海上の森 2000.3.15徳島新聞
決してそうは読めない地名がけっこう多い。阿南市の「十八女」町が「さかり」だと知ったのは、徳島に来た十八の春だった。女性に失礼ながら、花の「盛り」かと納得はいく。かと思えば、国府の「府中」だ。これを「こう」と読ませるのはどこからきたのか浅学ゆえ未だにわからない。
最近出合ったのが、「海上」の森。上という字は、そりゃあ鳴神上人のように「しょう」と読むことはあるが、海上と書いて「かいしょ」はないだろう。
愛知県にあるその「海上の森」が、いま万博問題で揺れている。絶滅を危惧されているオオタカなど3800種もの野鳥と動植物が生息するこの森は、貴重な自然の宝庫だ。その広大で美しい里山のド真ん中をつぶして五年後に「愛知万博」を催し、跡地に高層住宅街や道路を造るというのだから、物議をかもすのも当然だろう。
同時計画の「中部国際空港」と合わせれば、総事業費二兆円を使っての自然破壊…。だから、開発工事の是非を問う県民投票をめざす活動が活発化しているそうだ。
街頭での模擬投票では、徳島市の住民投票なみに、やはり90%が反対と出た。大型公共工事を推進したい通産省や県当局にとっては、さぞかし頭も耳も痛いことだろう。
ここに来て彼らは文字通り五里霧中で立ち往生の体。それもそのはず、パリに本部のある博覧会国際事務局(BIE)からも、痛烈な警告を受けたのだ。「跡地利用計画は万博を名目にした二十世紀型開発事業にすぎない。開催登録ができても、あなたたちが乗っている地雷は2、3年後には爆発するぞ」と。
また、「愛知万博は自然破壊につながる大規模開発の隠れみのにすぎない」という市民団体の主張が世界に広まれば、BIEが言うように「一ヶ国も出展しなくなる恐れ」さえありうる。
もともと、国際博覧会のテーマが「自然との共生・環境保護」なのだから、今回の事業計画には無理があった。世界から待ったがかかり、デッドロック状態になった当局は当面、五月の開催登録を見送るもよう。
しかし、「県民投票」への道のりはまだかなり険しい。自民党の実力者・野中広務さんが、知事や財界との懇談会で、「愛知万博と中部国際空港は一体。万博が頓挫すれば空港も失敗する」と発破をかけた。でも私はやはり、発破よりもストップをかけてほしいと願う。
もし反対運動の甲斐なく、「かいしょ」の森を無くしてしまったら、今の大人たちは後世から後ろ指をさされるかもしれない。「かいしょ無し」って。