「ブーーーーン… 」

耳障りな金属音が頭の中に響く。

到着を知らせる無機質な女性のアナウンスが聞こえる。

急いで、椅子に固定するためのシートベルトを付けて、その瞬間を僕は待っていた。

 「気分は? 」

 「大丈夫、もう外してもいい? 」

フワッと身体が宙に浮き、僕は少し眩暈を感じながら慣れるまで数分はじっとしていた。

 「ここは、通常のNASAの基地とはちょうど反対側に面してるんだ」

 窓の外に見えるのは、銀色に光る三角錐の塔。

 「我が社専用の宇宙基地。ルナ・ステイションにようこそ」

ハッチを開いて、最初の一歩を踏みおろす。僕の足跡が月の砂の上に残る。

真っ暗い宇宙の中に遠く地球が光って見えた。

 「もう、ここからは光しか見えないんだ、地球も」

 僕は、少し淋しくなった。なんて言うんだろう、宇宙単位の淋しさって物がひしひしと

心に染みとおってきたんだ。この孤独感は、何処から来るんだろう?

 「君にも届いたんだ」

 「えっ ? 」

 「誰かの想いが、この月の裏側に残留しているんだ。それが誰の物なのかは

 解らないけど、今、淋しいと感じたんだろう? 君は」

 「誰かの心に共鳴しているって言うの? 、その誰かに関係しているの? 」

 僕らの着ている宇宙服って言うのは、よくテレビの中で宇宙飛行士達が着ている

分厚いごつい物ではなくて、ごく薄い繊維で作られた身軽な物だった。

最初に渡された時は正直言ってとまどった。でも、試着してみて初めてこの宇宙服が

どれだけ計算されて作られた物なのかが理解できた。

 まず、どんな熱、極寒の冷気、毒ガス、硫酸にさえそれはビクともしない耐久性を

秘めていた。まだ、NASAが実験段階な夢の宇宙服をどうして、彼が用意出来た

のかも不思議だった。軽いヘルメットにつけられた酸素チューブ。

ボタン一つで、飲料水と栄養剤が喉を潤してくれる。もしもの(100%それはありえないけれど、

いゃっ、99.999%の確率でと言い直しておこう。)

場合には、腰の位置に使いやすそうなナイフと電気銃らしき物が装備されてある。

 「さぁっ、行こうか、冬生。君を待っている彼女の元へ」

 「誰かいるの? この月に」

少し、心配そうな僕の表情を読み取って、J・Jは笑った。

 「何も危険はないよ、私がやっと見つけたのは今年の初めだった」

彼の声は、ヘルメットに備えられたトランシーバーのような物から聞こえてきた。

 もうここまで来たんだから、成るがままに任せるしか仕方のない事に僕は気付いていた。

 

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