海だ!(1)
良夜達の試験もひとまずは平穏無事に終わり、夏休み突入直後に梅雨も明けた。太陽は頼んでもいないのに暑く大地を照りつけ、クマゼミは短い人生を燃焼させ尽くすかのように声を上げる。夏である。今年も暑い夏がやってきた。
そんなある日、喫茶アルトに一通の手紙が届いた。
何年も前、喫茶アルト店主夫妻にお世話になった苦学生からの手紙だ。去年同様、彼は夫妻と結んだ「出世返し」の約束を律儀に守り続け、今年もリゾート会社のチケットを送ってきた。
「今年も海なのかしら? 湖畔って言うのも悪くないわね」
その封筒を一番に見つけたのは、この店に住まう妖精さんアルトだった。彼女がこれを一番に見つけたのはただの偶然ではなかった。彼女は夏休み開始少し前から、この手紙を一日千秋の思いで待ち続けていた。誰よりも先に手紙を見つけるため、郵便局のオートバイがアルトに来るたび、郵便受けにまで飛んでいき、全ての配達物を事細かくチェックするほど。その甲斐あって、一番にそれを見つけたアルトは良夜を通じて美月にそれを教えた。
訳なのだが……
「むぅ……困りました……」
教えられた封書を開いてみれば、中には短い手紙ともに別荘のチケットが一枚。美月はそれをジィッと見つめながら、少し広めの額に深い皺を刻んだ。
「何が困るのよ? 海? 山? 川で泳ぐのも悪くないわ。良夜、釣りは得意?」
アルトの気分は一足先にバカンスだ。良夜の髪を掴んではくねくねと妙な踊りを踊る。
「だって……今年、お母さん帰ってきてないから……」
良夜の通訳を受け、美月は「はぁ」と大きな溜息をつきながら答えた。去年は彩華が居たから……と言うか、去年は彩華が居たからこそ美月は半ば追い出されるのように、海辺の別荘へと遊びに行ったわけだ。それが今年は返ってこない。お盆には帰ってくると言う話だが、美月の父親は「帰る」と言って帰ってきた試しのない人物なので当てにはならない。
「……お店、一週間も留守に出来ません」
僅かに沈んだ声で美月も大きな溜息をつく
全ての説明を受け終え、アルトは良夜の髪を掴んだまま、ブルブルと小刻みに震え始めた。そして――
「そんな!!!」
そして、彼女は我を忘れ、一気に立ち上がった。
「いってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ぶちぶち!!! 髪の毛が立てる破滅の音とその持ち主の悲痛な叫びが、喫茶アルトのフロアに響き渡った。
それから数分後、良夜達は窓際隅っこの席ではなく、カウンター席の方に座っていた。二人の男性客を挟み、その両側にそれぞれの彼女という位置関係。二人掛けのテーブルしかないいつもの席では、四人まとまって座ることが出来ないからだ。無理をすれば三人が座れなくもないが、四人ともなれば座るのはどうやっても不可能だ。
「それでアルちゃんは不機嫌なんだ?」
朝からの来客者総勢五名(直樹と良夜含む)とあって、貴美の営業人格はすでに機能停止中。完璧に普段着の彼女は見えないアルトに向かいからかうような口調でそう言った。
その言葉にアルトは「別に」と抑揚のない声で返事をすると、プイッと音がしそうな勢いでそっぽを向く。足を投げ出して座る彼女の髪がフワッと大きく広がり、夏の日差しを受けて金色をより明るくする。
「別にって言ってるけど、思いっきり不機嫌だな――拗ねるなよ、日帰りで海に連れて行ってやるから」
言葉をカウンターに座る三人とカウンターの向こうで使い終わったネルを掃除していた和明に、良夜は伝えた。
「……三回」
やっぱり抑揚のない声でアルトが呟き、良夜はそれに「はいはい」と投げやりな返事を返す。彼女は振り向きこそしないが、良夜の伸ばした指先から逃げることはせず、大人しくその後頭部をチョンと突かせた。
