低ナトリウム血症のまとめ
低ナトリウム血症の症状は、血清ナトリウム濃度がどの程度まで低下したか、そしてその低下がどのくらいのスピードで進行したかに大きく左右されます。
1. 低ナトリウム血症の症状
(1) 軽症(通常、血清ナトリウム濃度 125~135 mEq/L 程度)
この段階では、非特異的で軽微な神経症状が中心となります。
- 頭痛: 漠然とした頭重感や頭痛を訴えることがあります。
- 吐き気、嘔吐: 食欲不振とともに現れることがあります。
- 倦怠感、全身の脱力感: 疲れやすい、力が入らない。
- 注意力や集中力の低下: 何となくぼーっとする、考えがまとまらないなど。
- 歩行障害(ふらつき): 転倒のリスクにつながるふらつき。
- 筋けいれん: 特に下肢などに筋けいれんが起こることがあります。
※これらの症状は他の多くの疾患でも見られるため、診断にはまず血清Na値の確認が重要です。
(2) 重症(通常、血清ナトリウム濃度 120 mEq/L 以下)
この段階では、中枢神経系の症状が顕著となり、生命を脅かすリスクが高まります。
- 意識障害: 傾眠、昏睡状態に陥ることがあります。
- けいれん発作: 全身性のけいれん発作が起こることがあります。
- 呼吸障害: 脳浮腫による脳ヘルニアが進行すると、呼吸中枢が圧迫されて呼吸停止に至ることがあります。
- 病的反射: Babinski反射など、病的反射が出現することがあります。
- 嘔吐: 脳圧亢進による中枢性の嘔吐が頻繁に起こります。
これらの重症症状は、脳浮腫の進行によって引き起こされます。特に血清ナトリウム濃度が急速に低下した場合(例:数時間~24時間以内に 10 mEq/L 以上低下)は、ナトリウム値が 120 mEq/L 以上であっても重篤な脳浮腫をきたすリスクが高いため、慎重な対応が必要です。
臨床的な注意点
- 無症候性: 慢性的にゆっくり低下した場合は、120 mEq/L 以下でも無症状のまま経過することがあります。この場合、治療を急ぐと橋中心髄鞘崩壊症(ODS)のリスクが高まるため、補正速度に注意が必要です。
- ODSのリスク: 急速に補正すると脳細胞が脱水・収縮を起こし、不可逆的な神経障害(構音障害、嚥下障害、四肢麻痺など)を引き起こすことがあります。
- 補正目標: 1日のNa濃度上昇を 8~12 mEq/L 以内に抑えることが推奨されています。
2. 低ナトリウム血症の治療
※主として軽症の低ナトリウム血症(通常、血清ナトリウム濃度 125~135 mEq/L 程度)における、原因疾患の治療と水分・塩分管理を中心とした方針です。
① 治療法の基本方針
軽症の場合、最も重要な治療は「原因疾患の治療」と「水分の出入りをコントロールすること」です。
- 水分制限(Free water restriction): 低ナトリウム血症の多くは、体内の水分が多すぎてナトリウムが薄まっている状態(希釈性)です。過剰な水分摂取を控えることで濃度を自然上昇させます。具体的な制限量は通常、1日 1000~1500 mL(食事やゼリー等も含む)です。
- 原因疾患の治療: SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)が原因であれば薬剤の中止や基礎疾患の治療を行い、心不全や肝硬変に伴う場合はその疾患の治療を優先します。
② 食事指導
- 水分摂取の制限: 汁物、麺類、果物、ゼリーなど水分を多く含む食べ物を控え、コーヒーやジュース等も水分としてカウントするよう説明します。喉の渇きが強い場合は、氷を口に含む、うがいをするなどの対処法を提案します。
- 塩分摂取: 一般的には過度な塩分制限は不要(適切な摂取が重要)ですが、心不全や腎不全など塩分制限が必要な基礎疾患がある場合は、その疾患の食事療法を優先します。
③ 市販の経口補水液(OS-1など)の使用について
軽症の低ナトリウム血症の場合、OS-1などの経口補水液の積極的な使用は推奨しません。
- 理由: 経口補水液には水分も多く含まれているため、水分制限が必要な「希釈性低ナトリウム血症」の患者さんが飲むと、かえってナトリウム濃度がさらに希釈され、逆効果になる危険性があります。
- 例外(適切となるケース): 嘔吐や下痢による脱水が原因の「脱水による低ナトリウム血症(体液量減少性)」の場合です。しかし、軽症においてこの病態は比較的稀であるため、まずは原因特定が重要です。
【患者さんへの説明のポイント】
- 血の中の塩分が薄くなっている状態です。これは、塩分が少ないからではなく、水分が多すぎることが原因です。
- 水をたくさん飲んでしまうと、さらに薄まってしまうので、水分を控えることが一番大切です。
- のどが渇いても、飲み物は少しずつにしてください。
- 市販のスポーツドリンクや経口補水液は、水をたくさん含んでいるので、症状を悪化させる可能性があるので避けてください。
- 病院では、血液検査でナトリウム値が回復しているか確認しながら、治療を進めていきます。
3. 夏に軽度の低ナトリウム血症をきたす原因と鑑別
高齢者の生理的な変化と、夏の環境要因(熱中症対策など)が重なることで発症しやすくなります。
① 水分過剰摂取による希釈性低ナトリウム血症
- 熱中症予防の意識過剰: 「こまめな水分補給」の指導を真面目に実践しようとするあまり、食事量が正常でも水分を過剰摂取してしまうケースです。
- 「水だけ」の多飲: 汗とともにナトリウムも失われる中、水やお茶ばかりを多量に摂取することで体内のナトリウム濃度が相対的に薄まります。
- 渇中枢の変化: 高齢になると喉の渇きを感じにくくなる一方で、習慣的に水分を過剰摂取してしまうことがあります。
② 薬剤の影響
- サイアザイド系利尿薬: 高血圧治療に使われますが、ループ利尿薬に比べて尿の希釈能力を障害する作用が強く、低ナトリウム血症をきたしやすいです(特に高齢、女性、低体重で高リスク)。
- 抗うつ薬(SSRI)・抗てんかん薬(カルバマゼピンなど): 抗利尿ホルモン(ADH)の分泌を促進し、SIADHを引き起こすことがあります。夏場の多めの水分摂取で症状が顕在化します。
③ 加齢に伴う腎機能の変化
- ナトリウム保持能力の低下: 加齢により腎臓の機能が衰えると、ナトリウムが尿中に排出されやすくなります。
- MRHE(高齢者鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症): 加齢に伴い腎臓のアルドステロン反応性が低下し、軽度の体液量減少と低Na血症をきたす病態です。代償的なADH分泌がさらに病態を助長します。
④ 軽度の不顕性脱水と、それに伴う水分の過剰摂取
夏場に発汗でナトリウムが失われ、食事での補給が追いつかないまま水分の摂取量が上回ることで発生します。
【鑑別のためのポイント】
- 問診: 新たに開始した薬や、夏季に投与量が増えた薬(特に利尿薬や抗うつ薬)がないか内服薬の確認が最も重要です。また、「熱中症予防に水をどのくらい飲んでいるか」を具体的に聴取します。
- 尿中ナトリウム濃度・尿浸透圧の測定:
- SIADH: 尿中Na濃度が高く、尿浸透圧も高い(尿が濃い)
- 水分過剰摂取(多飲症): 尿中Na濃度が低く、尿浸透圧も低い(尿が薄い)