時間は過ぎるもの
早いもので時間だけは過ぎていく。ここに着いてから僕は壁に一日が終るたびに 一つずつ傷を付けていった。似たような傷を反対側の壁に発見したから始めた事だった。 ちょうどその数は100あった。元の住人が付けた傷は100。では僕は ?
僕は退屈さから、リオンに頼んで絵の具とキャンバスをもらう事に成功した。 「こんな物がここに存在するの ? 」 「世界の物質は全て元は自然の物から出来ているの、人間の手ではなくね。 自然の物質から必要な物だけを集めればなんだって出来るわ」 僕がキャンバスに描こうとした物は、初めて見たあの美しい朝焼けと祈る リオンの横顔だった。あの空の色は何度見ても飽きずそれを上手くキャンバスに描く 事が出来ないもどかしさで、僕はイライラしながら何度もキャンバスを塗りつぶした。
明け方の地鳴りがこの所ひどくなったような気がしていた。リオンは何も言わない。 付けた傷ももうすぐ100に近づきかけているのは偶然なんだろうか。
ある日、ものすごい地震で目が覚めた。 「なんだ、いつものとは違う」 慌てて、服を着替えて僕は外へと飛び出した。 リオンの後姿が森とは違う方向、ジャングルに向かって走っていくのを見つけた。 「ジャングルで何かあったのかな ? 」 その後姿を見失わないように、僕も駆け出した。 熱帯植物が僕が入っていくのを拒むように足に絡んでくる。まるで、意識を持って 故意にそうしているように、幸運にも殺意を抱いてはいないようだった。 リオンはあっと言う間に見えなくなった。僕は、絡んだ植物に向かって話しかけてみた。 「僕は行かなきゃいけない気がするんだ、リオン独りにしちゃいけないって、 だからお願いだから、僕を進ませてよ」 真剣な願いが通じたのか、スッと絡んでいた植物が波の様に退いていった。 「ありがとう」 (やっぱりこいつら意識があるんだ) 一度しか通った事のない獣道だけど、植物達が自然と道を示してくれた。 パッと広い視野が目に入ってきた。 真っ黒な霧のような闇の塊がその空き地全体を浮遊していた。 リオンは、その塊に向かって何かを叫んでいた。 「リオン、これは一体…」 僕には本当は解ってはいた、これが・あいつ・なんだ。 「来ちゃ駄目!! いつものことなの、すぐ静めるから」 ─あいつ─は僕の存在に気付いたようだった。 「彼は駄目よ、トールに手を出したら私もうここにはいない」 黒い闇は、その声に微妙な反応を示した。その闇の中に僕には見えた。 苦しそうな表情を浮かべて、闇に溶け込みかけているその姿は半身は闇の色、 そして半身がリオンとよく似た金色の髪と青い瞳、白い肌。 ─あいつ─が、その二つの色と同じように葛藤しているのは僕にも解った。 僕はこの場から、離れなければいけないと本能で悟った。 そして、ここの創造主と─あいつ─が同一人物だという事。 あの半身ずつの色が示すように、彼はここの神であり禍でもあった。
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