太鼓たたいて笛ふいて2003・1・20 徳島新聞
ある新聞に載った「書評」は読ませた。ジェームス三木さんが、井上ひさしさんの近著『太鼓たたいて笛ふいて』を評したもの。珍しい組み合わせに引かれ、簡にして要を得た文に唸らせられた。林芙美子の戦争に関する心の揺れを描いたこの戯曲は、昨年東京で上演された。観のがしただけに必ず読もうと思う。
笛や太鼓で軍国主義をはやし立てたような時代。「放浪記」人気に目をつけた政府が芙美子を従軍小説家として利用するが、戦後の彼女は逆の立場での発言や執筆を始める。「戦争の悲惨さや庶民の苦しみ」を綴るように変身するのだ。井上戯曲は、「移ろいやすい人間の危うさと時代の暗部」を描き「戦争は儲かるという物語」を告発している。
ここまで書いて、ふと思った。この「戦争は儲かる物語」は、今の世の中にも当てはまるぞって。長く続く平成不況の打開には戦争が手っ取り早い、と考える連中が増えているのではないかって。いや、海の向う、超軍事大国のアメリカにもこの「物語」が広がってはいないか、とも思った。
ブッシュ大統領が虎視眈々と狙っているイラク侵攻も、実は「儲かる話」で説明がつく。徳島新聞のコラム「時事片々」にニューヨーク・タイムズ紙の評論が紹介されていたが、『太鼓たたいて…』のテーマとピッタリ重なっている。興味深いことだ。
国連の査察団の調べでもイラクには大量破壊兵器を開発している証拠はないし、核弾頭も保持していないのに、ブッシュが戦争を笛太鼓で?煽り立てているのはなぜか。それは、戦争が儲かるから、と書いている。「閉め出されているイラク原油の採掘権を手に入れること」が最大の目的だろう、と。ブッシュの支持基盤である石油メジャーに後押しされて、今や金正日やビンラディンよりフセイン重視になっている、と。こういうことを書けるアメリカの新聞はエラい。日本の新聞も、「対イラク戦争はダメよ」とは決して言えない小泉さんに代わり、まなじりを決して反戦キャンペーンを張ればいいのに…。
ほとんど報道もされなかった先日の「日本ペンクラブ」集会では、井上さんら350人の文筆家が「剣よりペンで」と気炎万丈。「事件の裏に女あり。ブッシュの裏に石油あり」という彼の言は、米紙記事と同じ論調だ。さすがに時代を読み取る作家の嗅覚は鋭い。J・三木さんの表現を借りれば、やっぱり文筆家やマスコミは「炭鉱のカナリヤ」であってほしい。