二研(完)
学祭二日目の朝、本日も快晴、絶好の学祭日和だというのに……良夜は眠たかった。原因は解っている。深酒、夜更かしのせい……──
ではない。
「お前、一晩中、ガサガサやってたよな……」
ベッドから体を起こし、良夜は少々伸びぎみ、寝癖付きぎみの頭をボリボリと掻いた。向ける視線はパソコンデッキの上、プリンターの横に置かれたペットボトルだ。
一.八リットルのペットボトルを半分に切って、その上にダンボールで蓋をした簡易ケージ、その中では新しい同居人がひまわりの種とティッシュペーパー相手に格闘していた。二研副部長西山恵子から押し付けられたハムスター、『アヤ』ちゃん、一応牝らしい。ちなみに漢字で書くと『悪夜』と書く。由来はもちろん、演劇部裏方舞台部隊長川東彩音ではなく、良夜本人だ。
「良い夜の反対で悪い夜。良夜と真逆の生き物になって欲しいという親心……子沢山になりそう」
そう言って彼女に名前を付けたのは喫茶アルトに住んでいる妖精、アルトだった。当然、強硬に反対したものだが、他にさっぱり思いつかず、しかも響きだけを聞いたときに『悪くないんじゃないのか?』と反射的に答えたのが運の付きだった。まあ……頭の中ではカタカナ設定にしておけば、悪い名前じゃないよな、と無理やり納得する事にはしたのだが、どうにも釈然としない。
ともかく、寝不足なのはこの『アヤ』のせいだ。電気消した途端にカリカリとペットボトルを引っ掻いたり、放り込んでいたひまわりの種を食べ始めたりと、うるさくてしかたがない。気になって寝付けやしないし、夜中に何度も目が覚めた。普通の授業なら居眠りしたい位だが、今日も今日とてアルトで配達のアルバイト。寝不足じゃきついな、と思いながらも良夜は出かける準備を始めた。
「うちにも一匹いるし、夜中ガサガサやってるけど、二人とも熟睡だよ?」
「えっ? タカミーズの家にも?」
直樹の頭越しに貴美が言うと、良夜はやっぱり直樹の頭越しに彼女へと顔を向ける。
食事と身支度を終わらせ、三十分後、良夜はタカミーズとともにアパートの階段を降りていた。アルトの制服を来た男女が一組に、その間には私服姿で松葉杖をつく直樹が一人。貴美は普段ならつないでいる手を所在無くぶらぶらさせているし、良夜と貴美はペアルック……知らない人が見たら良夜と貴美がカップルと思っても不思議ではない。
良夜はそれがちょっと嫌だった。
「事故の前に押し付けられちゃって……」
直樹がバツの悪そうな顔で良夜を見上げると、その背後で貴美が「なおが、ねっ!」と吐き捨てるように言葉を続けた。
「『もらっちゃいました〜』って持って帰ってきて、ケージまで買わせて、面倒、全然見ないんだよ? 子供なのは身長と寝起きだけにしてもらいたいやね」
「良いじゃないですか……良く遊んでるんですから。名前だって吉田さんが付けちゃったし」
「ほら、私、小動物好きだから」
そういった貴美の視線は斜め下に存在する直樹の顔へ、つられて良夜の顔も斜め下を見る。無言の数秒、その間、直樹がものすごく嫌そうな顔をしていたのは見間違いではあるまい。
そして、良夜は一言だけ、端的に言った。
「なるほど」
「納得しないでください!」
直樹は二人の顔を交互に見やり、いきり立つ。それを少し上から見下ろす二人は声を上げて笑いあった。
そんなこんな、割といつもの調子で階段を降りると、そこには手持ち無沙汰に立つ一人の青年がいた。宮武哲也だ。彼の部屋のドア、そこにもたれかかっていた中肉中背の青年は三人の──良夜の勘ではあるがほぼ間違いなく貴美の──顔を見たとたん、その表情を一気に陰らせた。
「そんなにうれしそうな顔せんでも良いやん?」
