税を食む日本ハム 2002・8・19 徳島新聞 

 

 

今さらという感じもするが、日本の企業倫理も地に落ちたものだ。このところ、名のある企業の犯罪的な所業があまりに頻発するために、誰もが驚かなくなっているのが逆に恐い。雪印食品事件の再放映かと見まがうほどの光景だが、今度は業界トップの日本ハムだった。

 

国産牛肉買い入れというBSE(狂牛病)対策を悪用したもので、在庫が増えた輸入牛肉を別の箱に詰め替えて国産に偽装、業界団体に買い取らせていた。国の税金を詐取しようとした許せない行為だ。その同社グループの一つが徳島・石井町にあったものだから、ぐっと身近な事件になった。子会社の日本フード営業部長が「一人で伝票を改ざんした」と会見で述べたが、記者にも読者にもその言葉どおり受け取る者はいないはず。

 

たぶん当の営業部長は、詐欺と証拠隠滅で刑事告発されるだろう。ただ、こういう時にいつも思うのが、中間や下級の管理職の哀れさだ。政治家と秘書との関係にも似て、ほとんどいつも、「私の独断でやった」「上層部は無関係」と、かばう。それと口裏を合わせるように親会社の幹部も必ず最初は、「全く知らなかった」として罪をかぶる部下を非難さえしてみせる。詫びるのはせいぜい、「監督不行き届きに対して」くらいだ。

 

姫路・愛媛・徳島の複数営業部長が同時期に同様のことをやるのは不自然だし、買い取り担当のハム・ソーセージ工業協同組合の理事長が当の日本ハム会長で、社長の父親であることも胡散臭い。状況証拠は、子会社営業部長の独断でなく会社ぐるみの犯罪であることを示している。

 

買い取り事業の当初は、申請総量の1%程度の抜き取り検査だった。しかし、雪印食品などで「実質ノーチェック」というずさんさを批判された農水省が、4月から「全箱検査」に踏み切った。偽装発覚を恐れた日本ハムは慌てて買い取り申請を取り下げて焼却処分にしたものの、結果的に雪印の轍を踏むことになった、というわけだ。

 

企業を不正の温床に堕落させる大きな責任は、むろん管轄の役所にある。どれだけ綿密に調査・解明し、どれだけ厳しい対応をするかが注目される。「現場の判断でそんな大それたことができるのか」と農水省は、威信回復に向けて全力を注ぐそうだ。少しは期待しつつ、その動きを見つめていこう。

 

プロ野球の日本ハムもBクラスに落ちている。しかし今回は、チームよりも親会社幹部に対して、かつての球団監督・大沢親分から患部糾弾の「喝!」が連発されそうだ。

 

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