頭痛肩こり樋口一葉2003.5.8 徳島新聞
私は、凝り性ではない。だから?肩も凝ったことがない。凝っていても感じないんじゃないの、なんて失礼なことをのたまう友人がいるが、そこまで鈍感であるはずがない。頭痛になやまされたことも、二日酔い以外にはない。
なんて書くと、プロ女性作家第一号である樋口一葉女史から、「フン、何よ!」と白い目で見られそう。24才の若さで肺結核で没した一葉は、それほど大変な頭痛と肩こりに悩まされ続けたという。文机の前で鉢巻をし、膏薬を貼り文鎮で肩をたたく姿が目に浮かぶようだ。父亡きあと十代で戸主となったために経済面の負担だけでなく「家」の重みがモロにかかってきたのだから可哀想。零落した「樋口家」を守るために嫁にもいけないし、だから一目ぼれしたハンサムで知的な小説の師匠(半井桃水)との恋も諦めるしかなかった。自身の小説のモデルのような鬱々とした人生…。
来月県内で上演される『頭痛肩こり樋口一葉』は、貧困と病苦に呻吟する彼女(有森也実)と妹(佐古真弓)、世間体を気にする愚痴の固まりの母親(大塚道子)、お盆ごとの珍客(久世星佳・椿真由美)のテンヤワンヤを綴る。女優6人の競演・嬌演・響演が見もので、爆笑・哄笑・失笑など「笑いの宝庫」から、明治という時代が立ち上がってくる傑作だ。骨太のテーマを易しく、深い内容を軽いタッチで描いて井上ひさしの右に出る作家はいない。例にもれず期待にたがわず、この作品もすごい。
♪ぼんぼん盆の十六日に地獄の地獄のフタがあく〜、地獄の釜のフタがあく〜♪ そんなわらべ歌で幕があく。舞台には仏壇や盆提灯が置かれ、ランプと蛍火が優しく照らしている。♪盆提灯を点しましょ〜、キュウリの馬にナスの牛〜♪ 懐かしい感じの歌が印象的だ。盆の珍客には、冥界に半分足を踏み入れた一葉にしか見えない幽霊・花蛍さんもいる。「こまつ座」旗揚げの初演からず〜っと、新橋耐子(文学座)の花蛍が「絶品!」との評判だった。
この幽霊は現世に恨みを残し成仏できないでいるのだが、自分が死んだ原因と恨むべき相手を忘れているのだ。そんな彼女と一葉との不可思議で滑稽な交流を軸に、明治の女性たちのさまざまな哀しみを浮き彫りにしていく。しみじみとした余韻を残し、じわ〜っと涙がにじみ出ることだろう。
頭痛・肩こりもないくせに、最近、訪問鍼灸の恩恵にあずかっている私は、その名医から「寿命が延びる、肝臓が強くなる」とのお墨付きをいただく。そのたびに、幽霊になった一葉たちに鍼灸を紹介したくなる。お足は気にしなくていいよ、って。