本当の孤独

 

 「随分早起きなんだ」

 不意に後で、声がした。

 「あっリオンさん。おはよう、見た ? さっきの」

 「ここの夜明けは、他のどこでも見られるのとは違うから…」

 「さっき、地震があって、それで目が覚めちゃって」 

 「地震 ? あぁっ明け方に聞こえる音ね。あれはあいつの立てる寝息から

 起こる共鳴、あいつでも生きてるから睡眠はとらないといけないから」

 「あんな音を立てるなんて、あいつはよっぽど大きい生き物なんだ」

 「さぁっ? 大きさだけで判断してはいけないわ…トール」

 僕の名前は透。彼女は好んでカタカナの神話の中に出てくる神の名前で発音する。

 「もう朝食の準備が出来てると思うから、入ったら ? 」

 「ここの創造主は、僕達をいつも見ているの ? 」

 「何故。そんな事を ? 」

 「昨夜、急に食事の支度が出来てたから、どうなってるのかと思って」

 「見ているといえばそうね、でも決してプライベートには関わらないわ。

 三度の食事の時間だけ、あんな風に出現するの」

 「君の部屋にも ? 」

 「そうね…ここでは何をしても自由、でもそれと引き換えに…」

 僕は次の言葉を待った。

 「本当の孤独を知るの」

 静かに僕の背中をトンと押して、背中を向けて自分の家に向かって歩くリオン。

昨日よりは幾分疲れのとれた歩き方に少しホッとした。

部屋に戻ると、言ってた通りに食事のしたくが出来ていた。

湯気を立てたるカップには、ホットミルク、色よく焼けたクロワッサン。

かたゆで卵、色とりどり良くならんだ野菜サラダ。

もちろん、味の方は言うまでもなかった。

 食事の後に、水のみ場で使った食器を洗っておくと自然となくなるのに

昨夜で気付いた。洗い終えると、テーブルの上は、香りのいい珈琲が置かれてあった。

 「なるほど…いたれり尽せりって事か」

 趣味のいい珈琲カップ、豆はブルーマウンテン。立て方は抜群に上手かった。

 「さてと、僕はどうしたらいいんだろう」

 部屋の中をうろうろと春の熊のように歩き回る。と言ってもお腹を満たした後の熊。

退屈を感じるほど、まだここに生活に慣れてはいなかった。何かをやりたい、

でも何なのか見つからないようなもどかしさ。

 とりあえず部屋を出て、周りを調べてみる事にした。

昨夜は暗くなり始めていたから、探索はしてはいなかったから。

小屋の後ろに回ってみると、果てしなく続く森への道を見つけた。

昨日着いたジャングルとは別の性質のような森だった。

あのジャングルを─動─とするとここは─静─人の手の加えられてないと言う意味では

同じ意味だったけど。ジャングルの中は、見た事のないような熱帯植物が生えていた。

でも、この森はよく見かけるブナ、柏、楓、モミ、ずっと奥まで続く。

きっと数多くの植物が植えられてあるんだろう。

あまり奥まで入るのをためらって、僕は踵を返して元の場所に帰った。

ここにあるのは、森とジャングルと家が並んだ村(と言えるなら)だけなんだろうか ?

だとしたら、リオンが言った言葉にも頷ける事だった。

 遠くにひばりの鳴く声がする。どうやら、春らしい。そう思った途端、道の陰に

スミレの花が群になったて咲いているのを見つけた。

 「さっきはあったかな ? 」

紫色の清楚なイメージ、僕はリオンの淋しげな表情を思い出した。

僕は、そのまま歩いてリオンの家に足を向けた。

 「コンコンッ」 数度ノックを繰り返す。

ゆっくりとドアが開き、昨日初めて会った時の気の強そうな表情のリオンに戻っていた。

 「散歩してきたみたいね、ここがどう言うところか解ってきた ? 少しは」

 「なんとはなくね、あのジャングルに行こうと思って呼びに来たんだ」

 僕の顔をじっと、見つめながらドアを閉めてリオンは先に立った。

 

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