森の国

 

        ──目覚めれば──

 

 ふと目が覚めたら、目に見えたのはいつもの部屋の中じゃなかった。

夢かと思った。もう一度寝直せばいいんだと毛布を頭からかぶる。

心の中で数を数えた。魔法の数字「One Two  Three 」 なんだって、三秒経てば

元通りのはず。子供の頃から三つ数えて目をあければいつも願いは叶っていた。

何もない手の中からさまざまな奇術が生まれたように。

あと、姉さんがバレエの練習で口ずさむ 「un-deux-trois」

 次の瞬間、それは綺麗な姿勢でポジシオン・デ・ピエを繰り返す。

他にも僕は知ってる、魔法の呪文「BIBBIDI-BOBBIDI-BOO」

これが一番僕には効き目がありそうな言葉だ。 

 勢いよく毛布から顔を出して、大きく目を開ける。

次の瞬間、大きな溜息と隠せない動揺と自分が狂ったんじゃないかと言う不安。

だって、目の前はいきなりジャングルの風景、そうよく本の中で読んだあれ。

ロビンソン・クルーソーが漂流して切り開いていったようなジャングル、密林、

サバンナ、えっと、あと何があったっけ。

とにかく見た事のないほどのあでやかな緑色の森がそこに存在していた。

 毛布から手を離した途端─それ─は消えた。

 「僕の毛布…」

 「キャハハハッ、君はそんな歳になって毛布を抱えないと眠れないの? 」

突然、頭の上から降って沸いたように甲高い笑い声がこだまする。

 あっけにとられながらも、少しずつ後ずさりしながら、僕は何か身を守る物が落ちてないかと、周囲を見渡す。

何本か枯れ木が落ちてはいるが、すこし老朽化過ぎて、役に立ちそうにはない。

 「大丈夫よ、取って食おうなんて事しないから」

タンと足場にしていた木の枝を蹴って、クルリと宙返りをして彼女が地に下りてきた。

 「ようこそ、森の国に」

 明るい金髪、気の強そうな口元、目だけでも充分語れそうなおしゃべりな瞳。

 歳は僕とそう変わらないように見えた。なのに、どこか大人びて見えるのは何故だろう。

 「森の国って何? 僕は、自分の家にいたのに」

 「時々、いるのよ、夢のハザマからやってくる人が」

 「ハザマ…からって、 夢じゃないの ? ここは。戻れるの? 」

 「夢なのかもしれないし、違うのかもしれない、無事目が覚めた人のみぞそれを知る」

 「いたの ? そんな人、帰れるんだよね」

さっきまでの気の強さは消え、少し悲しそうな目をして僕を見ている。

 「私にも、解らないの、ごめんなさい、上手く言えない」

そんな顔で謝られると、まるで自分が悪い事をしたような気がした。

 「君が悪い訳でもないよ、多分」

そう答えながらも、僕は何故か悲しくなって力なく肩を落とした。

 

 

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