呑む奴ら

 あゆの墓参りを終わらせ、それじゃ帰ろうか? って話になったとき、真面目な顔で愛が言った。
「ちょっと悪いんだけどさ、付き合ってくんない?」
 その言葉に厳と藤乃は互いの顔を見合わせた物だが、特に断る理由もなかったので素直に付き合うことにした。
 駅前タワーマンション最上階、4LDKに一人暮らし。
 一部屋が寝室で残り三つはそれぞれ違う趣味部屋。全ての部屋に分厚い遮光カーテンが引いてあるのは彼女が日に当たると火傷をする『体質』が原因……だ、そうだ。
 詳しい話は聞いてないし、聞く気も……今のところ、厳にはない。
 言うつもりがあれば、聞かなくても言ってくるだろうし、言うつもりがないなら、聞いても言わないだろうから、聞かない。
 厳と藤乃が愛の部屋に呼ばれたのには、ちゃんとした理由があった。
 愛の家の一番広い部屋、リビングの一角、例の三人座りのソファーに厳と藤乃を座らせると、愛はその前に立った。
「これ」
 肩から提げたハンドバッグから出したのは二つの封筒だ。
 事務的な茶封筒に筆ペンで『不動沢厳様』『桃林藤乃様』との一筆ずつ。最近の若い女性としてはずいぶんと上手な字、達筆と言って良い。
 実家で爺さんが書いてた毛筆を思い出す。
 愛が書いたとは思えないほどだが、他人が書く意味も良く解らないので、多分、本人の文字だろう。
「なんだ? これ?」
「なに? これ」
 厳と藤乃、ほぼ同じ発言を、ほぼ同時に発した。
「血まみれ事件の迷惑料及び手間賃。それから厳の方にはダメにしちゃった服代も入ってから、そのつもりで」
 受け取った封筒は結構な重さと分厚さ。中身がお札十枚は下らないことは、なんとなく感じ取る事が出来た。
 それは藤乃も同様の様子。
 顔を上げると少し眉をひそめて、彼女は尋ねた。
「金額、私も不動沢君も同じ?」
「厳の方が二枚多いよ、服代」
 その場で開けて確認……なんて事はいくらなんでもできないので、厳はそれを封筒ごと二つ折りにするとジャケットの胸ポケットへ。
 『お札十枚以上』のお札が、まあ、千円札五千円札って事はなかろう……それを考えると、『最近、金運良すぎないか?』なんて事を頭の片隅で考える。
 例の二人に手向けた花、もうちょっと良い物を買っておけばよかったかも……なんて、後悔が一瞬、頭の隅をよぎった。
 しかし、あばらにヒビが入ったおかげで、数日は寝返りも呼吸も苦しかった事を考えると――
「安すぎるよ」
 もちろん、言ったのは厳ではないし、厳の心の声がこぼれたわけでもない。そもそも、思ってたのは『ボロ儲けではない』程度で『安い』とまでは思ってない。
 言ったのは、藤乃だ。
 膝の上に茶封筒を置いた彼女は、露骨に不機嫌そうな顔をしてみせると、言葉を続けた。
「私は不動沢君の買い物、それから山田さんの着替えと身体を拭くのを手伝ったくらいだし、それだって友達としてやったんだから、こんなのを受け取る理由はないよ。でも、不動沢君はあばら折って辛そうだったのに、こんな程度のお金なんて安すぎる。一つ間違えたら、死んでたよ?」
 ぴしゃりと藤乃は言い切り、すっと封筒を愛の方へと突き返した。
「ちょっ……別に俺だって金のためにやったわけじゃないし……」
 慌てて言葉を返すが、二つ折りにした封筒はすでにポッケの中。
 金運よすぎなんて素直に喜んでた事を鑑みれば、自分が卑しい人間ではないのか? 自己嫌悪がわき上がってくるのを否定する事が出来ない。
 そんな二人、それぞれの様子に愛は軽く肩をすくめて見せた。
「出したのは私じゃなくて、ホテルのオーナーだよ。あゆに自分の持ちホテル何部屋も血まみれされた挙げ句、下水逆流させられた人」
 そう言うと、愛はクルンとその場で回れ右。そして、キッチンの方へと足を進めたら、その奥に鎮座している大きな冷蔵庫のドアを開いた。
「アルコールが良い?」
 そう尋ねてくるも、厳が「原付だから」と固辞すれば、藤乃も「不動沢君が呑まないなら」とお断り。
「りょーかい」
 少し残念そうな声でそう言うと、愛は深紅のパッケージがまぶしい炭酸飲料の缶を三つ取りだし、厳達の方へと足を向けた。
 そして、ソファーの前にあぐらを掻いて座った。
 そして、厳と藤乃に一本ずつ手渡し、一番になってそのプルタブを開く。
「まあ、私も安いとは思うよ? でも、しょうがないじゃん。半泣き入ってるホテルのオーナーに『三十で引き受ける』って言っちゃったんだからさ……」
 そう言うと、愛はコーラをあおりながら、この金額になった理由を語り始めた。
 男を捕食していたあゆは、毎回ラブホテルをそのお食事処として使っていた。
 毎回、違うホテルを使ってたのだが、なぜか経営者は全部同じ。
 知っててやってのか、偶然なのか、今となっては調べる術はない。
 毎朝、起きてみれば部屋は血みどろ。死体があればあきらめも付くがあるのはシャレにならない血痕とほんのわずかな肉片のみ。警察を入れて現場検証だのなんだので営業を止められた挙げ句、痛くないどころか割と真っ黒な腹を探られるのは困る。出来れば内々に処理をしたい。
 そこで白羽の矢が立ったのが『この街の裏社会では割と有名』らしい愛だ。
 ツテを使って喚び出された彼女は、軽〜い調子で『じゃあ、処理できたら三十万ちょうだい』と言っちゃった。
 腕が千切れても生くるような生き物だから『三十も貰えば十分』と思ったらしい。
 で、紆余曲折あって、話が終わったのが一週間ほど前。
 
「状況説明はしたくないけど、ともかく、二度と血まみれ事件は起こらないし、起こったとしたらそれは別件」
 
 この説明で納得するクライアントなんているんだろうか? と厳には疑問だが、一応、一週間の間、一度も血まみれ事件は発生しなかったので、約束の三十万が支払われた。
 さて、受け取ったは良いが、あゆを取り逃がした(「負けた」とは認めたくないらしい)自分が受け取るのは信義に反するような気がする。
 だからと言って、ホテルオーナーに突っ返すのもシャクだ。
 だったら、厳と藤乃に山分けさせよう。
 今回の一件、解決したのは間違いなく厳だと思う。あばらも折ってるし、受け取った三十万の大半を受け取る権利があるだろう。
 一方の藤乃も動いてはくれてるが、裏方だし、怪我も危ない事もしてない。
 厳に二十、藤乃には十程度でも十分……かな?
 ――と、考えたところで、愛ははたと思った。
 自分は『行くな』と言ったのに、ノコノコ行ってあばらを折られて帰ってきたからって、それで受け取るお金を増やすって……なんか、違わないか?
