異色の役者 1997.10.21 徳島新聞
歌舞伎の世界では、かなり世襲制が幅をきかせている。△代目□□郎や○○門の襲名披露とかがよく話題に上る。名門の御曹司として生まれた息子は、三つ子で初舞台を踏み、将来主役を務めるための恵まれた特訓を続けるわけだ。私も、芸の世界では「血筋」(DNA?)というのがある程度ある、とは思う。
同様に、政治家や芸能人もわりと親と同じ職業につきがちだが、やっぱりそれって「三日やったらやめられない」くらいいいものなんだろうか。
世間一般の就職難と無縁に、あっさり親と同じ政治家や芸能人になるのは、環境や条件に負うところ大だろうし、本人の職業選択の自由もあるのでとやかく言えないが、お隣の国のように国家元首を世襲するのはどうしても理解できない。でも、国家体制はその国の国民が決めることなので、ま、いいか。
話がだいぶ逸れたが、歌舞伎の世界に戻ろう。ここに、大松竹ではないが、一人の役者がいる。彼は、徳島・富田小、富田中、阿南高専卒(当時、徳島労演の役員もした)。二年半のサラリーマン生活を経て、劇団前進座に入座、という“変り種”である。山崎辰三郎、本名・宮城進。49歳。
ハタチの日記に「俳優になろう、私の心の中に強い灯が急にともった」と書いたそうなので、いずれは進む道だったのかもしれない。
ところで、いかに民主的な劇団とはいえ、前進座も創立メンバーの息子や孫が主役を受け継ぐケースが当然ながら多い。幼児期から役者の家庭で育ち、日本舞踊や三味線などを身につけたのと違い、成人して新しい道へ進んだ彼が、座の中堅になるには今日までやはり大した努力があったはずだ。敬服する。玉三郎も尊敬する、亡き名女形・河原崎国太郎の付き人として過ごした経験が、大きな修業となったそうだ。
その辰三郎が、来月故郷で初の主役を務める。うれしいことではないか。『芝浜の革財布』の女房お春役だ。今年正月の京都南座を皮切りに、すでに80ステージをこなしたと聞く。原作は「牡丹燈篭」などで知られる三遊亭円朝の人情ばなしだ。高専時代に落語研究会で活躍したというのも何かの縁か。ともあれ、情けがあってしっかり者の女房お春をどう演じるか、期待して拍手の準備をしたい。
山崎辰さんは故郷の舞台に招かれ、時を同じくして山崎拓さんは泉井献金疑惑で国会喚問か…? あ、また話が逸れた。