愚兄賢弟? 1998.1.24 徳島新聞夕刊「視点」
兄が賢くて弟が愚かだったか、その逆だったかは忘れたが、藤山寛美さんの当たり狂言でそんな題名の喜劇があったっけ…。
私のワープロでは「賢兄」と「愚弟」がすぐ出るのに、「けんてい」ではなかなか「賢弟」に変換できない。
ということは、世間一般では「賢い兄と愚かな弟」というケースが多いのだろうか。
なんてことを言うと、「弟」に当たる人が気を悪くするといけないが、それは言葉の遊びであって必ずしも真理でないのは当然だ。
もちろん兄弟ともに賢い人は、よくいる。ワルがつく賢さだって、よくある。
政治家にも兄弟は多い。岸信介・佐藤栄作、上田耕一郎・不破哲三、鳩山一族も有名だ。
しかし、今もっとも知られる兄弟といえば、現総理大臣と高知県知事ではないか。
隣の芝生が青く、隣の花が赤いのかもしれないのだが、高知では比較的、県民の支持度が高いように見える。
知事選出馬のころは、県外出身の落下傘候補、NHK出身のタレント候補という批判があったし、当選後もパフォーマンス的言動が目についた。
ところが最近は、もちろん毀誉褒貶(きよほうへん)はあるものの、なかなかスジを通すじゃないかという声が聞こえてくる。
県職員の飲酒運転は即クビ、とした厳しい姿勢が論議を呼んだのも記憶に新しい。
また、アレっと思い、拍手したくなったのが、国の米作減反押し付けに抵抗し、農業県としての主体性を口にしていることだ。
そのほか先月には、文化面での積極的な姿勢を感じさせるニュースに接した。
一つは、国会で継続審議中のNPO法案(非営利の市民活動を援助する法案)の成立を望み、何人かの他県知事と共同声明を出したこと。
徳島新聞の社説でもあったが、21世紀に向けて文化活動・ボランティア活動をいっそう活性化させるために、多方面からその成立が期待されている法案だ。
もう一つは、会員制の演劇鑑賞会・高知市民劇場に「県文化賞」を授与したこと。
市民劇場とはご承知かと思うが、演劇を愛好する市民県民が会費と労力を持ち寄り、自分たちですべて運営しながら定期的に感激を楽しむ会、だ。
特定の興行主が存在しない、市民県民の自主的で民主的な鑑賞組織として、高知県内で九千人近い文化団体に成長発展している。
その40年にわたる地道な活動は、どれだけ県内の演劇・文化の普及と向上に寄与したことだろう。
そこを独断や偏見なく評価し、栄誉ある団対賞を贈る橋本知事の見識は賞賛されるべきと思う。
ここで先の話にもどるが、橋本兄弟については、評判悪い兄はさておき、「賢弟」であることに異論は、さほどあるまい。