 で、結局……
「奇麗に半々山分けが一番ってことにしたわけ、OK? 藤乃が自分が多くて厳が少ないって思うなら、それを厳に渡しちゃっても良いし、なんなら、何処かの慈善団体にまとめて寄付してくれてもいい。でも、私に突っ返されるのだけは困る」
 説明するうち、愛の手にしたコーラの缶は空っぽ。その空き缶を愛は手の中でクシャリと縦に潰した。そして、出来上がった丸い円盤を更に二回折りたためば、元が空き缶とは思えない扇型の板が完成だ。
 それがコロン……と床の上に転がるのよりも先に厳が大きな声を上げた。
「えっ!? いっ、いや、受け取らないからね!?」
 そのひっくり返り気味の声に藤乃はため息一つ。
 諦めるかのようにハンドバッグに茶封筒を片付けながら、口を開いた。
「……まあ、そう言われたら……しょうがないかな……?」
 そう言って数秒……うーん……っと天井を見上げるような感じで口を噤むと、彼女は言葉を続けた。
「じゃあさ、呑もうか? 私の傲り、軍資金はこれ!」
 ぽん! とハンドバッグを軽やかに叩いて、彼女はにこやかに言った。
 
 ――って訳で、飲み会が執り行われることになった。
 さすがにこの日当日って訳にはいかない。
 すでに一時も大幅にすぎてる上に、翌日も平日だ。ここで呑んだら、確実に翌日の授業に差し障る。
 週末、土曜日の夜って事はすぐに決まった。
 決まらないのはどこでやるか? って話だ。
「居酒屋で良いのに……」
 厳はぽつりと漏らしたが、それが出来ない理由があった。
「私、まだ、十九。不動沢君、十八でしょ? 山田さんは?」
 そう言ったのが藤乃だ。
 まあ、この時点で堂々と酒を飲むのは難しいが、それでも一人飲める年齢の奴がいれば、どうとでも……なんて、ことを考えたわけだ……が、自体は思っていた以上にカオスだった。
「公式には先月十九になったばかりの厳と同学年」
「「はぁ?」」
 愛の答に厳と藤乃の二人が間抜けな声を上げた。
「だから、公式には十九歳なんだって。確かめてみる?」
 そう言って、彼女が自身のハンドバッグからカード入れを取りだした。
 クレジットカードやらキャッシュカードから始まって、ポイントカードの類いまでぎっしりと詰まったカード入れだ。
 それをぺらぺらとめくって見せたのは、運転免許証だった。
 厳と藤乃の二人が覗き込めば、そこに記載されてる生年月日は厳と同学年の四月一日生まれ。免許を取ったのはちょうど一年前の誕生日翌日って事になっていた。
 その免許証と愛の顔を、厳が藤乃と共に何回も見比べる。
「本物だよ? 免許は」
 意味深な笑みを浮かべる愛に対して、眉をひそめて藤乃が尋ねた。
「…………じゃあ、嘘なのは?」
 愛の『先月十九になったばかり』が嘘だと決めつけてるあたりがひどい……と思うが、大人びた姿と悠然とした態度、生活スタイル、妙に豊富な知識等々……これで本当にこの間、高校を卒業したばっかりだと言われても誰も信じられないだろう。
 厳も全く信じてない。
 ちらり……と免許証から愛へと厳が視線を移すと、赤毛の女はクスッと軽く笑って応えた。
「戸籍。どうやって作ったかは……知らぬが仏って奴だよ」
 答えて彼女は免許証を元のカード入れへと返し、カード入れその物もハンドバッグの中へと放り込んだ。
 そして、彼女は格好を崩して言った。
「まあ、会場は私に決めさせてよ。良いところ知ってるから……あっ、どんな格好でもいいけど、若干、おしゃれしてきてね、そー言うのが似合うところだから」
 パチン♪ と軽くウィンクをしてみせる愛に厳と藤乃は不思議そうに顔を見合わせた。
 そして、当日、バイト先の本屋、営業終了後。
 ちょっとおしゃれしてこい……と言われたところで、バイト帰りだ。
 選択肢の幅はきわめて狭い。
 今日の厳はスラックスにワイシャツ、それからネクタイ……とアウトラインはいつものバイト姿。しかし、一応、ダークブルーのスラックスは入学式で着た一張羅って奴で、ワイシャツと一緒にクリーニングに出してアイロンもかけて貰った。それに、足下だって普段はスニーカーだが今日は一応革靴。
「……この着慣れてない感……」
 呆れる愛には「うるさい」のひと言。
 そして、今度は藤乃の報。
 少しミニ気味のスカートは綺麗なえんじ色、生足の太ももに少しヒールのあるパンプス。胸元が大きめに開いた白いトップスはホルターネックで背中が大きく開いてる奴。それから首には小さなペンダント、板状のペンダントトップは磁器のプレートで繊細な絵が描かれていた。
 ちなみにこれで仕事をするわけにはいかないから、仕事が終わってから倉庫で着替えた物だ。
「こっちはよく似合ってるね、そのペンダントヘッド、藤?」
「そうそう、藤乃だからね。藤関連のアクセとか小物があったらつい買っちゃうんだよ」
「厳も気づいてあげなきゃ可愛そうだよ?」
 藤乃の服をチェックしていた愛が不意に厳へと言葉を投げた。
 その言葉に軽く肩をすくめて青年は答える。
「……胸元、じろじろ見るわけにも行かないだろう? 見られてるところ、解るって言うしさ」
「それもそうね」
「ペンダントは見て貰わないと付けてる甲斐がないけどね」
 厳の言葉に愛と藤乃が軽く応えた。
 そして、二人のファッションチェックに余念が無い愛は……と言えば、短めのタイトスカートにノースリーブのブラウス……と言う定番の格好。今夜は暖かいからか、亜麻色のコートはクリーニングに出してクローゼットの中だそうだ。
「……お前こそ、いつも同じじゃないか……」
 見慣れた姿にぽつりと漏らせば、薄っぺらな胸を反らして、彼女は言う。
「いいの、私はいつも『ちょっとおしゃれ』な人だから」
「あはは」
 厳と愛の掛け合いに藤乃が笑い声を上げれば、閉じたシャッター前でのファッションチェックはいったん終了。
 そして、藤乃は愛の車に乗って、厳は自分のスクーターで愛のマンションへと向かった。
 それから、車とスクーターを駐車場に放り込んだら、徒歩でショットバーへと向かう。
 場所は愛のマンションから徒歩五分ほど、五階建ての雑居ビル、その三階。
 光量を落とした間接照明、BGMは静かなジャズ。大きな窓から見えるのは駅の裏路地と向かいに建ってるビルの壁。
 まるで隠れ家のような一室に入ると、厳の母親と同じ位の中年女性が愛の方へと顔を向けて声を上げた。
「いらっしゃい、愛姐さん。お待ちしてました」