貴美は軽口一つ、おもちゃを見つけた子供の顔でトントンと廊下を目的地とは反対方向へと足を進める。
「……別に何でもない、お前ら、バイトだろう? さっさと行けよ」
つっけんどんな態度、今にもしっしっと言い出しそうなほど、哲也は全身から拒否感を醸し出す。気持ちは解る。気持ちは解るがあえて良夜はつぶやいた。
「逆効果」
哲也も二研に所属し、貴美とは一年以上の付き合いだというのに、そんなことも解らないのか? と、良夜は思った。もっとも、二研所属とは言え半分名前だけ、サークルの活動よりもバイトが大事と言ってはばからない貴美と昼はアルトよりも学食という哲也とでは接点など授業中くらいしかない。
「鉄≪てっ≫ちゃん」
哲也の真正面にたち、貴美は『テ』にアクセントを置いた正しい発音で呼びかけた。
「鉄道マニアの発音で呼ぶな」
「てつぅ〜もダメで鉄ちゃんもダメって最低やね? 宮武くん……ときに」
憮然とした顔で哲也は声を上げるが、貴美は無視一直線。彼女はニヤニヤと底意地の悪い顔を浮かべて言葉を紡ぎ、一旦言葉を切った。続ける言葉により一層の破壊力を持たせるため、彼女はゆっくりと哲也の顔と背後のドアを見比べる。
「誰、待ってんの?」
「べ──」
細い指が彼の背後を指した。哲也が上げようとした言葉は「別に誰も」と言った所か? しかし、その言葉は形をなす前に用なしとなった。
かちゃ……と小さな音を立ててドアが開いたからだ。
「おっまたせしました! てっつっやっさん! あなたの……──あれ?」
最悪のタイミング、最高にハイテンション、飛び出して来たのはたぬ吉だった。相変わらず、頭の上には帽子、今日はハンチング帽。巫女服ではないが、胸元にある紙袋から赤い布地が見えていれば、今日はハンチング帽に巫女服を合わせるつもりなのが解る。
「えっと……吉田さん?」
飛び出した彼女は、思いがけず増えた同行者にキョトンとした表情を見せた。
「ほっほぉ……昨夜はお泊まりでしたか? たぬ吉さん」
「ちゃんと帰りましたっ! でも、哲也さんがさっさと服を脱げといったので、服をこちらにおいて帰っただけですっ!!」
芸能レポーターよろしく、たぬ吉に拳のマイクを突き出していた貴美は、彼女がノリノリで答えた言葉に眉を寄せる。
「……鉄ちゃん、ヤるのは良いけど、ムード出してあげなきゃ、たぬちゃん、可哀想だよ? 早く脱げとか最低。みんなに言っちゃおう」
「脱げ! じゃなくて着替えろ! バイクで送れってゴネたから!!」
貴美が投げかける『汚物を見る視線』に耐えきれなくなったのか、哲也は抱えていた頭を上げて一気にまくし立てた。
要するにたぬ吉がバイクで送ってくれとゴネた。しかし、裾のヒラヒラした袴じゃタンデムは出来ない。だから、ジーパンとトレーニーに着替えさせた。たったそれだけの事、聞いてみればどうと言う話ではない。
「じゃぁ、その巫女服、置いてかえったんですか?」
「忘れて帰っちゃいましたっ!」
直樹が尋ねるとたぬ吉はやっぱり元気の良い声で返事をする。数回しか身近に接した経験はないが、彼女はいつも元気が良い。疲れないんだろうか? と妙な所で感心している間に五人はアパートのエントランスにまで来ていた。
「りょーやん、スクーターっしょ? 鉄ちゃんも二研の展示にバイク、持っていくんだっけ?」
「帰ってきたしな、二研から」
「だから、鉄道マニアのアクセントで呼ぶなって……一応」
貴美に良夜と哲也が口々に答え、五人は二人と三人の組み合わせに別れる。エントランスから駐輪場までの短い旅、とりとめもない話を二つ三つもしているうち、三人はお目当ての場所へとたどり着いた。
