南京1937 徳島新聞 1998.11.30
「北の京」と書いてペキン、「南の京」はナンキン。では「東の京は」は? というクイズがあった。うっかりトンキンと言いそうだが、正答はもちろんトウキョウ。
というくだらないマクラはさておいて本題に入る。中国の南京といっても若い人はあまり関心がないだろう。ましてや、そこで61年前に日本の軍隊が何をしたかなど、想像もできないのではないか。そこで今日は『南京1937』という映画を紹介したい。
香港・中国合作とあるこの映画の原題は『南京大虐殺』。すさまじい題名だが、こちらの方が知る人ぞ知る…。1937年夏、北京郊外の盧溝橋で日本と中国の軍隊が交戦。それを口火に全面的な日中戦争がぼっ発し、中国本土への侵略が本格化する。軍事力に勝る日本は、わずか四ヶ月で首都・南京を占領。「ニッポン勝った、ニッポン勝った、シナ負けた」と浮かれていたその裏には、後に大規模な戦争犯罪として明るみに出る「20〜30万人もの大虐殺」があったのだ。
日本軍は南京占領の直後から、城内の捕虜や避難民、周辺の一般住民らに対して、無差別に放火・略奪・レイプ・殺害など暴虐の限りをつくしたという。軍紀退廃の象徴的犯罪として国際的非難を浴びたのは、言うまでもない。
この歴史的な事件に遭遇する中国人医師と日本人妻の一家を軸に、映画『南京1937』の物語は展開する。呉子牛監督は「戦争の狂気が渦巻く中で懸命に美しく生き、愛し合おうとした庶民の姿を描くことで、生命の尊さを訴えたい」と熱い思いを語っている。
カボチャのナンキンや、落花生の南京豆さえ知らない人も、学校で十分に近現代史を教わらなかった若い人たちも、また南京大虐殺は無かったといまだに信じている人も、ぜひ見てほしいと願う。歴史を正しく認識し、潔く過去を反省することは、決して卑屈になることではなく、これからの国際社会において敬意を払われ、真の新たな名誉と誇りをもたらすに違いない。そう信じるからだ。
ところで、私がこの映画に注目したのは皮肉にも、東京で先日上映された時にスクリーンが切られたというニュースを目にした時だ。その時から、もし徳島で上映されるならぜひとも見ておきたいと思った。上映妨害者は、その意図に反して話題性を大きくしてしまったわけだ。「南京大虐殺」のあった月、十二月の郷土文化会館での上演が待たれるゆえん。
私の好きな言葉「愛と誠」がかつて劇画の題名になり映画化されたのはちょっと昔だが、その主人公・早乙女愛が、今回主役の日本人妻に扮しているのもちょっと楽しみだ。