これにてアルトのご機嫌問題はひとまず解決。となれば残るのは、送られてきたチケットの処理方法だけだ。去年と同じとある島の貸別荘、そこに行くとなればどんなに急いでも日帰りは不可能。和明は一人でも大丈夫というのだが、ウェイトレス二人組とアルトが口を揃えて――
「ぎっくり腰が癖になってる癖に!」
と言って即座に却下。老人は深い皺が刻まれた頬に珍しく苦笑いを浮かべ、話の輪から一人はずれた。
「吉田さんと直樹君、いります?」
「うーん……そりゃ頂けるなら頂きますけど……」
美月の提案に直樹はチラリと良夜の顔に視線を向ける。その視線を中継するかのように、良夜はアルトへと視線を向けた。相変わらず後ろ姿しか見えて居ないが、背中越しに見えるストローがフルフルと震えているのがはっきりと見て取れる。
「……怒ってる……」
「別に……私が日帰りでタカミーズが別荘一週間なんて…………羨ましくないわ!」
クルンとアルトは回れ右。その顔はギリギリのところで微笑んではいる物の、ストローの両端を握った二つの拳が、ブルブルと痙攣をしている。おそらくは幻聴なのだろうが、良夜の耳にストローがメシメシときしんでいるような音が聞こえた。
そして、良夜は自らの言葉をゆっくり訂正した。
「訂正、激怒している」
「羨ましいわよ! 満天の星空! 遠浅の白浜! 大きな打ち上げ花火に、スイカ割り!! やっぱり、日帰り三回なんて物足りないわ!!! 一週間泊まりがけプラス日帰り三回!!!」
直っていたはずのご機嫌が斜めから垂直に立ち上がり、その先端から雷をカウンターに落とす。彼女は一気にまくし立てると、カウンターの上に寝転がりだだっ子のようにじたばたと手足を暴れさせ始めた。
「さらっと要求を増やすなよ……美月さんが仕事を休めないんだから、仕方ないだろう……」
「良夜! 良夜は悔しくないの!? 私が店で暑さにうだってる時に、タカミーズは一週間も海なのよ!? そんなの許せないわ!!」
「でしたら、誰か他の方にでも……」
その勢いは良夜の通訳越しにでも、美月に伝わったのだろうか? 額に冷や汗を滲ませながら、美月はおずおずと提案をした。しかし、これがアルトの怒りというか物欲に油を注いだ。
「あぁ!! もう!! チケットの処理方法考えてたら、段々惜しくなってきたわ! 良夜! なんとかなさい!!」
ジタバタしていたアルトはすっくと立ち上がり、ストローがひゅん! と大きな音を立てて振り下ろした。その切っ先を延長してみれば、向かっているのは良夜の鼻っ柱。彼女はグッと両膝を押し曲げ、そこに力を蓄える。
「……どうにかって……どうにもならないって……」
「心当たりが何人かいますから……誰かに安価で提供するとか……そのお金でアルトさんに何か買って上げる……とか?」
「直樹、子供は甘やかすと癖になる――いってぇぇぇ、いってって!! めちゃんこ痛いぞ!?」
直樹が慎重に選んだ言葉に良夜が応えると、アルトは膝にため込んでいた力を一気に解放した。鼻を押さえてのたうち回る良夜、彼にアルトはフンッ! と侮蔑の視線を送る。
「直樹! いくらで売るつもりよ! 良夜! いつまでももがいてないでさっさと通訳!!」
「てめえ! そのうち、その金髪全部引っこ抜いて、藁人形に植毛した上で五寸釘叩き込むぞ!!!」
「はんっ! ヘタレが出来る物ならやってみなさい!!! ごちゃごちゃ言ってたら、その髪全部引っこ抜いて、私は髪人形作ってやるから!!!」
「あっ、あの……良夜君もえっと……アルトさんはどこに居るんだろう……? あの、喧嘩は止めた方が……」
「だったら私だって何か買って欲しいかなぁ……そろそろ新しい家族が欲しいですしぃ……聞いてます?」
アルトと良夜が目を剥いて喧嘩をし始め、その間にはまった直樹はおろおろし始め、美月は美月でサラッと欲深なことを言い出す。静かだったアルトフロアは一気に騒然とし始めた。
そんな中、一人、会話の外側にいた女がボソッとつぶやいた。
「だったら、りょーやんと美月さんとアルちゃんの三人で行ったら? お店は私となおと店長で何とでもなるって暇だし」