直ったばかりのスクーターを他人のオートバイの間から引っ張り出す。そして、メットボックスに放り込んでいたヘルメットを取り出して……と、いつもやっていることをやっているだけなのに、なぜか視線を感じる。それも痛いほどの。
「……なに? えっと……たぬ吉さんだっけ?」
振り向けばたぬ吉がいた。彼女は良夜の行動を監視でもするかのようにジーッと見つめていた。
「はい! いつになったらいなくなるんだろう!? さっさと居なく──いったぁ〜!! 哲也さん! 喋ってる最中に殴るから、舌、噛んじゃったじゃないですかっ!?」
もの凄く失礼な事を大声かつ元気よくまくし立てていたぬ吉、彼女の後頭部に哲也の鉄拳がふり下ろされた。その衝撃にたぬ吉は弾かれるように回れ右。涙目で抗議の意を表すも、哲也はサラッとそれを聞き流す。
「悪いな、こいつ、帽子脱ぐ所、見られたがらないんだ。帽子脱がなきゃ、メット被れないだろう?」
「哲也さんがいじめますっ! ツンデレも行き過ぎですっ! 助けてください動物解放戦の──」
哲也が申し訳なさそうに説明している間も、たぬ吉はノリノリのハイテンションで大声を上げつづける。それは晩夏の暑い風に乗って、アパート中に響き渡る。その言葉に哲也の拳と奥歯がギリっと音を立てた。そして、もう一発。哲也の拳はうなりをあげる。
が、たぬ吉は振り向きざまにその拳を掴んだ。そして、掴んだ拳と腕を左に流し、くるんと半回転。哲也の体を腰に乗せて──
「えいっ!」
跳ね上げる!
見事な一本背負だった。ちなみに下はコンクリートだ。受身が取れなきゃ、マジ死ねる。
「最近は柔道にも凝っていますっ!」
ぴょんぴょんと飛びはね、たぬ吉は勝利の味を噛み締める。なお、師匠は中学高校と柔道をやっていた青葉徹らしい。
「宮武……生きてるか?」
「……いや……死んだ……」
冷たい地面に寝転がり、身動きの取れない哲也、彼を見下ろし良夜はしみじみ思っていた。
(ストローで刺されるくらいはマシだな)
と。
「で、今日も刺されにきたのね? 良夜。良い心がけだわ」
「いや、そんなことはない」
所変わって、ここは喫茶アルト。そこに住んでる妖精さんも朝から元気だった。
「それで消えろといわれて、素直に消えたわけ? 情けないわね? そこまでされたら、意地でも帽子を取っちゃうくらいの気概を見せなさい! 気概を! このヘタレ!」
本当に彼女は殺意を抱けるくらいに元気だ。特に昨日は、彼女自身が逃げ出したとは言え、ほぼ一日放置プレイ。そのため、ご機嫌が少々斜め気味。良夜は軽くため息を突きながら、アルトの小さな体をヒョイと頭の上に乗せた。
「嫌がることはやらなくて良いの。お前……最近、吉田さんに似てきたぞ?」
「ひどっ……!」
良夜の言葉にアルトは一言だけ残して絶句。残念ながら表情は見えないが、その一言には彼女の負った傷の深さが感じられる。これは使えそうだ……と、良夜は心の隅っこにメモ書きを残した。
「良夜さ〜ん! 最初の注文、上がりました!」
キッチンからの声に良夜がはいと返事をして、本日のお仕事が始まる。今日はスクーターも二研から帰ってきているので、アルトも配達業務に参戦。バスケットを古びたかごに入れると、その上にちょこんと座って少し暑めの風に美しい金髪をなびかせていた。
「でも、気になるわね? 本当の所、良夜もそうでしょ?」
駐車場にバイクを止め、良夜がバスケットを取り上げると、アルトはバスケットから良夜の頭へと飛び移りながら言った。
「そりゃ……気になるっちゃー、気になるけど……」
