月に一体、どんな魅力があってこんなに人は惹きつけられるのか ? 地球の引力に囚われた星。少しずつその引力から解き放たれようともがき続けて 少しずつ遠去かろうとしている月。 僕は、昔から何故か月の事を調べたり、何かを書くのが好きだった。 そして、月に今、向かっているなんて信じられなかった。 秒読みが始まる。極秘に行われた打ち上げ式。どうやら専用の宇宙船らしかった。 自家用宇宙船を維持できるなんて、一体どんな金持ちなんだ ? シートベルトが外されて、J・Jが僕に話しかけてきた。 「見てごらん、あれが地球だよ、何度見ても美しい」 小さな窓越しに、銀河の中にぽっかりと浮かぶ青い地球が見えた。 どこまでも青く澄んだ宇宙のアクアマリン。 知らず知らずに、目から涙が零れて来た。地球を離れた思慕なのか、拭いもせずに僕は 窓の外、小さく見えなくなるまで目をこらしていた。 「初めて、この光景を見た時、僕も泣けたよ。ここに存在してる奇跡に感謝していた。 神になのか、はたまた僕を産んだ両親にか ? 多分両方になんだろうけど」 「何度もって ? そんなに何度も見たの ? この風景を」 「あぁっ、昔からもう何度もね」 唇に小さく微笑みを浮かべて、J・Jが僕の問いに答えた。決して多くを語りたがらないその物言いに、 それ以上を問いかけるのは無用だと静かな拒絶を感じとった。 「もう、地球の引力からは開放されるから、自分の行動には気を付けて」 何度もシュミレーションで練習した、無重力空間での移動方法。 実際、その時に面してみてみないと大変さは解らなかった。 フワフワッと、僕の体は宙に浮かび上がりなんとか漂わないですむように、近くの 取っ手に手を伸ばして、僕は体勢を整え直した。 「あの、一つ聞いてもいいですか ? 」 「なんだい、冬生」 (フユキ、僕の名前だ、彼の発音はちゃんと漢字で僕を呼んでいたから感心する) 「一体、僕は何のために月に連れて行ってもらえるんですか ? 」 慌てて僕は付け足した。 「もちろん、懸賞だったってのは知ってます。こんな機会に巡り合えて感謝もしてます」 「意味はないよ、唯、君には何かがあると思ったんだ、それじゃ駄目かい ? 」 「いいえ、それでは…解りました。もう聞きません」 僕は、次の質問も用意していたけれど口には出さずにその場をやり過ごす事にした。 「月に着いたら、君には見せたい物があるんだ」 そう言うと、トンと壁を押して彼はハッチを抜けて自分のコンパートメント・ルームに戻っていった。 謎を残す彼の言葉、僕は何故、ここにいるんだろう ? |