国民(年金)の危機2003・7・30徳島新聞夕刊

 

 

 芸能人年金」というのがある。「日本芸能実演家団体協議会」が運用している共済年金だ。「芸団協」には、全国の俳優、歌手、狂言・落語・漫才・講談家などさまざまな分野の芸能人とスタッフ7万人が加入しているが、その大半は「無名」で、低収入・重労働。例えば、超ベテラン役者でも舞台公演でのギャラは五万円程度がトップクラスで、大多数の若手・脇役・裏方などは数千円と聞く。その支給も本番だけの話で、稽古期間中はノーギャラ・交通費自弁が普通だから、年収は推して知るべし。

 

 そういう人たちが「心おきなくいつまでもいい仕事をするために」という理念で発足したのが「芸能人年金」なのだが、国庫補助のない積立貯蓄型だから、やはり「公的年金」をちょっとカバーするにすぎない。芸能人ならずとも「心おきなくいい人生を送るために」、やはり国民年金の大幅な改善強化が不可欠だと思う。

 

 その国民年金が、瀕死とまではいかないがかなりの重病に陥っている。社会保険庁ニュースだ。なんでも昨年度の保険料未納率が8%も急上昇、四割にもなったとかで、その未納額は一兆円にも上る。若年層ほど未納率が高く、半数以上が納めていない。私は、そこに「国民年金の危機」が表われていると思う。

 

根本原因は、長引く不況による生活困難と、改悪続きへの不信なのだ。失業率10%、安定した職に就けないフリーター400万人。これでは月額13,300円も払えない、何とか払えたとしても現在の低い支給額(平均52,000円)さえ将来保証されない、という思いが強いはず。以前見た民藝の芝居のタイトルをもじって「払わないの? 払えないのよ!」と言いたい気分だ。さらに、みんなで積み立てた貴重な年金資金を株投資などの市場運用で三兆円もの損失を出した、なんて聞いたら不信も不安も増すばかりではないか。

 

来年の更なる改悪では、未納者への厳しい取立て手段が検討されているとか。ザイカイの、と言っても芸団協の漫才界でなく経団連の某氏だが、「未納者には運転免許証を交付するな」と八つ当たりぎみの発言。無理な高負担・給付削減を改めずに、強権的な徴収強化で重病は快癒するはずがなかろうに…。

 

世論調査で半数以上が反対の「イラク占領軍支援法」を強行的に成立させたばかりの面々に言いたい。全国にまん延している不況・不信・不満を軽視して「フフフ」とほくそえんでいたら、国民年金の危機からも小泉政権の危機を招くよって。

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