模擬店とその客で溢れかえる駐車場を、良夜は歩く。今年も晴天に恵まれたおかげで、模擬店も大道芸も大盛況だ。中でも一番盛況なのはやっぱり、二研の『巫女さん撮影会』だ。
「すごいわね……さすが二研の守銭奴」
二研と四研、合同の展示会場は人、人、人、まっすぐに歩くことすら難しいほどに人が集まっていた。それは昨日よりもさらに多く、大学中の人間が集まってんのじゃないのか? と思うほどだった。
「企画立案、西山さんだっけ……? 金儲けに関しては天才的だな、あの人」
「そうでもないですよぉ……りょーやんさん……」
形式上、良夜の“独り言”に答えたのは、相変わらず汚れたツナギ姿の恵子だった。二研の守銭奴と言われるだけあって、彼女はお金儲けが大好きだ。そして、今日は大盛況……なのに、その顔にはどんよりとした雲が幾重にも折り重なり、声にも覇気がない。
「どうしたんです? あっ、これ、コーヒー」
「だって、集まってるのがオタばっかりなの……去年は腐女子が集まってツーショット写真とか撮ってくれてウハウハだったのに……オタは勝手に撮っていなくなるんですよ!? こっちは慈善事業やってんじゃないのっ!!」
コーヒーのポットを受け取りながら、恵子はイライラとした感情を隠すことなく良夜に愚痴を聞かせる。忙しい割にまったく実入りがないのだから、それも仕方ないだろう。
「なるほど……大変ですね」
「大変なの……だから、助けると思って……」
あまり良く考えずに打った相槌、良夜はそれを深く後悔することになる。なぜならば……
「助けると思ってこれ買って!」
彼女が大きなケージを取り出したからだ。大きさは縦横高さ三十センチ少々くらいか? アクリル製のケージ、中にまわり車がある所を見ると、間違いなくハムスターのケージなのだろう。
「二千円でいいからっ!」
「たかっ!?」
「なに言ってるんですか? りょーやんさん。定価、三千五百円ですよ? これ」
「さらにたかっ!?」
作りはしっかりしていそうだし、中は二階建てで二階にはちょっとした家のようなものも作ってある。かなり凝った作りの逸品だ。が、そもそも、たかがハムスターを飼うだけでこんな高いものを買わなきゃいけないのか? 恐るべしペット産業。
「でもだよ? りょーやんさん。朝起きて、ハムちゃんがペットボトルの中で冷たくなってたら嫌でしょ? ペットも家族、良いおうちを建ててあげてください!」
ポンポンと飛び出す営業トーク、有無を言わせぬ速度が恐ろしい。しかも、彼女の両手は良夜の胸にケージを押し付けてくる。
「千円なら買います! 今月、たださえ、金がないのにっ!」
「だから、うちは三つを頭に十匹の子供がいるんだよ? 二千円くれなきゃ、ひまわりの種も買ってあげられません……子供たちを助けると思って……」
「昨日と数が違うじゃん! てか、何で三千五百円が二千円になってんの!?」
よよと泣き崩れる姿は芝居だと思っても心に刺さる。そんな弱い自分が良夜はちょっぴり嫌いだった。そして、案の定、良夜が咄嗟にツッコミを入れると、彼女の態度はコロッと変わった。
「うん、昨日、何匹か、里子に出しちゃったから。それと、一応、中古ですから」
「中古なら千円でいいでしょ? 予算、そのくらいだったし……」
「せめて、千九百八十円……ひまわりの種が……」
「どれだけ高いひまわりの種だよ!! てか、二十円引き!?」
瞳を潤ませ、彼女はズイズイと良夜の胸にケージを押し付ける。こうなればもはやタダの押し売り。二人の間でケージが行ったり来たり。
「アルトの兄ちゃん、けーちゃんに目、つけられちゃったね……」
「ああ……完璧、押し売りモードに入ってる……」
「新聞の勧誘にハムスター売りつけたことがあるって噂、本当かな?」
