CKD診療ガイドライン2023 詳細要約・解説

内科クリニック実務・日常診療用マニュアル

はじめに:2023年版改訂の背景と臨床におけるパラダイムシフト

「CKD診療ガイドライン2023」は、前版(2018年版)から5年ぶりの改訂となった。今回の改訂における最大の核心は、単なる進行抑制(現状維持)にとどまらず、「積極的な腎保護および心血管予後の改善」を狙える新規薬剤のエビデンスが豊富に蓄積され、治療アルゴリズムが劇的に進化した点にある。

特にかかりつけ医(一般内科クリニック)において極めて重要な変更点は以下の通りである。

第1章:CKDの診断・重症度分類と専門医への紹介基準

1. CKDの定義と重症度(CGA)分類

CKDの定義(①尿異常、画像診断、病理組織などで腎障害の存在が明らか、②eGFR < 60 mL/min/1.73m2、のいずれか、または両方が3カ月以上持続する)に変更はない。重症度分類は、原疾患(Cause)、GFR(Grade)、アルブミン尿・蛋白尿(Albumina/Proteinuria)を組み合わせたCGA分類を用いる。

2. クリニックから腎臓専門医への紹介基準

日常診療において、どのタイミングで専門医に併診・紹介すべきかの基準が明確化されている。以下のいずれかに該当する場合は、速やかな紹介が推奨される。

評価項目 紹介・連携基準 臨床上の注意点
尿蛋白・尿アルブミン 尿蛋白 1+ 以上(または随時尿蛋白/Cr比 0.5 g/gCr以上)
尿アルブミン/Cr比 300 mg/gCr以上
微量アルブミン尿(30-299 mg/gCr)段階での早期介入が望ましい
腎機能(eGFR) eGFR 45 mL/min/1.73m2 未満(G3b?G5)
※40歳未満、または尿蛋白±以上の場合は eGFR 60 未満
若年者の腎機能低下は見落とさず早期に専門医へ
【重要】eGFRの低下速度 ・3カ月以内に30%以上のeGFR低下
・年間 5.0 mL/min/1.73m2 を超える低下(Rapid decliner)
急速進行性腎炎症候群(RPGN)や急性腎障害(AKI)の合併を疑う
その他の異常 持続する肉眼的血尿、円柱尿、原因不明の電解質異常(高K血症等) 腫瘍や特殊な細尿管間質性疾患の除外が必要

第2章・第3章:高血圧・心血管疾患(CVD)および腎硬化症の管理

1. 降圧目標と血圧測定

CKD患者における血圧管理は、腎保護および心血管疾患(CVD)発症抑制の両面から最重要課題である。本ガイドラインでは、原則として以下の目標が設定されている。

2. 降圧薬の選択基準

第一選択薬は、尿蛋白(アルブミン尿)の程度によって決定する。

  1. 蛋白尿・アルブミン尿 陽性:RA系阻害薬(ACE阻害薬またはARB)が第一選択。エビデンスに基づく糸球体内圧低下作用・尿蛋白減少作用を期待する。
  2. 蛋白尿 陰性:RA系阻害薬、カルシウム(Ca)拮抗薬、利尿薬のいずれからも選択可能。

※RA系阻害薬を開始・増量した際は、1?2週間以内に血清クリアチニンおよび血清カリウムの確認を行う。クリアチニン値の上昇がベースラインの30%以内であれば、糸球体内圧低下に伴う代償性変化として継続可能とする。

第4章:糖尿病性腎臓病(DKD)のマネジメント

従来の「糖尿病性腎症」という概念から、非典型的な経過(顕著な蛋白尿を伴わずにGFRが低下する病態など)を含む「糖尿病性腎臓病(DKD: Diabetic Kidney Disease)」への包括的なアプローチが定着した。

1. 血糖管理目標

血糖コントロール目標は、他の合併症予防と同様に HbA1c 7.0% 未満を基本とするが、進行したCKD(G4-G5)では重症低血糖のリスクが著しく高まるため、患者の状況に応じて 8.0% 未満とするなど柔軟に設定する。

2. 薬物療法の選択

【注意】腎機能低下時のメトホルミン使用制限

糖尿病治療の基本薬であるメトホルミンは、乳酸アシドーシスのリスクを避けるため、eGFR 30 mL/min/1.73m2 未満(G4以降)では禁忌eGFR 30?45 未満では慎重投与(減量)となる。健診や日常の血液検査でeGFRの変化を確実にとらえること。

第5章~第8章:生活習慣の修正と食事療法・栄養管理

1. 食事療法の最新基準

項目 CKDステージ G1~G2 CKDステージ G3a CKDステージ G3b~G5
食塩摂取量 3.0 ~ 6.0 g / 日 (過度な減塩による低栄養に注意)
タンパク質摂取量 過剰摂取を避ける 0.8 ~ 1.0 g / kg / 日 0.6 ~ 0.8 g / kg / 日
カリウム摂取量 制限なし 軽度制限を考慮(高K血症時) 1,500 mg / 日 以下 (必要に応じ)

2. 高齢者CKDにおける食事療法の注意点

2023年版において強調されているのは、「高齢者における一律の厳格な蛋白制限の弊害」である。75歳以上の高齢者やフレイル・サルコペニアの傾向がある患者では、蛋白制限を厳格に行うことで低栄養が進み、むしろ生命予後やADLを悪化させることが示されている。栄養不足の兆候(体重減少、血清アルブミン値の低下)があれば速やかに緩和(蛋白制限の解除など)を行う。

第9章:腎性貧血の管理とHIF-PH阻害薬の位置づけ

目標血色素(Hb)値は、10 ~ 13 g/dLとする。

1. 治療開始前の鉄評価(必須手順)

2. HIF-PH阻害薬(経口薬)の特徴と使い分け

第10章:CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)

目標値は、保存期CKDでは原則として「基準値内」の維持を目指す。

第11章:保存期CKDにおける薬物治療の安全管理

【徹底】シックデイにおける休薬ルール(SADMANS)

発熱、下痢、嘔吐、あるいは脱水リスクが高い状態(シックデイ)の際には、急性腎障害(AKI)の発症や薬剤の体内蓄積を防ぐため、以下の薬剤を「一時休薬」するよう、あらかじめ患者に指導しておくこと。

SSGLT2阻害薬 (脱水の助長、正常血糖ケトアシドーシスのリスク回避)
AACE阻害薬 / ARB(RA系阻害薬) (糸球体濾過圧の維持が困難になり、AKIを誘発)
DDiuretics(利尿薬) (脱水をさらに悪化させる)
MMetformin(メトホルミン) (乳酸アシドーシスのリスク回避)
AAnti-inflammatory drugs(NSAIDs) (腎血流低下によりAKIへ。原則、アセトアミノフェンを選択)
NNewer Oral Anticoagulants(DOAC) (腎排泄型DOACの蓄積・出血リスク上昇に注意)
SSulfonylureas(SU薬) (遷延性・重症低血糖のリスク回避)

第13章~第15章:高齢者CKDの特性と腎代替療法の選択(SDM)

eGFRが 15~20 mL/min/1.73m2 近くまで低下した段階(ステージG4後期?G5)に達した患者に対しては、将来的な腎代替療法の選択について、早期から本人・家族、そして医療チームが繰り返し話し合う「共有の意思決定(SDM: Shared Decision Making)」を行う。


本資料は「CKD診療ガイドライン2023」に基づき、一般内科クリニックでの日常診療向けに要約・構築したものです。

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