 嬉しそうにそう言う中年女性に愛は軽く手を上げ笑みで答える。
「やっほ〜悪いけど、また、呑ませてね」
「どうぞ、カウンターで良いですか?」
「良いよ。私はいつものを冷で。厳と藤乃は?」
 招かれるままに愛は女性バーテンダーの正面にあるストゥールに腰を下ろす。
 その隣に厳が座ると藤乃は厳を挟んで愛の反対側に腰を下ろした。
 厳を中心に女性二人。両手に花状態はちょっと嬉しい。
 そして、藤乃が少しだけ悩むようなそぶりを見せた物の、未成年とは思えないスムーズさで言葉を発した。
「それじゃあ……マティーニ、少しドライで」
 一方の厳はしどろもどろ。
「おっ、俺? えっと……」
 そもそも、アルコールを飲むのは高校卒業の夜以来。
 サークルでも入ってれば呑む機会もあったのかも知れないが、なんだかんだでサークルには入っていないから、それもなし。こんな店に来るのも初めてだ。
『とりあえず、ビール』の魔法の言葉をこんな店で使って良い物なのか!? との半ばパニックの中で吐き出せたのは――
「じゃあ、愛のと同じ奴……」
 ひねりのないひと言だけだった。
「かしこまりました」
 三人の注文が揃うと、中年のバーテンダーはそう言って、三人だけの客に背を向けた。
 彼女の向かう先にはずらりと酒瓶の並んだ棚、その中から、彼女はジンとベルモットの瓶を用意し始めた。
 それをぼんやりと眺める厳に愛が尋ねる。
「厳、呑めるの?」
「あっ? ああ……呑むのはこれが二回目だからなぁ……強いかどうかは……親父と爺さんは強いみたいだけど……」
「ふぅん……藤乃は?」
 その答えに納得したのか今度は逆どなりに腰を下ろした藤乃へと声をかけた。
「たしなむ程度だよ。未成年だしね」
 パチンとウィンク一発で藤乃が答える。
 そして、改めて、厳が尋ねた。
「お前はどうなんだ?」
「私? あはは……実は、弱いよ。酔ったら連れて帰ってね?」
 やっぱり、頬を緩めてそう言う愛に厳も少しだけ頬を緩めて答えた。
「だから、俺は強いかどうか解らんって言ったろう? 先に潰れたら、知らねーぞ?」
 苦笑い気味に厳が答えると、藤乃の前に小さめのカクテルグラスが一つ。それから厳と愛の前にはガラス製の涼しげな酒器と小さなガラス製のぐい飲みが一つずつ置かれた。
 厳と愛の前に置かれたお酒は遠い所の小さな酒造会社が造ってるマイナーお酒らしい。高級品というわけではないのだが、取り寄せの兼ね合いで、愛専用のボトルと化しているそうだ。
 そうやって、それぞれの前にそれぞれのお酒が置かれると、最初に藤乃がそのカクテルグラスを手に取った。そして、大きな目元を緩めて彼女は口を開く。
「まずは乾杯しようか?」
「なんに?」
 尋ねたのはおちょこに手酌で冷酒を注ぎ込んだ愛だ。
「あの二人に……かな?」
「あのくそ鬼は“ついで”」
 不貞腐れ気味に愛が言葉を付け足す。
 まあ……利き腕をかじり取られて、しばらく不便してた事を考えると当然だろうか?
 膨らんだ愛の横顔を横目で見ながら、厳は酒器をぐい飲みの上に傾けた。
 冷酒が涼しげな切り子細工のぐい飲みを満たしていく。
 グラスの七分目ほどまで酒が満ち、酒器をカウンターの戻すと藤乃が不意打ちのように言った。
「それじゃ、不動沢君、音頭」
「おっ、俺?」
 藤乃に言われて目をパチクリした物だが、一番苦労した人が音頭を取れば良いとは藤乃談。
 しかもここで――
「私、スポンサーだからね!」
 ――って言われたら、強くも拒否できない。
 座ったまま、ぐい飲みを軽くかかげたら、彼は乾杯の音頭と言うにはずいぶんと控えめな声で言った。
「じゃあ、さっさとあっちに逝っちゃった美女二人に……乾杯」
 生まれて初めての行為に妙な緊張感と高揚感に促されるように、厳は手にしていたガラスのおちょこから日本酒を一息に飲み干した。
 きーんとよく冷えているのに、喉を通るときには焼けるかと思うほどに熱い液体が喉の中を下っていく。
「ふわぁ……なんか……凄い味だな……」
 そう言って空っぽになったおちょこを手の中で弄んでいると、同じく一息でおちょこを干した愛が答えた。
「これ、辛口だからね。こう、喉から食道、お腹の中に流れ落ちてる〜って感じがいいんだよ」
 そう言って愛は厳がカウンターの上に戻したおちょこへと酒器を傾けた。
 厳が自分で入れたよりも多めのお酒、表面張力で盛り上がるほど。手にしたらこぼれるんじゃないか? と不安になるくらい。
 そーっと持ち上げ、口に付ける。一気に飲むのはしんどいから、半分ほど……喉の奥に焼けるような熱さをまた感じつつ、青年は再びカウンターにおちょこを戻した。
「そっちはどんなの? 俺、カクテルってよく解らなくて……」
 厳の質問に藤乃が少しだけ頬を緩めて、答えた。
「あは、実は私も初めて。こー言うお店だから、なんか、ちょっと頼んでみたくて……でも、口当たりが良くて美味しい」
 マティーニってカクテルの名前も『ドライで』って言うのも洋画で仕入れた情報だったようだ。
 お酒以外の理由で朱色に染まった頬を厳の方へと向けて、藤乃は笑って見せた。
 友達同士での楽しい飲み会……こう言うのならちょくちょくやっても良いかなぁ……なんて、ぼんやりと厳は考えながら、愛が干したグラスに日本酒を注ぎ込み、隣で藤乃が「ギムレット!」と叫ぶ声を聞いていた。
 
 ――で、小一時間が瞬く間に過ぎた。
「さみしぃよぉ〜ひとりぼっちはやだよぉ〜だれかいっしょにいてよぉ〜」
 と言いつつ、空っぽになった酒瓶を抱えているのが愛。
「ちゅーしよぉ〜? ねえ〜ちゅ〜〜〜〜」
 そう言って厳に迫ってきてるのが藤乃。
「愛はまじで弱いのかよ!? あと、桃林さんまで?!」
 迫る藤乃の身体を押し返そうとするも、どこにそんな力があるのか? と思うほどに藤乃は厳に迫ってくるし、愛は愛で厳と藤乃の姿を見たと思ったら――
「やっぱ、藤乃が良いんだ……そーだよね……藤乃が良いよねぇ……あはは……そっかぁ〜そーなのか……」
 死んだ魚のような目でこちらを見てたかと思うと、彼女は呆けたかのように「あはは」と笑い始めた。
 その一種異様な風景に藤乃のちゅー攻撃を強く避けつつも、しばらく見入る。
 その厳の手元には先ほど新しく入れて貰ったばかりの酒器が一つ。まだ、ほとんど飲んでいない。
「呑まねばっ!」
 開き直ったかのように言い切れば、酒器にめがけて愛の右手が一閃。
 あっと言う間にそれを奪って一気飲み!