その声は非常に小さい物だったが、三人全員の耳に届くに十分な物でもあった。
一気に静まりかえる店内、針一本落としたとしても大騒音になるような空気が広がった。
「それよ!!! これで決定!!! さあ、予定を立てましょう!!!」
その沈黙を破ったのは、アルトの美しいソプラノの叫び声だった。
と、言うわけでそれから一週間が過ぎた。第三者的な視点で事実だけを記するならば、七月最終日曜日から八月第一土曜日までの一週間、良夜は美月とアルトという二人の女性とコテージにお泊まりする、と言う予定がしっかり立っていた。どういういきさつでこう決まったのか、良夜は良く覚えていない。
「……マジ?」
この一週間を一言で言い表すならば、「あれよあれよ」という言葉しかない。一応はアルトの通訳という誰にも代替できない役を担っていたはずなのだが、彼は自分の意志で唇を動かした記憶すらない。それどころか、バイトを一週間も休むという交渉をいつやったのかすら良く覚えていない。気付いた時には事務室のホワイトボードに『浅間休み』の文字が七つ並んでいた。
「……えっと……あれ?」
目の前にはいつの間にやら用意されたボストンバッグが一つ。中身は彼の着替えや水着やその他身の回り品がぎゅうぎゅう詰めになっているはずだ。用意した記憶はかすかに残っている。
「んじゃ、りょーやん……一応、企画立案プロデューサーとしては最後までとも言えないけど……いる? 明るい家族計画」
「いるか!!」
美月の愛車妖精号(命名良夜)からぬいぐるみを下ろし、ついでに貴美から渡されたゴム製品を叩き返して、出発準備は全て整った。妖精のぬいぐるみが鎮座していた席に荷物を置いて、美月は運転席に乗り込む。すでに昨日の昼間からカウントダウンをしていたアルトは良夜達が荷物を積んでいる最中から、ダッシュボードの上で「遅い遅い」とバタバタしっぱなし。何が彼女を海に駆り立てているのは知らないが、目障りなことだけは間違いない。
「それじゃ、吉田さん、後のこと、お願いします」
「うん、三人で適当にやっておくから」
「適当じゃ駄目ですよ〜!」
「あはは、わーってる、わーってる」
運転席の窓越しに美月と貴美は一言二言言葉を交わしていた。その様子を良夜は横目で見ながら、急に妙な緊張感を覚え始めてた。
今更言うべき事でもないが、彼は非常に女慣れしていない。はっきりウブだと言っても良いくらいだ。もちろん、大学に入ってからこっち、美月を初めとした少なからぬ女友達も出来た。工学部という特性上女子大生とのご縁はあまり多い方でもないが、実験だの実習だのでは割と当てにされる方だ。しかし――
「今日から一週間……男、俺だけ……」
その事実が彼に余計なプレッシャーを与える。何かを期待したって良いお年頃であると同時に、その何かで地雷を踏んだらどうしよう? と不安になっても良いお年頃でもある。
そんな微妙な心理状況が彼の指先を動かす。それは肘掛けの上に出来ていた小さな毛玉をいじくるという悪癖となって、表面化した。
「……良夜、不埒なことを考えてたら……リアルに殺すわよ?」
良夜がそわそわと落ち着きをなくし始めると、それまでダッシュボードの上でのんきに鼻歌を歌っていたアルトの表情が一変。途端に殺気を孕んだ表情になると、片手で握ったストローを上下左右に振り回し、十字に宙を切り裂く。
「何も考えてないって……ストローを振り回す――」
「でも、キスくらいならゆるして上げるわよ」
良夜が言おうとした文句をアルトのサラッと発した言葉が遮った。
「!!」
「そろそろハタチが来ようかって男ととっくに成人式すませた女が付き合ってて、キスの一つもやってないなんて世間的に許されないわよね。キスくらいならやって良いわよ、すなかぶりで見物させて貰うけど」
などと続けられた言葉は良夜の耳には届いては居なかった。代わりに、ただただ自分の血液が耳たぶにまで流れ込んでいく音と妙に早くなった鼓動だけが聞こえる。
