カトンの術 2004・3・27掲載 徳島新聞夕刊
それまで知らなかった難しい言葉に出合った時は、新鮮に感じて一回で覚えてしまう。そして、覚えた時のことまで覚えている。「苛斂誅求」(かれんちゅうきゅう)も、その一つ。20代前半の頃、劇団「阿波っ子」が郷土文化会館で公演した『松太郎鴉』のパンフで初めて目にした。
県芸術祭優秀賞だったのに、あいにく作者(斎藤智さん)の名解説はもうほとんど記憶に無くて申し訳ないのだが、その中の四字熟語だけは、高校時代に習った「苛政は虎よりも猛し」を思い起こさせ、強くインプットされたのだ。
苛斂誅求をきわめた年貢の取立てに抗った祖谷百姓一揆が、その芝居の題材だった。健康保険や年金負担の連続増、給付の切り下げ、加えて消費税の大増税が企まれている現実政治の過酷さが、江戸時代のそれと重なる。
現代での「一揆」は選挙しかないが、悪政一気飲みの国民、と今は甘く見られているようだ。憲法九条廃棄への準備が世界第二位になった軍備の更なる増強とともに着々と、それに不可欠な消費税大増税への地ならしも徐々に進行している。
その一つが、四月一日から実施される「内税式総額表示」義務化。本体○○円+消費税5%でなく、総額で表示させようとするものだ。この方式の一番の特徴は、税額を隠すこと。酒やタバコのような間接税同様、重税の痛みを感じにくくさせるものだ。
消費税隠しの総額表示には、スーパーなど「チェーンストアー協会」も反対している。198円といった「安値感」を損なわないために消費税込みで売価据え置きにすると収益低下になるし、税を転嫁し208円にすると購買意欲に水を注すだろうから、というわけだ。さすがに敏感。
納税額を周知させることこそが、その使い道(予算)への関心を高めて、「みんなで支える国」という真の愛国意識を強め、国民主権や民主主義の考え方を広げることになると、私は思うのだが…。政府は、「総額表示」は価格が一目でわかり比較もしやすい、レジで困惑することがないなどと、親切心を装う。ところで、「おためごかし」というのは、いつ覚えたのだっけ。
苛斂誅求の悪政時代に活躍した忍者は、人の目をくらまし姿を隠すために「火遁・水遁の術」を使ったそうだ。これは、小学生のころ忍術漫画で知った。エイプリル・フールであってほしい「消費税隠し」は、さしずめ「価トンの術」と言えるかも…。
暮らしにくい混沌とした世の中なれど、どこかの山中へ遁走するなんてトンでもない。となれば、あの人たちの方が選挙に負けてどこかに隠遁してくれないものか。(修)