新生活

 

 とにかく、何かを始めなきゃいけないと思った。

 「僕はどうすればいいのかな ?  とりあえずは寝る場所とかを確保しないと」

 「あたしの村に来ればいいわ、今はもう誰もいないけど、前の人達が造っていった

家がいくつか残っているの。そこに住めばいわ、食料は果物ならあるしパンの木

だってあるしココナッツも、自然の物ならなんだって手に入るわ、望みさえすれば」

 「望み ? 誰に対して ?  」

 「ここはそう言うところなの、すぐに解るわ、あなたにも」

獣道を選んで彼女の足は、少しもそのスピードを弛めることなく歩いている。

僕は付いていくだけで精一杯で、彼女の言葉に質問を挟む気力すらなかった。

 「さぁっ着いたわ。」

パァッと道が開けて、指差す方向に小さな掘っ立て小屋が幾つか建っていた。

いかにも手作りらしい不恰好さに僕はとまどいを隠さずに聞いた。

 「本当に、ここに住んでたの ? 」

 「見た目よりは住み心地はいいはずだけど」

僕は、比較的新しく一番見た目がいい家を選んだ。

 「その家に住んでた人だけが、多分無事帰れたんじゃないかと思うんだけど」

 「なんで多分なの ? 」

「気が付いたらいないの。ひっそりと姿を消すの、あいつに食べられた訳ではないのは解っているの、

だったら帰ったとしか思えないわ、あたしはそれを消滅と言っているけど」

 「君しかいないの ? 」

 コクリと頷くと、リオンはくるりと背中を向けた。

 「あたしの家はあそこ、あの青い屋根よ、なんかあったらどうぞ、

今日はもう疲れたからあたしは寝るけど、あなたはまだ寝るのには

早い時間だろうから、その辺を散歩でもしてみたら。ここでは何をしてもいいの、

怒る人なんて誰もいないの、一日中寝ていてもいいし森を探検するのも自由、

この村の森には、あいつは入ってこれないから安心してどうぞ」

少しふらつきながら、歩くリオンの背中は小さく見えて淋しげに見えた。

その背中に、手を振ったあととりあえず僕は部屋の中に入ってみた。

思ったよりそこは清潔に見えた。試しにテーブルを指でぬぐって見た。

──埃がつかない──

誰かがここを掃除してあった。毎日、ここをリオンは掃除していたのだろうか?

いつ来るかも解らないハザマからの訪問者のために ?

その姿を想像してみて、計り知れない孤独さを感じたのは僕だけなんだろうか。

ここにやってきて、ここを建てたと言う前回の漂流者、君もそう感じなかったの ?

 

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