 真っ赤だった顔を真っ青に染めたかと思えば、彼女はひと言言った。
「……気持ち悪っ……」
「やーめーろ! って、すいませんっ!! あっ、あの……ボックス席でもなんでも良いんで……」
「ああ……愛姐さん、気心知れてる相手の前では乱れちゃうんですよね……奥に休憩室があるので……」
 四畳半の和室にこたつ兼用のちゃぶ台と簡単なシンク、それからガスコンロがあるだけの狭い休憩室。そこに厳にすがりつく藤乃とわーわー泣いてる愛をたたき込んだから、改めて、付いてきてくれてた中年バーテンダーにぺこりと頭を下げた。
「すんません、本当……」
「愛姐さんには返しきれないご恩がありますから……」
 そう言って出て行く中年バーテンダーを見送ってホッと人心地。
 他に客が居なくて良かった……と思うが、どうもこの中年バーテンダーが、愛が「友達を連れて飲みに行く」という予約を入れた時点でほぼ貸し切りの扱いにしておいてくれたらしい。
 愛は『顔見知りと飲みに行く』と予約したときはいくら呑んでも酔わないが、何年かに一度『友達と飲みに行く』と言って予約した場合は確実にべろんべろんになるのだと……後で聞いた。
 先に言っておいて欲しかった。
「厳……何か、来る……」
「ちゅー! ちゅー!」
 真っ青な顔の愛と真っ赤な顔の藤乃……ひとしきり暴れて騒いだから、無責任にも二人とも夢の中。
 静かになった休憩室、気づけば頭がガンガンと内側から殴られているかのように痛い。
 どうも、呑んで騒いだせいで一気に酔いが回ったようだ。
「泊まって行ってくれれば良いですよ」
 中年バーテンダーのお言葉に素直に甘えて、ごろん……と横になる。
 四畳半に男女三人は若干狭い。
 油断すると誰かの顔を蹴りそうだし、自分も蹴られそう。
 それでも部屋の隅っこに身体を丸めて眠りに落ち……た、ような気がする。
 どれくらい寝てただろうか? 結構長かった気もするし、うつらうつらしてただけのような気もする。
 背後から聞こえる静かな声と感じる暖かな体温。
「厳……しよぉ?」
 耳元に感じる蠱惑的な吐息、しなやかな肢体。
 しかし、寝ていた厳は藤乃が傍に居るって言うのが半分に、面倒くさかったのが二割五分、それからあばらもまだ痛いって事で、寝ているふりをすることにした。
「ねぇ……しよぉ……あばら、もう、大丈夫でしょぉ?」
 愛は諦めないどころか、股間にまで手を伸ばしてくる始末。しかも、それが無駄に上手。スラックスの上からだというのに厳の弱い部分を知り尽くしているかのように細い指が這い回り、彼の物をあっと言う間の怒張させる。
「あっ……明日……明日……明日にしろよ……」
 もはや寝た振りもここまで……と小さな声で答えれば、愛は静かに手を引いた。
 これで一安心……かと思ったら、そんなに甘くない。
 手を引いた愛は厳の背中にすがりつき、しくしくと泣き始めたのだ。
「手足が千切れても生えてくるよーな化け物は抱きたくない? お日様に焼かれる生き物は気持ち悪い?」
 確かに、厳は例の騒ぎがあってから愛を一度も抱いてない。
 もちろん、理由は気持ち悪いからではなく、折れたあばらが痛かったからだ。
 医者にも激しい運動や重量物の運搬は控えるようにと言われている。
 それらの事情は当然、愛にも伝えてあるし、愛も納得していたはずだ。
 
「誰が重量物か!?」
 
 なんて、笑い話にもしていた。
 なのに……
「化け物でごめんね……オナホでも肉便器でも良いから、時々、抱いてよ……」
 そう言って愛は厳の背中に顔を押し付け、しくしく、メソメソ。
 多分、悪酔いが収まってないんだろうな……と思う。
 普段の厳ならもうちょっと優しく出来たのかと思う……が、今夜の厳も割と酒が入って、酔いも回っている。
 何より、初対面の人間がいるところでアレだけわーきゃー騒がれたせいで、いい加減頭にも来ている。
「……解った」
 小さめの声で呟くと、くるっと寝返りを一回。
 治りかけてたあばらが悲鳴を上げるも、その痛みすら不思議と心地良い。
 そして、愛の細身の身体を畳の上に転がしたら、その両足をぐいっ! と無造作に広げさせた。
 広げさせた足は未だロングブーツに包まれたまま。べろんべろんで脱がせるのが面倒だったからほったらかしてる。
「ああ……厳……」
 酒のせいなのか、それとも羞恥からか、はたまた期待か……厳を見上げる愛の顔は朱色に染まり、赤い瞳は涙に濡れて光っていた。
 愛の短いスカートを無造作にまくり上げたら、その下にはベージュのシンプルな下着が一枚。普段は割と凝った物を履いているから、おそらく、その気は全くなかったのだろう。
 ――って事は後になって気づいたが、この時点では全く思いも寄らない。
 厳は愛の足を広げさせたまま、冷たく言い放つ。
「お前……今日、うるさい」
 その言葉が部屋の中から消えるよりも先に、愛の下着を少しだけずらして、その隙間から、愛のヴァギアにペニスをずぶりっ!
「いっ、あっ!! げっ、げんっ……まっ、まだ、濡れて……」
 ろくに濡れていない肉穴に大きく反り返った物をねじ込まれ、愛はその細く華奢な身体を大きく反り返した。
 その駿馬のように跳ねる身体を無理矢理押さえつけ、厳はきつい膣穴に肉棒をゆっくりと出し入れさせ始めた。
 濡れてないそこはきつくて、動かす度に、絡みつくように厳の物が動く事を阻害する。
 そのきつさがまるでレイプでもしているのか、それとも、愛という女を支配しているかのような幻想を厳に与え、不思議な高揚感を与えていた。
「オナホで良いんだろ? あと、大声出してると桃林さんが起きる。起きたら終わりだからな……今夜」
「はっ、はい! オナホでっ! あっ……――うぐっ……んぐっ」
 細い赤毛の眉を真ん中に寄せながらもどこか嬉しそうに身体をくねらせていた愛が、慌てて、自身の口に自分の指をねじ込む。
 曲げた人差し指を口にねじ込み、それを愛は強く噛んだ。
 白い指から深紅の血がプクリと滲み出し、とろりと彼女の口腔へと流れ込む。
 どこか扇情的な光景に男の本能に更なる火が付く。
 右手を愛の胸元へとワンピースの上から小ぶりな乳房を鷲づかみ。ブラと服越しだからたいした刺激が伝わっているとは思えないのだが、愛はよりいっそう感じてきたらしい。
 指を噛んでの我慢も限界、チュプッと指が唇から抜け落ちると、嬌声が狭い部屋に響き渡る。
「んっ……くっ……はぁ……はぁ……げっ、厳、ヤバい……これ、来てる……あああ……ダメダメ……久しぶりすぎて、頭が……」
 必死で声を堪えているのであろうが、それも割と無駄な努力。素直に自分で口を塞げば良い物を、なぜか、厳の体にしがみついてくる始末。
「うるさいって……バカ」
 小さく呟くと厳はぐいっ! と腰を突き出し、より深い部分へといきり立った物を押し込み、いっそう強く密着した。
 ぐっ! と反り返る愛の身体。
「ひぐっ? あっあっあっ…… すごっ、すごいの……しきゅうにきてる……あぁぁぁぁ!!」
