素敵な行為 2003.2.28 徳島新聞夕刊
周囲から疎んじられ孤立しているのに気がつかず、あるいは無視して、独断専行する「大物」がいる。近しい人がアドバイスしたり諌めたりしたらいいのに、と思うことがある。それができないとなると、素直な目で見たままに「王様は裸だ!」と叫ぶ子供が出るまで待つしかないのだろうか。何がなんでもイラク侵攻をやろうとしている米国・ブッシュ大統領の姿は、そんな王様そのものだ。
イラク戦争許すまじと、「王様」を批判する反戦デモや集会が、いま人類史上空前の広がりを見せている。「アメリカの外務大臣」とヤユされながらも米国に同調する英国・ブレア首相、彼のおひざ元ロンドンでは二百万人もが行動に参加した。同様に、米国派スペインのマドリードでも二百万人。ローマではなんと三百万人だ。80近い国の600もの街で一千万人もの包囲網! それと比べて、東京二百万人・大阪百万人などという反戦集会が起こらないのは、わが国の民主主義の成熟の度合いをモロに反映しているようで、ちょっと寂しい。
ただ今日28日にも、東京の紀伊国屋ホールで演劇人の集いが開かれた。このホールは、演劇のメッカ的存在で人気が高い。呼びかけ人に、いつも社会的発言をいとわない井上ひさしさんや、日ごろから親しくお付き合いしている佐々木愛さんらが名を連ねていた。4月『アンネの日記』で来演する奈良岡朋子さんや日色ともゑさん、7月公演のミュージカル『はだしのゲン』制作の木山潔さん、10月『高き彼物』の高橋長英・森塚敏さんも…。そんな中でアレっと思い嬉しかったのは、売れっ子・大竹しのぶさんや歌舞伎界の中村勘九郎さん、狂言の野村万斎さんらの名を見たことだ。だいたいマスコミで名の売れている俳優諸氏は仕事に影響するのを気にして、こういう類の運動には関わらないケースが多いだけに、ちょっと感動。
アピール文も気に入った。「対話によって成立する演劇は、武力攻撃による外交手段に反対します」。これは人と人、国と国の関係すべてに言えること。また、「人間を中心にすえた演劇は、人権を軽視する法案に反対します」とも。これは、有事立法廃案を望む声だ。そして、高らかに宣言している。「演劇は、戦争に反対します」と。
このような止むに止まれぬ行動や思いに対して、こともあろうに与党のある幹事長は、朝のテレビ討論で「戦争反対は利敵行為だ」と冷たく言い放った。しかし、目先の「利」を捨て「素」の顔を見せた演劇人たちの行為は、「利敵」というより「素敵」に人間的だと、私の目には映る。