血管の健康を守る新しい基準

2026年3月、世界で最も権威のある米国心臓病学会(ACC/AHA)が脂質異常症の管理指針を8年ぶりに改定しました。 当院ではこの最新の科学的根拠に基づき、お一人おひとりに最適な治療をご提案します。

1. あなたの10年後、20年後の血管を守るため脂質管理の「目標数値」が明確に

新しい基準では、リスクに応じて目指すべき数値が明確に定められました。「これくらいで大丈夫」ではなく、「ここまで下げる」という明確なゴールが設定されました。

 リスク区分 対象となる患者 LDLコレステロール目標値
低い リスクが低い方 120〜160mg/dL 未満
中程度 リスクが中程度の方 100mg/dL 未満
高い 糖尿病や腎臓病がある方 70mg/dL 未満
超高い 心筋梗塞などの既往がある方 55mg/dL 未満

2. 動脈硬化性心血管疾患の発症予防を目指す推奨治療

新しい基準では、LDLコレステロール目標値を達成するため、以下の治療が推奨されています。

 リスク区分 対象となる患者 推奨治療
低い(一次予防) リスクが低い方 生活習慣指導
中程度(一次予防) その他、リスクが中程度の方 中強度スタチン
高い(一次予防) 糖尿病や腎臓病がある方 高強度スタチンとエゼチミブ併用
超高い(二次予防) 心筋梗塞などの既往がある方 上記にベムペド酸追加

3. 専門医としてのメッセージ

脂質代謝の改善は、決して「薬を飲むこと」だけが目的ではありません。食事、運動、そして最新の知見に基づいた適切な管理を組み合わせ、10年後、20年後の健康を守ることがゴールです。数値について気になることがあれば、いつでもご相談ください。

4. 未来のリスクを予測する新しい計算式「PREVENT-ASCVD」

動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の一次予防のため、発症リスクを予測する最新モデルです。従来の評価よりもさらに詳しく、 以下のデータを用いてリスクを算出します。

★数値の解釈と臨床への応用

PREVENT計算機の結果は、主に以下の3つの指標で示されます。

 指標 内容 臨床での使い方
10-year ASCVD Risk 10年以内の心筋梗塞・脳卒中リスク スタチンや降圧薬の開始基準の参考に。
10-year Heart Failure Risk 10年以内の心不全リスク 生活習慣指導やSGLT2阻害薬等の検討。
30-year Total CVD Risk 30年間の心血管疾患総合リスク 若年層・中年層への長期的な健康管理の指導。

★臨床におけるメリットと活用

★具体例1:働き盛りの軽症高血圧・肥満者(早期介入の動機付け)

対象: 45歳 男性

状態: BMI 28、血圧 135/85 mmHg(未治療)、LDL-C 130 mg/dL、eGFR 85、非喫煙、糖尿病なし。

従来の評価(PCE等): 10年リスクは非常に低く算出され、「経過観察」で終わりがちでした。

PREVENTでの活用:

長期リスクの提示: 10年リスクだけでなく、**「30年リスク」**を表示します。

説明の例: 「今の数値だけなら10年以内の発症率は数%ですが、今の生活を続けると、75歳までに心筋梗塞や心不全を起こす確率は30%を超えます」と、若年層に対して具体的な将来予測を伝えることで、減量や食事療法の動機付けに使用します。

★具体例2:慢性腎臓病(CKD)を合併する患者

対象: 65歳 女性

状態: 高血圧(加療中 140/90 mmHg)、LDL-C 110 mg/dL、eGFR 45(ステージG3b)、HbA1c 6.4%。

PREVENTでの活用:

腎機能の反映: 従来のモデルではCKDの有無は考慮されにくい項目でしたが、PREVENTではeGFRを直接入力します。

心不全リスクの評価: この症例ではASCVD(心筋梗塞等)以上に、心不全(HF)の発症リスクが高く算出される傾向にあります。

介入の判断: 総リスク(Total CVD)が高く出た場合、血圧管理の目標をより厳格(130/80 mmHg未満)にする、あるいはSGLT2阻害薬の導入を検討するなどの「CKM(循環器・腎・代謝)症候群」を意識した治療戦略に繋げます。

★具体例3:糖尿病予備軍の高齢者(オプション項目の活用)

対象: 72歳 男性

状態: 収縮期血圧 145 mmHg(加療中)、LDL-C 90 mg/dL(スタチン服用中)、eGFR 55、非喫煙。

PREVENTでの活用:

追加項目の入力: 基本項目に加え、オプションの**「HbA1c」や「UACR(尿中アルブミン/クレアチニン比)」**を入力します。

精度の向上: 高齢者の場合、加齢だけでリスクが高く出がちですが、UACRやHbA1cが良好であれば、不必要な薬剤の追加を避け、現在の治療の継続(ベネフィットの再確認)を促す根拠になります。

注意点

このモデルは米国のデータをベースに構築されているため、日本人のリスク評価にそのまま適用する際には、国内のガイドライン(日本動脈硬化学会の「吹田スコア」など)との差異に留意する必要があります。 しかし、「心不全を予測に含める」「腎機能を重視する」「社会的背景を考慮する」という方向性は、今後の世界的なリスク評価のスタンダードになると思われます。
新しく推奨された検査「Lp(a)」をご存知ですか?
LDL粒子に「アポ蛋白(a)」という特殊なタンパク質が結合した粒子です。 強い動脈硬化惹起性があり、血中濃度は、その約90%が遺伝によって決定されます。食事、運動、あるいは従来のスタチン服用による影響をほとんど受けないのが大きな特徴です。そのため、一生に一度血液検査することで、 通常のLDLコレステロール値だけでは見えない「隠れたリスク」を把握でき、より精度の高い予防プランを立てることができます。30 mg/dLを超えるとリスクが上昇し始め、50 mg/dL以上は高値と判定され、心血管リスクが有意に高まるとされています。

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