 支離滅裂なあえぎ声、腰に巻き付いたブーツ付きの脚にがっちりとホールドされれば――
「えっ? あっ……んっ! ねっ……ねえ、なんで、なんで動かないの? あぁぁ……んんっ!! ふわっ……じっ、じらさないでよ……あっあっ……んんっ! なっ、何でもするから……」
 必死な懇願をされても動ける物ではない。
 髪を振り乱し、厳の首にしがみつく様は、扇情的ではあるが、どこか『大事な神経が二−三本切れたかな?』とか思わせるに十分。
 もっとも、大事な神経が二−三本切れてしまっているのは厳も同様。
 動けないのはお前のせいだよ……と思いながらも、口から出てきたのは、
「お前が動けよ……オナホ女」
「はっ、はい、動き、ます、動きますから、捨てないで……あっあっあっ……くぅ……んんっ……」
 答えて愛は厳の体に強くしがみついた。
 両腕は首に巻き付き、両足は厳の腰の後ろでがっちりロック。
 これで動けるものなら動いて欲しい。
 むしろ、関節技でもかけられてるのかと思うほど。
 それでも、愛の膣は粘着質で濃厚な愛液をその身から滲ませ、内壁はくねくねと無数の触手のように蠢き始める。
 ペニスから全身へと快感が細波のように何度も何度も繰り返し広がっていく。
「くっ……はは……愛、ちゃんと動かないと、先に出して、終わりにしちまうぞ?」
「やだ! やだ! やだ! お願い! お願いだから、ねっ、動いてよ……動いて? もうちょっと良くなりそうなのに……」
 とか言いつつも、彼女の体はさらに厳に密着。
 しかも、あの怪力だ。動けるはずがない。
 厳の方から愛の華奢な腰に腕を回して、力一杯抱き締める。
 そして、唇を重ねる。
 いつも通りに閉じない夕日色の瞳、まっすぐに見つめる瞳を見つめ返しながら、厳は愛の口腔を舌で犯す。
 愛は更に強く厳の体を抱き締める。
 内壁の縮瞳はますます激しさを増していく。
 まるで愛の焦燥をそのまま内壁が伝えるような蠕動ぜんどうだ。
 しかし、それは内壁の主にとっては逆効果に過ぎない。
 その動きは彼女の快感が高めるよりも、そこに物を差し込む男の快感が高める方へと役に立った。
 無数のヒダに弱い部分を攻め立てられる快感、サディスティックな喜びと共に厳は我慢という二文字を早々に放棄した。
「出るぞ……オナ――ぎゃっ!?」
 声が途中で止まる。
 絶頂直前のペニスに与えられるきつい拘束感。
「えっ?」
 ふと、愛も素に戻る。
 そして、背後から酒臭い女の声が聞こえた。
「ふど〜さ〜わくん、生は良くないな〜」
「あっ、いや、違うの! 藤乃! ごっ、誤解だから!」
 慌てながらもしがみついたままの愛に対して、藤乃は妙に落ち着いた口調で言葉を返した。
「……山田さん、正妻に浮気現場押さえられた不倫女みたいになってる……」
 そう言いつつ、藤乃は厳のチンコを強く握りしめたまま。
 そして、ふわぁ〜〜〜っと厳の耳元に酒臭い息を吐きつつ、彼女は言葉を続けた。
「なぁにが『手足が千切れても生えてくるよーな化け物は抱きたくない? お日様に焼かれる生き物は気持ち悪い?』だよ! こっちは男日照りだってーのに、その横でネチネチ、隠語満載でエッチって、どう言う了見だって話!」
 藤乃がそう言ってすごんでる間も厳のペニスは愛の中だし、その内壁は主の危急を知りもしないでウニョウニョと厳の弱い部分を攻め立てるし……
「あっ……あの……桃林さん……お話は後で聞くから……はっ、離れて……」
「やだ」
 厳の懇願は藤乃のひと言により却下された。
 てか、厳のアレは背中に押し付けられてる藤乃の巨乳か、それとも耳を撫でる藤乃の吐息か、もしかしたら、この異様なシチュエーションその物になのか……ともかく興奮していらっしゃるらしい。
 そもそも、未だ、アレは愛の膣内なかだ。
 ヤバい、ヤバい、ヤバい……と考える物の、ヤバいと思えばますます高まるのは、葬式の時の笑いと射精感。
 そもそも、出す直前だったわけだから、止まるわけがない。
「あっ……」
 小さな声が一つこぼれたのは、ぴくんぴくんとペニスが小刻みな痙攣を始めるのとほぼ同時。
 そして、それはそれを握りしめている藤乃にも当然伝わる。
「あっ……あはは、もしかして……イッちゃった?」
 甘く、そして、緊張感のない声で藤乃は囁いた。
 コクン……と小さく頷いたのは心地よい射精感がすぐに痛みへと変わったからだ。
 精液が身体の中に溜め込まれるのと同時に、ペニスに溜まった血はそこに留まり、身体へと帰る事を許されない。
「あっ……あの、藤乃?」
 さすがの愛もこの状況には慌てたのか、あれほどがっちりとロックしていた両足も外れて、しがみついていた腕も畳の上。繋がってる部分を解除しようと腰を引こうとしたら――
「逃げちゃダメだよ……お・な・ほ・ちゃん」
 かーっと愛の顔が真っ赤に染まる。
 その髪や瞳よりも赤いくらいだ。
 藤乃がどんな顔でそう言ったのか、彼女の顔の見えないところにいた厳には解る事はなかった。
 ただ、その口調はサディスティックでありながらもどこか妖艶で、逆らえないと思える代物。
 そして、藤乃は厳の体におのれの体重をかけた。
「あっ……ぐっ……!」
「ひっ……藤乃、ちょっと……たっ、タンマ!」
 厳の唇からうめき声が漏れ、愛は彼の下でブーツのつま先をぎゅっ! と畳の食い込ませ、体を反らした。
 そして、藤乃は冷たく言う。
「タンマ、しない」
 言って、藤乃は厳のペニスをそのくびきから解放した。
 苦痛から解放され、そして、普段とはちょっと違う、何処かもどかい快感がじわっと股間に広がる。
「あっ!」
「ひゃんっ! あぁぁぁぁ……」
 流し込む厳が短く息を漏らすと、流し込まれた愛はふるふると身体を振るわせる。
 不完全燃焼なのはお互い様。
 厳の背後にいる藤乃だけが――
「えへへ……えっろぉ〜ぃ」
 酒臭い息を吐いて楽しそう。
 そして、藤乃は膝立ちになると厳の背中にその柔らかな肢体を密着させた。
 柔らかな肢体、特に大きな乳房がスーツと下着越しとは言え、厳の背中に押し付けられるのがよく解る。
「ちょっ、ちょっと!」
 思わず声を上げた厳を無視して、藤乃は愛の細い腰へと手を伸ばした。
「ふっ……ふじ、の……?」
 愛の声は震えて、その夕日のまなじりから涙がひとしずく流れた。
 それが期待による物だというのは、彼女の膣がギュッと厳の入れたままの物を締め上げ、そして、膣内なかがヒクヒクと切なく蠕動していることからも如実に解ることだった。
「ほら……不動沢君……動いてあげなよぉ?」
 そう言って藤乃は自ら腰を動かす。
 短めのスカートのまま、藤乃は背後から厳の身体にしがみつき、そして、生足の太ももとめくれ上がったスカート越しの股間を厳の背中に擦り付けた。
 女の体温の熱さ、吐き出す吐息は酒臭くもどこかなまめかしくて甘ったるい。耳元に口移しで注ぎ込まれる言葉は不思議と逆らう気にさせない。
「あっ……あぁ……」
