羊頭狗肉 2004・4・24掲載 徳島新聞夕刊 

 

 

 中国の春秋時代に盗跖(とうせき)という名だたる大泥棒がいた。悪事ざんまいだったのに天寿をまっとうし、かの司馬遷をも大いに嘆かせたという。この悪人は、強盗を繰り返しながら「勇」や「義」など孔子が語るようなことを口にして憚らなかった。「盗跖、孔子語を行う」だ。もっともその前段の「羊頭を掲げて狗肉を売る」の方がポピュラーで、そこから「看板に偽りあり」を意味する四字熟語が広まった。

 

 時代は変わったが、現代日本でも「羊頭狗肉」が後を絶たない。最近では、大阪府同和食肉事業協同組合連合会会長らの牛肉偽装事件がそれ。長い団体名で読みづらいが少しの辛抱、彼が副会長を務める大阪府食肉事業協同組合連合会(府肉連)が、全肉連を窓口に国から64千万円をだまし取ったというものだ、

 

 二年半くらい前、BSE(牛海綿状脳症)対策の柱になった「国産在庫牛肉買い取り制度」に目をつけた彼らは、和牛の中に対象外の輸入肉を混入して国に売りつけた。小さな市場で「羊だと偽り犬の肉を売った」小ずるい商人とは、けた違いの悪行だ。先に発覚した雪印食品や日本ハムなどの同種事件が糾弾されたものだから、さぞやニクニクしい思いで証拠隠滅の焼却処分を急いだことだろう。

 

 ただ、こういう犯罪を許した背景には、農水省のズサンで甘い対応がある。在庫証明だけを提出すればほとんどノーチェックで買い取り、保管も焼却も彼らの息のかかった会社におまかせというのでは、「盗跖」に合鍵を預けるようなものではないか。検査だって、場所も物も時期も事前通知だったそう。

 

 だが、農水省ばかりを責められない。事業当初は、買い上げた牛肉は価格下落を防ぐための一時的な調整期間とし、後に再流通させる予定だった。それが、「食の安全」を確保するためという名目で「すべて焼却」に急転換した。そこには、業界に後押しされた農水族議員の圧力などが見え隠れし、不明朗な噂がつきまとったものだ

 

 牛のよだれのように続く「行政食い物」を断ち切るためには、徹底的な実態解明が欠かせない。大阪府警には、事件の中心人物が高級車や事務所を提供したという政治家や、肉親のような暴力団との癒着関係に肉薄してほしい。また詐取金だけでなく、府肉連への補助金11億円の流れをぜひ解明してほしい。

 

 苦肉の策の「豚丼」もいいけど、先日思いがけなく出会った「牛ドン」にはちょっと感激した私。とはいえ「食肉のドン」が天寿をまっとうしたら、世の皮肉を嘆くかな、どんなかな。()

 

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