ゴブの戦い 20001124 徳島新聞 当時を思い出しながら読んでください。

 

 

 

 私たちが小学生のころはソロバン塾が流行っていた。あちこちから「ご破算で願いましては…」という声が聞こえたものだ。

 

 時と所を変えていまアメリカ大統領選では、ソロバンではなく手作業で開票やり直しの真っ最中。ゴアとブッシュで「五分」の戦い。投票日から二週間もたつのにまだ決着がつかない。「全国民の民主的な投票」による元首選びがこんなにもたつくなんて、やはり「世紀末」には混乱がつきものなのか。ブッシュが「やぶ」の意味なら、来年のえとが巳なので、「やぶへび」が日米政治のキーワードになるかも。

 

 それにしても、世界一の超大国でのこの混迷ぶりはどうだ。当選報道が二度も取り消されたり、票点検のたびに得票差が一気に縮まったり開いたり、「四回も投票したがバレなかった」と告白する人や「入れる人を間違った」という人が続出したりで、テンヤワンヤ。民主主義のお手本を自任し、他国の選挙に監視団を送り込んだりしてきた米国だけに、各国から「今度はこちらから監視にうかがいましょうか」とヤユされる始末だ。

 

 ここまで接戦になり混乱したのは、何より二大政党の政策と候補者の資質に大きな違いがなかったからだろう。民主・共和両党ともに大企業をバックにする保守政党で、これまでも湾岸戦争やイラク「制裁」などの軍事行動では二人三脚だった。政権交代も、目先を変える「たらい回し」的な感じだった。今回は二世三世候補の似た者同士で、どちらが勝っても大差ないという雰囲気が充満。結局、過半数が棄権した。

 

 なつかしい感じのネーダーさんが、二大政党にはない「軍事費削減、国民皆保険制」を主張し、前回の4倍=得票率3%と健闘したのもわかる気がする。しかし最初から、彼には決して勝ち目はない。中小政党が「大統領選挙人」を獲得できる可能性はないからだ。選挙人は、その州で得票1位の党が独占できるシステムなので、ネーダーさんら第三党以下は実質閉め出される。二百年前も前からの「選挙人制度」の矛盾や限界が噴き出した。たとえゴアさんが全米投票で勝っても、獲得選挙人数の差でブッシュさんが大統領になることもありうるし、だから今後は、憲法改定で直接選挙にという声が高まるに違いない。

 

 「藪の中」から棒が出るか蛇が出るかわからないような大統領選挙になったが、当選の暁にはぜひ、四人家族で年収180万円以下の家庭が一割もある「繁栄の陰」にも目を向けてほしい。

 

 ブッシュさんはヤブヘビを嫌って再集計より最終計を急ぐが、どこまで続く訴訟合戦・泥仕合。そこから聞こえる声、「ご破算で願いましては…」。これは、ゴアさん?

 

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