 寝言のようにひと言だけ言い、彼は首を縦に振った。
 そして、藤乃の腰の動きに合わせて、厳も腰を動かし始める。
 藤乃が導くままに腰を動かすと、すでに十分に濡れそぼった愛の肉穴からネチネチという淫らな水音が響き始めた。
「んっ……くあっ……あっあっ……」
 その水音に合わせて愛が甘ったるい声を上げる。
 厳の右肩に顎をおいた愛が囁くように、愛に言った。
「愛さん、しがみついちゃダメだよ……そのまま……ね?」
 藤乃の呟きに愛はコクン……と素直に首肯。
 愛は改めて足を大きく広げ直すと、その細く白い指先を畳に食い込ませる。
「良い子……愛さんって可愛いね?」
「うっ、うるさい……ばかぁ!」
 顔を赤くしてプイッと愛はそっぽを向いた。
「あはは、そういうとこ、可愛いの」
 からかうような口調で藤乃が言えば、愛の横顔はますます赤みを増していく一方。
 また、口を開けばからかわれることが解っているのか、愛は何も言わない。嬌声も上げぬように唇を噛んで我慢しているようだ。
 そこは確かに可愛いと思う……が、しかし、なんて言うか、一人、蚊帳の外感満載だ。
「ほら……不動沢君、動きなよ、山田さん、泣きそうになってるよ?」
 甘い誘惑が甘く囁かれる。
 コクン……と喉が鳴った。
 従いたくなる。
 彼とて“良く”なりたいのだ。
 中途半端な絶頂とウニョウニョと蠢く内壁、何より、自らの下で肢体を投げ出し、羞恥に頬を染めてる愛の横顔。蹂躙し、蹂躙し尽くしたいと思うのは男の本能だろう。
 しかし、それを理性、否、男の矜持でねじ伏せると、厳はぐいっ! と首を右へと向けた。
 そこには肩に顎を乗せた藤乃の姿。
 目と目が合えば、彼女はニマッと淫蕩な笑みを浮かべて見せた。
「なぁに? もう――」
 楽しそうな笑みを浮かべ、酒臭い息を吐き出す藤乃の唇を唇で無造作に塞ぐ。
「んっ!?」
 藤乃は一瞬だけ身をこわばらせるも、すぐにその身を青年にゆだね、その唇と舌を受け入れる。
 キスの最中に相手が目を閉じるのは久しぶり。
 目を閉じ、自身の口づけに浸る藤乃の顔を見ながら、厳はゆっくりと腰を動かし始めた。
「あっ……やっ! あっあっあっ……げっ、厳……こっ、こっち、見てよぉ……ああ……!!!」
 厳の責めに淫らに腰を動かし、甘い嬌声を上げはするも、どこか不機嫌そう。
 チラリと横目で見れば、赤い瞳に涙をたたえて首をいやいやと左右に振っているのが見えた。
 いろいろと言ってる用だが、彼女が感じていることだけは間違いないのだろう。
 その怪力を誇る指先が畳に食い込んだ。
 左右三本ずつ、六本のひっかき傷が畳の上に生まれ、そして、彼女の肉穴からあふれ出した蜜が畳の上に大きなシミを作り出す。
 そー言えば、「女二人の3Pはイヤ」とか言ってたっけか……と思い出すが、今更遅い。
 チュッ……と小さな音を立てて、藤乃の唇を解放する。
 藤乃の舌が厳を追い求めるかのようにその薄い唇からちろりとはみ出た。
 その舌の先からとろりとひとしずくの唾液が流れて落ちた。
「オナホかセフレで良かったんじゃないのぉ?」
「そっ、それ、いつまで……あっ!? ひんっ!!」
 からかう藤乃の言葉に愛が声を上げようとしたその時、厳は愛の腰をつかんで、ぐいっ! といっそう奥へとペニスをねじ込んだ。
「ひんっ! あぁぁぁ……やっと、やっときたぁ!」
「お前ら、まじ、今夜、うるさい!」
 そう言って厳は愛の腰をつかんで強く彼女の内部に自身をねじ込み、その最奥にある臓器を強く突き上げる。
「だっ、だって! だってぇ! あっあっあっ!」
 突き上げる度、愛は甘い嬌声を上げ、その身を跳ね上げさせる。
 細く長い指先が赤い髪の中に滑り込み、くしゃくしゃにかきむしる。その手が動く度にその手の向こう側に泣きそうになってる顔が見え隠れ。
 その泣きそうな顔が青年の加虐心をいたく刺激した。
 愛の肉穴を犯す厳の耳に甘い声が注ぎ込まれる。
「塞ぐべき口はもう一個あるよ?」
 藤乃だ。
 真後ろに居たはずの彼女はいつの間にか真横にいた。
 そして、するりと厳の首に腕を巻き付ける。
 求められるままに藤乃の唇をもう一度塞ぐ。
「ううんっ……んっ……クチュ……あふっ……不動沢君……」
 先ほどよりも素直に唇を受け入れ、藤乃は甘い声と吐息を漏らす。
 藤乃の大きな瞳が厳の瞳をまっすぐに見つめる。
 わずかに藤乃の唇が離れた。
 また、涎が垂れ、藤乃の大きな胸元にぽたりと落ちた。
 そして、彼女が言う。
「……私にも謝れ」
「えっ?」
「あの日、あの夜、愛さんには『心配かけた』って言ったのに、私は言って貰ってない……私だって、凄く心配したのに……」
 囁くように藤乃は言う。
 その大きな瞳が涙に揺れる。
 その瞳を見つめ返しながら、“あの夜”のことを思い出す。
 あの夜の事、忘れられるわけはない……が、自分が脊髄反射で喋った言葉を全部覚えているわけじゃない。ましてや、“言ってない言葉”を覚えているであろうはずはない。
「あっ……ごっ、ごめ――」
「げんっ!」
 言いかけた言葉が下から聞こえる切羽詰まった声に制される。
「はぁ……はぁ……ちょっとぉ……こっ、こっち、忘れ、ないで……」
 視線を下ろせば、動きの止まった腰の下で切なそうに眉をひそめてる愛の夕日色の瞳。
 そちらに厳が意識を向ければ、彼女は更に言葉を続けた。
「んっ……くぅ……はぁ……はぁ……ふっ、藤乃、厳があゆにられたら……はぁ……はぁ……白斬で、なますに刻んで、餓鬼の餌にしてやるって……あはっ、この間、餓鬼に追いかけ回されて泣いてたのに、ね?」
 両手で自らの髪をかき上げてる愛が絞り出すように、そう言った。
 その瞳は涙に濡れて切なく揺れ、その声は快楽の喜びに震えていた。
 その愛から隣……自身の腕に張り付いてる藤乃へと視線を向けたら、厳は気恥ずかしさに顔が火照るのを感じながら、口を開いた。
「……ごめん。心配、かけた……」
「……うん、許す」
 そう言って、今度は藤乃の方から口づけ……
 そして、厳は藤乃の身体を右腕で抱き寄せると、愛の身体の上へと押し倒した。
「んっ……厳……あはっ……凄い……エロくて悪い事してるって感じがする……」
 そう言って藤乃は厳の首へと腕を回す。
 よりいっそう強く重なる唇と唇。
 互いの唾液を交換し合う濃密な口づけ……
 藤乃の淫蕩な笑みは愛の中のある物を更に強くいきり立たせる。
「もう、俺、知らねえ」
 投げやりに呟いたら、厳は愛の腰を抱き締め直して、三度みたび四度よたびかは解らぬが、ともかく、腰の動きを再開させた。
 十分すぎるほどに焦らされた肉穴とその最奥にある臓器を犯され始めれば、愛は悦楽と羞恥で彼女は顔を真っ赤にして声を上げた。
「んっ……あっあっあっ……げっ、厳……こらぁ! ふっ、藤乃とキスしながらとか……ああんっ!! さっ、さいてーだ!」
 そして、そこに嫉妬の色が合った……と思うのは、自意識過剰という奴だろうか?