「じゃぁ、行ってきますね」
「へいへい、気をつけてね」
そうこうしているうちにウェイトレス二人組の会話も終わり、三人を乗せたスズキアルトは喫茶アルト前の国道へと進み出た。まぶしい太陽がボディを照りつけ、真綿のような雲がぽっかり一つ二つと空にアクセントを付ける。ドライブにはもってこいの天気。その下を走り出した車内では、美月が付けたFMラジオはポップな曲を歌い、アルトがそれに合わせて鼻歌を歌い始める。
平和二文字が支配する空間の中、良夜は妙な緊張感だけを抱き、流れる景色を見るともなしに見ていた。
「……――……? で……! 聞いてますか?」
流れるだけの風景の中、美月のくりっとした大きな黒目がニュッと滑り込んだ来る。その背後では緑色をした案内板が高速で流れて……――
「美月さん! 前見て!! 前!!」
僅かにずれていた精神の歯車がかみ合い、彼に大絶叫の悲鳴を上げさせた。
「やっと返事をしてくれました〜ちゃんと見てますよ? 車に乗ってからは無事故無違反なんですから!」
そう言って美月はシートに座り直すと、ギャン! とタイヤを一度だけ鳴らし、流れるように追い越し車線へとアルトを運んだ。刹那の直後、良夜の左側を大型トレーラーが後ろへと流れてゆく。ついでに彼の背中にも嫌な汗が流れてゆく。
「……美月さん……」
「大丈夫ですよ〜免許持ってない人が偉そうなこと言っちゃダメなんですよ? 知ってますか?」
自身ででも判るほどに良夜の顔からは血の気が引き、それを見る美月の笑顔がやけにまぶしかったことが、彼は逆に怖かった。
「そっ、それで何の話でした?」
「ああ、今夜の夕飯ですよ。遅くなっちゃいそうですし、簡単にお弁当でも良いですか?」
いろんな理由で跳ね上がっている鼓動を落ち着かせながら、良夜は美月の言葉に首肯する。正直、夜の食事よりも貸別荘にまともに着けるかどうかの方が彼には重大事項だった。
それからのドライブは概ね快適だった。時々美月は盛大なよそ見をしたり、手をハンドルから離したり、ふと見たスピードメーターの針が一発免停の領域を指していたりとイベントごと盛りだくさんだったのだが、精神衛生上の理由から良夜は快適だったと思いこむことにしていた。言っても聞かないんだもん、この人……
まあ、おかげでアルトの言ったことに妙な意識を向ける暇もなかったのは、ある意味幸運なことだったのかも知れない。
その日、良夜達が貸別荘に到着したのは日もどっぷりと暮れた午後八時を少し回ったところだった。去年よりもずいぶんと遅くなったのは、運転手が美月ただ一人だったためだ。彼女は大丈夫と胸を張って主張し続けては居た物の、さすがに女性一人に運転させ続けるのは良夜の良心が痛んだ。美月に多めの休憩を取らせた結果、フェリーの便を一つ遅らせ、海水浴初日は翌日に順延という運びになった。
「美月さん、最近、運転荒くないですか?」
「そんなことはありませんよ〜私はいつも安全運転、無事故無違反ですから」
「元々こんな物よ。人生、運だけで乗り切ってるんだから」
去年と建物こそ違え、レイアウトは全く同じ貸別荘の中、三人はコンビニで購入してきたお弁当で簡単な夕食を終わらせた。それからはとりとめもない雑談で時間を潰す。そんな時間が三十分ほども過ぎただろうか? テーブルを挟んで良夜の正面に座っていた美月が、チョイチョイと良夜を手招きで呼んだ。
「良夜さん、良夜さん」
今までも会話は交わされていたのだから、彼女が良夜を呼ぶ必要はない。だと言うのに、彼女はテーブルに体を載りだし、何度も手招きをして呼ぶ。
「はい?」
意味不明な行動に小首をかしげるも、良夜は言われるままに顔を近づける。二人の顔がお互いの吐息までも感じられるほど近付いた。
「ユーレーがいます」
焼き肉弁当食べたんだけどなぁ……と唐突に思い出していた良夜の思考が止まった。ゆーれー……ゆうれい……幽霊?!
