銀幕の向うに 2001.3.5 徳島新聞
離婚が増えている。一時間あたり何件とかは忘れたが、かなりのハイペースだ。私には劇団関係の友人が多いのだが、彼らも職業柄?その二割くらいがバツイチだ。しかし、これも考えようによっては悪くはない。愛情が無くなってるのに形だけの夫婦を続けるのはつまらないと思う。芸能人によくある「仮面夫婦」というのは、互いの人生を汚しあうだけだ。そんな環境での子育ては、よけいに辛いし不幸なことだろう。
私たち夫婦は、今のところ円満だ。やはり幾度かの危機はあったものの、どうにか乗り越えてきた。三十年近く前に結婚する時、「たぶん離婚はしないだろう。しかし、絶対にないとは思わないようにしよう」と話し合ったことを思い出す。新鮮な気持ちを持ち続けたいという思いからだった。そんなスタートゆえか今でも妻は、私を苗字で呼ぶ。他人が耳にしたらたいてい驚くけど、当人たちに違和感はまったくないし楽しいものだ。
閑話休題。世相を反映して、離婚を背景にした演劇や映画も多い。その傑作の一つが、県内で上演される『銀幕の向うに』。心揺さぶる喜劇に定評がある加藤健一事務所の初の四国巡演だ。最近には、板野町さくらホールを哄笑の渦に巻き込む舞台『ラン・フォー・ユア・ワイフ』があったばかり。今回の作品もまた、たった三人の登場人物ながら舞台は弾みに弾む。
離婚した劇作家のもとに19歳の娘が、ある日いきなり訪ねてくる。16年ぶりの父娘の再会。彼女は、父親のツテで映画に出してほしい、女優になりたいと言うのだ。その奔放さ、天真らんまんぶりが、父親と今の恋人をかきまわし、さまざまな事件を起こす。劇中に多くの映画や俳優の名が登場するのも楽しい。サイコ、ジョーズ、大草原の小さな家…。ジェーン・フォンダ、マーロン・ブランド、ダスティン・ホフマン…。
二年前に東京で観た時も、幕開きの娘の登場から笑いっぱなしだった。最後に彼女は、女優になるのをあきらめて母親の所へ帰っていくのだが、そのとき本心がわかる。女優志願というのは実は口実。幼い時からの父恋しさゆえの訪問で、親子の絆を確認しにやってきたのだった。ここで、観客に涙があふれるのだ。ジワーとくる人もいるが、爆笑の後に残る感動の涙は最高に心地よい。
政界の「黒幕や煙幕の向うに」何があるかはさておいて、この演劇『銀幕の向うに』だけはぜひ親子・夫婦で観てほしい。家族の絆を強め、愛情を再確認できること請け合いだ。その時もちろん、離婚はかなたに遠ざかる。