました。お気に入りは夜のバイトの学生さんです。背後から抱きつき、スリスリしてしまいます。おかげで肩こりが酷かったようですが、私は気にしません。愛らしい少女――もちろん、私のことです――がただでスリスリしているのです。喜んでください。むしろ、お金を払うべきです。
今はお昼なのでそのバイトのお兄さんは居ません。残念です。次に行きましょう。
後は取り立ててなんの変哲もない売り場ばかりです。お総菜が美味しいとの評判ですが、所詮、私は幽霊、味見は出来ません。特売もしませんから、興味が湧きません。パスです。
そう言うわけで二階に上がります。
エレベーターもエスカレーターもあります。しかし、私は幽霊です。階段で上がらなければなりません。階段で怪談と言うわけです。それだけです、さっさと上がりましょう。
二階は本屋さんと服屋さん、電器屋さんです。本屋さんは夜に良く訪れます。眠れない夜など、薄暗い非常灯の下で本を読みます。ホラーなんかが好きです。暗いところでホラーを読んでるとなかなか雰囲気が出ます。ここは突っ込み所ではありません。幽霊がホラーを読むなと言うクレームには聞く耳持ちません。故人、いえ、個人の趣味にイチャモンを着けるとは何事ですか?
他には正しい先祖供養の本なども好きです。良いですね、正しい先祖供養。私のお墓もちゃんと供養されているのでしょうか? されていないような気がします。されてないから、未だに仏様になり損なっているのです。おかげで、特売が楽しめて私は幸せです。いっそのこと、供養なんてするなという気になります。でも、お墓の雑草くらいは抜いてください、お願いします。
でも、宗教書のコーナーは鬼門です。幽霊のとっては鬼門なんです。下手に読んでいると、成仏してみたい気持ちになってきます。してみたいのに、出来なくてちょっと悲しくなります。凹みます。思い出して凹みました。次にまいりましょう。
服屋さんです。着替えできないので、見てると腹が立ちます。パスです。
電器屋さんです。先日、乾物コーナーの磔から解放され、こちらに伺ってみたところ、私が触ったテレビが爆発しました。ブラウン管は恐いですね。買うなら液晶にしましょう。私が触ったらドット欠けを起こしてしまいましたが。パソコンは私が触れると青い画面になってしまいましたし、ステレオからは奇妙なノイズが生まれるようになりました。家電製品とは相性が良くないようです。
ですが、先日、某S社の製品に触れてみたところ、何も起こりませんでした。きっとSタイマーが壊れたのでしょう。某S社の商品を買ったら、私の所に持ってきて下さい。Sタイマーが壊れてずっと調子よく動くか、他が壊れて廃品回収行きになるか、二つに一つです。ギャンブルって良いですよね。
二階はこれで終わりです。三階に行きましょう。怪談です、と言うネタは先ほど使ったのでさっさと三階にまいります。
ゲームセンターです。触るとブラウン管が爆発するので触りません。悔しいです。出来るものなら、脱衣麻雀で女の子を素っ裸にしてやりたいところです。
そして、百円ショップです。ここ、地味に好きです。仏具も売っているので。良いですね、仏具。見ているだけで心が落ち着きます。お蝋燭やお線香まで売っています。火を着けて、一人法事とかできます。火事が恐いのでやりません。
百円ショップは年中無休全店規模での特売です。足を踏み入れるとついつい余計な物を購入し、結局、お金の無駄使いをしてしまうと言う罠。まさに特売と同じです。良く計算すると全然お得じゃなかったりするところもポイント高いです。
そして、屋上駐車場へと出て、一回り終了です。
ここで風に吹かれるのが好きです。気持ちいいです。でも、少しまぶしいです。幽霊なのでお日様のまぶしさは目に堪えます。日陰者ですから、幽霊なんて。
見下ろすと、海が見えます。あの海の向こうに極楽浄土があるのかと思えば、感慨ひとしおです。ですが、地図を見たところ、あの海の向こうには別の国があるだけでした。夢は儚いものです。もしかしたら、この空の向こう側なのかも知れません、が、本で読んだところ、ただの真空地帯らしいです。恐いですね。空気がないと息が出来ません。ここ、突っ込み所です。
どうやら、ここまでが私のテリトリーのようです。ここから外に出ようとすると、見えない壁にぶち当たります。生ものさんでしたら、壁を乗り越えて生きる事もできましょうが、私は生ものではないので素直に諦めます。私、素直で良い子なんです。多分。
私はここに居ます。時々、遊びに来てください。お土産はお線香で良いですから。