 その陽炎のような嫉妬の色を心地よく感じながら、厳はひと言言った。
「オナホでいいんだろう?」
「くっ……そっ、そんな事……――ひゃんっ!! そっ、そんな事、いっ、言ってない……からぁ!! ああ!! ちょっ、せっ、せめて、藤、藤乃、そこ、退いて……厳の顔、みっ、見たい……!!」
「や〜だ! 愛さんみたいなひねくれ化け物には、見せてあげない。んっ……クチュ……ピチャ……」
 ねっとりと唇をむさぼりあった後、ゆっくりと唇を離して、彼女は暖めて言う。
「んっ……ふぅ……愛さんはコレでも見てろ……」
 唇を重ねたまま呟き、そして藤乃はスカートをめくりあげた。
 隠されていた下着があらわになればその下にはほとんど局部しか隠せていない下着があらわになった。ヒモパンとかG−ストリングとか言う奴だ。
「くっ……んっ……クチュ……ピチャ……もっ、もう……なっ、何させ、にゃんっ!? くぅ……あぁぁ……げっ、厳、アホ……もう、チョ、タンマって……!!」
 それを少しずらして、愛の顔にまたがれば、愛は文句を言いながらも藤乃のそこに奉仕をし始めたらしい。
 藤乃は途端に顔を淫蕩にとろけさせると、愛の顔の上で腰をくねらせ始めた。
 その細い指先がたわわな乳房にめり込み、服越しだというのに淫らに形を変える。
「んっ……ああ……女の子に、そこ、舐められるの初めてだけど……ひんっ!? こっ、これ、良すぎる……ひゃくっ……ああ!! あっ、愛さん、だっ、ダメ……あっ、あっと言う間に……くぅ!!」
「はぁ……はぁ……ああ……ふっ、藤乃のここ、きっ、きれぇ……んっ……チュッ……ピチャ……甘いの、トロンって溶けた蜜が、凄く甘くて……ああ……はぁ……ああ!!? ちょっ、げっ、げんっ!? くわっ! あっあっあっ……ひぐっ! いっ、いつもより……はっ、激しい!」
「お前らが、見せ付けるからだよ!」
 藤乃が愛の顔の上にまたがった辺りから、厳は一気に腰の動きを加速させていた。
 女の無毛の陰部と自身の腰がぶつかり合い、肌に肌が叩き付けられる音が狭い休憩室にパンパンと小気味良く鳴り響くほど。
 三人の激しい交わりは体感時間としては長かったのかもしれないが、三者三様にこのアブノーマルな状況に酔いしれていたためか、思っていたよりもずっと早くにその頂へと駆け上がっていった。
「ひんっ! あっ、ちょっ、きゃんっ! そっ、そこ、そこ、吸っちゃ、だっ、ダメ、だって……ひゃんっ!?」
 藤乃は愛の顔の上で腰をくねらせ、自らの陰部を彼女の整った顔にこすりつけ、善がり狂う。
「んぐっ……くっ……あっあっあっ……ヤバ、もう、もう、来る……ああ!!! いつもより、大きいの、来るって!!」
 愛は畳に幾筋もの爪痕を刻みつけ、藤乃のクリトリスを吸い、経験の少なそうな薄桃色の肉穴に下をねじ込み、そこからあふれる蜜を味わう。
「はぁ……はぁ……くっ……愛……藤乃……」
 厳は荒く早い吐息をいくつもこぼしながら、二人の女の名前を呼んだ。
 そして……しばしの時が流れて、厳が、小さく呟いた。
「出る……ぞ」
「んっ……出し、てっ!!」
 答えたのは愛の方。
「えっ!? ひゃっ!? んっ? あっあっあっ!!」
 藤乃にその余裕はないようだ。
 もっとも、厳にも二人の反応を見る余裕なんてない。
 短く宣言するのもギリギリの所。
「くっ!!」
 短いうめき声を上げれば、どくん……どくん……と大きく二度ほどペニスを愛の中で跳ね上げさせ、その中に熱い白濁液を吐き出した。
「くぅ!!!!!」
 そして、愛が身体を振るわせ絶頂すれば、それと同時に藤乃が――
「ひぐっ!? あっ、だめぇぇぇぇ!!!」
 とびきり大きな声を上げて、身体を振るわせた。
 どーも、愛が藤乃のクリトリスを噛んで一気にイカせたらしい。
 しばしの間、余韻を楽しんだら、愛の中から厳はペニスを引き抜いた。
 くぱぁ……と開いたヴァギナが扇情的。そこからはとろりと一筋、透明な蜜があふれ、そして、キュッと締まった菊座の方へと流れ落ちた。
 そして、三人はぐったりと畳の上へと崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……」
 誰の物なのか解らない……もしかしたら、全員の物なのかもしれない荒い呼吸音だけが狭い和室の中で静かに聞こえていた。
 そして、しばしの時間が流れると藤乃がぼそっと独り言のように呟く。
「次……私も欲しい……」
 その言葉に愛が厳の方へと視線を向けて尋ねた。
「厳、ゴム、ある?」
「ないよ……」
「男ならゴムの一つや二つ、持ち歩きなよ」
 ぶつくさ文句を言ってる愛に内心――
(お前がいらないって言ったからだろうに……)
 そう思うが口には出さない。
 一方、弾む吐息の中で藤乃が言う。
「そっ……外に出してくれれば良いから……」
「外出しとか安全日とか、避妊のうちに入らないから……」
 愛がそう言って休憩室の片隅に据え付けられた小さなシンクに顔を向けた。
 四つん這いのお尻、ミニのスカートはめくれ上がって白いお尻が丸見え……その後ろ姿はちょっと間抜けだ。
 そして、シンクの引き出し、一番下を開けて中から小さな箱を取りだし、振り向きもしないで厳に投げつける。
「はい、これ」
「――ってなんで、そこに入ってるって知ってんだよ……」
「あの子がここに恋人を連れ込んでるのは知ってるからね。後で新しいの買って渡すから良いの」
 コンビニでも買えそうなシンプルなコンドーム、付けろ……と言われれば素直に付ける。
(良いのかな……)
 なんて思いながら使い賭けのコンドームの箱から久しぶりに見るゴム製品を取り出し、未だに固くなったままの物に付ける作業を始めた。
 何回か経験済みだが、正直、この作業は間抜けだと思う……
 その厳に背後から愛の大きめの声が飛ぶ。
「しばらくこっち向いちゃダメだよ!」
 さっきまでぜぇぜぇ言ってたくせに、回復の早い女だ。
 そして、待つこと数分……いい加減にしないと萎えるぞ……と思ったが、あちらの方はこれからへの機体に萎えるどころかますます大きくなる一方。
「いいよ」
 言われて振り向けば二人ともすでに素っ裸。
 愛の方は見慣れた裸体ではあるが真っ白な大理石のような肌には傷一つなくて、細身の身体がやけに美しい。胸元も普段から小さめだなと思っていたが隣の藤乃に比べればぺったんこと言っても良いくらい。
 そして、初めて見る藤乃の身体。
 普通なら真っ白と言って良いのだろうが隣にいる愛と比べれば健康的な肌色、恥ずかしそうに隠す胸元は両腕の中からこぼれ落ちそう。その頂点にある乳首は愛の物に比べるとやっぱり赤みが強く少し大きくて、挑発的だ。
 その藤乃の肩を抱きしめたまま、愛がニマッと底意地悪そうな笑みを浮かべて尋ねた。
