「CKD診療ガイドライン2023」は、前版(2018年版)から5年ぶりの改訂となった。今回の改訂における最大の核心は、単なる進行抑制(現状維持)にとどまらず、「積極的な腎保護および心血管予後の改善」を狙える新規薬剤のエビデンスが豊富に蓄積され、治療アルゴリズムが劇的に進化した点にある。
特にかかりつけ医(一般内科クリニック)において極めて重要な変更点は以下の通りである。
CKDの定義(①尿異常、画像診断、病理組織などで腎障害の存在が明らか、②eGFR < 60 mL/min/1.73m2、のいずれか、または両方が3カ月以上持続する)に変更はない。重症度分類は、原疾患(Cause)、GFR(Grade)、アルブミン尿・蛋白尿(Albumina/Proteinuria)を組み合わせたCGA分類を用いる。
日常診療において、どのタイミングで専門医に併診・紹介すべきかの基準が明確化されている。以下のいずれかに該当する場合は、速やかな紹介が推奨される。
| 評価項目 | 紹介・連携基準 | 臨床上の注意点 |
|---|---|---|
| 尿蛋白・尿アルブミン | 尿蛋白 1+ 以上(または随時尿蛋白/Cr比 0.5 g/gCr以上) 尿アルブミン/Cr比 300 mg/gCr以上 |
微量アルブミン尿(30-299 mg/gCr)段階での早期介入が望ましい |
| 腎機能(eGFR) | eGFR 45 mL/min/1.73m2 未満(G3b?G5) ※40歳未満、または尿蛋白±以上の場合は eGFR 60 未満 |
若年者の腎機能低下は見落とさず早期に専門医へ |
| 【重要】eGFRの低下速度 | ・3カ月以内に30%以上のeGFR低下 ・年間 5.0 mL/min/1.73m2 を超える低下(Rapid decliner) |
急速進行性腎炎症候群(RPGN)や急性腎障害(AKI)の合併を疑う |
| その他の異常 | 持続する肉眼的血尿、円柱尿、原因不明の電解質異常(高K血症等) | 腫瘍や特殊な細尿管間質性疾患の除外が必要 |
CKD患者における血圧管理は、腎保護および心血管疾患(CVD)発症抑制の両面から最重要課題である。本ガイドラインでは、原則として以下の目標が設定されている。
第一選択薬は、尿蛋白(アルブミン尿)の程度によって決定する。
※RA系阻害薬を開始・増量した際は、1?2週間以内に血清クリアチニンおよび血清カリウムの確認を行う。クリアチニン値の上昇がベースラインの30%以内であれば、糸球体内圧低下に伴う代償性変化として継続可能とする。
従来の「糖尿病性腎症」という概念から、非典型的な経過(顕著な蛋白尿を伴わずにGFRが低下する病態など)を含む「糖尿病性腎臓病(DKD: Diabetic Kidney Disease)」への包括的なアプローチが定着した。
血糖コントロール目標は、他の合併症予防と同様に HbA1c 7.0% 未満を基本とするが、進行したCKD(G4-G5)では重症低血糖のリスクが著しく高まるため、患者の状況に応じて 8.0% 未満とするなど柔軟に設定する。
糖尿病治療の基本薬であるメトホルミンは、乳酸アシドーシスのリスクを避けるため、eGFR 30 mL/min/1.73m2 未満(G4以降)では禁忌、eGFR 30?45 未満では慎重投与(減量)となる。健診や日常の血液検査でeGFRの変化を確実にとらえること。
| 項目 | CKDステージ G1~G2 | CKDステージ G3a | CKDステージ G3b~G5 |
|---|---|---|---|
| 食塩摂取量 | 3.0 ~ 6.0 g / 日 (過度な減塩による低栄養に注意) | ||
| タンパク質摂取量 | 過剰摂取を避ける | 0.8 ~ 1.0 g / kg / 日 | 0.6 ~ 0.8 g / kg / 日 |
| カリウム摂取量 | 制限なし | 軽度制限を考慮(高K血症時) | 1,500 mg / 日 以下 (必要に応じ) |
2023年版において強調されているのは、「高齢者における一律の厳格な蛋白制限の弊害」である。75歳以上の高齢者やフレイル・サルコペニアの傾向がある患者では、蛋白制限を厳格に行うことで低栄養が進み、むしろ生命予後やADLを悪化させることが示されている。栄養不足の兆候(体重減少、血清アルブミン値の低下)があれば速やかに緩和(蛋白制限の解除など)を行う。
目標血色素(Hb)値は、10 ~ 13 g/dLとする。
目標値は、保存期CKDでは原則として「基準値内」の維持を目指す。
発熱、下痢、嘔吐、あるいは脱水リスクが高い状態(シックデイ)の際には、急性腎障害(AKI)の発症や薬剤の体内蓄積を防ぐため、以下の薬剤を「一時休薬」するよう、あらかじめ患者に指導しておくこと。
| S | SGLT2阻害薬 (脱水の助長、正常血糖ケトアシドーシスのリスク回避) |
| A | ACE阻害薬 / ARB(RA系阻害薬) (糸球体濾過圧の維持が困難になり、AKIを誘発) |
| D | Diuretics(利尿薬) (脱水をさらに悪化させる) |
| M | Metformin(メトホルミン) (乳酸アシドーシスのリスク回避) |
| A | Anti-inflammatory drugs(NSAIDs) (腎血流低下によりAKIへ。原則、アセトアミノフェンを選択) |
| N | Newer Oral Anticoagulants(DOAC) (腎排泄型DOACの蓄積・出血リスク上昇に注意) |
| S | Sulfonylureas(SU薬) (遷延性・重症低血糖のリスク回避) |
eGFRが 15~20 mL/min/1.73m2 近くまで低下した段階(ステージG4後期?G5)に達した患者に対しては、将来的な腎代替療法の選択について、早期から本人・家族、そして医療チームが繰り返し話し合う「共有の意思決定(SDM: Shared Decision Making)」を行う。