「えっ? それ、ハムスターじゃなくて実家で売ってるバイクだって聞いたぞ。しかもリッター」
まわりでは二研部員たちがぼそぼそと二人の様子を見ながら囁き合う。その囁きが回りに集まっていた見物客を集め、良夜と恵子のまわりにはちょっとした人だかりが出来ていた。
「って、注目浴びてるから!」
「だったら、せめて、千九百五十円で! 我が家のハムちゃんを助けると思って」
その注目は一般的な小市民を自認する良夜には、甚だしく痛すぎた。恥ずかしいったらありゃしない。でも、やっぱり恵子に引く気は皆無っぽいだし、ここで金を使うと今月の食事は喫茶アルトのパンの耳、決定だ。
「ねえねえ、良夜。ちょっとこれ持って」
そんな息つまる攻防の中、先ほどからやけに静だった妖精がひょっこりと良夜の手元に降り立った。「今、忙しい」の一言で切り捨ててしまいたいが、今は大事な攻防中、その上注目の的真っ最中。妙な独り言など言えるはずもない。
言われるままに良夜はアルトが持っていた何かを握りしめる。
「じゃぁ、せめて千五百円で……」
「りょーやんさんは我が家のハムちゃんが飢えても良いって言うんですか? ひどい……」
「だったら、生米でもやってりゃ良いじゃないですか……相手はげっ歯類なんだから」
「げっ歯類だなんて……ひどい……鼠の仲間みたいに言わないで……」
「いや、鼠の仲間だから」
「握ったら引っ張る」
アニメ声とのやりとりに美しいソプラノが紛れ込んだ。それは攻防に夢中だった男の脳裏にスルリと滑り込み、脊髄を通って指と手に直接命じる。命じられた指と手が命じられるままに動く。
「キャッ!」
小さな悲鳴、押し売りとの攻防から目覚め、良夜は恐る恐る自らの手に視線を落とす。そこに握られていた物、それは一本の凧糸だった。何の変哲もない凧糸、キッチンで時々美月が使っている奴だ。
が、それがつながっていた先は普通じゃなかった。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
二人とその二人を取り囲んだ人山、そこから少し離れた一角で声が上がる。
その声に良夜も恵子も、そして二人を取り囲んでいたギャラリーもそちらへと視線を向ける。
そこにいたのは──
「えっ!? あっ!? あれ!? 帽子!! 私の帽子!!!」
地面にペタンと座り込み、頭に生えたフサフサの狐耳を一生懸命隠しているたぬ吉と、それに向かって頭を抱え込んでいる哲也の二人。
そして、良夜が自分の握る凧糸の、その先を視線でたどると群青色のアスファルトの上にハンチング帽が転がっているのが見えた。
「……禿だと思ってた……」
「頭のてっぺん禿てるんだと思ってた……」
「孫○義だと思ってた」
「カッパじゃなかったんだ……」
ギャラリーの中から声が上がった。上がった声をバックにたぬ吉は立ち上がり、ゆっくりと良夜の元へと歩み寄る。恵子とケージを押しのけ、良夜の前へ。大きな瞳が涙を浮かべて良夜を見上げる。
「えいっ!」
直後、良夜の顔面にたぬ吉の右ストレートがめり込んだ。ちなみに彼女の辞書に容赦という言葉はなかったようだ。
こうして、たぬ吉は大学において「狐耳の巫女さん」として、何となく受け入れられるようになった。
「可愛いから良いんだってよ……」
「……良夜良く言うじゃない? 喫茶アルトの関係者は全部バカか? って。あれ、間違いよ。バカなのは、大学の関係者、全員」
「かもな……」
「ちょっとは怪しみなさいよ……」
その日の仕事が終わった後、鼻の穴にティッシュを詰め込んだ良夜を相手に、おそらくは近郊で一番怪しい存在のアルトが言った。