「どっちが綺麗?」
「……ノーコメント……」
 それは本心だった。
 磨き抜かれた象牙のような美しい肌の愛、健康的で肉感的な身体の藤乃、優柔不断だとは思うがどちらがより綺麗だと決めることは厳には出来なかった。
 その二人のうち、藤乃の方が畳の上に足を投げ出した。
 恥ずかしそうに朱色に染まる頬、広げられた足の間に手入れされてなさそうなヘアーが黒々と生えているのが見える。
 その身体を愛が背後から抱きしめ、そのたわわな乳房をわしづかみにした。
「ふわっ!? あっ……愛さん……」
「腹立つけど、男はこっちの方が好きでしょ?」
 そう言って愛は細い指を藤乃の大きな乳房に食い込ませる。
「ひゃんっ! あぁぁ!」
 少し太めの足が切なそうに曲げたり伸ばしたりをくりかえし、かかとが畳を引っ掻く。
 その生々しいやりとりに厳はゴクリと生唾を飲む。
 もはや、良いか悪いかを考える余裕すらない。
 厳はジタバタと暴れる太ももをぐいっと指を食い込ませると、それを少し乱暴に押し広げた。
 濡れた陰部が広がり、黒々としたヘアーの向こう側に薄桃色の内壁をあらわにさせた。
 ヒクヒクと蠢く内壁、十分に潤っていてそこからにじみ出した愛液が白い太ももから畳の上へとしたたり落ちるのを厳は見た。
「いっ……入れるよ?」
「今更止められるもんでもないでしょ?」
 答えたのは藤乃ではなく愛の方。
 藤乃と言えばコクンと小さく首を縦に振るのみ。
 その頷きを確認することももどかしく、厳は藤乃の濡れそぼったヴァギナに自信の反り返った物を押し込んだ。
「あぁぁぁ!!」
 藤乃の白い身体が震え、その身体を愛が押さえつける。
 そして、愛は藤乃の肩越しに首を突き出すと、厳の唇を求めた。
 逆らうことなく藤乃の身体ごと愛の身体を抱きしめ、愛の唇を塞ぐ。
「んっ……んんっ……」
 愛の唇から吐息がこぼれ、快感に身をよじる藤乃は細い眉をひそめ、唇をかみしめる。
「はぁ……んっ……くぅ……しっ、仕返し、なの?」
 よがり声の隙間に藤乃が言葉を差し入れると、愛は見開いたままの瞳を厳から藤乃へと移した。
 そして、答える代わりに藤乃の乳首をキュッとつまみ上げる。
「ひんっ!」
「あっ!」
 それと同時に藤乃の狭い膣穴がキュッと締まり厳の物を締め上げた。
 藤乃のそこは身体に似合わず、愛の底に比べて狭くきつい。強く締め付ける肉の穴を大きく張ったカリで押し広げるように厳は腰を動かす。
「はぁ……はぁ……ああ……不動沢君……不動沢君……」
 切なく藤乃が厳の名を呼ぶ。
「厳って呼びなよ……厳も藤乃ってさ……」
 唇を厳の唇から離して愛がささやく。
「厳……」
「……藤乃、愛……」
「しれっと私まで呼ぶな……だから、女二人の3Pはいやなのよ」
 かーっと顔を赤くする愛を可愛く思いながらも、厳の物は藤乃の狭い膣の中。ひと突きごとに藤乃は快感に身をよじり、甘いと息と嬌声を漏らす。
「ふわっ! んっ! あっあっあっ!! げんっ……げんっ……げんっ!!」
 同時に二人の女を抱いているという罪悪感と背徳感、異常なシチュエーションに自信が興奮していくのを厳はよりいっそうリアルに感じていた。
 腰の動きはますます激しさを増し、抱きしめていた藤乃と愛の身体を自身から引き剥がす。
「えっ?」
 二人がほぼ同時に声を上げた。
 その声を無視して、厳は藤乃の大きな乳房をわしづかみにした。
「ひんっ!!」
 藤乃の身体をぎゅっ! と大きく反り返った。
「じゃあ……私は……」
 そう言って愛は藤乃の身体を解放し、藤乃の顔の上にまたがった。
「あっ……あぁ……げっ……厳の匂いがする……」
 藤乃が泣きそうな声を上げた。
 そのまま、愛は69の形になって藤乃の股間、厳とつながっている部分へと顔を埋めた。
「んっ……チュッ……ぴちゃ……んっ……あぁぁ!」
「やっ!? あんっ! ふわっ!!」
 二人の女が互いのヴァギナをなめ合う中、厳は下側の女の中に何度もペニスを突き立てた。
「くぅ……くぅぅぅ……あぁぁぁ……藤乃……愛……」
「はぁはぁ……あぁぁぁ……げんっ……もっ……もう、ダメ……私、ダメ……あぁぁぁ!!」
 二人が声を掛け合うと、一人、未だ余裕のある愛が言った。
「はぁ……はぁ……うんっ……二人とも……イッちゃえ!」
 愛の言葉が合図になった。
「あっ……くっ!!! ふじのっ!!」
「げんっ! いっっくぅっ!!」
 ゴム越しとは言え、藤乃の中に熱い物を放った瞬間、藤乃は今までにないほど大きく背をそらした。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 厳と藤乃が同じように絶頂の余韻に息を切らすも、未だに回目の絶頂に達していない愛が藤乃の中に入ったままになっていた物を引き抜いた。
 黒いゴムに覆われたペニスは多少力をなくしているようだが、未だに十分な堅さを維持したまま。
 先っぽに白い液体型ままのゴム製品、それに覆われたままのペニスを愛はパクリと銜え込む。
 そのまま、するすると器用に口だけでコンドームを外したら、愛は身体を起こした。
 口の中から出てくるゴム製品、その中に溜まった物をとろぉ〜っと自分の口の中へと流し込む……。
「ふふ……美味しい……」
 飲みきったらぽいと部屋の隅にあったゴミ箱の中へと放り込む。
「……変態」
「知らなかった?」
「知ってた……」
 愛と少し言葉を交わし、厳はぐったりと放心していた藤乃の身体を抱き上げた。
「あっ……不動沢君……」
「名前、呼び捨てのままで良いよ……」
 むっちりとした肌にはねっとりと汗が浮かび上がっていて、なまめかしく光り、そして、雌の香りを放っていた。
「恥ずかしいから……抱かれてるときだけで良い……」
「……そっか……じゃあ、俺もそうする」
「私は四六時中、厳と藤乃って呼ぶけどね」
 そう言って愛が二人の身体をぎゅっと抱きしめる。
「ノリと勢いでやり過ぎた気がする……」
 いわゆる賢者タイムという奴で厳がため息混じりに呟けば、藤乃は耳元でそっとささやく。
「もう遅い……大事にしてね? 厳」
「私もね? 厳」
 二つの言葉に――
「……はいはい……」
 ――とだけ答えるのだった。
 
 そして、翌日……
「……めちゃくちゃ……」
 愛の馬鹿力で引っかかれた畳はボロボロ、窓のない部屋の中は三人の体臭でむせかえるほど。
「ほんとうにごめん!」
 ため息を吐く女バーテンダーに三人はペコペコと何度も謝った結果、畳を張り替える実費が現たち三人の財布から出ていくことになった……

前の話  

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