「みっ!」
「しーっ! 振り向いちゃ駄目ですよ」
少し荒れた指先が彼の唇を押さえ、叫びかけた良夜を制する。
「……幽霊って何ですか?」
「良夜さんの背後、窓の外ですよ……金色をした何かがウロウロしてます……きっと幽霊ですよ」
ボソボソ……抑えたトーンで彼女はささやき、良夜が後ろを振り返ろうとするたびに「見ちゃ駄目」と制した。何故か物凄くニコニコしている。
「私、思うに火の玉だと思うんですよ。ぼーっとした金色ですし。凄いですね、幽霊なんて始めてみました」
大きな目はより一層大きく見開き、良夜の唇から離れた指先がギュッと握りしめられる。うずうずと動くからだが、彼女が今すぐにでもそこへと飛んで行きたがっていることを臭わせた。
「……何がそんなに嬉しいんですか?」
「それでですね、アルト、いますか?」
あきれ顔の良夜を華麗に無視すると、彼女は視線をテーブルの上へと戻した。キョロキョロ……食後のコーヒーが並ぶテーブルの上で美月の視線が行き来を繰り返す。
もちろん、アルトはテーブルの上にいた。テーブルのほぼ真ん中、汗をかいたグラスの上にちょこんと腰を下ろし、彼女はストローでちゅーちゅーと良夜のアイスコーヒーを吸い上げている。アルトはあまり興味もなさそうな表情で「なぁに?」とだけ美月の声に返事を返した。
「見に行って下さい!」
良夜の通訳もそこそこに、美月はきっぱりと言い切った。
「はぁ?」
「アルトなら幽霊にもばれませんよ」
「……面倒くさいわね……判ったわ、行ってくる」
トーンと良夜の頭を強く蹴っ飛ばし、アルトは良夜のは以後にある窓へと羽を動かした。いつもよりも蹴り足に余計な力が入っていたのは、気のせいではないはずだ。
そして、数分間。良夜と美月は多少意味合いは違うが、二人ともソワソワと心を落ち着けることなく、偵察要員の機関を待ち続ける。良夜の背後ではアルトがゴゾゴゾと窓際をうろついている気配があった。
トンッ……良夜の肩にアルトがふわりと羽を広げて着地を決める。そのまま、彼女は良夜の耳元に顔を押しつけ、ボソボソと一言だけ囁いた。
ぱちん!
良夜の右手が良夜の額を叩き、彼はがっくりとテーブルの上に突っ伏した。そのまま、はぁぁぁぁぁと大きな溜息を吐く。そして、吐いた分の息を大きく吸い込み、 ガバッと立ち上がると、背後の窓に向かって大声を上げた。
「後ろにお化け!!!!!!!!!!!!」
「なにっ!? うそっ!! やだっ!!!!」
窓の外から聞こえてきたのは聞き間違う事なき、吉田貴美の悲鳴……
「……だから、僕は止めようって言ったのに……」
と、高見直樹の情けなさそうな声だった。