一富士二鷹… 2003.12.9掲載 徳島新聞夕刊

 

 

 一富士ニ鷹三なすび。初夢で見たら縁起のいい夢だという。たぶん、サラ金最大手の「武富士」会長は、富士山の夢を何度も見たことだろう。青雲の志を抱き上京した彼は、その強運とバイタリティーとによって巨大な富を手にした。

 「高利貸し」のスタートは、団地主婦を相手のものだった。都営住宅などの入居者はなかなか引っ越さないから取立てがしやすい、便所掃除ができている家は信用できる、子供にきちんとした服装をさせている主婦は踏み倒しの心配はない、当時のそんな社員訓示もユニークで「なるほど!」と納得させられる。

 保証人も担保も不要、というチラシをせっせと郵便受けに入れて回った創業時から苦節?年、「サラ金」のダーティー・イメージ払拭にほぼ成功し、今や東証一部上場、日本経団連加盟の「一流企業」にまでのしあがった。たけた商才と「先見の明」には脱帽する。しかし好事魔多し。

 先日、会長本人が電気通信事業法違反(通信の秘密侵害)容疑で逮捕された。わかりやすく言えば「盗聴」だ。大企業トップのこの種の犯罪は前代未聞で、今後の捜査進展が注目される。同社はいま、株価に響く批判的な記事を掲載した出版社やジャーナリストを「名誉毀損」で訴えており、普通の人ならビビるような高額の賠償金を請求しているのだが、その陰で、相手の自宅や事務所盗聴を繰り返していた。

 戦々恐々で動向調査をしていたのだろう。心を許せない幹部や元社員にまで盗聴の対象を広げていたというから、その疑心暗鬼ぶりも相当なものだったのだろう。金が有り余るほどあっても枕を高くして眠れないなんて、同情をさえ覚える。会長自身はもちろん、盗聴器設置や録音を実行してはいないだろうが、先に逮捕された元社員や探偵業者の供述によると、自ら「指示・決裁」をしていたのは間違いなさそうだ。

 目をひいていた「武富士ダンサーズ」のCMはすでに中止されている。あの若い躍動感あふれるエネルギッシュなダンスは、同業他社の「子犬CM」同様に好感度が高かったが、今回の事件でどうなることやら。何はともあれ、真相の究明が一番だ。できれば、暴力団や総会屋、政治家や官僚との暗い関係が明るみに出されたらいいのだがそれは夢のまた夢かも。

 サラ金日本一の武富士、プロ野球日本一のホークスと、上り詰めた後の混乱を見ていたら、初夢の「一富士や二鷹」も縁起悪そうに思えてきた。こうなると、三番目のなすびって、ひょっとしたらあの総理大臣のことかも。来年正月は、初夢は見るまいぞ。

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