自己紹介
 初めまして、私、幽霊です。
 恭しく一礼。
 礼に始まり礼に終わります。
 今日、お店でボーッとしてたら指令電波を受信しました。迷惑な話です。でも、逆らうとろくな目に会わない気がするので従います。幽霊といえど、世間の荒波にはあがなえません。そもそも、気体みたいな物なので、流されるしかありません。
 で、その指令電波が自己紹介しろと言ってるので、自己紹介します。本当に迷惑です。勘弁してください。
 名前は良く覚えてません。幽霊さんとか幽霊ちゃんとでも呼んでくれれば結構です。幽霊たんは微妙だと思うので止めてください。そう言う年ではありませんから……とは言っても、年齢も覚えていません。セーラー服を着ているので、おそらく高校生の頃に亡くなったものだと勝手に判断しています。女性の年齢は自己申告が全てだと、昔の立派な人が言ってたそうです。そう言うことにしておいてください。
 特徴は猫っ毛な所です。色も随分と赤いようなのでもしかしたら異人さんの血が混じっていたのかも知れません。単に色を抜きすぎて髪質がボロボロで細くてコシがなくなっただけかも知れません。後者なら生前の自分を殺したいところです。生え際が黒いっぽいので後者の確率大です。生前の私、ピンチです。
 身長は多分百四十センチはあると思います。その辺です。足下、消えかけているので正確な身長は判りません。もし、膝から下が八十センチくらいあったら、スーパーモデル並みの八頭身美人です……あり得ないですね、そんなこと、自分が一番判ってます。
 住所は埋め立て地にあるスーパー。気がついたら居ました。帰るあてもありませんし、雨露はしのげますから、満足な住環境です。見方を変えると、百畳敷きの個室独り占めとも考えることが出来ます。人間、ポジティブに生きなければなりません。ここ、突っ込み所。
 死因も良く覚えていません。生前の記憶は本当にあやふやなんです。余り突っ込んだこととか聞かないでください。きっと思い出したくないことばっかりだったのでしょう。例えば、継母にいびられていたとか、クラスにいじめっ子が居たとか、飲んだくれの父親に少女売春を強要されていたとか……考えてるだけでブルーです。生きてるのが嫌になってきます。あっ、ここも突っ込み所。よろしくお願います。
 性格はどうなんでしょう? 判断してくれる友達も居ないのでよく判りません。強いて言うならば、影が薄い、と言うところでしょうか? もの凄く影、薄いです。自分の影なんて見たことありませんから。でも、鏡には映ります。毎朝、ちゃんと見てます。寝癖も目やにも付きませんし、新陳代謝がないので顔も洗いませんが、身だしなみのチェックは人としての義務です。だらしない人とか、死ねばいいのに……
 職業、無職です。幽霊は職業ではありません。幽霊は職業ではなく、生き様であり、死に様です。侍みたいです。侍とは職業ではなく、生き様であり、死に様。うん、OK、同じです。クレームは受け付けません。
 趣味は特売です。特売……素敵な響きです。聞いただけで心が踊ります。きっと、生きてた頃から好きだったのでしょう。三つ子の魂百までと言う奴です。
 でも、お金がないので買い物は出来ません。仕方がないので、売り子の手伝いをしています。
「今日はお肉……安いです。お買い得」
 淡々とセールストークです。聞こえて居ないようですが、何故か、私がお手伝いをすると良く売れているような気がします。こう言うのを、サブリミナル効果と言うのかも知れません……プラシーボ効果?
 嫌いな物、お守り、破魔矢、お札等々縁起物。幽霊としてのアイデンティティです。この辺が得意な幽霊は居ません。居ないと思います、多分。幽霊業界に友達、少ないんです、私。後、お塩も駄目なんです。まかれるとお尻の辺りがムズムズしてきて、ここに居ちゃマズイという気分になってきます。先日来、お店で塩まきがブームなので、非常に困ってます。快適な住環境を返してください。
 
 とりあえず、天からの指令電波が時々日記を公開しろとと言っているのでそうします。幽霊の癖に日記なんてつけんな、と言うクレームは受け付けません。聞く耳持ちません。耳どころか肉体そのものを持ち合わせていませんので、完璧です。
 そう言うわけで、私、幽霊です。生きてませんが、ここで生活しています。そこそこに楽しいです。成仏しちまえ、なんて言わないで時々遊んでください。
 ペコ、恭しく一礼。
 宣言通り、礼で終わります。

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