「これに乗るの? 」 目の前には、二人用のホバー・クラフトが僕等を待っていた。 銀色の流線型、多分ジェラルミンのような軽い金属で作られているんだろう。 中は、車の運転席とほぼ変わらない作りになっていた。 「遠いからね、結構あるんだ」 「何kくらい出るの? これ最高時速って」 「試した事はないけど、500位は出るはず」 すごい勢いで、周りの景色が吹っ飛んでいく。もちろん、真っ暗闇だからはっきりとは どんな風景なのかなんて解りはしなかったけれど。 「初めて、月に降りた時から何か別の意識をずっと感じていたんだ」 ハンドルを片手で操作しながら、ポツリポツリとしゃべり始めた。 「何と表現したらいいんだろう、悲鳴にも似た悲しみがこの月全体を包んでいた。 誰も気付く者はいなかった。ここに降りた者の中にはね」 「ある日、問いかけてみたんだ、一体、何がそんなに悲しいのかと」 「声に出して? 」 「いやっ、テレパシーってのを信じてるからね、何にだって心はあるさ」 「僕も信じてるよ 」 「君は、いい子だね」 J・Jは、すごく優しい目で僕の顔を見て納得したような表情を浮かべた。 「もうすぐ着くよ、暗いから何も見えないけど」 ゆっくりと、ブレーキを掛けてそのエンジンをなだめるのように優しくキーを外す。 外は、薄ぼんやりとしていたが、暫くしてやっと目が環境と一致してきた。 クレーターの中に僕らは立っていた。屈んで試しに石を拾ってみた。 身体が浮き上がらないのは、僕らの宇宙服につけられた、重力制御装置ってのが働いているからだと、J・Jは言った。 とてつもない科学能力を隠し持っているらしい、彼の後ろにある財団。 ( 一体、彼は何者で僕は本当に何かが出来るんだろうか? 何かを期待されているとしたら、それはお門違いって事に早く気付いてほしかった 「行こう。石が転がってるから気を付けて」 大きな石の前に立って、屈んで何かスイッチのような物を押した。 その奥には、下へと続く石段がずっと続いているのが手に持った懐中電灯が 照らし出していた。空気がないから、光は僕らのまわりでだけしかその効用を発揮を してはいなかったけど、ずっとどこまでも続いている気がした。 「ここを見つけるのに、苦労したんだ、まさかこんな奥深くに文明が隠されているとは、 予想できなかった。もうずっと前から来てたのに」 壁づたいに、僕はどんどん下へと向かった。 距離感が計れないから、僕は唯、目の前のJ・Jの背中だけを道標についていくだけだった。 やっと平らな地面になった事に気付く。 「ここは? 」 「ここ全体は都市のなれの果て、廃れていった見本みたいな場所、 それなのにここだけは機能してまるで誰かが来るのを待っているみたいだった。こう言う風な建物が何百も 集まってある都市を形成しているんだ。そして、僕は答えに辿り着いた」 ドアのような物が一つ壁の隅にあった。それは一見、どこにでもあるよう 普通のドアの形をしていた。複雑な仕掛けが隠されているようにはとても見えなかった。 「開けていいよ、そこは僕の趣味で普通のドアに変えてもらってある」 重い金属音がして、ドアが開かれる。一歩を踏み出すのをためらって中をそっと覗いてみた。
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